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■ 東京ウーマンインタビュー


香港の未来に真の民主主義を目指して。周庭さんインタビュー vol.1

香港の未来に真の民主主義を目指して。
周庭さんインタビュー vol.1

2014年の雨傘運動で中心的な役割を担い「学民の女神」と呼ばれた、香港・民主派運動のカリスマ、周庭(アグネス・チョウ)さんに、2019年12月26日、香港・大埔にて話を伺った。

片岡:この大埔という地域は、私は不慣れでして、インタビューの場所まで決めて頂きすいません。ここはよく来るお店ですか?

周:今、香港では親中派による「ボイコット」が起こっています。「民主派=黄色」「親中派=青」というような言い方をしています。この店は「黄色」です。もちろん食べ物も美味しいですし、店員さんなどもデモ活動には好意的です。

片岡:周さん大学生でしたよね。大学には通えていますか?

周:はい。でも、今はもう大学は終わりました。今学期は全大学が休校です。

片岡:あぁ、そうでした。講義も全部なくなりましたね。今は3年生でしたっけ?

周:4年生です。

片岡:卒業は出来るのですか?

周:卒業はできます。いや、多分できますよ(笑)。もし私が卒業できなかったら、そのことがニュースとして取り上げられてしまいます。仮に「アグネス・チョウが大学を卒業できない」とニュースになったら、それはとても情けないです。だから頑張ります。(笑)

日本と香港との政治への関心の違い。きっかけはFacebook

片岡:好きなものを頼んでください。何を頼みますか?

周:私は抹茶が大好きなので、抹茶ロールを頼んでいいですか?頂きます。

片岡:クリスマスの間も活動を行い、12月24日は特に大変だったんですって?

周:はい。24日も昨日25日も大変でした。警察は市民に催涙弾やペッパースプレイを使いました。日本でしたら、クリスマスはみんなでお祝いしたり、ディナーやパーティーをしたりして楽しむと思います。香港人にとって、今年のクリスマスは全然楽しくなかったです。

片岡:周さん自身も催涙ガスとか?さすがにそんなことはないですか?

周:私が狙われるというよりも、警察は誰に対してでも暴力を使っています。子供やお年寄りにも、警察を批判するような記者や外国人なども。今では市民も自分たちを邪魔する存在なのです。

片岡:周さんは、今回のデモ活動を主催する団体のスポークスマン、PR担当なのですか?プレスの人たちからの取材を受けることが多いようですね?

周:PR担当というよりも、元々この運動には明確なリーダーや担当はありません。

片岡:確かにそう言われていますね。でも随分とデモは組織的に行われているように見えます。

周:私はこのデモ活動の主催者ではないですが、7年前からずっと香港の社会運動に参加してきました。

片岡:高校生から?

周:高校1年生からです。その時から何となく対メディアをすることが多いです。だから今年の運動から急にメディア担当になったわけではなく、7年前からずっとなのです。

片岡:このインタビューでは市民運動という表現でいいですか?学生運動?あるいは社会運動ですか?

周:私たちは社会運動と呼んでいます。もともとは学生運動でした。今も私はまだ卒業していないのですが、仲間たちはすでに卒業して社会人になったりしています。だからもう学生だけが参加しているのではなく、香港市民も大勢参加しているので、社会運動という表現が良いと思っています。

片岡:どうして高校生の時から社会運動に興味を持ったのですか?スポーツとかアートとか音楽とか、他にも高校生が興味を持つようなジャンルは色々とあるじゃないですか。

周:確かに日本ではあまり高校生の政治参加は一般的ではないですよね。日本で政治の話をすると「変な人」とか思われますよね。

片岡:確かに芸能人があまり政治の話をするとテレビに出られなくなります。(笑)

周:そう、ローラさんとかにもそういう問題がありましたね。(笑)日本と香港とは、その辺りの雰囲気が違います。香港は「一国二制度」という大きな政治問題を抱えています。この「二制度」の部分がどんどん消え、中国政府の香港へのコントロールが強まっています。こうした状況に敏感に反発した私たちのような若者が政治運動に参加することは、香港では特別なことではなくなってきています。

片岡:周さんは、高校一年生のときから、周囲の子たちよりも少し早く社会運動を日常的に行ってきたわけですね。

周:2012年の時点で、大学生の政治参加はごく普通でしたが、確かにまだ中学生や高校生が社会運動を主宰するというのは、今とは違って珍しかったと思います。

片岡:関心を持ったきっかけは何でしたか?

