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賀陽 輝代 ライフスタイルコーディネーター ワールド・チルドレンズ・ファンド・ジャパン
人生は泣いても笑っても一度きり。 たった一度だからこそ、自由に、楽しく、かつエレガントに、自分の人生をクリエイトされてはどうでしょうか。
Try anything, but once. ライフスタイル 2014-09-20
私流交渉事の"落とし所″

今までの人生を振り返り、思い起こして見ると、公私共々様々な場面で結構数多くの交渉事を経験して来たものだと思ったりする。それはハードな仕事の交渉だけでは無く、夫やパートナー、友人を含め、ソフトでイモーショナルな交渉も含めて。。。

 

まず、仕事上の交渉に関して言えば、私の場合は海外、或いは外国人との交渉がかなりのウェイトを占めていて、そこにはいつも文化の違いと言う大きな壁が横たわっている。

特に暗黙の内に「謙譲の美徳」「沈黙は金也」「負けるが勝ち」「終わりの美学」と言ったフレーズに囲まれて自分なりの価値観を形成して来た、基本的には「農耕民族」の一員である私の交渉の基本はどちらかと言うと「守りの攻め」!

それに対し「狩猟民族」で形成される西欧社会の交渉運びは「攻めの一手」と言った感じで、そうした文化の違いを背景に展開される交渉事には確固とした「日本人としてのアイデンティティー」を持つ事が必要とされる。

何故なら長年の間に培われて来た自分の「潜在意識」や「美意識」を変えるのはそれ程容易い事では無く、又相手の動きによって自身の基準を覆すようでは他者からの「尊厳」を得る事が出来ないと言うのが私の拙い(つたない)経験から得た教訓である。

 

つまり、特に文化や風習の異なる相手との交渉ではその文化的背景を理解しようとする順応性を基に妥協点を模索しながらも、自分の価値観を基準とした「最後の砦」は絶対に譲らないと言うソフトな「したたかさ」を失わない事が大切ではないかと思う。

英国で教育を受け、公私共々人生のかなりの時間を日本で過ごした、亡き夫が私に「Give an inch, take a yard」つまり、「インチだけなら良いかと譲る隙を見せると、往々にしてヤードを持って行かれる事態にもなりかねない。くれぐれも気を付けるように!」と言う忠告をしてくれたのを昨日の事のように思い出したりする。

 

海外との交渉事の中で興味深い経験として紹介したいエピソードの一例を挙げて見ると、それはまだ上海が今のように発展した都市では無く、地下鉄も開通していない1995頃の、とある半官半民経営の中国大学との交渉事。まだ共産体制の意識が根強く残っていた当時の大学は半官半民とは名ばかりで、その運営は限りなく「共産体制」一色と言った感じだった。

クライアントである日本人ファッションデザイナーの全権大使として現地での大掛かりな「コレクション」開催に向けて、かなりの頻度で上海に足を運び交渉を進めていたが、本来なら大学側が段取りしなければならない事務的な用件を大学に代わって私が取り仕切らなければならない事態になってしまった為、学長との決められた打ち合わせ時間に遅れて到着した私に大学側のスタッフ曰く「申し訳ないのですが、学長は他の重要なミーティングに出席する為、事務所を出てしまい、この件について今日中に打ち合わせをする事は不可能です。」とのこと。

私達外国人にとって当時の上海の主な交通機関はタクシー以外には無く、勿論携帯電話などまだ全く普及していない頃の事で、必要な電話連絡もままならない頃の事である。

 

おまけにその日は詰めの交渉日で、翌日早朝の出発前に然るべき取り決めをして東京に戻らなければならない私は勿論その一言に一瞬途方に暮れたが、次の瞬間気を取り直したように私の口から出たのは何とこんな強気の台詞。

「分かりました。私はデザイナーから全権を委任されてこの交渉事を進めていますので、そう言う状況でしたら、今回の企画は予定通りの実施を断念し、又機を改めてお話させて頂く事に致しましょう。」

勿論、この強気の発言の裏には「交渉に際してどちらが経済的主導権を握っているのか」、「どちらの面子がより大きく、更に決定的に潰れるのか」と言う「力関係(パワーゲーム)」の法則が念頭に有っての事ではあるのだが。。。。

更に言えば、これは面子″を重要視するアジア圏に属する大学(企業や団体)での交渉事だから通用する〝一手″で、西欧社会では"面子″等と言う語彙は存在しないが如く、殆どと言って良い位、交渉事の武器としては功を奏さないものと心得た方が良い。

 

さてさて、この小柄な日本女性の強気の一言に大学側の対応は如何に。

その経緯の詳細説明は省き、結論から言うと、全ては一件落着!その日難しいと告げられた学長との打ち合わせは可能となり、翌日デザイナーが意図する契約を携えて帰路に向かった私は何と「思惑通りの結論」を手土産にしたばかりで無く、その後の大学との交渉に必要な「リスペクト」も手にしたと言う次第で、将に一石二鳥とはこんな事を言うのだろう。

日本の美徳として考えられる謙り(へりくだり)だけに重きを置いてソフトな対応をしていると、気が付いた時には〝ヤード(軒)″を持って行かれる危険性もある。

時には"押したり引いたりのさじ加減" で巧みに自己主張を操る智恵を身に着ける事も大切な鍵の一つと肝に銘じ、交渉事に臨む事をお勧めする。相手のペースに思うように流され、落とし穴にはまる事がないよう、くれぐれもご注意あれ!

