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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) ライフスタイル 2014-03-19
卒業の季節に、心に留めたい言葉 ~ゲーテの幸せ講座~

三月。三寒四温を繰り返し、本格的な春はそろそろやってきます。

街では、まだ冷たい空気の中、着慣れないジャケット姿に身を包んだ子供たちや、凛とした美しさと初々しさが共存する袴姿の女学生の姿を見かけます。

卒業の季節。社会人のあなたは、何から卒業したいですか?

 

寛大になるには、年を取りさえすればよい。

どんなあやまちを見ても、自分の犯しかねなかったものばかりだ。

(警句的)

三月にもなると、昨春に入社した新人も、新任の仕事も一年が経ち、だんだんと慣れてくるころです。仕事に慣れてくるともたげてくるのが、「自分だったらこうするのに」という、若手への苛立ち。ベテランになると、「最近の新人は」などという言葉も出てくるかもしれません。

目を離すとすぐに怠けるサボり癖のある社員もいれば、何度言っても、こちらが思うような服装で通勤してくれない個性的な新人。有能なだけに、言い訳や屁理屈の上手な人。

実は私も、部下を持ち始めたときに、そんな感情を抱いたことがあります。そんなとき、自分の抱いたその感情が、未熟なものだったと教えてくれたのがこの格言です。

もちろん、すべての部下が、品行方正だったら、上司はさぞ楽なことでしょう。でも、ふと自分の新人のころを思い返すと、自分もやんちゃな新人時代を過ごしたことを思い出します。

新卒で航空会社の関連会社に入社した私は、実は採用説明会までその会社のことを知りませんでした。当時は3大エアライン(JAL、ANA、JAS)の時代。その一つを知らないというのは、あまりに世間を知らなさすぎますが、そんなことはすっかり忘れて、就職活動について雑談している大学生の会話が耳に入ると、そんなことも知らないで就職活動してるのかしら?などと思ってしまうこともありました。

会社では、事務系総合職として配属され、服装も自由。とはいえ、ノースリーブは禁止など、多少の規則はありました。私は「規則さえ守っていればいいじゃん」とばかりに超ミニスカートを履いていって上司に注意されることもしばしば。有給休暇が発生しないのに、海外旅行のチケットを取ってしまい、上司があとで隠密に処理してくれたこともありました。

社会人経験を積んでからも、「プランナーには現場が第一」と、もっともらしいことを言っては勤務中に映画を観に行ったり、のんびりカフェで寛いだり。

でも、そのときに必ず一人は理解ある上司がいました。そのやんちゃぶりには目を瞑り、仕事をしっかり評価してくれ、いろんな仕事に挑戦させてくれた上司たち。

いろんな会社で、その時々の上司が温かいまなざしを向けてくれたおかげで、私は23歳でドイツの店舗再建責任者になったり、27歳で年商30億円と小さいながらも取締役に抜擢されたりしました。そして、上司だけでなく、このやんちゃな私を上司として見てくれた年上の部下たち。彼らがいなければ、今の私はいないといって過言ではありません。

もちろん、社会人たるもの、最低限のルールは守らなければなりません。けれども行き過ぎた規則で部下や後輩の個性をつぶすことになっていないか、能力ある彼らのやる気をそぎ、離職に追い込むリスクはないのか、一人でも部下ができたのなら、そう思う心のゆとりも大切です。

人々に憩いの場を提供する大きな樹の下には、豊かな土壌の中でおおらかにその根が広がっています。けれどもコンクリートでその根の広がりを防いでしまうと、樹は大きくなりません。

人も同じこと。

規則でがんじがらめにしたり、自分の理論だけで部下を図るのは、もしかしたら自分自身の能力に自信がない証かもしれません。けれどもそんな心配は無用です。部下や後輩が有能だということは、あなた自身が優れた上司や先輩だからです。恐れることなく若い人を認めてあげる大人になりましょう。

私もまだまだ「年寄り」という世代ではありません。これからも自己成長へ精進し続けるとともに、自分よりも若い人たちが大きな樹となるような根を張らせることができるよう、温かいまなざしを持ち続けたいと思います。

 

忘恩はつねに一種の弱点である。

有能な人で忘恩だったというのを、私はまだ見たことがない。

(格言と反省)

日本的に言えば、「実るほど、頭を垂れる稲穂かな」となるのでしょうか。

自分がある程度の地位に上ってしまうと、とたんに横柄な態度になる人がいます。そのとき、「自分はエライ」と思っているのは、実は当の本人だけだと、多くの人は知っています。

それでも、そういう人が絶えない。私も含めて、人間と言うのはなんと未熟な生き物でしょう。

ここで言う有能とは、もちろん仕事の出来不出来という問題だけではありません。人間的に優れている人は、必ず感謝の念を忘れない人であるとゲーテは言います。

人間は、生まれてから死ぬまで、自分ひとりの努力で生きてきたという人は一人もいません。極端なことを言えば、先祖の誰が欠けても、生まれることがなかった存在、それが「あなた」です。

子供のころは親の力を借りて、友だちとの友情で励まされ、大人になって恋をしたり、傷ついたり、愛し愛されたり。仕事をすれば、採用してくれた会社があって、仕事を教えてくれる上司がいて、ともに戦いともに励ましあった同僚がいて、たくさんの学びをくれる部下ができる。

家族ができれば、命の尊さを子供から教わり、支え合う伴侶の存在の大きさが身にしみて、親の有り難さをあらためて知る。

目を外に向ければ、そこにはきれいな空気があって、食べ物に事欠くことなくあり、自然の息吹に癒される。見上げれば、気持ちが清々しくなる青空が広がっている。

世の中を見渡せば、こんなにも感謝の対象があるのです。そこに気づき、いつも受けた恩を忘れない人こそ、ゲーテは有能な人だ評します。

たとえば、年齢が若い人にも、いつも横柄になることなく対応してくれる人。

たとえば、他人がしてくれた親切に、きちんと目を見て「ありがとう」と言える人。

公園の花を見ては、管理してくれる人に感謝をし、街にゴミがあれば掃除をしてくれる人に思いを馳せて、けっして路上にゴミは捨てない。そして今度はゴミを拾う人になろうと考える。

難しいことではない日々のこんな積み重ねが、本当はとっても難しい。それを知っているからこそ、地位も名誉も才能もあった当時の「超有名人」ゲーテが評価したのは、肩書きでもなく、財力の多さでもなく、感謝の気持ちをつねに忘れない心根を持つ人でした。

卒業の季節。もし、今まで「感謝が足りなかったな」と思うことがあったのなら、そんな自分に卒業したいものです。

これまでのご恩にしっかりと感謝をして、また新しい一歩を踏み出していきたいですね。


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