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■ ADV(アドボカシー)な人々 #09


株式会社パティシエ エス コヤマ 代表取締役 小山 進 「いまのきもち」 vol.4

小山氏:息子がね、たまたまニュースで「小山、受賞を逃した」と出たのを見たんです。「お父さんって、取らん時も出るって大変やな。これは相当悔しいやろうな。泣きそうなんちゃうか」って言うてると嫁から聞いて、ああ、ええこと感じたなと思ったんです。

「あのな、2011年2012年とチヤホヤされたんやからな、そんなもん逃したって言われるくらいやないとあかん。でも俺はものすごい悔しい。こんな悔しいことはそうそう無い。でも良かった。毎日ちょっと悔しいことなんかはいっぱいあるし、だから頑張れる。でもここまで悔しいことはこの10数年間で無かったから、これは俺にとったらすごいことなんや。来年の作品見とけ。」とパリから息子に送ったんです。

片岡氏:息子さん食べましたか?今年の。

小山氏:食べました。

片岡氏:なんていいました?

小山氏:いや息子はあんまり、おーとか言わへんのですよ。娘と嫁はおーって言ってましたけど(笑)「いつもとは、ちょっと違うな」と。ちょっと違う。それでいいんです。

谷本氏:息子さんも同じ道を歩まれるんですか?

小山氏:娘が22歳で、息子は18歳、一番の息子は4歳。僕はロック好きなので、バンドもやっててそれをずっと見て育ってきたから、二人とも音楽やってるんですよ。

片岡氏:そっちなんですね。

小山氏:でも僕はあかんとは言わないです。だって僕も「もうええわ」というところまで好きな事やったから。うまいこといかないのにずっとやってたらあかんけど、自分の好きなことをとことん掘り下げろと思ってるんです。ものづくりには変わりないから。

そこで徹底的に学んだら、パティシエじゃなくったって、エスコヤマのクリエイティブな仕事には絶対役に立つと思うんですよ。で、その時にちゃんと話してやろうと思ってるんです。今はエスコヤマの仕事と直結するような具体的なことは言わないで、今彼らが一生懸命になる手伝いはしてやりたいと思ってます。

谷本氏:すごくステキですね。うらやましい。
小山氏:これ、食べてください。僕のとこにしか入ってこないチョコレートなんです。どんな味がするかを食べて欲しいと思って。ペルー産なんです。

谷本氏:おおー。

片岡氏:ちょっと苦い?酸っぱい?酸味ですか。

谷本氏:酸味がありますね。

小山氏:これもペルー産で、さっきのものとは違う地域で収穫されるカカオから生まれたチョコレートです。

片岡氏:こっちのほうがマイルド。

小山氏:同じ国でも産地が違って、カカオの品種が違って、発酵の仕方が違うんです。こんなチョコレートは二つとも日本には入ってきてないです。

片岡氏:全然違う。

谷本氏:全然違いますね。

小山氏:去年の『サロン・デュ・ショコラ』で出会って、絶対に入れてくれって言うて。これがね、いままでの最高の値段なんですよ。
片岡氏:これどこのですか

小山氏:これベネズエラ。チュアオというところのカカオです。1キロ6800円。びっくりするでしょ。ベネズエラってナッティな香りがするのが多いんですけど、こんな酸味のあるのに出会ったのは初めてです。すごい、本当にすごい。

片岡氏:素人の僕に「これは6800円だ」とか価値が分かると言ったら嘘になりますが(笑)でも何と言いますか、とてもバランスがいい風味です。

谷本氏:(笑)

小山氏:最後この2種類。先ほど召し上がっていただいた今年の作品の「2コロンビア」でいう、これがおおらかな男性のほう。で、こちらがわがままな女性。このわがままは本当にわがままですよ。

