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■ ADV(アドボカシー)な人々 #10


フリーライター 赤木 智弘&NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長 大西 連 「いまのきもち」vol.3

片岡氏:赤木さんが7年前の31歳だった頃から今に至るまでの間、やってこられた「努力」的なるものがあると思います。今ホームレス状態にいる20代30代の人たちも、そういうステップアップを踏むのは悪いことじゃないじゃないと思うんです。有香さんもぶっちゃけ「頑張ればいいじゃん」とかって素朴に思ったりしませんか?

谷本氏:・・そうですね。

片岡氏:そこの意識の微妙なギャップといいますか、あまり精神論的に「誰もがもっと頑張るべきだ」などと極端な方向に向かってしまうと、すぐに「働かないからだめなんだ」「頑張らないからだめなんだ」などと、何でもかんでも「自己責任」と言い出して「キャンペーン」を始める議員さん(笑)とかも一部にはいます。「働きたくても働けない」とか「頑張りたくても頑張れない」という事情のある人が現実には大勢いることには全く思いを寄せていないといいますか、想像力が及んでいない。

一方で、ちょっと頑張れば何とかなる人も多くいます。18万円くらい稼いでかつかつかもしれないけれど何とかやっている人もいる。要はそこに「ジャパニーズドリーム」のような未来が描けるのか描けないのかという話になっちゃうんです。たとえば10年後、結婚して家族を持ち家を持ち、そこそこ貯金貯めているという中流階級的なる「夢」は、もう無理な話なのか。赤木さんは31歳の当時だと「それは無理だ」と思っていたと思います。7年経った今はどう思いますか。

赤木氏:結局、広い意味での社会資本に依って決まってくるんだと思うんですね。そこでいろんな関係性を持っていれば助けてもらえるかもしれない。たとえば単純に、親が知り合いに頼んで正社員の職を用意してくれるだけでも全然違ってくると思うんです。それが無ければいくら頑張っても誰も面倒を見てくれないし評価もしてもらえない。頑張ることとプラスの評価をしてもらえる状況が合致しないと夢を抱くことは難しいのだと思います。

こういう社会資本ってある程度ちゃんと働いていて社会性を持ってる人は得られますが、そこから外れるとどんどん無くなっていくし、自分の力で上手く作り出していけるかというとそれは相当難しい。1回ドロップアウトしちゃうと社会資本と関係性を結べない。困ったときに親元に戻れる状況でなければどんどん孤立していってしまう。やっぱりそうした社会資本まで含めたスパイラルですので、努力しても上手くいかなければさらに努力をしなくなっていく。社会は個人の努力を引き受ける努力をしないといけない、というのが僕の考え方ですね。

片岡氏:有香さんはご家庭を持っていて、自分のジャーナリストとしてのギャランティーは把握できるけど、家庭労働っていくらと聞かれても把握できないですよね。でも自分で稼がれているお金で海外の大学に通ったりするじゃないですか。あれは自分への投資なんですか。

谷本氏:そうですね。
片岡氏:自分で貯めたお金を自分で使うのは「自己責任」ですよね。悪い意味じゃなくて。それをやれる人、やれない人、やろうと思う人、やろうと思わない人。そこがすなわち意識の格差なのか。また何の格差なのか。

大西氏:日本の相対的貧困率が16%って6人に1人なんです。小学校の時のクラスを思い浮かべると、1クラス30人の中で5人が貧困生活もしくは貧困家庭で育っていることになります。生活保護を利用している人が1.6%ですから60人に1人つまり2クラスに1人。そういえば小学校の時、クラスにいたあの子は毎日同じ服を着ていたな、もしかしたら貧困家庭だったかもしれないというくらいの感じです。

確率的にはまだまだ多いわけではないので、周りにいないかもしれないし、いても気がつかなかったかもしれません。失業率もまだ3%台ですから、単純に言うと30人に1人。ただ、逆にそれくらいの確率で、家族の支えが無いとか病気を持ってしまうといった何らかの事情のある家庭が存在します。また、例えば生活保護だと高校までしか行かれないので、親御さんが弟を大学まで行かせたいからお兄ちゃんごめん働いてというと、家計を助けるためにお兄ちゃんが中学校を出た後に働き始める、というように家庭の問題も貧困の背景としては考えられます。

