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■ ADV(アドボカシー)な人々 #06


LIFE VIDEO株式会社 土屋 敏男「いまのきもち」 vol.3

谷本氏: インタビュアーはそのドラマを引き出すことって、なかなかできないですよね。

土屋氏: 僕はそれがめちゃくちゃ上手いと思ってる(笑) 世界でもトップランクだと思うね(笑) ライターはいくつかのパーツを後から組み立て再現できるけど、僕らはここにカメラがあって、どう活き活きと喋ってくれるかなんですよ。その空気をどう作るか。これはやっぱり好奇心が強いからかもしれないけど、すごく面白いと思うから聞くんですね。「で、どうなったんですか?次は?次は?」って。お話をせがむ子供のように。

谷本氏: 聞かれたほうもスッキリしますよね。話たかったことが話せると。

土屋氏: 僕は聞きたいことしか聞かないです(笑) この人は何を喋りたいだろうなんて一切考えない(笑) 「そこに何も無いなんて、おかしいでしょう?」って言うと、自分で探してくれるんです。

「そういえば母親が、昔はお嬢さんだったけど実家の会社が倒産して苦労したので、事あるごとに会社は大丈夫か、大丈夫かって言ってたんです。だから何がなんでも会社は潰せないと自分で思っていたんでしょうね。今言われて気がつきました」という発見みたいなものがね。

片岡氏: 「かもしれない」を引き出すのって難しいですね。その場で考えてもらうわけだから。ファクトはいくらでも引き出せますけど。

一方で30代40代で起業して10年経った企業って、まだ若いじゃないですか。でも、頑張って突っ走ってきているから、言いたいことは逆にたくさんあり過ぎちゃう。そこに入って聞いていく。そこである種の「競作」になることもありますか?
土屋氏: あるだろうね。例えばテレビに出ようとして、何かの番組に取り上げられたり、誰かが出るとなると、どっかスケベになるでしょ、みんな(笑) そこで今度の新製品出して、みたいなことってたくさんあるわけですよ。バラエティでも普段出ない役者さんが出ると、もう大体、ああ、新しい映画やるんだなとか、ここの局のスペシャル番組やるんだなとか、解っちゃうじゃない。

それって見ている方にとっては、どうせそういうことで来てるんでしょって。まあバラエティの制作側の立場で言うと、それで来てくれたんだけど。そうじゃない面白さをどう作り上げるのかは番組の腕なんだけどね。最後に「ということで、この後ドラマがあるんですよね」というと、女優さんが突然「そうなんです!」ってなんか急に表情が変わって「ナントカカントカでぜひご覧ください」っていうと、そこは番組としては最高に面白くないのよ(笑)

片岡氏&谷本氏: (笑)

土屋氏: 最高に面白くないってことは、言うべきことは言ってはいる。この後ドラマがあることも知っている。だけど、見ようという気にならないんだよね。だって宣伝しに来ている人のコメントぐらい死んでるものはないからね(笑)

片岡氏: 言わされてる感?(笑)
土屋氏: うん。そこで「何でこの役をやったんですか?」とか「どこが面白いんですか?」って言えば、「いや、本当はすごく悩んだんだけど、監督のこういう一言があって、共演者がこうで・・」というリアルな声があったほうが良いわけですよ。でもそこに気がつかないでほとんどのテレビ番組がそれをやってしまうわけでしょ。

企業のビデオを作る時も、例えば「ネットでも公開します」というスケベな気持ちはあっても、でもその気持ちを理解した上で、本当に今ここで作るべきもの、10年経った会社の原点やここに至った道筋を確認することを、作りながら教えていくって言うのもおかしいけれど、そこが僕は大事だと思う。

仮にYouTubeに公開して5万回再生があったとしても、そんなもので商品が売れるほどユーザーは甘くない。そうじゃなくて、この会社はなぜこの商品を作るに至ったかというドラマに興味があって、そこに愛着さえあれば、じゃあ買ってみようとなるわけじゃない。そこに人間のドラマがあるかないかだと思うんです。テレビが作っちゃった世界だと思うけど、何秒この商品が映りましたかとか、何回この会社の名前が連呼されましたかが重要みたいな。

片岡氏: 「広告換算」第一主義(笑)

土屋氏: そんなくだらないことではないと。人の家のことは解らないけど、自分の家のことだからよく解るんだよ。実はこれを伝えたほうが良いって。
片岡氏:起業して10年ぐらいの若い社長さんって数字的な費用対効果に細かいじゃないですか。お金を使った分だけすぐ回収したいとか、効果が無いならやらないという話にどうしてもなります。でもYouTubeに流すとか、取引先に配るとか、お客さんに見せるとかは、いわゆるチャネルはご相談に乗るけれど、肝心なクリエイティブに関してはプロに任せろという、そんなイメージでしょうか?そこにあれ出せ、この商品を入れろと言われるのはかえって逆効果だと。

土屋氏: うん、やらない。

片岡氏: やらない?(笑) そういのは作らない?

土屋氏: 作らない。うん。それははっきりしたね。数字でやったことで失うものがたくさんあることに気が付くべきだと思うのね。会社を10年かけて成長させたいためには、今出てくる数字はそんなに大事じゃないということが解らないところとやる気はないです。これはもう否定しがたい真実だから。

さっきの金融関係の百数十社も、そういうところを認めてもらったということもありますが、それはもう、そういう「作り」なんですよ。その会社の原点。その会社が今存在するその理由。その何十年の歴史をと、これからこうしていきますというベクトルですよね。そのベクトルを作っている瞬間を確認して、社員や取引先と映像で共有することが、その会社にとってどれだけ大事かということです。