谷本氏:香りが良いですね。

片岡氏:ああ、先ほどのとは明らかに違いますね。

小山氏:このフルボディのタンニンの効いた赤ワインのような。

片岡氏:渋みと呼んだらいいでしょうか。

小山氏:だから重ねようと思ったんです。

片岡氏:どう重ねるかで全然変わってくるんですね。

小山氏:ボトムにわがままを持ってくるのか、上に持ってくるのかによって全然違います。

片岡氏:舌にどうあたるかを計算するのですか?
小山氏:それも実験するんです。「絶対これ下やな、でも一応やっとこか」と。あと形が今回平べったいのが多かったでしょ。これは華やかな酸を意識したからなんです。酸味って舌の上と言うよりも口の中の結構、横側で感じることが多いでしょ。だからはじめにそこを活かせば伝わりやすいから。

片岡氏:うーん。そこまで繰り返し実験を積み重ねて考え抜いている。

谷本氏:本当に完璧という感じですね。

小山氏:感覚で感じてそれを立証するという。数学的な計算じゃないんです。たぶんそうなるはずやと思って、食べてみて食べてみて。その実験結果、自分の感じた感覚をデータ化するんです。

片岡氏:帰納法みたいな感じですね。違ったらこっちという。

谷本氏:でもその「感覚」はほとんど合っているんですね。

小山氏:合ってますね。若い頃は合ってなかったです。なぜならイメージがついて無いのに創り出そうとしていたから。でも今はヨダレが出るくらいまで、完全に味のイメージがついてから創り始めるので、あまり迷路は無いですね。無理やなと思えば一旦置きます。置いて熟成する感じがまた良いんですよ。アイデアが煮詰まっているのにやり続けたって、あんまり良いもんに結びつかないです。時間の無駄やし。

谷本氏:これはいけますねえ。最優秀賞決定。

片岡氏:これはいけると思います。

小山氏:
谷本氏:なんだか人生論ですね。

小山氏:結局どんな話をしてもそこに繋がってくるんです。そこに繋げて説明してあげないと。僕は同じジャンルの人たちのためにだけ話をする人間じゃないから、どんな仕事も一緒やということを若い人たちにしてあげたい。もっといえば学校の先生が教えられないことも教えてあげたい。それが重要やと思うんですね。やっぱりこれからがんばろうとしている子たちの応援団長でありたいから。

谷本氏:今回、白いカカオでどんなものを作ろうとされていますか

小山氏:タブレット。板チョコです。このカカオは誰も知らないので、絶対にコイツを世の中の表舞台に出してやろうと思ってるわけです。ごっついカカオやと思ってるねん僕は。コイツのポテンシャルを僕はどう活かせるかだけの話なんですよ。

片岡氏:そこそこ、そこなんですよね。最高の豆(素材)との出会いがまずあり、その上で、その素材に潜在する魅力を見つけ、どうやれば引き出せるのか実験をひたすら科学的に繰り返していく。

小山氏:今回何が違うかというと豆からやから。まずはチョコレートにせなあかんわけです。それが初の挑戦やから面白い。コイツはどんな色の板チョコになるかというと、赤茶色になるんですよ。それはミルクチョコレートのミルクが入った赤茶色じゃない。ビターなのに赤茶色です。生まれてみたら髪の毛が赤茶色。なんでお前、赤茶色なんや?っていうくらい赤茶色やと思います。まず見た目でびっくりさせたろうと。

あとは料理人として、酸味がエレガントに華咲くかというのは僕の匙加減。舌の感覚で量を決めるんです。それからどのくらい練るか。荒々しく止めるか、もっと練ってエレガントに上品な子に育てたいと思うか。

片岡氏:素材との出会いから自分が関わるとなると、とてもごまかしがきかないですね。

谷本氏:エレガントで上品な子も、荒々しい子も、どちらでも楽しみです。
《追記》
サロンデュショコラ2014アワード、CCC(クラブ デ クロクール ド ショコラ)の本年度のアワードの発表がパリ現地時間31日 16時に行われました。全出品250作品の中で審査員8名による20点評価で満点の160点を獲得し小山進さんの作品が「アワード エクセレンス」を受賞しました。

