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小山 ひとみ コーディネーター、中国語通訳・翻訳 ROOT
日本と中国、台湾間の文化交流の橋渡し役として仕事をしていることから、東京、ニューヨーク、上海、北京で活躍している中国と台湾の女性にフォーカスを当て、彼女たちがどのようなプロセスを経てチャンスを得たのか紹介していきます。
チャンスを掴む!中国、台湾のウーマンに学ぶ キャリアアップ 2017-02-24
台湾、そしてアジアの音楽をNYに 厳敏(イエン・ミン)さん

(Photo by Abraham Chuang)

「セントラルパークの音楽フェスをオーガナイズしているすごい台湾の女性がいるから、是非、紹介したいな。」友人からそう言われた時、まず、台湾の女性がセントラルパークでのイベントを仕切っているというのが信じられませんでした。きっと子供の頃からNYにいて、現地の人と親しくて、コネクションがあるからできたんだろうと勝手に想像していました。

数日後、その女性に会って話を聞くと、大学入学に合わせてNYに来た、NY歴8年目ということが分かりました。1990年台北生まれの厳敏(イエン・ミン)さん。音楽フェスティバル「Taiwanese Waves」のオーガナイザーをしています。話を聞くにつれ、彼女の内に秘めた音楽に対する並々ならぬ情熱が、フェスを仕切るまでに至ったことが分かりました。

誰も紹介しないなら、私が

まず、セントラルパークと言えば、NYに来た人が必ず訪れるNYの象徴の場所。毎年約3,500万人の観光客が訪れると言われ、また、NYを舞台にした映画やドラマでも嫌という程登場しています。そのセントラルパークでは、毎年、特に夏になると、無料の音楽ライブや演劇公演などが開催され、それを目当てでNYを訪れる人も少なくないのです。

無料ライブの中でも、30年の歴史を持つ「サマーステージ」は、毎年6月から8月に開催され、連日大勢の人で賑わいます。イエン・ミンさんは、その「サマーステージ」のもとで開催されるフェス「Taiwanese Waves」をオーガナイズしています。

去年の7月に第一回「Taiwanese Waves」を開催。台湾のミュージシャン3組を紹介しました。4,500人の集客があり、「サマーステージ」のスタッフ達からは、「大成功」「こんなに盛り上がるとは思ってもみなかった」「毎年、台湾のミュージシャンを呼んで欲しい」と絶賛されたそう。

その老舗のフェス「サマーステージ」では、実はこれまでほとんどアジアのミュージシャンを紹介してこなかったのです。サマーステージで2年間インターンをしていたイエンさん、「台湾にも素晴らしいミュージシャンがたくさんいるのに、NYでライブができていないのはもったいない。誰も紹介しないなら、私が紹介すればいい。」そういう思いから「Taiwanese Waves」はスタートしたのです。

「サマーステージ」でインターンをしていたイエンさん。スタッフに台湾のミュージシャンを呼びたいと何度も提案をするも、「集客が見込めるか分からない」と頑として断られたのです。しかし、「やってみないで、なんで分かるの。」と訴え続け、インターン3年目の去年、やっとオッケーが出てオーガナイズをさせてもらうことになったのです。

 

(写真:去年の「Taiwanese Waves」に参加したミュージシャン、関係者と)

必ず解決方法がある

とはいえ、オッケーが出てからフェスの本番まで、5ヶ月をきっていました。また、フェスティバルのオーガナイズは人生でも初めて。「サマーステージ」側からお金が降りるわけではなく、まずは資金集めをしなければいけませんでした。台湾の文化庁に助成金を申請しようと思った時はすでに遅く、2016年のイベントは、前年度に申請をしなければいけなかったのです。考えに考えたイエンさん、台湾のメディアを通して、台湾の企業からの資金集めを思いつきました。

NY在住の台湾の記者にお願いし、スポンサーを探している旨を発信してもらったのです。当時の掲載された記事を見てみると、掲載された日付は2016年3月1日。「Taiwanese Waves」が開催されたのが、去年の7月16日なので、本当に短期間で開催にこぎつけたことが分かります。

もちろん、彼女自身もSNSを通してスポンサーを探していること、どうしても台湾のミュージシャンをNYに呼びたいことを訴えました。それを見た友人、またその友人がシェアをしたり、企業に呼びかけてくれたり。気がつけば、イエンさんの元には、台湾の音楽を世界に届けて欲しいと賛同する企業や基金からの資金援助が届いたのです。

「何か困難にぶつかっても、必ず解決方法があるはず。」いつもそう信じてやってきたイエンさん。資金繰りができてからは、二人の友人の手伝いもあり、ミュージシャンや会場側とのやりとり、宿泊場所の手配、宣伝、ウェブサイト作成など、三人で手分けをして進めていきました。

