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■ ADV(アドボカシー)な人々 #09


株式会社パティシエ エス コヤマ 代表取締役 小山 進 「いまのきもち」 vol.3

片岡氏:カカオを探しに行くってどうやって探すんですか?小売なのか、問屋さんなのか、農園なのかというと?

小山氏:農園です。今回はたまたまカカオに全然詳しくない珈琲屋さんが、エスコヤマの噂を聞きつけて、ジャカルタとシンガポールで新しい商売したいから、ちょっと知恵を貸して欲しいって来られて、ダメもとで、「インドネシアのカカオって、そんなに優秀なカカオは見たことないけど、真っ白なカカオって無いですか」と聞くと「ある」って言いはったんです。

僕はもう絶対ウソやと思ったんです。送るというので送ってくれはったんですけど、それがこれやったんです。僕びっくりしてしまって。「ほんまにあるやん。この産地に行きたい」

片岡氏:白いカカオは、探していたんですね?

小山氏:どこの国のものでも白いカカオを探しています。

片岡氏:それだけ無いんですか。

小山氏:無いです。病気にも弱いし大量生産型には向かないから、誰も育てようとしないでしょ。希少価値が高いんです。

片岡氏:白いカカオって何が違うんですか。

小山氏:カカオの実はカカオポットと言うのですが、それを割ると、ライチとマンゴスチンのような味の、3ミリくらいの厚みのネトーッとした果肉がついたカカオ豆がぼこぼこっと入ってるんですね。その中に種があって切ったカット面は普通はアントシアニンの紫色なんです。でも品種によったら真っ白、クリーム色みたいな豆があるんですね。

それが僕たちの探しているホワイトカカオです。エグみが無くてエレガントなんです。これをアルコール発酵し、酢酸発酵します。普通のカカオは5日間発酵させますがこれは2日半。もともとのポテンシャルが高いから2日半で充分美味しい味になる。
片岡氏:そこまで発酵させなくても良いと。

小山氏:させたらダメですね。

谷本氏:他の方が真似して、白いカカオを使おうということにならないんですか

小山氏:日本人は絶対になりません。なぜなら原料として、普通いくら高くても2500円くらいのチョコレート原料を使っている人ばっかりですから。これ5800円くらいします。そんなもん誰も使わないでしょう。でも僕は絶対に、1番目のビターに関してはこれくらい使わないと話にならないと思っているので。

谷本氏:すごい稀少なんですね。

片岡氏:このカカオを取り寄せて、ご自身で加工されるんですか?

小山氏:ビーントゥバーの小型の機械を買いました。ただ、日本で普通に手に入る板チョコと同じ豆を取る気は無いんですよ。それではこういう味にならないですから。カカオの完全オーガニックって難しいんですね。でも微量の農薬を使っていても、焙煎すると消えるんです。

それを判っていても、皮に数値があるから入れられないんです。少量で実験的なものだったら入るから、それで僕が、小型の機械で24時間練り合わせてクーベルチュールにして、そのレシピを現地のメーカーさんに伝えて製造し、クーベルチュールとして完成した形で輸入することならできるんです。

ビーントゥバーって各地で騒がれているけれど、真なるビーントゥバーというのは、まだ日本人が知らないカカオの魅力を教えてあげることに意味があると思っているんです。だから今のところ、日本に優れた豆をどんどん輸入するのは難しいですね。
谷本氏:カカオもそこまでこだわられているということは、他の材料に関してもかなりこだわってらっしゃるのでしょうか

小山氏:僕はこだわるという言葉自体、あまり昔から使いたくないんですね。なんでかというと、それは特別なことじゃないから。自分にすれば夏休みの宿題で、俺やったらこれくらいのものを出すというのと同じで、僕が苺を使うんやったらこんな苺を使いたい、というものを探し歩くわけです。

誰かに美味しいという卵を紹介してもらったとして、たしかに美味しいけど、美味しい卵は世の中にいっぱいある。そのストーリーは僕のストーリーじゃないと思えば使わないです。背景も味も全て、人に紹介したときに楽しくなかったらイヤなんです。

自分で歩き回って探したカカオは自信持って話できますから。この1個1個の制作秘話もそうじゃないですか。素材原料も同じです。本当に僕に合っているもの、僕でないと華咲かないものを探しまわってますね。

片岡氏:どうしても最初にロールケーキのイメージがあって、ほかにチーズケーキとかいろんなケーキも出されてますが、このところチョコレート、パティシエの中でもショコラティエというのはちがうんですよね。

小山氏:結局一緒なんです。毎年、フランスをはじめ世界中からいろんな有名なシェフが訪ねて来られるんです。なんで来られるかというと、小山ロールを食べに。あの化学は、彼らの辞書に無いんです。びっくりするレシピなので、彼らはオーブンの中で何がおきているのかに興味があるんです。

なぜなら食感が違うから。ロールケーキの形をしているだけで、他のロールケーキとは全く違う。実はこのレシピに行き着くまでのプロセスというのは、ショコラを作る以上の実験を繰り返しているわけなんです。

僕はどっちかというと化学者みたいに実験を繰り返します。どこにでもあるようなレベルでは作りたくないんです。だからショコラも小山ロールも、僕の作り出す商品はすべて一緒やと思います。でもぱっと見てロールケーキっていうのはファミリー菓子みたいな印象があるから、どうしてもそう言われることはあります。でも食べたら「ああ、勘違いしてた」と解ります。