教育の問題、働き方の問題と本当にいろんな要素があるので、本人の努力って言い切ってしまうと、もう本当に何もできなくなっちゃう。赤木さんが仰るように、本人の努力をどう社会が担保してあげるかとか、機会やチャンスの平等、また、チャンスを得て頑張って、うまくいかなくても最低限は生活できる状況は担保しないといけません。

日本の社会にはそもそもチャレンジできる前提が無いという状態なんです。なぜなら貧困層は増えているけど決してマジョリティではありません。自分には関係ないと思っている人が多数派としてまだまだ大勢いますから。でも気づけば自分のすぐそばにある話です。そういう発想が変わっていかないと社会全体も変わりません。

赤木氏:貧困問題を語るときの悪いクセは、「その人」を考えてしまうことだと思うんです。この人をなんとかすればいいんじゃないかとなっちゃうんだけれども、本当は社会施策の問題なので確率論なんです。ある程度の確率で必ずそうした人たちは出てきます。その手当てをどうするかという、本当はすごくシステマティックに考えなければいけない話なんです。だけど貧困問題を語るときはどうしても、この人はこういう貧困状態に陥ってしまっているので、かわいそうだとかかわいそうじゃないとか。

片岡氏:生活保護費を不正に受給している人の話があったりすると、特定の「その人」に対して、いいの悪いのと制度論ではなく、属人的な感情論になってしまいます。

赤木氏:そこで話が終わってしまうんです。それって自己責任だと思う人は「かわいそうでもなんでもない」という話になる。その人には同情するけれども他の人には目が向かないという人もいます。目が向く人も向かない人も全部ひっくるめるためには、そういう人たちは確率論的に必ず発生するということを前提に施策を考えないといけない。そこが間違いの1歩なんです。
大西氏:ついついこの問題はこれだけ大変だというストーリーにして見せたがるんです。このおじさんはこうこうなんだって。その人のストーリーを聞くとぐっと惹きつけられるので、多くの人に知ってもらうにはすごく効果があるけれど、制度となると難しい。僕たちの力不足というのもあるんですけど、社会のしくみとしてのシステムを作るわけですから、「この人は許せない」とか窓口で判断されたら困るので、あくまでドライにシステマティックでなければいけない。

最近はデータの統計をとって、こういう状況があるからこういう制度を作って欲しいとアドボカシー(政策提言)につなげていくということをしていて、個人への支援という視点から社会の構造へ、どの要素をどうしたらいいのか提言するというフェーズに移っていかないといけないと考えています。

赤木氏:ホームレス支援のNPOというと、どうしても助けを求めてきた人を助けるってなっちゃうんですよね。来ない人は助けようがない。だけど、個別の人を助けながらも、もっと全体的なところを見ていかなければいけないですね。

谷本氏:制度は全然足りていないのですか。

大西氏:まだ作れていないというものありますけど、生活保護の補足率って本来利用できるはずの人の2割か3割といわれています。色々な制度があっても実際には使われていないか知られてもいない。そもそも学校教育の中で社会保障についてはあまり勉強受けていないんです。

片岡氏:確かにあえて学校教育では教えていないんですね。

大西氏:労働の権利、例えば賃金の未払いや解雇予告なしに解雇されるのは違法だとかも、習わなければ分からないじゃないですか。まず自分の権利としての社会保障や労働基準、そういったことを知らないのは大きいですね。まずこうした権利を知ることが前提。

その上で収入や医療住まいなどのハード面のちゃんとした制度を作っていく必要がある。ソフト面では対人援助。人を支える力とコミュニケーション支援は、第3の力というかNPOといった人たちが今後さらに支えていく必要があると思います。

赤木氏:本当はね、制度があるのであれば、ちゃんと役所が案内してあげなければいけないんですよ。それがうまく機能していないわけでしょ。水際作戦の問題とかもあって、役所もなるべく援助を増やしたくないという役所の都合を考えてしまい、制度と人とを結びつける役割をうまく果たせていません。またそういうところをNPOに丸投げしちゃっている現状もあるわけです。

