室内楽の楽しみ〜いつまでもご一緒に! |
11月と12月は、多くのコンサートが続いています。本番と練習に明け暮れる毎日ですが、かえって頭は活性化されて元気一杯です。コンサートではエネルギーを放出しますが、それ以上の新しいエネルギーが身体にチャージされるからでしょう。音楽そのものから、そしてお客様からも元気をもらい、さらに共演者がいる場合、彼らからもらえるエネルギーははかり知れません。
普段、私は主にソロで活動していますので、練習も一人、ステージでも一人という、ある意味孤独な作業をこなしていかなければなりません。
ですが、ここのところ室内楽をやらせていただく機会も増え、友人のピアニストである宮谷理香さんとは《デュオ・グレイス》という2台ピアノのユニットを結成しています。実は、2人ともワルシャワのショパン国際ピアノ・コンクールの入賞者—私が1990年の第12回、宮谷さんが1995年の第13回—。ピアニストとしての立場もとても似ています。
二人のリハーサルが始まると、もうピアノの音が重なるのがとても楽しいのです。さらに実際のステージでは、楽しさに多くの喜びが加わります。弾き始める前はお互いに励ますようにニッコリ笑顔で始めます。こんなちょっとした事から本当に嬉しい!
ピアノを向かい合わせに置くので、お互いにアイ・コンタクトを取りながら弾き進めていくのも新鮮です。さらに、ピアニスト同士でも、曲の仕上げ方、練習の仕方、奏法など少しずつ違いますし、驚く事や学ぶ事がたくさんあり、お互いにとても良い影響を与えあっています。
ほかの楽器との共演もとても楽しいものです。11月半ばには、スロヴァキアの名チェリストであるルドヴィート・カンタさんとのデュオ・リサイタルがありました。まるで言葉のようにチェロを奏でるカンタさんの表現力はこちらの想像を超えています。豊かな音楽性溢れるチェロの音を耳だけでなく全身で聴き、そこにピアノを重ねていき、また私のピアノがチェロの音に溶け込んでいく…、さらにチェロの音を時には私がリードする…、そんな確かな感覚を憶える希有な体験でした。
11月末には仲の良いヴァイオリニストの礒絵里子さんと、チェリストの新倉瞳さんとの《ピアノ三重奏》のコンサートがありました。3人での演奏になると新たな奥行きも広がり、表現の可能性もいく通りにも増えていきます。礒さんも新倉さんも生き生きとした音楽性が持ち味で、終演後も興奮冷めやらぬコンサートとなりました。
こうして、仲間と音楽をつくりあげていく喜び…。音楽には無限の可能性があります。ソロ→デュオ→トリオ→室内オーケストラ→フル・オーケストラとの《ピアノ協奏曲》まで!
私は、ソロの緻密孤独な音楽との対話も愛していますし、室内楽、さらにはオーケストラとのアンサンブルも愛します。もとはフランス語の“アンサンブル(encemble)”の意味は、「さあご一緒に!」なのです。
さあ、みなさまご一緒にいつまでも音楽を楽しんでいきましょう!
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1年間にわたる私の連載をお読みいただいたみなさま、心から感謝申しあげます。次回はコンサート会場でお会いできますように。ごきげんよう!