谷本氏:奇をてらうわけではないと。
小山氏:自然ですね。「自然のままに心をこめて」というのが、前にいたハイジという会社の社訓やったんです。そこで僕は19歳から働いている間、「自然に恵みを大事にしろ。それをもって自分の技術を駆使して、お客様に喜んでいただくものを作れ」と社長が言うてはるんやと思ってたんです。

でも去年くらいから、もしかしたら違うかもしれんと思い始めたんです。その時その時、何かに一生懸命になっていたら、勝手に次のステージが見えるんだと。だから企画なんか考えなくても、勝手にやらなくちゃいけないことが見えてくると言われているような気がしたんですね。

だから僕はずっと、次に何をしようかなんて考えたことないです。やらなくちゃいけないことをやっていっているだけで、勝手に降りてきますから。だからあんまり先々のことを考えません。もちろん経営者やから考える部分もあるけど、クリエイトな面では机の上で考えていないですね。だから、常に何をしなくちゃいけないか、ずっと出てくる人であるためには、動きまわって、努力し続けないとダメですね。インプットの量が少なくなったらアイデアが溢れてこないじゃないですか。

谷本氏:インプットという意味では、食に関するものだけじゃなくって、その発想の源となるものはいろんなものもあるんですか。

小山氏:音楽もそうだし、自然が好きやし。僕は毎日、昼間1時から2時まで走るんです。走ってて浮かぶことなんてめちゃくちゃあります。走りながら、葉っぱにとまってるカマキリやバッタの写真を撮ったり、今日のこの天気やったら亀が川から上がってるやろうなとか。毎日走ってると、生き物の生態系のようなものが見えてきますよね。でもそういうことがチョコレートやお菓子になったりするんです。なんか神様みたいやな(笑)

谷本氏:インプットやクリエイトには今の場所、三田じゃなきゃだめですか?東京じゃだめですか?

小山氏:やっぱりベースは自然ですね。僕は出張も多いから、たまに都会に放たれた感じでアイデアが浮かぶことがあります。京都五条の路地で生まれ育って、年に1回夏休みに自然いっぱいに囲まれたの母の田舎に預けられるわけです。

その1ヶ月は、「野山に放たれた感覚」があって、そのときまでは京都の路地の中でぐっと抑制されながら、夏休みを楽しみに待つ。待っていることを楽しむから、その夏休みが活きるんです。そのバランスが良かったんだと思いますね。今はベースが逆です。都会と自然では、どっちが好きかというと自然のほうが好きやから。

海外にスタッフと一緒に研修旅行に行っても思いつきます。でも“日本人”小山進のフィルターで見てるからその土地に長く住まれている外国人には無い感覚でしょ。だからさっきの抹茶とパッションの組み合わせは、もちろん料理の酸味とか苦味というのも大事やけど、「もし僕がフランス人やったら、目の前に抹茶を置かれたら、こんなショコラ作るよな」と思って作ったんです。
片岡氏:「それがさっきおっしゃった“日本人”小山進のフィルターで見る」ということなんですね。

小山氏:そうです。昨年、最優秀賞を逃した悔しさが、一番表れているのがこの4番目のショコラです。むしろフランス人が抹茶を前にして、「なんでパッションを思いつかへんのか?それって感性鈍ってるんちゃうか?」っていう、ちょっと挑戦状みたいな感じもあります。「僕はパッションフルーツ思いついたぞ」と。でも日本人って抹茶を前にパッションフルーツ思いつかへんじゃないですか。それって僕がフランス人になりきったから思いついたんです。

谷本氏:世界のトップになったからこそ、日本を意識するということってありますか?

小山氏:あります。日本の文化を知らないと。今まで知らんかったことだらけなので、昨日まで知らんかったことを反省する毎日です。京都の骨董屋さんに、器の勉強会に呼んでいただけるようにしてるんですけど、知らないことだらけで「へぇ、へぇ」と思いますもん。

今回『小山菓子店』という、和の切り口のお菓子を置く店を作ったんで、そこに鐙(あぶみ)を飾って、一輪挿しにしたんです。室町時代のものが欲しくて、ちょっとヒビ入ってますけど、骨董品屋ですごいカッコいいのがあったんです。1個置くだけでも「やっぱり良いなあ」って。家に置いたりはしませんけど、知っとかないと巡り合わないもんってあるじゃないですか。

片岡氏:ありきたりなんですけど、こんどの挑戦の自信抱負みたいなものは。

小山氏:いや、これあかんかったら、審査員の味覚疑いますよね(笑)というか自分の中ではいつも、何かしら記録を更新しているんやと思います。ただ更新しすぎて、ついて来られへんもん作ったらあかんというのが昨年の反省なんです。それと、昨年よりも華やかに、フルーツの酸を活かして分かりやすいショコラを創りました。彩りというとフルーツなんです。

前回は万願寺とうがらし、白トリュフハチミツ、赤だしみたいな感じだったから、フルーツの華やかさには欠けとった感じがする。面白いけど地味やったんかもしれんという反省はしっかりしたんです。できあがった当初は、反省が見つからなかったんですよ。パリにいる間は。腹立って腹立って(笑)これに関しては反省点って・・

片岡氏:でも反省できたんですね。

小山氏:できました、できました。だからその表われです。

谷本氏:反省があるから進化があるっていう。