 

次に、"その交渉が手ごわく、又、こちらの主張が強引であると言う事を意識すればする程、言葉遣いは丁寧に”と言うのが、私がいくつか自分に律している心得の一つで、極端に言えば「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」も武器の内と言っても過言では無い。

 

〝飴と鞭"で従業員の士気を高める事に長けている、今は亡きある中小企業のオーナーが難しい営業交渉に出かける社員を〝エレガント(上品)に脅して来なさい。″と言う激励(?)の言葉で送り出す声を耳にした事があるが、その言い回しは「将に辛辣にして確信を抉る(えぐる)」究極の示唆!とふと思ったりしたものである。

 

又、相手をギャフンと言わせる、お洒落で且つ知性と機智に富んだジョークも交渉事の潤滑油として大いに役立つ要素。そして、そうしたジョークを効果的に駆使するには、沢山の活字に触れ、短絡的では無い、煌めきと蘊蓄(うんちく)をたっぷり含んだ「ボキャブラリー(語彙)」を身につけなければならない。

 

更に大切なのは「交渉相手から投げ掛けられる言葉をまずは肯定で捕え、反論がある場合は、その後に「But, I think」と言うような言葉でつなぐようにすると、ある意味で厳しい表現もソフトで受け入れられ易くなったりする。

スムーズな交渉や、友好的な会話運びに役立つ妙薬は「聞き上手になる事」で、要は感情に走らず、まずは自分がより優位な立場に立つ事を念頭に入れ、事態を客観的に把握すると言う事ではあるのだが、これが簡単なようで、結構難しい。

 

そして最後のキーポイントは、いつも「自分なりの落とし所(覚悟)を見極めて」交渉の舞台に臨むと言う事。

特に経済的・政治的基盤を含める力の均衡が明らかに異なる場合は別として、力均衡の交渉は所詮「パワーゲーム」!自分なりのギリギリの妥協点をどこに定めた上で交渉に臨むのか、その"落とし所"の見極めが肝心で、ある意味でこのぎりぎりの覚悟の見定めが欠如していると、交渉の上で自分が持って行きたい方向性を見失い、気が付いて見たら自分の思惑に反して相手に陣地を明け渡してしまうと言うような事態に成りかねない恐れもある。

 

良く交渉の末に獲得した他人の「成果」を妬んで、陰でとやかく言う人がいるが、それは飛んだお門違いと言うもので、所詮自分が納得行くような交渉をしなかった我を責めるべきだと思う。そしてその交渉の末、一度〝お手打ち″をしたら、潔く事態を受け入れて見っとも無い愚痴を言わない事も大切、だって最後は自分が納得して決めた事なのだから。

 

仕事に限らず、人間関係もある意味で心理的な陣地取り合戦のようなもので、これは結婚や恋愛関係にも言えるような気がする。だから最初が肝心、夫やパートナーにソフトでエレガントな交渉をして、相手が気付かない内に自分の陣地を確保するのも生活の智恵と言うものではないかしら?

 

さあ、仕事や日常生活の交渉場面でちょっとチャンネルを切り替えて物事を捕えて見ると、思わぬ"陣地"が手に入るかも?

 

私流交渉事の〝落とし所″

 

  • 特に文化や風習の異なる相手との交渉ではその文化的背景を理解しようとする順応性を基に妥協点を模索しながらも、自分の価値観を基準とした「最後の砦」は絶対に譲らないと言うソフトな「したたかさ」を失わない事

 

  • "押したり引いたりのさじ加減" で巧みに自己主張を操る智恵を身に着ける事

 

  • 言葉遣いは丁寧に「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」も武器の内!

 

  • 時として"エレガント(上品)に脅す"のも手腕の一つ!

 

  • お洒落で知性と機智に富んだジョークも交渉事のエッセンス!

 

  • 交渉相手から投げ掛けられる言葉をまずは肯定で捕え、聞き上手になる事!

 

  • 感情に走らず、まず自分がより優位な立場に立つことを念頭に入れ、事態を客観的に把握する!

 

  • 自分なりの〝落とし所(覚悟)″を見極めて!

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