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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) ライフスタイル 2014-06-18
恋に傷つき、愛を見失いそうになったら ~ゲーテの幸せ講座~

六月、梅雨の季節の到来です。じめじめした気候のせいでイライラしたり、緊張感が解けた職場で鬱々としたり。最近では「六月病」なんていう言葉もあるのだとか。

一方、六月と言えば「ジューンブライド」の季節。花嫁さんを見ると幸せのおすそわけをいただいたようで、ちょっと得した気分です。

いくつになっても、女子にとっては恋や愛についての悩みはつきもの。幸せな花嫁さんになりたくても、相手がいない・・という悩みもあれば、かつては幸せな花嫁だったのに、今の生活に愛が足りない・・なんていう悩みもあるかもしれません。

今回は、恋の悩み多きゲーテの恋愛講座です。

もはや愛しもせねば、迷いもせぬ者は
埋葬してもらうがいい。

(「警句的」より)

大好きな彼に振られてしまったり、別の事情で好きな気持ちがあるのに恋人と別れてしまったり。懸命に生きてきた女子にこそ、たくさんそんな経験をしてきたことと思います。恋愛の終わりって、振る方も、振られる方も、痛みが伴いますよね。

私も若かりし頃、「この人と別れたら、一人の時間をどうやって過ごせばいいのだろう」と考える自分がいて、街で仲睦まじいカップルを見かけると、最初は「私はもっと素敵な恋人見つけるもん!」と見栄を張ってみても、次第に「もう二度と恋人はできないかも」なんて弱気になる・・。そんな繰り返しでした。しまいには、「こんな恋愛ごときでウジウジしているのって、カッコ悪い!」と、外面ではクールな「恋愛しなくても平気なワタシ」を演出してみたり。

この言葉に出会い、失恋や次の恋人を恋い焦がれる気持ちって、カッコ悪いことではないんだ!と「恋に悩むこと」を前向きに考えさせてくれました。

ゲーテは82歳という長寿を全うするまでの間に、胸を焦がすような恋をたくさん経験しました。その中でも、25歳のときに発表し、世界的ベストセラーになった超恋愛小説『若きウェルテルの悩み』は、自らの激しい恋の顛末をベースに執筆しました。親友と、親友の婚約者との三角関係に陥った前途有望な主人公ウェルテルは、最後には拳銃自殺という衝撃的な結末を選びます。ウェルテルは親友の婚約者ロッテを思うあまり、彼女の言動ひとつで精神的にも不安定になってしまうのです。

後年、ゲーテは「『若きウェルテルの悩み』が、自分のために書かれたと思わない人は、不幸である」とさえ、言いきっています。それは愛に悩み、迷いながら生きることこそが、人間らしい人生なのだという信念があるからです。

恋の悩みも、愛の存在意義についても悩んだことのない人間は、生きる価値がない。そう断言するゲーテの言葉に、「私も生きる価値があった」と妙な安堵感を覚えたことを、記憶しています。

結婚して年齢を重ねても、「愛」についての悩みはつきものです。でも、家庭があるからこそ抱ける悩みだと思えば、それも一つの幸せのかけらだと思いませんか。

悩みがあるということは、生きているということ。愛に傷ついたということは、あなたの心が愛情深いということ。

そしてもし、「相手がいない」と悩んだら、まずはあなたが自分に恋するような女性になってください。「夫との生活に愛情が感じられない」と悩んだら、まずはあなたが夫に愛情表現をしてください。愛を求めてもがくことは、けっして恥ずかしいことではありません。

だって、それが「生きている」ということなのですから。

いつも同じ花ばかりなので、
花より他の何かをお送りすることができたら、と思います。
しかし、それは愛についてと同じことで、
愛もまた、単調なものです。
(シュタイン夫人への手紙より)

これは、ゲーテが10年もの長きに渡り交際していたシュタイン夫人への手紙です。交際、と言っても、肉体関係のない、いわゆるプラトニック・ラブ。ゲーテはシュタイン夫人との交際について、後年「魂の結婚生活」と呼びました。ゲーテは貴族の称号を持つ、若き高級官僚。しかもイケメンで作家としても有名人。とくれば、当然ながらプレイボーイと想像がつきますが、そんなゲーテが交際した多くの女性の中でも、唯一長い間、手紙や会話でその愛情を育んだ相手です。「前世は妻か姉だった」と告白するほどゲーテは美貌のシュタイン夫人へご執心でしたが、七つ年上の彼女は、分別をもってゲーテと付き合いました。

「恋愛と情熱は消え去ることがあっても、好意は永遠に勝利を告げるだろう」

ゲーテはこんな言葉も残しています。情熱的な恋は人が生きていく上の刺激、醍醐味となりますが、その愛情を抱き続けると、生活の中には「平穏」。つまり「単調」という状態が訪れます。長い恋愛や結婚生活は、まさにそんな「単調な日々」です。

しかし、それは「愛」がベースにあるからこそだと、ゲーテはシュタイン夫人に伝えます。

恋に落ち、愛を誓い合って結ばれた夫婦も、いつまでも情熱的な生活を送れるわけではありません。二人の間に穏やかな空気が流れだしたら、それは「恋」から「愛」に変わった証なのかもしれませんね。

しかし、人間というのは欲張りで、ないものねだりの動物です。

恋に焦がれていたころは、早く穏やかな「愛」が欲しいと願う。穏やかな生活に慣れてきたら、若い時の刺激的な「恋」をまた体験したいと欲する。フェイスブックやブログで見る友人の華やかな交友関係に憧れ、自分の生活がつまらなく思えてくる。逆に、穏やかな友人家族の日常をブログで見て、自分も早く穏やかな家庭が欲しいのに、と嫉妬する。

人は少なからず、何か、誰かとの比較をして羨んだり妬んだりすることがあります。

だからこそゲーテは何度も説くのです。単調であること、身近であることの大切さを。

情熱と、平穏。ゲーテの長い人生の中で、ともに必要な愛の形でした。

親兄弟と言った家族愛、友人愛も含め、さまざまな愛の形があって、恋の喜びと悲しみがあって、あなたがいます。そして・・・。愛を語ることはけっして軽薄なことでも、恥ずかしいことでもありません。

ダイヤはダイヤでしか磨けないのと同じように、「愛」の経験は、様々な形の愛、様々な結末の恋によって、どんどん美しく磨かれ、さらに愛情深いあなたを生みだします。

悲恋も、単調な結婚生活も、もちろん幸せな愛の形も。語るべき愛の悩みがあるあなたの心には、「人を愛する心」という、かけがえのない原石が埋まっているのです。




 


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