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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) ライフスタイル 2014-11-19
あなたが輝く、「幸せ」への道 ~ゲーテの幸せ講座~

11月も半ばを過ぎれば、初冬の風情が漂います。つるべおとしに陽が落ちるのも早くなり、なんだか物悲しささえ感じる人も多いと思います。

10月のハロウィン、12月のクリスマス、1月のお正月・・・と、イベントのある月と比べると、ちょっと季節のイベントに忘れられてしまったような気もしますよね。でも、そんな11月は、物事を考えたり、計画を練ったりすることに向いているとも言えます。

早いもので今回で「ゲーテの幸せ講座」は丸一年となりました。12回24つのゲーテの格言から、稀代の優等生ゲーテも悩み傷つきながらも、前向きに生きる努力を重ねた人だということが、聡明な読者のみなさんにはおわかりいただけたと思います。そう、その生き方が、本人だけでなく周囲の多くの人をも幸せにするということも。

今回で、「ゲーテの幸せ講座」は終了となります。みなさんの心には輝かしい修了証が輝いていることでしょう。連載最後の今回は、自分らしい人生を歩み続けるための究極の言葉をご紹介します。

 

はるかな世界と広い生活を、長い年々の誠実な努力で、たえず究め、たえず探り、完了することはないがしばしまとめ、

最も古いものをも忠実に保持し、快く新しいものをとらえ、心は朗らかに、目的は清く。それで一段と進歩する。

(「神と世界・序」より)

この言葉に説明はいらないかもしれません。これまでご紹介してきた数々の珠玉の言葉を振り返れば、この文章はそれらの集大成とも思えるでしょう。と同時に、なかなかこれを実現することは難しいですね。

広く長期的な視野が、いかに尊く貴重なものであるということを、私たちは今、痛いほど知らされています。現代に起きている様々な事件や事故。天変地異と言われているものでさえ、その多くは、浅はかな、そして短期的な視野で「人間の利益」のために引き起こされてきたものばかりです。いつの時代も愚者は短絡的であり、視野が狭く、賢者は広い視野と長期的なものの見方をすることができます。これは広く社会での問題ではなく、私たちの身近にもあることです。

子供をつい甘やかしてしまうことも、世間体や自分自身の都合でカッとなって怒ってしまうことも、どちらも子供の将来のために(長期的な視点で)行う行動ではありません。

仕事のできない部下の代わりに上司や先輩がさっさと片付けてしまうことも、できない部下を放置してしまうことも、結果だけを示して降格や減給させてしまうことも、どれも部下のため、あるいは会社や自分のためにもなりません。

わかってはいても、なかなか思い通りに自分の感情や行動を戒めることができない。それが人間という生きものです。でも、だからこそ、「遥か遠くを見つめる長期的な視野と、独りよがりにならない広い世界観を持つこと」を心にとどめておかなければならないのでしょう。

そして、とりわけ優秀な人に陥りがちなのが、「誠実な努力を続け、絶えず追求する心」を忘れ、いっときの成果を見て、「自分がデキル」と勘違いをしてしまうこと。ゲーテの言葉の「完了することはないが、しばしまとめ」というフレーズが秀逸です。仕事も精神も、磨くことに終わりはありません。今、私たちの目から見て輝かしいスポットライトにあたっている人たちは、この「終わりなき努力」を続け、けっして平坦ではなかった道のりを屈することなく歩み続けてきたのです。その歩みの途中に、つねに自分を客観視し、「何ができるか」「何ができていないか」「これからどんな自分を目指すべきか」と自問自答する冷静さも見失いません。

「今があるのは、前を歩いてきた諸先輩たちのおかげ。そして周囲のみなさんのおかげ」

取材で数多くの「その道のトップランナー」たちにお会いし、お話を伺ってきました。みなさん口を揃えたように、こう語ります。そして自分の中の可能性をいつまでも磨き続けようとするその姿勢こそが、彼らの「後光」の正体かもしれません。

人は、この地上に生まれてきてから命が果てるまで、「自分」を辞めることができません。その死の瞬間まで「ありたい姿」へ向けて歩み続けたいものです。この格言は、そんな私たちへの心構えを教えてくれているのかもしれませんね。

 

気持ち良い生活を作ろうと思ったら、

済んだことをくよくよせぬこと、

滅多なことに腹を立てないこと、

いつも現在を楽しむこと、

とりわけ人を憎まぬこと、

未来を神にまかせること。

(「警句的」より)

 

ゲーテの言葉の中で、もっとも好きな言葉です。

ネガティブなオーラに支配されそうになったとき、みなさんにもこの言葉をぜひ読んでいただきたい。そんな思いで、これまで最も引き合いに出してきた言葉です。ゲーテはとりわけ、過去の悲しみや後悔の念に執着することに警笛を鳴らしてきました。そこから生み出されるのはけっしてポジティブな未来ではありません。

滅多なことに腹をたてない。穏和だったゲーテらしい言葉です。恥ずかしながら、私も若い時は今以上に、小さなことで腹を立てていました。「ゴミが落ちている」「返事をしてくれなかった」「失礼なことをされたのに謝ってもらえなかった」・・・。自分ができていると思えばこそ、そういう怒りが感情を支配してしまい、相手にも同様の態度を求めるがばかりに腹立たしくなってくるのです。

ドイツで小さな店舗を再建していたときに、ほんの少しそこから成長することができました。あのとき、私はまだ23歳。ドイツ語も流暢ではなく、店舗経営の経験もない。そんな私ができることは、あの人にもできるはず。「年上だし」「ドイツ人だし」「長年店舗に勤めてきたんだし」・・・などなど。最初の一ヶ月、私は社員への不平不満だらけと言っていい状態でした。そんなとき、ちょうど一回り年上の社員が私に語りかけました。

