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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) ライフスタイル 2015-02-18
凛とした強さが美しい「浅丘ルリ子」さんの言葉~新シリーズ『言葉のチカラ』~

女優・浅丘ルリ子。その名前からどんなイメージが思い浮かぶでしょうか。昭和の大女優。寅さんのヒロイン・・・。日活映画のモノクロ映像に登場する美貌の少女として鮮烈なデビューを果たしたのは1955年。あれから60年もの間、浅丘さんは「美」を象徴する存在として活躍しつづけています。

主演映画はなんと155本を越え、銀幕の大スター、小林昭や石原裕次郎などと共演、数々の賞を受賞するなど、大女優の名を恣(ほしいまま)にしてきました。

時代が変わろうとも、必要とされ続ける。

それでいて、時代に翻弄されることがない。

華奢な体躯、ガラスのような繊細な感性。その儚げなイメージとは裏腹に浅丘さんの生き方には凛とした強さを感じます。目まぐるしく変わるこの時代だからこそ、時代に流されず、自分を見失わない浅丘さんの言葉から、今を自分らしく生きるヒントが見えるかもしれません。

 

私一人では「浅丘ルリ子」にはなれませんでした。

たくさんの支え、そして人との出逢いは、人生のご褒美。

私には女優業しかできることがないから、

ひたすらに、正直にやり続けることこそ、感謝の在り方なの。

 

「美貌の大女優」と言えば、なんとなく高飛車な人を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。女優という才能と、生まれ持った美貌。二つを兼ね備えているから、きっと中身は(悪い意味で)凄いのだろう・・・。そう思ってしまうのは、無理もないかもしれません。

「天は二物を与えない」と言いますが、「天は二物も三物も与える」というのが、「大物」たちにインタビューしてきた私の感想です。

浅丘ルリ子さんも、例外なく「二物も三物も」美徳を持ち合わせた人です。先述したように、稀代の美少女として銀幕デビューを果たしたうら若き乙女は、その後60年という長きに渡って、第一線で活躍しつづけています。会社でさえ「30年1周期」というくらい移り変わりの早いこのご時世。一人の人間が、これだけの長きに渡り活躍し続けられるとは、驚きを隠せません。

 取材現場に入ったときの、緊迫した雰囲気。まさに「ピーン」という音が聞こえてきそうな張りつめた緊張感が漂っていました。その中央にいたのが浅丘ルリ子さん。しかし、緊張しているのは周囲だけで、浅丘さんはつねに周りへの気配りを忘れない素敵な女性でした。

「周囲のみなさんのおかげ」。取材中、何度も浅丘さんはこの言葉を口にしました。「自分にできることは女優だけ」という自信とも謙遜とも取れる発言は、実は、これまで出会ってきた周囲の人々へ、感謝をし続けるために必要な立場である「女優」業を、期待以上の結果を持って果たし続けるという、「決意」の言葉の現れでした。

 ゴージャスな美貌からは想像できませんが、大臣秘書官だった父を持つ浅丘さんは幼少のころ、戦後タイの強制収容所へ収容され、その後引揚者として帰国するなど貧困生活を送ってきました。父の再就職を機に生活は安定していきますが、彼女の精神的な強さは、人生の辛い時期を早くから経験してきたことが影響しているのかもしれません。そんな中で映画のヒロイン役に抜擢され、またたく間にスターダムを登りつめていきます。自分を見出してくれた多くの人の支えがあったからこそ今がある。そうしみじみと語る浅丘さん。女優業は彼らに恩返しをする唯一の手段なのだと信じているのです。

その女優業をどのような姿勢で取り組んでいるのか。浅丘さんは一言、「ただただ真面目に、これにつきます」と断言。華やかな芸能の世界に身を置きつづける浅丘さんにこう言われると、お気楽な市井人の筆者はお説教をくらってしまったようでドキッとします。

「人生においては正直であること、まっすぐで透明であることが好き」

大きな瞳を輝かせながら、浅丘さんは言います。しかし人が正直であり続けるためには、自己への厳しさはもちろん、ときには他者への厳しさをも厭わない姿勢が必要。正直に生きるというのは、じつはとても難しく覚悟のいる生き方です。

そんな浅丘さん。日活の後輩俳優たちには躾に厳しい「お姉さん」として有名だったそうです。さらに、私たち世代(から下も含む)への苦言も呈してくださいました。

「今の人は、もっと我慢を学んでくれたらいいのにと思います」

続けているからこそ、出会える人たちがいる。乗り越えたからこそ、見える景色がある。

浅丘さんは自身の生き方をもって、それを私たちに伝えてくれています。

 

うまくいかなかったとき、自分に原因があるのではないか。

そう自問自答し続けなければ、人は次へ進むことなどできません。

 

「ダイヤはダイヤでしか磨けない」。そう言われるように、時代の大物たちがこぞって浅丘さんの存在を必要としてきました。その期待をつねに「浅丘ルリ子」という冷静なもう一つの目で、役割を演じ切れているかどうか自問自答しながら60年間歩み続けてきたと言います。今まさに、時代は「強い女性」を必要としています。けれどもただただ男性的に強いというのでは、女性としてはちょっと寂しいですよね。

「大女優・浅丘ルリ子」はたしかに美貌の持ち主でした。けれども筆者の心に残ったのは、その外見的な美しさではなく、内面に宿る確固たる自分の生き方への自信と、周囲へ向ける思いやりの心、しかも、その思いやりは小手先の優しさではなく、真に相手を思えばこそ時には正論を持って相手を諭す・・・、たとえば子供の将来を思う母親のような、そんな深くまっすぐな愛情。その内面の美しさでした。

今日本には「きれいな女性」で溢れています。けれども、「凛とした美しさ」という形容詞がこれ以上似合う女性は、もうお目にかかれないかもしれません。

暖かさも厳しさもまっすぐな眼差しも。そのすべてがダイヤのように美しい人でした。


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