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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) ライフスタイル 2014-07-16
「不機嫌」との付き合い方 ~ゲーテの幸せ講座~

夏になりました。私の地元では海開きや海の神事が終わり、あとは夏休みを待つのみ!

さて、今夏の湘南の海は、ひさしぶりに緩やかな時間が流れそうです。近年、相模湾一帯の海水浴場はマナーの低下が問題になっていました。公共の場であるはずの海水浴場。とくに「海のクラブ化」は、当事者にとっては楽しいお祭り騒ぎのつもりでも、ファミリーや穏やかに過ごしたい人たちにとっては、浜辺を「怖くて立ち入れない危ない場所」へ変えてしまいました。そしてこの夏、市民の笑顔を取り戻すべく、各自治体は「海のクラブ化」を規制する方向へ動きました。

さて、今回は世の中にある「不機嫌」とどう向き合うか、ゲーテと考えたいと思います。

 

自分自身にも、周囲の人にも害になる不機嫌は、

れっきとした罪悪です。

(『若きウェルテルの悩み』より)

幼少のころから、私は外交的でどんな人とも仲良くなれる自信がありました。基本的に、私は「人」が好きなのです。

しかし、そんな私でも、恥ずかしながら、なるべくなら顔をあわせたくない、という人がいます。ある場所で時々顔を合わす程度の人なのですが、こちらが笑顔で挨拶をしても、応えてくれることもなく、明らかに「ムスッ」としていて表情が怖い、つねに「不機嫌」な人なのです。そんな彼女が誰かと話している姿を一度も見たことがありません。きっと周囲の人も、私と同じように彼女を苦手意識をもって見ているのでしょう。

ウェルテルの言葉を見て、やはり不機嫌というのは、自分の負の感情を一方的に撒き散らす、周囲にとっての一種の迷惑行為と改めて気づかされます。なにより、当人にとって大きなマイナス。「あの人はいつも不機嫌」と周囲から思われ、できることなら関わりたくないと思う人は多いはず。不機嫌な人には楽しい話も、幸せの雰囲気も近寄らなくなってしまうでしょう。

先日、仕事で、昨年80歳にしてエベレスト登頂を果たしたプロスキーヤーの三浦雄一郎さんのお話を伺う機会がありました。三浦さんは若いころ、エベレストなど遠方での冒険にお金が掛かるので、当時の資産家たちに多大なる支援金をいただいたと話していました。それもソニーの盛田氏、サントリーの佐治氏、パナソニックの松下氏などの大物ばかり。「彼らの共通点は何ですか」と訊ねると、「いつも上機嫌で明るく、愉快な人たちでした」とのお答え。日本の産業界の歴史に残る大事業を成し遂げるほどの大物は、いつも上機嫌。なんだか納得する話です。考えてみれば、不機嫌というのは不幸せと繋がりやすいですし、機嫌が良いのは幸福感に繋がりやすいですよね。「いつも不機嫌だけど幸せな人」も「いつも上機嫌だけど、自分を不幸だと思っている人」も、世の中には見当たりません。

「自分の不機嫌」がもたげてきたら、まずはウェルテル(ゲーテ)が「罪悪」とまで言い切る「不機嫌」は、「不幸のはじまり」ということをしっかり頭に焼き付けて、上機嫌な自分を保つ努力をしたいものです。

フランスの哲学者アランは、「上機嫌こそ、他者への最大の贈り物である」(『幸福論』)と言っています。そして、不愉快なことや不満を意図的に上機嫌で物事に対処する「上機嫌療法」を提唱しました。

「手は手でなければ洗えない。得ようと思ったら、まずは与えよ」(「警句的」より)とゲーテも言うように、周囲を変えようとするまえに、まずは自分が与える、つまり自分が「いつもご機嫌な私」でいることが先決です。そして、アランに倣ってこれを愉快なときだけでなく、いかに「つねに意図的に」できるかが大切なのですね。

他者に対してはなかなかできないことでも、自分自身になら、ほんの少しの切り替えでそれができるはずです。私も、プライベートな「不愉快」は、外での「笑いのネタ」にして、たくさんの友人たちに笑いを提供しています。そうすると、その不愉快な出来事さえも、別の場所では楽しい時間を作る幸福の種であったことに気づきます。

私には他にも、どうしても自分の不機嫌が直らないときの対処法があります。それはなるべく感情的にならないようにしつつも「私は不機嫌です」と相手に伝えること。家族などの特定の相手にしかできない方法ですが、むやみに不機嫌を撒き散らすよりも前向きな対応策が見つかります。スタンダール『赤と黒』にも、善良なピラール神父が「私は不機嫌になりやすいたちだから・・・」と話す場面があります。なるほど。議論などの場面ではお互いの神経を逆なでしないように、前置きをしておくのも手かもしれません。

