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賀陽 輝代 ライフスタイルコーディネーター ワールド・チルドレンズ・ファンド・ジャパン
人生は泣いても笑っても一度きり。 たった一度だからこそ、自由に、楽しく、かつエレガントに、自分の人生をクリエイトされてはどうでしょうか。
Try anything, but once. ライフスタイル 2014-03-15
「思い出」は人生のエッセンス

私の最初の一人旅は15歳の高校進学の時、父の仕事の関係で中学卒業の半年程前に兵庫県西宮に転居し、高校進学のお祝いとして東京の友達に逢いに行く大阪―東京間、新幹線「こだま」の旅であった。プラットホームで心配そうに手を振って見送る両親を尻目に、初めての冒険に心ウキウキして乗った数時間の電車の旅は今でも鮮明に私の記憶の中に残っている。一歩大人になったような、何とも言えない誇らしげな気持ちであった。

 

あの最初の一人旅以来、仕事の旅、友人との旅、家族旅行と様々な旅を経験し、沢山の「思い出」という、無形ではあるが、煌やく財産を心の中に蓄えてきた。

 

私の個人的な性癖によるものか、仕事の旅を除いてはスケジュールも滞在ホテルも総てが用意周到に準備された旅が私は苦手である。海外旅行の場合は行きと帰りの交通機関と最初の1~2泊のホテルさえ確保できれば、その後の日程は足の向くまま気の向くまま、というのが私の旅の大体のパターン。通常の観光ルートにはない掘り出し物の名所名跡や、現地の人たちとの日常レベルでの交流など意外性に溢れた発見で楽しさも百倍というものである。

 

今までの旅の中で一番心に残る旅は、7年前にこの世を去った亡き夫と、当時13歳の娘とニューヨーク経由で彼の故郷「イギリス」を訪れた約1ヶ月に渡る家族旅行である。

 

難病で医者から限りある命の宣告を受けた彼にとってはまさに最後に家族旅行、多くを語りはしないが、彼にとっては様々な想いを抱いての旅であったろうと思う。勿論まだ13歳の娘はこの深刻な事実など知る由もなく、恐らくちょっと体力が弱り始めた父親との旅行くらいにしか感じていなかったに違いない。

 

旅の何日目かに汽車でスコットランドまで足を延ばし、エジンバラ城を訪れた歳、「この次又来た時にこのコインが見つかりますように・・・」と古い石畳の階段にできた所々の小さな穴にコインを隠しながら愛娘に語りかけ、手を繋いで階段を上る二人の姿はまるで映画の一シーンのように今でも私の心に深く焼きついている。娘はいつか又父親と戻る日を思いながら・・・、そして彼は二度と戻る機会は無いだろうと思いながら・・・。

 

その旅から5年後、娘の18歳の誕生日の1週間前に彼はこの世を去る。

 

 

そしてその半年後、生前の彼の望みで遺骨の一部をイギリスの海に散骨する為、最後の家族旅行と同じルートで、サンフランシスコ、ニューヨーク経由で娘と「彼の魂」と共に「イギリス」まで先回とは異なった形での家族3人の旅をする事になる。

 

思い出のスコットランドの街に着くや否や、当然の事のように彼女かかつて父親と一緒に歩いた石畳の階段を「コイン」を探して登り始める。夜9時過ぎとは言え、北のスコットランドは夏のため白夜でまだ薄暮の状態、オレンジ色の夕焼けを背にして目に一杯涙を浮かべながら階段を駆け下りてきた多感な18歳の娘の姿が今でも瞼の裏に浮かぶ。誰か不届き千万な輩が二人の大事な「コイン」を奪って行ったと涙ながらに訴える彼女に、「パパが本当に残して行きたかったのは『コイン』ではなくて、コインを通して必ずやあなたの心に一生残るであろう『思い出』なのではないの?」という問いかけに、涙ながらに納得したようにうなずいた姿がいじらしくてならなかった。

 

その後、イギリス南部のブライトンという街まで更に旅を続け、ユネスコ世界遺跡にもなっているセブンシスターズ・クリフを見渡す事のできる小高い岸壁から散骨し、生前の彼との約束を果たす。満天の星の下、娘と二人で散骨の儀式を終え、なだらかな丘を下りながらふと海の方向に目をやると、海面に「スー」と一筋の流星が糸を引くように流れ落ちていくのが見え、私達2人にはそれが天の彼からの「お礼」のメッセージのように感じられた。

 

それまでは自分の心を見つめる暇も無いほど仕事で忙しい日々に追われ、限りなく唯物論者的な生き方をしてきた私ではあったが、長年連れ添った身近な伴侶を亡くした当時の私は、彼の死を通して見えない世界の真実と言うものに心を開き始め、既にこの世で姿の見えない彼とただひたすら「第六感」で会話しようとしていたような気がする。

 

昨年の7回忌には又娘と二人で思い出のセブンシスターズ・クリフを訪れ、そこから沢山の季節の花を彼に贈った。

 

恐らくこのノスタルジックな旅は、事ある毎に娘からその子供達へと語り継がれ、そのようにして生き残っている私達の「思い出」の中で彼は生き続けるのであろう。

 

伝説とは多分そうした世代から世代へと語り継がれる、身近でささやかな物語から生まれて来るのかも知れない。

 

「思い出」は頭と心に残る、異次元の世界へと広がりを持つ無形の財産・・・。過去には決して戻る事の出来ない、三次元のこの世の現実の中でタイム・トリップというからくりを楽しむには、有り余る程の忘れがたい思い出に囲まれた豊かな精神世界を築き、時として必要なときに「思い出」の玉手箱を紐解き、それぞれの「思い」の中でその過去に戻る事だと思う。

 

今年の夏は日本の猛暑を逃れるかのように冬の国「オーストラリア」へ娘と二人、約2週間の旅をしてきた。「ブルーマウンテン」を訪れ、地球上に生命が誕生する以前から何十億年という天文学的な年月をかけて出来上がった雄大な鍾乳洞遺跡を目にした時、「自分」という存在のはかなさを実感し、心が洗われる思いがした。日々の悩みも不満も何もかも、この悠久の年月の流れに比べれば涙の一かけらにもならないほど、ちっぽけなものなんだ・・・。自然に触れる度にいつも実感する事ではあるのだが、改めてその思いを強く抱く。

 

私が実感している「有る」と思っているものは今はこの瞬間だけ。「過去」は既に手中にはなく、「未来」も自然(神)の手に委ねられている。改めて、自分という存在は「今」という時間の中で、精一杯の生き方をするより他には何もできないものらしい、と実感する。

 

時間に追われず、形にとらわれる事なく、独創性に富んだ自分のシナリオで描く自分だけの旅・・・。沢山のお金を使ってブランド物を買い漁る旅からはそろそろ卒業して、自分の心を見つめる内なる旅をしてみよう。きっと思いもかけない感動が沢山あって、感性を磨くという事はそういう事だと思うよ。

 

さあ思い立ったが吉日、地図もスケジュール表も持たない心の冒険の旅に出かけてみませんか?


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