大西氏:たぶん根底がウェッティすぎるんです(笑)窓口の人も「がんばるのよ、がんばらないとダメでしょ」とか平気で言っちゃう。

片岡氏:書類を出したら法律に従って淡々と手続きを進めてくださいと(笑)
大西氏:東京だと生活保護の担当職員は一人で120世帯くらい見ているんです。120世帯というと、一人ひとりの顔を覚えるのは大変。もう個別対応できないから、同じような紋切り型の対応になってしまうのもある。NPOに丸投げもありますけど、まず行政機関がやるべきことをやっていくことです。まあ我々は受託を受けていない団体なので好きなことが言えるのですけど(笑)

片岡氏:いわゆる「ひも付き」じゃないから。

大西氏:日本はまだまだこういうNPO・NGOが独立していないことが多くて、収入は基本的には、行政から受託を受けるか助成金をいただくか、あとは民間企業や個人からの寄付。多くの日本のNPOは委託で回っています。それって言い方を替えればアウトソースなんです。公的な仕事を安くやってくれる。某区で公的な保育園を全部民間に全部変えると1つの園で1000万円コストカットできたという話があるんですが、その多くは人件費です。NPOに安い人件費で委託するという流れがありますの。

片岡氏:公務員じゃないから安いと。

大西氏:NPOの人の平均年収って250万切っているんですね。そういう環境だと必要なことをやっていても、なかなか担い手が定着できないし育てられない。社会や国がその事業に対してちゃんとお金を払う必要があると思っていない。まだまだ「安くやってくれてラク」という体質なんです。介護なんて実際にはすごく大変なことなんですけど、「家族もやってるんだから誰でもできるじゃない」とあまり評価がなされていない。対人援助に対してはまだまだ社会の評価が低い。

片岡氏:家族でもできることなんだからという扱いなんですね。

大西氏:制度を利用する側も申し訳ないと思いながら利用しているんです。それってすごくもったいない。例えば、保育園には働きながら子育てをするために預けるわけですから、結果的には社会にお金を回して循環させているわけですし、そういうマーケットを作ってるわけなのに、制度を使うことに申し訳なく思いながら使う。本来制度を実行するのは社会にとって必要だからなのに。

赤木氏:だから貧困問題やってるNPOの人自身も貧困なんです。

大西氏:ハローワークの窓口職員が非正規だったという有名な笑い話がありますよね(笑)図書館もそうだし、あと役所の住民課とかも派遣会社の社員など、非正規労働者が増えています。

谷本氏:ええー

赤木氏:人と触れ合うようなところは派遣が多いんじゃないですかね。
片岡氏:ボランティアする側で18万円の月収がある方もいます。それ以下の人もたくさんいるじゃないですか。支援する側される側で月収18万という方もいます。両者は要は何が違うのか。家の有る無しで違うのか。親元にいるから支援する側で、そうでないと支援される側になるのか。それとも清貧じゃないですけど、気持ちの問題で自分が飢えてでもマザーテレサ的な人が支援活動をやってるのか。

大西氏:社会資本という話がありましたけど、もともと家族の支えや、教育の機会に恵まれていないという人も多くいます。また、中には支援を受けるために相談に来た当事者が、自立できたので今度は自分の力を還元したいと言って支援する側に参加する場合もあります。いろんな人がいますけど、相談する人と相談を受ける人とにあまり差が無い場合もあります。

もちろん相談をする側と受ける側にパワーバランスができてしまうこともありますけど、それが逆になることもありうる。それこそ僕に関しても「もやい」だけでは食べていけないので、去年は「もやい」と「世界の医療団」で働いて、その前は国の仕事をしてたりと毎年職場が変わっていますし。

片岡氏:そうでしたよね。

大西氏:あまり人ごとには感じられないということもあります。それこそ清貧でチャリティな気持ちの人もいます。働きながら無欲で関わっている人たちもいます。いろんな人が混ざってくる。ミッションとして何を目的とするかを共有しながらやっていますが、最近課題に感じてるのは安定的な担い手の人材育成。こうしたNPOで働く人をどう得ていくか。賃金が安いので、結婚して子どもができたので他の仕事を探すという人もいます。そこは課題として今すごく感じています。