開催までの間、イエンさんにはもう一つ、どうしても終わらせなければいけないことがありました。それは、修論を書き終えて、無事に大学院を修了すること。「両親とは、ちゃんと修了することを約束していたので、延ばすわけにかいかなかったんです。」

修論も無事に提出し、フェス当日を迎えた日、7月ということもあり、天気は不安定。当日の朝は大雨が降ったのです。セントラルパークのイベントの決まりとしては「雷の場合は中止」だったので、ただひたすら「どうか雷だけは来ないで」と願っていたそう。フェスが始まる直前になり、奇跡的に雨も止み、晴天に。NY在住の台湾人をはじめ、初めて台湾の音楽に触れるニューヨーカーなど、4,500人が会場に詰め掛けました。

中国語が分からなくても、いい音楽に言語は関係ない。夏の気持ちのいい青空の下、体を動かして音楽に酔いしれる観客たちを目にし、「いずれは、台湾だけでなく、アジアのミュージシャンを紹介したい」と夢は膨らむイエンさん。今年の「Taiwanese Waves」では、中国語、台湾語、台湾の原住民の言語、それぞれの言語で歌うミュージシャン3組をNYに呼ぶそう。台湾の多元な文化を紹介したいといいます。

(写真:NYのインディーズバンドを連れてアメリカツアーを行ったとき)

一見すると、順調に運良くフェスティバルを仕切る仕事にこぎつけたように思えるけれど、「サマーステージ」での3年間のインターン、そして、その前にはNYのライブハウスでのインターンと、フェスを任されるまで、時間をかけて一つひとつ経験を積んできました。

ライブハウスでのインターン中、台湾ミュージシャンのライブを企画。そのライブハウスにとって、初めてアジアの音楽を紹介することになりました。「ライブハウスのオーナーは、「やってみたら」って、私の情熱をかってくれました。NYのいいところは、みんな、ポテンシャルを感じるものに対しては抵抗なく受け入れるんです。」また、イエンさんにとって、初のイベントオーガナイズ。予想以上に人が入り、その時の自信が、今回のフェスのオーガナイズにつながりました。

困ったら助けてもらう

「好き」だけに留まらず、それを仕事にするために経験を積む。「目標を立てたら、必ず達成できるように動くんです。」周りの理解もあるからやってこれたとフォローをしつつも、確実に努力をしてきたことが分かります。仕事で詰まった時は、ライブに行って元気をもらう。そして、なぜ自分は音楽の仕事をするのか、もう一度、原点に戻って考えるのだそう。「ライブからは、ポジティブな力がもらえるんです。あの一体感が何にも代え難い。だから、私はライブをオーガナイズして、みんなにも届けたいんですよね。」

常に自分のことを理解して、サポートしてくれた両親が大の音楽好き。また、父親の姉である叔母さんがラジオのDJをしていたこともあり、「彼女の影響が一番大きかったかも。」と語ります。その叔母さんからは、たくさんCDをもらったそう。初めてもらったCDの一つが「ビートルズ」。ヒップホップ、ロック、クラシックなど、ジャンルを問わず、たくさん聞いてきたそう。

ライブにもはまってからは、18歳未満は入場できない会場には、友人の証明書を借りて入場したり、ライブ終了後、バスや電車がなくなった時、両親に黙ってタクシーで帰宅したり。あの手この手でライブを体験してきたのです。

また、洋楽にはまり、洋楽から英語を学び、有名なミュージシャンは必ずツアーでNYにやってくるという理由でNY留学を決めたという、「音楽」ありきでここまで動いてきたことも分かりました。

去年、大学院を修了したばかり。現在、フェスのオーガナイズがメインの仕事にはなっているけれど、それだけでは生活は厳しい。日頃は、アメリカのインディーズバンドや台湾のミュージシャンのアメリカツアーのマネージャーをしたり、メディアから依頼されてカメラマンとしてライブの写真を撮ったり、ライブのレビューを執筆したり、音楽に関するあらゆる仕事を引き受けています。

最後に、もし、イエンさんみたいにイベントオーガナイズの仕事をしたいという人がいたらどうアドバイスをする?と聞いてみました。とにかく、諦めないということ。そして、開催場所のマーケットを把握すること。「その場所を理解するには、どうしても時間がかかります。困ったら、それをアピールする。きっといろんな人が助けてくれると思いますよ。私はそれを信じてやってきましたから。」

インタビューを終えて

NYは競争が激しい街。また、みんな、日々、アップデートを繰り返しています。「だから、自分もよりアップデートをしていかないと負けちゃう。」可能性が無限にある大好きな街で自分の好きなことを仕事にしているイエンさん。運がいいのかもしれないと控えめに語りますが、今後はもっとアメリカとアジアの間の音楽交流で一役買えたらと、まだまだ夢は広がります。


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