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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) キャリアアップ 2017-06-21
新しいあなたへ~新シリーズ「ココロの処方箋」~ヘッセの言葉③

今年もやってきました。梅雨の季節です。

ちょっと前まで夏の暑さが続いていたというのに、雨降りの日は仕舞い込んだニットを取り出す…。毎年毎年、季節は確実に巡り、学習能力のない人間たちを翻弄します。

そんな困り顔の人間を横目に、街中のあじさいは、「待ってました」とばかりに、青々として嬉しそうですね。

私の蒔いた種も、花を咲かせる時期を待っているようです。今年に入って、著者のエッセイ集『幸せの隠し味』(2013年刊)の感想を立て続けにいただく幸運に恵まれました。ずいぶん前に蒔いた種ですが、少しずつ読者の方の心に萌芽となって育ってきてくれているようで嬉しい限りです。

 

ひとりは50代の男性経営者。もう一人は、60代女性。

異なる環境のお二人の感想で、共通していると感じたのは、著者の生き方、考え方が「独特」「面白い」「人と違う」などと感じてくれたことです。これらの評価は、ともすれば批判的な意味にも使われますが、二人の読者には、好意的に受け止められたようです。

 

ヘッセは様々な言葉や作品の中で、この「独自の生き方」「考え方」ということに関して、強く読者に勧めています。その一つをご紹介します。

 

わたしたちは実は、物事を自分の意志で決めていない。

何が良いのか悪いのかを、自分で判断していない。

世間や他人のやり方を真似ているだけだ。だからどのように決めても迷いが残ったり、あとで後悔したりするのだ。

いっそのこと、一度は自分をすっぱりと裸にすべきなのだ。

どういう衝動が本当に自分の内から湧いてきているのか。

何が欲しいのか。

どんなことが不安なのか。

何が自分を苦しめているのか。

そういったことを明白にしてみるのだ。

そして、そのゼロの地点からスタートしよう。すると、本当の自分の価値観が生まれてくるし、何が自分にとっての善意なのか、とてもすっきりとわかりやすくなるからだ。

そして、誰の真似でもない自分のオリジナルな人生を始めるのだ。

(日記1921)

 

ヘッセのようなヨーロッパ人は、日本人と違って個性を主張し、独自の意見をしっかりと持って生きている。そういうイメージがありますね。しかし、ヘッセの文章を読むと、ヨーロッパの人も、少なからず「その他大勢」に影響を受けて生きているということがわかります。

もしかすると古今東西にかかわらず、これは人間の持つ共通した感覚なのかもしれません。

しかし、本当にそれで君は生き生きと暮らしているのだろうか。ヘッセはそう投げかけるのです。

筆者は、時々、いえ、もっとそれ以上の頻度で、「独特」とか、「個性的」「マイペース」などと言われることがあります。

それは、多くの人は筆者が留学と仕事で四年間をドイツで過ごしたからだと考えているようですが、じつは生まれつきです。もともと、人と同じことをすることに疑問を持つ子供。けっして、同じことをしたくないというのではありません。自分が納得しないのに、人と同じことをする、ということに同意できないということです。

例えば、ファッション。毎年、流行が変わります。

その「流行りの服」は、本当に自分に似合っているか? 本当に自分が着たい服なのか? 自分の性格や個性を表現するものなのか? と考えると、どうも着る気にならない…という服が多いのです。もし、自分のスタイルに合っているファッションが、その年の流行りに適合すれば、きっと筆者も「流行りのファッション」を身に付けることでしょう。

 

こうした事例は枚挙にいとまがありません。本当に美しいと思うモノか?周りが美しいというからそう見えるのか?周りの人はあの人のことを悪く言うけれど、本当に悪い人なのか?……。子供のころから「自分の目と心」で物事をとらえ直す癖がついているせいか、周囲の雑音に惑わされることもあまりありません。

その結果「マイペースな人」となるわけですが。

そして、たとえば、誰もがやりたがらなかった仕事を面白がって引き受けたり、誰もが恥ずかしくて声を掛けられない、荷物を持った高齢者の鞄を階段の下まで運ぶことに抵抗がなかったり。自分の信じたことをすることは、本当に気持ちが良いものです。

 

「断捨離」という言葉が流行っています。片付けの手法で、それそのものには少し違う思いを抱く筆者ですが、理念はよくわかります。

自分が本当に必要なものだけを残す。「ときめきの片付け」などもそうですね。自分がときめくモノだけを残す。

行動も同じです。人の判断ではなく、自分の判断で生きる。

ちょっとだけ、勇気がいります。責任を他者に押し付けられない生き方です。

でも、きっとすっきりさっぱりとしたあなたに生まれ変わるはずです。あなたが周りに無理に合わせようとしなくても、「素のあなた」を、本当に愛してくれる仲間だけが残ります。余計な心配はいらないのです。

「つき合い」が要らないと言っているのではありません。もし、あなたが「このつき合いは大事」と思えば、それはあなたの選んだこと。すべての生き方を、自分で選んだという自覚が大切なのです。

 

たった一つ、それを貫きながらも、穏やかに人と接するための秘訣があります。

それは、「自分の生き方や考え方を強要しないこと」。

それが法を犯したり、周囲の迷惑になっていない限りは、人それぞれの考え方や生き方を尊重することは、人間社会の中で生きていくにはとても重要です。

自分オリジナルの人生を歩いていれば、周囲の生き方に迎合する必要もないので、さして気にもなりません。

あなたはあなたの生き方で、悠然と道を歩けばいいのです。

いま、天から降り注ぐ雨は、あなたの「余計な煩わしさ」を洗い流してくれる「恵みの雨」。

そう思えば、この季節に降り注ぐ、太陽をふさいでしまう雨も、また違った印象を残してくれますね。


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