本年度からは5タブレット評価は廃止され、金、銀、銅の3段階評価にプラスして最優秀賞としてアワードが授与されるシステムとなったため、アワードも数種類に分かれましたが、「アワード エクセレンス」はその中でも満点評価にあたる最高の栄誉です。小山さんの最優秀賞の受賞は、2011年、2012年に引き続き3度目となりました。
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小山 進
株式会社パティシエ エス コヤマ 代表取締役
1964年、京都府生まれ。ロールケーキブームの火付け役であり、今や日本のみならず世界を代表するパティシエ・ショコラティエ。幼少期より菓子職人の父の背中を見て育ち、2000年に独立、2003年、兵庫県三田市に「パティシエ エス コヤマ」を開店。同店を代表するスイーツ「小山ロール」が爆 発的人気となり、一躍全国区に。11年からは、世界最大のショコラの祭典「サロン・デュ・ショコラ パリ」に3年連続で出展。フランスで最も権威あるショコラ愛好会「C.C.C.(Club des Croqueurs de Chocolat)のコンクールで3年続けて「5タブレット」の最高評価を獲得。11年、12年には「外国人部 門最優秀ショコラティエ賞」を2年連続受賞し、日本人初の快挙を成し遂げた。また、2013年に初出品したインターナショナル・チョコレート・アワーズでは、全米大会を経てロンドンの世界大会へ。金賞3(うち特別賞2)、銀賞2を獲得。2013年12月には子どもしか入れない、子どものためのパティスリー「未来製作 所」をオープン。日本の注目シェフとして、海外のペーストリーマガジン「so good」vol.12でも特集が組まれた。『丁寧を武器 にする』(祥伝社)など著書も多数。
株式会社パティシエ エス コヤマ
HP: http://www.es-koyama.com
FB: koyamasusumu
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片岡 英彦
コミュニケーションプロデューサー
株式会社東京片岡英彦事務所 代表取締役
一般社団法人日本アドボカシー協会代表理事
世界の医療団(認定NPO法人)広報マネージャー

1970年東京生まれ。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。2013年「株式会社東京片岡英彦事務所」代表取締役、「一般社団法人日本アドボカシー協会」代表理事に就任。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加、フランス・パリに本部を持つ国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。マガジンハウス/Webダカーポではインタビューコラム「片岡英彦のNGOな人々」を連載中。

株式会社東京片岡英彦事務所
HP: http://www.kataokahidehiko.com/
FB: kataokaoffice
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谷本 有香
経済キャスター/ジャーナリスト
山一證券、Bloomberg TVで経済アンカーを務めたのち、米国MBA留学。その後は、 日経CNBCで経済キャスターとして従事。CNBCでは女性初の経済コメンテーターに。英ブレア元首相、マイケル・サンデル教授の独占インタビューを含め、ハワード・ シュルツスターバックス会長兼CEO、ノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授、 マイケル・ポーターハーバード大学教授、ジム・ロジャーズ氏など、世界の大物著名 人たちへのインタビューは1000人を超える。自身が企画・構成・出演を担当した「ザ・経済闘論×日経ヴェリタス~漂流する円・ 戦略なきニッポンの行方~」は日経映像2010年度年間優秀賞を受賞、また、同じ く企画・構成・出演を担当した「緊急スペシャル リーマン経営破たん」は日経CNBC 社長賞を受賞。 W.I.N.日本イベントでは非公式を含め初回より3回ともファシリテー ターを務める。2014年5月 北京大学外資企業EMBA 修了。現在、テレビ朝日「サンデースクランブル」ゲストコメンテーターとして出演中

HP: http://www.yukatanimoto.com/
FB: yuka.tanimoto.50
2014年11月/衣装協力(谷本有香氏):Otto, オットージャパン 撮影協力:竹内佑