癒しの時間の大切さ |
すっかり秋らしくなった今日この頃、しかし私は、この1ヶ月必死に働いていて、秋を楽しむ余裕が全くありませんでした。9月以降コンサートが立て込み、その準備に追われ、朝から晩までピアノの前に座り、練習したり楽譜とにらめっこをしたり。そして、ハッと気づくと朝からほとんど食べていないのに、夜中の12時を回っているなんてことも…。「東京ウーマン」の読者の皆さんにはとてもオススメできない生活ぶりですね。
色々なコンサートが立て続けにあった後、最後に控えていたのが東京の浜離宮朝日ホールでのリサイタルでした。《名曲達の饗宴》というタイトルがついたリサイタルは全3回シリーズで、今回はその2回目。実はこのコンサート、自分で企画をしている“自主リサイタル”というものなのです。
普段のコンサートは、ホール、サロン、楽器店、オーケストラなどの主催者が私にコンサートを依頼してくださって、ギャランティーをいただいて弾かせていただく、いわゆる“仕事”なのですが、自主リサイタルは自分が主催者であり、リスクも何もかも背負い込んで行うものなので、ある意味自由。しかし一方で普段はしない大量のデスクワークも、更にはお金の勘定までもするという、芸術家が到底出来そうもない(?)ことまでやらなければなりません。これが大変な負担でして、特に私は事務的な事がとても苦手なのでやるべきことがどんどん遅れてしまい、またそれが精神的にも追いつめられるという…。
とても大変な自主リサイタルですが、自分が弾きたい曲を自由に選べるので、やってみたい曲を揃える楽しさがあります。今回はベートーヴェンのソナタ「ワルトシュタイン」とリストのソナタがメイン。2曲とも超難曲です。こういう曲を揃えてしまうのは、あえて険しい山に挑戦する登山家と同じですね。難曲を目の前にするとワクワクします。
そんな超難関の山を登っている途中の9月中旬に、オネゲルというフランス人作曲家のオーケストラ曲「ラグビー」を2台ピアノで弾くコンサートがあり、その曲がかなりやっかいで、譜読みに思ってもいないほど大量の時間を消費してしまったのです。そのためリサイタルの曲を仕上げるのも予定より大きく遅れてしまい、文字通り髪をかきむしるような状況になってしまいました。それこそ、目はつり上がり、眉間にはしわが寄っていたのではないかな。
そのような状態の時に、大変珍しいプラネタリウムで演奏するコンサートに、友人でクラリネット奏者のエマニュエル・ヌヴーさんと出演しました。ヌヴーさんはフランス人ですが東京交響楽団首席奏者として長く日本で活躍。偶然にも同じマンションに住んでいた事もあり、家族ぐるみで仲良くしていました。今回が初共演、しかも初プラネタリウム。ヌヴーさんのこれぞフランスのエスプリ、という軽やかでイマジネーション豊かな音楽、そして空には満点の星空...。こんなに素敵なコンサートってあるでしょうか!演奏している私自身が一番癒されていたのかもしれません。
お陰で、頭も心もリフレッシュして、数日後の自主リサイタルに臨むことができました。難曲揃いのプログラム、完全燃焼で弾き切りました。
こうして振り返ると、大変だった「ラグビー」はとても好きな曲になり、リサイタルで弾いた曲達には実力を伸ばしてもらえ、全ての経験が自分の中で大きな財産となっています。そして、癒しの時間の大切さも今回強く感じました。「忙しい時こそあえて癒しの時間を作る努力を!」