周:Facebookです。ある学生団体のページを見つけました。あの時、政府は「愛国教育」の導入に取り組もうとしていました。その学生団体は政府による導入に反対でした。

片岡:そういうのに関心を持つ子と、持たない子がいますけど。

周:私も元々は政治には興味がありませんでした。私はただ家で宿題をやったり、勉強したり、アニメを見たりと普通の学生でした。ところが、Facebookを見て私と同い年の人たちが、私と全然違うことをしていたので、びっくりしました。何故、自分と同い年の人たちがこんなに一生懸命に啓蒙活動など行っているのだろうと、自分で色々と調べてから自分も団体に参加するようになりました。

「雨傘運動の女神」と呼ばれて

2012年7月1日、国民教育反対を訴える周庭(右二)。著作権者:Iris Tong ライセンスパブリック・ドメイン

片岡:自分なりに「手ごたえ」のようなものは感じましたか? 

周:その直後に大きなニュースになるのですけど、2012年9月に、私たちは12万人の政府本部の占拠運動(オキュパイ・セントラル)を実施しました。あの頃は香港で10万人以上の市民が参加する占拠運動はとても珍しかったのです。愛国教育に対する反対運動に世間の注目が集まりました。その結果、政府は愛国教育を一旦導入しない決定を行いました。市民にはこういう力があるんだ。社会を変える力を私たちは持っているんだと実感しました。


2014年10月10日に金鐘に集まった抗議者
著作権者:Pasu Au YeungCC 継承 2.0 - Hong Kong
Umbrella Revolution #umbrellarevolution

片岡:2014年の雨傘運動に繋がっていくのですね。

周:そうですね。愛国教育への反対運動が一旦終わり、香港の根本的な問題は民主主義がしっかり根付いていないことだと強く感じました。官僚たちが民意を全く尊重しないということも経験しましたので、香港の政治制度という根本的な問題を変えなければ何も変わらないと思い、民主主義を求める運動、つまり「雨傘運動」へと繋がります。

片岡:周さんたちがまだ若い学生だったから、愛国教育を自分たちが押し付けられることに理不尽さを感じたのですか?それとも周さんより上の世代の人たちも愛国教育には大きな疑問を感じていたのですか?

周:愛国教育に反対していた人たちは学生だけではありません。学生たちの両親や、教育関係者たちなども関心が高く、教員組合などからの支持も得られました。

片岡:周さん自身がメディアから注目されたのは、この雨傘運動の頃からだったと思います。自分たちの活動が成功したという実感はありましたか?

周:手ごたえのようなものはなかったです。雨傘運動は実は全く成功していないのです。確かに国際社会からの注目を得られたという意味での一定の成果はありました。香港史上初めて、雨傘運動によって国際社会の人たちから香港の民主主義の問題に注目してもらえましたし、外国メディアも、沢山香港に取材に来ました。確かにそうなのですが、結局、香港政府は何も変わらなかった。私たちは政治システムを何一つ変えられませんでした。だから成功したとは言えません。運動が終わってから、みんなすごく…何だろう、ガッカリといいますか…。

片岡:「挫折感」ですか?失敗しちゃったっていう思い?

周:はい。失敗したという、すごく重い感覚がずっと心に残りました。「愛国教育」の導入というのは香港政府による政策の問題です。しかし、香港に民主主義が定着しているかどうか、普通選挙制度が存在するかどうか、これは香港政府のレベルではなく中国政府のレベルの問題となります。ですから、民主主義に関する問題は、ずっと根深く難しい問題だと誰もが分かっています。次はもっと強い運動をやらなきゃいけないという決意が私たちの中に芽生えました。

日本に民主主義はない

片岡:周さんにとっては、アメリカや日本やイギリスは、すでに民主主義が確立されているという理解で正しいですか?中国は全然ダメだけど、香港は今それがどうなるかの分岐点、そういう認識でいいですか?

