『17歳の肖像』An Education |
『17歳の肖像』An Education(2009)
監督 ロネ・シェルフィグ
出演 キャリー・マリガン、ピーター・サースガード、アルフレッド・モリーナ、ドミニク・クーパー、エマ・トンプソン
若者を描くことで定評のある脚本家・クドカンこと宮藤官九郎が、大学進学を目指すだけの受験生を、自身のドラマで描いたことはあっただろうか?アルバイターや落語家、料理人や海女など、手に職をつける若者たちを描くクドカンは、大学全入時代と言われる昨今だというのに、受験生や優等生には、ほとんど興味がないらしい。面白くなくてドラマにならないと思っているのかもしれない、まあ当然か。ならば、受験生や優等生を描いた映画で、面白いものってないのだろうか。
ビートルズ誕生前夜の1961年、ロンドン郊外。名門オックスフォード大学進学を目指す、優秀な女子高生ジェニー(キャリー・マリガン)。進学に有利だから、チェロも習っている。でも頭のいい子にありがちなわけだが、同級生みんなが子どもに見えたり、おフランスにかぶれてパリ行きを夢見たり…、退屈な毎日を送っていた。
ある雨の日、チェロを抱え傘もささずに歩くジェニーに、いい車に乗った男が声をかける。「送っていくよ」「結構です」「でもチェロが心配だ。チェロだけ乗せるならいいだろう?」年上男の素晴らしいナンパ術。ジェニーは、30代のリッチで紳士的な男性デイヴィッド(ピーター・サースガード)とこうして知り合い、高級レストランでのディナーや、クラシックコンサート、美術品のオークション会場など、未知の世界を知ることになる。
恋と大人の世界に浸れば浸るほど、勉強はおろそかになる。「私が大学に行ったところで、女がなれるのは、せいぜい学校の先生でしょう?」と彼女は教師に詰め寄る。私も、高校の三者面接で同じことを言ってしまった。今考えれば、恥ずかしい限りだが…。そして、学校をやめてしまうジェニー。ロマンティックな恋に邁進するが…、手痛いしっぺ返しが待っていた。
この作品には原作があり、英国の女性ジャーナリスト、リン・バーバーが、高校時代を回想したものだ。この人、辛辣なインタビューなどで、英国では「悪魔のように怖いおばちゃん」として有名なんだそう。有名人となったリンが経験した「若い頃の失敗」は、彼女を形成する上でかけがえのない宝となったようだ。買ってでもしろ、というわけである。
原題は「An Education(教育)」。この映画がユニークなのは、恋に傷つきオトナになりました…という「人生勉強」を描くだけでなく、親・教師・大人たちからも様々なことを「学び」、より「自由」を得るためにもう一度勉強しようと思うジェニーの姿から、「教育」とは何かを多様な視点で考えさせられる点にある。
とはいえ「女性」が、自由や可能性を得るための一番の近道が、未だに「勉学」だということを考えると、なんだかさびしい気持ちにもなる。私自身学歴もなく、技能や職能でなんとかやっていこうと思ったが、現実は厳しい。学業で将来がより豊かに切り開けるなら、その方がいいに決まっている。パキスタンで撃たれた少女マララちゃんのように、女性が虐げられている場所では、特に。
今、日本では、高校生活を描いた映画がたくさん作られているが、この作品のような「なぜ勉強するのか」「学ぶとは何だろう」「大学行く必要あるの」「大人は何を考えてるの」というような、様々な角度から「教育」について考えさせられる作品は全くないだろう。あってもいいように思うのだが…。
端正な映像と、近作「華麗なるギャツビー」でディカプリオと共演もした、可憐なキャリー・マリガンの姿に酔いしれた後は、原作者の「リン・バーバー」を検索して、可愛らしい少女の将来…ヘビースモーカーの「悪魔のようなおばちゃん」の姿を見てみることをおススメします。