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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) キャリアアップ 2017-08-16
新しいあなたへ~新シリーズ「ココロの処方箋」ヘッセの言葉⑤~

暦の上では立秋を迎えましたが、まだまだ暑い日差しに覆われた日本列島です。

読者のみなさんは、夏バテなどされていないでしょうか。

初夏になると、わが家の庭ではむくげの花が咲き始めます。そして8月半ばにもなれば、その大輪の花はすっかり咲き終わり、庭に爽やかな影を落とす、大きな樹が暑さにも負けず、しゃんとして立っています。

 

去年の秋の台風で、わが家の庭に設置していたガゼボが倒壊しました。

その横でも、件のむくげは、凛として暴風雨に耐えています。

 

あるいは日本アルプスへの夏山登山のとき。岩場だらけで息が上がり、足取りも重い、疲れ果てた目線を下に下ろすと、儚げな可愛らしい小花が岩の隙間からしっかりと咲き誇っている…。

 

こんな光景を見たときに、自然界の力強さに、人間や人間が作ったモノの弱さに気づかされるのです。

自然と向き合ってきたヘッセも、周囲に惑わされない力強さを、自然界から学んでほしいと思っていたはずです。

 

太い幹を持ったような樹のようでありなさい。あるいはあの毅然とした山のようでありなさい。

あるいはまた、孤高の野獣のようでありなさい。

ときには、高みで瞬く星のようでいなさい。

世の中がどう動こうが、いつも自分自身である人でありなさい。

(「クラインとヴァーグナー」)

 

この現代社会には、あらゆるものが目まぐるしく動きます。

流行りの服、流行りのライフスタイル、テレビや新聞、週刊誌などでにぎわすゴシップネタや政治家の醜態、失態。遠くの有名人のネタは、良いことよりも、悪いことが好まれ、友人知人が発信したSNSの情報に一喜一憂。

それと自分を比較してねたんだり、羨んだり、他人の不幸を耳にして、ほっとする人もいるかもしれません。政治家が悪い、社会が悪いと声の大きな人たちがにぎわすメディアの世界では、まるでこの国が、この社会がとてつもなく悪い場所なのだと、そそのかしあっているかのようです。

じつは、こうしたことは、現代でなくても、日本でなくても、古今東西どの世界でも起きています。カエサル(シーサー)やアレクサンダー大王、クレオパトラが生きた古代ローマでも、人々の無責任な感情で、何人ものリーダーが殺されてきたのでしょう。

凛として存在する自然界の生き物から見たら、なんと滑稽でせわしなく、無責任極まりない生き物だと、人間を笑うかもしれません。

 

それでも、と敢えて筆者はこういう風潮に抵抗してみたいのです。

社会の出来事に無関心でいるというのではなく、どんな状況でも自分自身を見失わない人に。どんなにメディアが市民をだまそうと煽動しても、自分は自分の考えや生きる姿勢を持ち続けられる人に、と。

 

そして、戦時中を行き、迫害された経験を持つヘッセは、そのようにあるために、スイスの田舎で人生の後半を自然とともに生きることを選んだのでした。

 

もともと、筆者の実家は横浜市内でも緑多き片田舎。そして今も、鎌倉の、海の近くの長閑な街に住んでいます。どんな場所に住んでいても、「社会のざわざわ感」に洗脳されてしまうことは簡単ですが、せめて目に映る自然をお手本にして、心をリセットすることを忘れないよう心掛けたいと思います。

 

社会では、いろいろなことが起きています。報道されている情報は、人々のざわざわ感を刺激するものばかりが選ばれ、SNSの情報も、「伝えたいほど良いこと」が中心です。

そういったことを念頭に、世の中の動きからいつも一歩引いた目線で生きることは、自分自身を見失わないためにとても大切。

 

行き詰ったら、あるいは流されているな、社会の動きに右往左往しているなと思ったら、空を見上げてほしいのです。山が近くにあったなら、その山を見つめてほしいのです。

野に咲く花に、目を向けてほしいのです。

 

そうして、ヘッセのこの言葉を思い起こし、あなたがいつもあなたらしくあるために、深呼吸して自分自身を見つめなおしてみる。

他人の情報に動かされている自分という存在に、きっと気づくことでしょう。

ヘッセの言葉は、自分自身という軸を持つ人を、あるいは持とうという人の背中を力強く押してくれるのです。

 


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