周:日本は全く民主主義ではないと思います。

片岡:日本は民主主義ではない?

周:日本はちょっと…

片岡:何となく言いたいこと分かります。私の前では言いにくいですよね。(笑)

周:でも中国よりはいいです。(笑)民主主義なのか独裁国家なのかということだと思います。香港はもうどんどん独裁の方に進んでいっています。

片岡:では今までの香港は良かった?

周:少しも良くはなかったです。香港には植民地時代がありました。当時も民主主義はなかったのです。だから別に昔の香港が良かったとは思わないのですが、それでも香港人の自由は憲法で保障され尊重されていました。ところが、今そういう人権や自由の尊重がどんどん失われています。民主主義はますます遠い世界の話となってしまいました。確かに香港は法的には中国の一部なのですけれど、経済システムや政治制度が全く違います。だから一国二制度をとっています。それなのに一国二制度は次第に一国1.7制度、一国1.5制度と香港の制度の割合が減っていっています。

片岡:そのうち1になっちゃうという心配ですか?

周:今もう1.1くらいじゃないかと思っています。今の警察による暴力を見てもらえば分かって頂けます。人権と自由の尊重はすでに香港から消えてしまいました。

片岡:周さんたちは今、中国政府を意識して活動をしているのですか?それとも主に香港政府を対象としているのですか?

周:どっちというよりも、香港政府、中国政府そして香港警察はみんな同じシステムの中にあります。一番上が中国政府で、中国政府の下で香港政府があり、そして香港警察があります。みんな同じシステムなのです。香港政府は中国政府の命令を聞かないといけない存在です。香港政府にとって、香港人の意見よりも中国政府の意見が大事なのです。実際、香港警察は香港政府に直接コントロールされています。香港の政府官僚、行政長官も警察のトップも、北京に定期的に行って報告をしないといけません。政府だけではなく、あらゆる団体、あらゆる組織にこのシステムが出来上がりつつあります。このシステムを変えることはとても難しいのです。

理想の香港とは

片岡:周さんが思う理想の香港のシステムとはどういうものですか?一国二制度が二制度のまま2047年まで続いていくことですか?それから先は?

周:私にとって最も重要なのは、香港に本当の民主主義が根付くことです。この7年間、私が社会運動に参加してきて感じたのは、民主主義が確立されず、市民が政府をコントロールすることができないままだと、人身や思想の自由など基本的な人権の保障がなされません。本当の意味での法の支配も保障されなくなります。香港に民主主義のシステムが定着すること、これが一番大事なことだと思います。

片岡:周さんは、先日、選挙に関する裁判所で勝訴しました。あの判決はよくなかったのですか?

周:全く良くなかった。確かに私は勝利はしたのですが…

片岡:周さんが裁判で勝利したというニュースが大きく報道されていましたが。

周:あの判決は、政府が私の立候補の「資格を取り消したことが違法だった」と認める判決ではありません。政府が私の資格を取り消す際の「プロセスが正しくない」という判決でした。これは裁判長が言ったことなのですが、政府は政治的な理由で立候補の資格を取り消す権力を持っていることになります。プロセスさえ踏めば立候補を取り消せるという趣旨の判決でした。だから私にとっても全く良い判決ではありません。

片岡:でも周さんは次回の選挙に立候補しますよね?

周:今はまだ何も決まっていないのです。確かに来年は選挙があります。でも私が立候補を希望したとしても、多分、立候補はできないと思います。

片岡:立候補自体ができないという意味ですか?