「あなたは他の人と違う役割があるから、その立場にいる。相手ができないことで腹を立てるのではなく、相手ができることを見つけてあげなさい。逆に相手にできることが、あなたにできないこともある。役割がそれぞれ違うのだから、あなたができることは相手にできる必要はないでしょう?どうして相手ができないのかを考えることで、あなたはもっと成長できる」

立場的には従業員の一人だった彼女。でも心から慕い、頼りにしていた人。彼女の一言で、自分の傲慢さに気づくことができました。相手のできないことに腹を立てるばかりで、自分のできないことにも、相手のできることにも目を向けていなかった自分。腹を立てないという態度を選ぶと、怒らないというだけでなく、多くの気づきや感謝の念と出会うこともできるのです。

そういう「態度」で毎日を過ごせば、今よりもっと「今を楽しむ」ことができます。そして楽しんで今を生きることで、他者への恨みからも解放されるのです。今が充実している人は、過去の不幸も「あのときの苦しみ(を与えた人)があったからこそ、今がある」と思えるからです。少し変わった経歴のおかげで、さまざまな喜びと同時に、さまざまな試練を味わうこともありました。これまでの中で、もっとも長い間私を「人を憎む」感情に縛りつけていたのは、こんな出来事です。

ドイツに赴任したばかりのとき。日本人の先輩がセクハラまがいの態度を取ってきました。断固拒否する私への報復だったのでしょうか、社長秘書として渡独した私に、「社長がいないときは役に立たないから、トイレ掃除とシュレッダーだけをしろ」と命じてきました。社長は日本とドイツを行き来する生活だったので、数か月トイレ掃除とシュレッダーのみをさせられました。「楽しかった会社員生活を捨ててまで来たドイツで、なぜこんなことばっかり」と悔しさを通り越して、悲しみがこみ上げてきました。しかし、彼の報復はこれからが本番でした。別の街で店舗再建の話が出た時、社員の誰もが嫌がりました。そこでシュレッダーだけをしているよりは楽しそうだと手を挙げたのが私です。いろんな苦労もありましたが、半年で単独黒字を達成し、スタッフとの結束も固まりつつありました。私はセクハラ先輩から逃れた街で、これから輝くであろう自分の仕事人生を歩み始めていました。

その先輩がそんな私の功績を喜ぶわけがありません。彼は在独日本人会のメンバーにあらぬ噂を流します。日本から数年の任期で赴任してきた人たちに、その真偽などわからず、長年ドイツにいるその彼の言葉を信じそうになっていました。取引先のある日本人は、会食の席で泥酔し「お前は生意気なやつだ。どうせ女を使ってのし上がったんだろう。取引を続けてほしかったら、悔しくても俺の前でいつも笑ってみろ。そういうのは得意なんだろ」とののしりました。当時の私の「味方」である店舗のスタッフはほとんど日本人ではないし、日本人でもアルバイトだったため、その席にはいません。10歳以上歳の離れた取引先の男性に、23歳の私は胸ぐらをつかまれながら、その暴言を吐かれたのです。

幸いなことに、ほとんどの聡明な日本人会のみなさんはその噂話を信じることなく、後日心配のお電話をくださる方もいました。その取引先の上司は後日話を聞いて、謝罪もしてくれました。それでも、言われなきことで侮辱されるこの悔しさを、私は数年間忘れることができませんでした。噂を吹聴した先輩のことも、泥酔した取引先の心ない言葉も頭から離れず、怒りで夜も寝付けない。それは「打たれ強い」と自負していた私にとって、生まれて初めての経験でした。

ところがあるとき、「あの先輩が可哀相な人だった」と、懐かしむように思い出している自分に気づきました。たしかにあの時の数年、その先輩の名前を聞くだけで、体が熱くなるような怒りを抱いてきました。けれどもその後の充実した毎日のおかげで、自分でも気づかぬうちにその恨みから卒業することができていました。そして、「あの経験は貴重だったな」と感じることもあれば、同じような「言われなきことで苦しむ人」の気持ちも理解でき、そうせざるを得なかった先輩の心の闇のようなものも、なんとなくわかってきた気さえしたのです。あれはそんな自分になるための、成長への一歩だったのではないか、と。

ネガティブな感情や行動を慎みながら、今を楽しんで前向きに歩めば、そのあとは神のご加護があるはずだ。最後まで自分一人で闘うのではなく、最後は神に委ねるという、「力の抜き方」が、頑張りすぎるほど頑張ってきた人の心に、心地よく響きます。

何度も何度も愛や幸せ、身近なことの有り難さ、誠実であること、耐える力の重要性、真摯に向き合う心を解いてきた文豪ゲーテ。その珠玉の言葉たちの最後は、この私の座右の銘で締めくくりたい。書き始めた時からそんな構想がありました。たくさん頑張って生きてきたあなた。今も悩み、傷つきながらも前を向こうと努力しているあなた。そんな素敵なみなさんにこそ、「未来は神に任せる」。そんなゲーテからの小さなプレゼントを受け取ってほしいと思います。

これからも、あなたの毎日が、あなたらしく輝きますように。そしてあなたが、ますます自分のことを大好きになれますように。

全12回の「大人女子のための、ゲーテの幸せ講座」、いかがでしたか。なにか一つでも、みなさんの心にお気に入りの言葉が刻み込まれていたなら、こんなに嬉しいことはありません。最後までご覧頂いてありがとうございました。次回からは新連載がスタートします。お楽しみに!

 


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