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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) キャリアアップ 2016-02-17
あなたを強くするローマ人の言葉②~塩野七生著『ローマ人の物語』より~

 

古代ローマが栄えた時代の人物と言えば、ハンニバル、カエサル、アレキサンダー大王、クレオパトラ・・・。本当に有名な人々の名前が続きます。

とくに『ローマ人の物語第二巻』は、カエサルが活躍した時代だけに、「優れたリーダー論」を探るには最適の一冊と言えましょう。数多くの名言がちりばめられていますが、今回はあえて、「リーダー論」に関わらず幅広く解釈できるこの言葉にしました。

 

年齢が頑固にするのではない。成功が頑固にするのである。(第2巻)

 

これも著者、塩野七生さんの言葉です。これには続きがあります。

 

「・・・(中略)抜本的な改革は、優れた才能をもちながらも過去の成功に加担しなかった者しか成されない。しばしばそれが若い世代によって成し遂げられるのは、若いがゆえに過去の成功に加担しなかったからである・・・」

 

長年敵将ハンニバルと闘ってきたローマの老将ファビウスが、気鋭の若将スキピオの新しい戦術に反対したときのことを説明した文章です。これは「人」に限ったことではなく、「組織」でもよくあることですね。

日本に蔓延る「前例主義」などはその最たる例かもしれません。ビジネスにも前向きに取り組む東京ウーマンの読者のみなさんなら、こうした弊害に苦い経験をしたことがあることでしょう。

今回、なぜこの言葉を取り上げたかと言うと、このようなことは、組織やビジネスの中だけではなく、私たちの暮らしの中で起こりうること。ともすると、私たち自身がこんな「頑固者」になってしまうことがあるのではないかと思ったからです。

組織では「過去の成功体験」にしばられた古株が嫌われていたり、そのような組織が思考停止の状態に陥っていたりという場面が往々にしてあります。もっともその「張本人」たちはまったく気づいていないのだから、「恐るべし成功体験」とも言えます。

一方で、「小さな成功体験の積み重ね」は、人に自信を与え、自己肯定感を与える大切な経験の一つです。子育てでは必ず「子供には成功体験をさせよう」と言われます。これは本当に大切なことであることには違いありません。

 

さて、この「成功体験」。良いのか悪いのか?こう比べると悩んでしまいますよね。

私はこう思うのです。「その成功体験はどこを向いているのか?」によって、未来へのステップアップを加速させる良いエンジンにもなり、未知の世界への扉を妨げる悪い重しにもなってしまうのではないか、と。

人は誰しも大なり小なり成功体験を持っています。もちろんそれが子供なら手放しに褒めてあげるべきです。子供が少し思考できるようになったなら、ちゃんと成功を褒めて認めたうえで「良いエンジン」にするために成功の分析をしてあげるべきだと思うのです。「良かったね!凄いね!どうやったらそうなったの?」と。そうして自信を持たせてあげるのは周囲の大人の役割と言えます。

さて、けれどもここは大人のコラムです。大人が成功した経験をしたなら、その成功を分析したり、周囲に感謝したりすることは当然として、「成功していない(=失敗した人だけでなく、これから成功するかもしれない、未達の人も)人たちに対しては、聞かれるまでは成功を論じないこと」が重要なのではないかと思います。そしてそれを相手に押し付けないこと。

あなたの成功は、あなたの努力の成果であることは間違いありませんが、それ以外の要素も多分にしてあるはずです。その時代、そのタイミング、周囲のメンバーによる要素。

もしくはあなたの美貌や性格の良さが、その成果の一助となっているかもしれませんし、相手との相性も見逃せない要素でしょう。

ですから、あなたが誰か別の人にそれを教えてあげたとしても、全くその通りに事が進むことはほとんどないのです。ですから、相手から求められたときに話すことは良いとしても、聞かれてもいないのに話す、あるいはそれを押しつけるなどはもってのほかと言わざるを得ません。

 

さて、これらの「成功体験者による他者への妨害」というのはビジネスの場面だけではありません。最近、個人的に気になるのは「育児の成功体験者による新米ママへの精神的圧力」についてです。

「私はこうして育児を成功させたのだから、あなたもそうしなさい」

「最近のお母さんはこれだからいけない」「昔のようにこうすべき」・・・。

 

ビジネスと同じで、「私」と「あなた」の間には、時代も異なれば、周りの環境の違いもあり、周囲を取り巻く人々も、働き方も違い、感性も異なってきています。まして相手(=子供)は生身の人間。一人ひとり性格も異なるのです。それを一切無視して「自分だけが正しい成功者」という立場で相手を批判する「お局」。

その言葉で、どれだけ赤ちゃんや小さい子供を育てているお母さんたちを傷つけ、窮地に追いやっているか、「お局」さんたちは知る由もないのですから、さらに性質が悪いのです。

 

どんな世界にも「成功の答え」などありません。

成功も失敗も人それぞれ。

「自分は人が失敗と思うことも失敗とは思わない。だから失敗したことなどありません」とさらりと言った女性がいました。そこまで強い女性は多くはないでしょうけれども、そう思えたら無敵ですね。

 

ビジネスでも、プライベートでも「頑固者」にならないために、あなたの成功体験はあなた自身を奮い立たせるために大切にしてください。

そして、あなたのその宝物を見せてほしいと求められたとき、あなたの成功体験が他の人の役に立つ「みんなの宝物」に変わるでしょう。

 

余談ですが、私が若いころ、小さい会社の再建に成功したことがありました。そして数年後、別の会社の部署を建てなおしました。私は調子に乗っていて、その成功率を誇らしく思っていましたが、会社員生活最後となるある会社で役員をしていたころ、どうしても自分の思うように事が進まなくなりました。トップがワンマンで若輩取締役の言うことなど、ほとんど耳を貸さず、私はワンマン経営者の下で学ぶ限界を知り、自分の力を求める人のために使おうと独立することにしました。

あのとき、敗北感は身に堪えましたが、あの敗北感がなければ、今の自分はなかったのではと思っています。「成功」しか知らなかった自分では、「弱者」の助けになりたいと思わなかったのではと、振り返ってみれば思うのです。

 

成功は素晴らしい。でも、成功に向けて努力をする過程こそもっと素晴らしい。それが一時的な「失敗」であっても。

日々の小さな幸せを噛みしめながら、そう思う今日このごろです。


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