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■ ADV(アドボカシー)な人々 #05


GEM Partners株式会社 梅津 文「いまのきもち」 vol.1

「ADV(アドボカシー)な人びと」第5回目のゲストは、GEM Partners株式会社 梅津 文さん。東大を出てキャリア路線を歩みながらも、エンターテイメントの世界に魅了され、映画のマーケティング会社を運営されています。なぜ映画だったのか。梅津さんのユニークで純粋な想いと、映画産業の現状についてお話いただきました。
谷本氏: 梅津さんはGEM Partnersの代表取締役でいらっしゃるのですが、どういった事業をされているのですか?

梅津氏: 映画に特化したマーケティングデータやレポートを提供しています。映画の配給会社さんからマーケティング分析のご依頼を受けてレポートを提供し、購読していただくというモデルです。

谷本氏: 他社との違いというか、ここが強みというところは?

梅津氏: 映画に特化していますから、映画マーケティング活動含めたビジネスの流れを理解し、それを踏まえて機動性の高く分析を設計し、ニーズに合わせて内容を変えていくというところでしょうか。データというとシステムヘビーというか、堅牢なシステムにかなり開発費がかかるイメージがありますが、基本的には、データを構造化して課題を特定し、お客様のニーズに合わせた分析が重要なのですね。でもこれまでは「こんな分析があったらいいのにな」というところに応えられていなかった。設計も映画ビジネスを理解しているからお客さんと議論を重ねながらスピーディーに出来るところが強みと思います。

谷本氏: ヒアリングをしてカスタマイズするといったイメージですか?

梅津氏: そうですね。過度にカスタマイズはしないようにしていますが、お客様のニーズに合わせてレポートをアップグレードすることはあります。じゃあ来週からこうしましょう、ということがすぐにできるので、そこが弊社に切り替えていただけている要因かもしれないですね。
片岡氏: 定量調査が基本ですか?

梅津氏: どちらかというと定量の方が多いです。

谷本氏: 何人ぐらいでやっていらっしゃるのですか?

梅津氏: 今は私以外で6人です。映画業界って派手なイメージがあるかと思うのですが、実際は数十人しかいないような会社がほとんどなのですね。そうするとデータを取って分析するとなると1社でできないこともある。業界全体が一つの会社だとすると、うちはその会社のマーケティング部門のような位置づけになっています。

片岡氏: 概して映画産業を始めとしたエンタメ業界は、どっちかというと「アナログ」じゃないですか。特に制作部門は、今でも「感性」「嗅覚」「直感」といった、かなり属人的な「アナログ」な世界ですよね。もっとも、映画に限らず音楽産業もテレビもですが、日本のエンタメの世界は、良い意味でそういう人の「勘」(インサイト)のようなものでヒットが決まることが多くあります。

もちろん、後から興行成績だったり売上動員数といった「数字」は出ますが、これまでの経験でいうと、事前にマーケティングリサーチをかけるとか、事前調査を行うことはあっても、コンテンツ制作にまで遡ってR&D的な意味でリーサーチの結果をコンテンツ開発に活かすってまずないと思うんですよね。大掛かりな企画ほど、このあたりは「アナログ」だったりします。(笑)

梅津氏: そういう側面もあると思います。
片岡氏: 例えば、多額のお金がかかる宣伝戦略の企画前に、マーケティングリサーチすることに違和感を感じる業界の方って多くありませんか?

梅津氏: 違和感があっても、そのことにオープンな印象を受けました。というのは、私がこの業界に入ったのは2008年なのですが、洋画の売上がだんだん悪くなってきていて、また、特に業界全体を苦しくしていたのはDVDが売れなくなってきていたことです。

事前の想定と比べてダメだったということが多くなっていて、その答えがない状態の中で、客観的に俯瞰して見ることに対してオープンだったというか、新しいことに対する飢餓感すら感じました。従って外から入ってくる人をすごくウェルカムして頂いたような感じがありました。

片岡氏: 逆に新鮮というか、今までなかったから外からという流れがあったみたいな。

梅津氏: そうです。うまくいっている時は何も変えなくてもいいのですが、あれっ?ということが続いたのでしょうね。そういった中でファクトベース客観的な分析を欲していたこともあると思います。あと映画ビジネスというものが、本質的にデータのニーズがある業界だと思うのです。

というのは、映画って製作プロセスの期間も長いですし、たくさんの人が関わるんですよね。それに後からお金が入ってくる話なので、説明責任を求めらます。決裁を通すのに「なんで?」と言われても「うーん・・」というところが実はあって、少なくとも客観的な判断材料としてこういうことが言えるよね、というツールは、すごく存在意義があるのではないかと思ったのです。
なぜそれが今まで出てこなかったのかというと、皆が違うものを見ていたんですね。でも例えば認知度が50だとすると、今回70という数字が出ると良い悪いの判断ができる。多くの会社が共有している基準は少なかった。今弊社のレポートはほとんどの会社様に導入していただいていますが、これを共通言語にして、例えば今週の数字が50だったから、じゃあこうだねという話ができる。

一般論で言えば、究極の物差しは気温だと思うんですね。明日5℃だというと、じゃあコート着ていかなくちゃとか、ヒートテック2枚重ねて着ようとか、万人が行動を選ぶ上での判断にする。それを伝えることが出来る。明日は最高気温5度だから厚手のコートにしたら、とか伝えられる。そういう判断基準を提供する存在になれたらと思っているのです。たくさんの人たちが関わる映画ビジネスは全部が1回1回のプロジェクトベースで動くので、もっと役に立つ要素があるのではないかと思っています。

片岡氏: そこがインフラという意味なんですね。

梅津氏: そうです。なので経済界に経済新聞があるように、映画にはマーケティングレポートがあるとなれば、もっと判断が早くなる。その判断の裏付けも早く多くの人々に共有される。そういった価値があると思っています。