面と向かってそう言えない相手に対する「不機嫌」は、文章にひたすら書き出します。しばらくすると、その「文章」がカタチとして残るのが自分をネガティブな世界に引き込むように思え、書いた文章を消したくなります。そして思い切ってその文章を削除すると・・・。あら不思議。抱いていた「不機嫌」も一緒に無くなってしまうのです。

具体的な対処法は人さまざまだと思いますが、ぜひ試してみてくださいね。

不機嫌は、あなたも周囲も不幸へのループに巻き込む罪悪なら、逆にあなたの上機嫌は、幸せの贈り物。今日もたくさんの「ご機嫌」を、周囲に振りまいてくださいね。

素敵なあなたには、やはり「上機嫌」がお似合いですよ。

 

自分を他の立場におけば、

われわれがしばしば他の人に対して感ずる嫉妬や憎悪はなくなるだろう。

他の人を自分の立場においたら、

高慢や独りよがりは大いに減ずるだろう。

(「格言と反省」より)

多くの人が、子供のころから「相手の立場になりなさい」という親からの言葉を聞いて育ったのではないでしょうか。世の中にある「不機嫌」の感情・・・、ゲーテの言うこの「嫉妬」「憎悪」「高慢」「独りよがり」が自分の感情から少しでも減らせるとしたら、どんなにいいことでしょう。

このような負の感情は、自分自身が一番嫌であるはず。だからこそ、改めてゲーテのこの言葉を考えてみたいと思います。

たとえば、「私」が資産家の家に嫁いだAさんに嫉妬していたとします。「私よりも容姿が美しくないのに、憎たらしい」という憎悪の感情もあるかもしれません。でも・・・、冷静にAさんの置かれている状況を観察してみると、実は資産家ならではの「嫁としての縛り」があることに気づきます。夫の周囲には、美味しいご飯や高いプレゼントを目的に若い女性がたくさん集まっているかもしれません。「私」にとっては我慢ならない状況。それでも夫を愛しているAさんだからこそ、成り立つ「幸せのカタチ」なんだと思えば、やみくもにAさんに嫉妬することも、憎いという感情もなくなるでしょう。

一方、「私」はキャリアウーマンで、専業主婦のBさんに対して、「何のキャリアもないのに」と高慢な態度を取っていたとします。しかし、子育てと家事に明け暮れる専業主婦毎日の内情を、「私」がきちんと感じ取れていたら、どうなるでしょう。

何をするにも、子供と夫が最優先で、Bさんは自分の時間を作ることがほとんどできません。子供が小さければ、お気に入りの本を読む時間さえ、取れない毎日。しかも日々掃除、洗濯、食事の支度という「仕事」は、家族からは当たり前と思われ、感謝されることすら稀です。少し空いた時間で仕事を探そうとすると、独身のころのキャリアとはまったくかけ離れた仕事しかありません。それでも、Bさんは家族の笑顔が見たくて、自分のキャリアも、自由な時間も犠牲にすることを厭いません。Bさんがそれでも笑顔で日々を送っていたなら、Bさんも、立場は違えどさまざまな理不尽や問題に向き合う「私」と同じ状況だとわかるでしょう。そしてBさんへの感情は「高慢」ではなくて、「共感」に変わるかもしれません。

こんなふうに、相手の立場を表面だけでなく、深く深く慮ってみれば、それぞれが比べることのできない苦労もあり、それぞれに大きな幸福感があり、どんなひとも「精一杯」生きていることがわかるでしょう。

元々、日本人は相手の気持ちを忖度することを重んじてきました。けれども「自分で精一杯」のこのご時勢、相手の気持ちまでは気遣うことが難しくなってきています。そもそも、目に見えない気持ちを慮るというのは、誰しも難しいものです。

だからこそ、見えない「気持ち」を考えようとする前に、想像がつきやすい「状況」を考えて相手を見ましょうと、ゲーテは言うのです。

うるさいと思っていた子供の泣き声も、自分が困り果てたお母さんの立場だったら、あるいは、自分も赤ちゃんのころ、あんなふうにたくさん泣いて育ってきたと思いを馳せることができたら・・・。ある人はその声が気にならなくなり、ある人は、一緒にあやしてあげることができるかもしれません。あるいは「大変ですね」とお母さんに一声掛けるだけで、子育てママは、どんなに救われる思いがすることでしょう。

素敵な人は、いつも心にゆとりがあります。いつも輝いているおとな女子こそ、逆の立場だったらなと、一呼吸置いて考える「想像力」を養いたいものです。

上機嫌も、想像力も、自分次第で手に入る人生の宝物。あなたの心に、たくさんの宝物を増やしてくださいね。


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