赤木氏:社会にとって必要な仕事がボランティアで回っているということが、すごく不自然なんです。本当に必要な仕事であれば、それは継続的に経済的なものを得られるはずなんだけど、それが成り立っていない。どうしてもボランティアの一時しのぎでずっと続いちゃってる。

片岡氏:一部の人たちの良心に責任が転嫁されちゃってるんですね。

大西氏:僕らの責任でもあるんですけど、「タダでやってくれるからラクだ」となると良くない。それはつくづく感じますね。

谷本氏:サポート団体がちゃんと資金を受けられるためには、どういった方向に向かうのが一番良いのでしょう。

大西氏:民主党政権時代にNPOを支援していこうとNPO法が改正されました。認定NPO法人という制度ができたので、ある程度の規模があって公益性が認められたり、透明性、会計処理がちゃんとしている団体は、この認定を受けられるんです。その団体に寄付すると確定申告の際に税額控除されるという制度が一応あります。だけど、それができるのは寄付がたくさん集まるような国際援助などの大きな団体が多いです。小さな団体だとまだまだ資金ぶりは難しいです。

片岡氏:寄付しても損金扱いにならないんですよね。
大西氏:世界で一番税額控除を受けられるしくみですから、それ自体は素晴らしいんですけど、それ以外の仕組みも考えないといけない。あと何よりも社会の中での評価ですよね。

片岡氏:「壷」売ってると思われてるくらいだから(笑) 

赤木氏:NPO法人なんてあまり知られていないか、ボランティアくらいにしか見られてないですからね。

大西氏:NHKのニュースに取り上げられてから、「あんたが何やってるか初めて分かった」って親戚から電話がかかってきました(笑)

片岡氏:あれもなかなか団体名を出してくれないんですよね。頑張って活動しても、取材にいくら協力しても、団体の名前は出ない。某・・みたいな(笑)

赤木氏:最近NHKが企業を取材すると、企業名は言わないけど後ろに社名映ってたりする画は出してますよね。

片岡氏:ロゴ入りの新品ジャンバー着てたりね(笑)

大西氏:企業のCSRってどうしてもグリーン(環境保護)に向かうんですけど、例えば高級車メーカーがホームレス支援するというような、もっとインクルーシブな視点で貧困問題に光を当てて欲しいなと思ったりもします。

片岡氏:赤木さんに伺います。NPO団体で支援する側とされる側に分かれると、どうしてもある程度そこに支配関係といいますか、要は支援する側が権力を持ってしまうことがあります。これって文筆業などにも言えることで、あまり売れてない頃は鋭く行政や制度のことを批判できる立場だったのが、世の中に対してある程度、名前が売れてくると自分自身が一種の権威になっちゃう。

それって良いことでもあり悪いことでもありますが、発言の影響力を持つことが即ち今まで批判していた権威そのものに、いつの間にか自分自身がなってしまうことがあります。これはTwitterのフォロワー数なんかでも分かりやすいと思うんですけど、そのあたりの対人的な心境の変化みたいなものって。

赤木氏:なるべく個人に関してはぼやかすように書いていますね。たとえば容疑者であったりすると、「何歳の男性」みたいな属性は書くけど、名前は書く必要はないかなと。逆に公共性の強いもの、会社名であるとか公人的な立場にある人であれば名前を書いたり、多少の属性を考えて書くようにはしていますね。犯罪者を直接批判しても意味は無いので、人を批判するよりは人が陥っている状況とか、そっちのほうを話の中心になるように書いています。

谷本氏:あの論考書いたときよりも、今は幸福度はアップされていますか。

赤木氏:あの頃よりは絶望はしていない感じですね。あの頃はもう「どうにもなんないな」というどんづまりな感じでしたから。でもあと何年生きていけるかなというのはあります。まあ道は狭いですけど、なんとかうまくやれたらいいなとは思ってますね。


 


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