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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo 大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに… |
新しいあなたへ~新シリーズ「ココロの処方箋」~ヘッセの言葉④~ |
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いよいよ本格的な夏がやってきました。 子供たちの夏休みが始まると、街はとたんににぎやかな明るさを纏います。 海に近い筆者の地元では、観光客も増え、周囲は楽しそうな笑顔であふれています。 笑顔と言えば、私が思い起こすイベントはといえば「結婚式」です。 結婚式ほど、笑顔にあふれている場所はないのではないか。と思うほど、参列者も満面の笑顔で新郎新婦を出迎えます。 結婚式……、いいですよね。だれもが幸せな笑顔を見せてくれる貴重な時間です。 だれかの何かの祝賀会や、そのほかのパーティー。華やかな場面は他にもたくさんありますが、出席された方はもちろん祝福ムードなのでしょうが、他人の成功が気に入らないという人やライバルは、複雑な思いに違いありません。
けれども、どんなものを見ても素直に喜びを感じられる人になれ、とヘッセは言います。
喜ぶことができる能力があるのだから、我慢していないで素直に喜ぼう。 美しさがわかる感受性があるのだから、気取っていないで素直に美しさに驚こう。 ソナタの変奏曲にうっとりするのと、じゃれている若い猫がくるりと頭をまわるのをかわいらしいと思う感受性は同じだ。もったいぶったものにだけ深遠な美があるわけではない。人生の日々における多くの小さな事柄がとても美しく、わたしたちを深く喜ばせるのだから。 (「幸福」)
人生には、じつはたくさんの「笑顔」の場面に溢れています。 たとえば、新しい生命が生まれる「出産」。長い間妊婦生活をして、自分以外の命を育んできた妊婦さんが、無事に新しい命を世に送り出せる。どんな出産も命がけだからこそ、その喜びもひとしお……のはずです。
ところが、あろうことに私が初めてこの世に新しい命を世に送り出したとき、その心には、喜びよりも、自責の念が占めていました。 遅くに結婚をし、すぐに妊娠が発覚。それは待ちに待った出産のはずでした。 体力だけが自慢の私は、陣痛だってなんのその。そういう気持ちで臨月を迎えていました。 ……が、おなかの子が予定日2週間過ぎても世に出たくないという。つまり、陣痛が全く来ないのです。 不審に思った医師がレントゲンを撮ると、私の骨盤を通り抜けられない赤ちゃんの姿が。 頭がつっかえたまま、おなかの中で、赤ん坊は大きくなっていきます。 自然分娩を強く願っている私を医師や実母が辛抱強く説得し、結局、帝王切開で初めての赤ちゃんを出産することになりました。
無事に生まれてきた赤ちゃんは、可愛かった。 だけど、「自然分娩こそ、母親の最初の仕事」と頭でっかちになっていた私は(当時、世の中の風潮もそうでした)、赤ちゃんを無事に世に送り出せた安堵感や嬉しさよりも、自分自身を「母親失格」と思う気持ちが勝り、素直に出産を喜べない母親になってしまいました。
いま、子供も二人になり、あの時生まれた長男も、来年は小学生です。 育ててきた愛おしい時間を思えば、あの瞬間の「方法」など、さして気にもならないほどですが、あの時の筆者には、そうは思えなかったのです。 「素直に喜べない」。それは、周囲はもちろん、自身をも悲しい気持ちにさせる無意味な状況だったのだ…と、今なら思えます。 第2子出産のとき、切迫早産と診断され、5週間の入院を余儀なくされました。まだ幼稚園児だった第一子と離れる辛さ、夫に託す申し訳なさがありましたが、無事生まれてくると、その時はもはや、「再び帝王切開」だったことなどどうでもよくなっていました。
子供と生きる長い人生の中で、生まれた瞬間の、その手段にこだわり、いつまでも自責の念を抱えていることは、家族との幸福な時間を削ってしまっているものだと今は改めて思います。
「生まれてきてくれてありがとう」 そう素直に言えなかった筆者だからこそ、ヘッセの言葉が身に染みるのです。
「人生楽しんだもの勝ち」 私は若いときから、そんなふうに捉えていました。誰かが道を譲ってくれたとき。自分が誰か歩いている人に、道を譲れたとき。 仲間が成功したとき。大切な友が幸せになったとき。 雨だと思っていたのに、晴れ間が見えたとき。 自分の能力以上の仕事が回ってきたとき。それを期待どおり、あるいはそれ以上の結果で果たすことができたとき。 悔しかったとき。悔しい思いを味わわせてくれた機会を得られたと感じたとき。 だれかに笑顔を向けられたとき。誰かに笑顔を向けたくなる場面に出会えたとき。
どんなときも喜び、楽しめる人になれることは、数年前に生まれてきたわが子に、素直に「ありがとう」と言えなかったことに対する償いでもあり、そのときの自分を克服した証でもあります。
自分自身の人生が喜びに満ち溢れた人は、人をも幸せにします。
お日様が満面の笑顔で私たちを出迎えてくれる夏。その下で、朗らかに笑うひまわりたち。 たくさんの笑顔の子供たちが街で見受けられるこの季節。 毎日の生活の中で、喜びの瞬間がいつもよりも多く感じられますように。
いまを生きる私たちの使命は、生を楽しみ、感謝すること。 太陽に向かって、あらためて感じたいものです |
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