周:前回のように立候補資格を取り消される可能性が高いです。だって、私は中国政府の方針に反する反対者ですから。

片岡:警察に捕まったくらいですしね

周:そう、中国政府にとっても香港政府にとっても、私は反対者なのです。反対者の立候補を認めるわけがありません。今回の判決の持つ意味はそういうことなのです。

日本の安保闘争とは違う

片岡:周さんなどが、選挙の結果、公職について、穏健的、合法的に民主化を進めていくというのは、このままだとどうやら難しい。今デモが次第に「過激」になっているように思えるのは、そういう背景があるということでしょうか?

周:香港人はこの20年間、穏健的な手段での民主主義の導入を求めてきました。例えば選挙の結果、多くの民主派が当選し議員となりました。合法的、平和的なデモを本当にたくさん行ってきました。毎年、毎年、何回も、何回も。政府はこうした平和的なデモには慣れきってしまって、市民からの要求には全く応えません。だから平和的、穏健的なデモは私にとって重要ですが、それだけで足りないと誰もが感じています。政府への圧力には全くならない。だから穏健的な手段だけでは足りないと香港人の多くは感じています。

片岡:周さんはすでに聞かれているかもしれないですけど、日本も随分昔になりますが、私が生まれた頃、あるいは生まれる前、今から50年、60年前に、学生運動が盛んな時期がありました。

周:安保闘争ですね。


内堀通りを埋め尽くして
日比谷公園から国会に向かうデモ隊(1960年6月15日)
著作権者:不明 朝日新聞社「アルバム戦後25年」より。
ライセンス:パブリック・ドメイン.

軒尼詩道を占拠するデモ参加者(2019年6月9日)
著作権者:Hf9631 - 投稿者自身による作品
CC BY-SA 4.0 June16protestTreefong15

片岡:はい。1960年と70年に日米安全保障条約に反対する大規模な学生デモがありました。女子学生が亡くなったりもしました。一時は学生以外にも、ずいぶんと幅広く反対運動は広がったのです。だけど、これは私の意見ですが、68年の新宿騒乱事件くらいが分かれ目となりました。放火や投石などの破壊行為が酷かったのと、団体内部の抗争が激しくなって、一般の人の気持ちが学生たちから離れてしまった。今、香港のデモが少しずつ過激になってきています。すでに参加者の「デモ疲れ」などありませんか?一般の社会人から学生への支援が、時間が経つにつれて、少し空気が変わってきているような、そんな感じはしませんか?

周:香港は全然ないです。多分ご存知だと思いますけれど、この前の区議会選挙の結果が示しています。

片岡:結果は圧勝でしたね。

周:そうです。だから一般の市民の方たちの支持が離れるということは全くないと思っています。逆に、政府側、警察側の暴力が半端なく増え、違法な暴力は日常となっています。だからこそ、デモ活動がさらに急進的になってしまったのです。根本的な原因は香港政府にあります。現在の民主制度が不公平なまま、警察が違法な暴力を市民に行使したことで、政府は民意を全く尊重していないと市民にはよく分かりました。だからあのような選挙結果になりました。日本の安保闘争の時とは全く違うと思います。

片岡:さっき日本はまだ民主主義がそんなに定着していないっておっしゃっていました。詳細について言いにくそうでしたが、それはどういうところに感じますか?改めて聞いてしまってもいいですか?

周:これは私の個人的な考えです。私は日本人ではないですし、日本で生活したこともないので、日本人の人たちは違う風に考えるかもしれません。でも、私にとって民主主義は、ただシステムが民主的なだけでは十分ではないと思います。「民主」というのは市民たちがこの街やこの国の運命といいますか、将来を決めることこそが、本当の民主主義だと思います。

確かに日本にはとても民主的な選挙システムがあります。ですが、市民は自分が持っている権利の大切さを十分には分かっていません。私が考える本当の民主主義は、市民たちが民主的なシステムの重要さをまず理解していること。そして選挙で投票するとか、政治に参加することの重要さや意義を理解していること。そういうことが重要だと思います。

片岡:周さんから見て、日本人はそういう風には見えない?

周:はい。足りないと言うか、まだまだ政治への関心が足りていないなと思います。

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