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■ 東京ウーマンインタビュー


日本の'未来のおもてなし'へ~日本のこころと文化、伝統を未来へ~三枝理枝子さんインタビュー

日本の'未来のおもてなし'へ
~日本のこころと文化、伝統を未来へ~
三枝理枝子さんインタビュー

今回の東京ウーマン「未来へ繋ぐ女性の生き方」は、プロフェッショナルコンサルティングファームでインバウンド・観光業界に力を入れているパッションジャパン(株)のCOO三枝理枝子さんです。
三枝さんは全日空に入社後、CAとして、国内線、国際線チーフパーサーをつとめ、皇室・総理・国賓を担当、新入客室乗務員訓練のインストラクターをつとめ"伝説のCA"とも言われていました。全国の自治体や企業に招かれた講演は、リピート率が高く、女性管理職向けの研修もされています。現在は、様々な企業のコンサルティングを手がけ、日本を代表する旅館、石川県の加賀屋の支援もされています。また、3月には「お客様の心をつかむサービスを効率的に(クロスメディアパブリッシング)」が出版されます。
訪日外国人は、2018年は3,119万人に、2020年には4,000万人を目指していると言われています(JNTOホームページより)。観光立国が声高に言われている中、今年開催のオリンピックパラリンピックの外国人の受け入れに向け、日本の'おもてなし'は世界に注目されています。
インタビューでは、現在のお仕事について、三枝さんがCAを志した原点のこと、CA時代の経験や、お仕事からホスピタリティにおけるニーズの変化、女性として、母として…。そして人を育てるという視点でのお話を伺いました。
インバウンド時代、海外人材の活用も

加藤:カスタマーサティスファクション(CS)コンサルタントという肩書きで、現在はパッションジャパンという会社でお仕事をされていますが、どんなことをされていますか。

三枝:「人と組織を元気にする」をモットーに活動していますが、今は特にサービス業が多く、ホテル・旅館等の「もっと品質をあげたい」「もっと売り上げを上げたい」「もっと生産性を上げていきたい」という会社さんに対して、「売り上げ」「コスト」「品質」の三本柱を上げて、収益を上げていくことへの支援をしています。同時に人材不足の面で、技能実習生ではなく、ある程度日本語が話せて日本に興味があり、日本で成長したい、学びたいという海外の方を、日本の企業にご紹介して活躍してもらうという仕事をしています。海外はこの3年くらい前からで、アジア諸国との提携もあり、人材をスクリーングしていて、現地で説明会を行なっています。観光業・調理飲食・介護の業界などです。今、どこでも人手不足で本当に困っているのです。

CAになるきっかけ、「茶道」との出会い

加藤:CA(キャビンアテンダント・以下CA)をされていましたが、何かきっかけのようなものはありましたか。

三枝:高校生の頃に習っていた茶道がきっかけです。
クラスメイトで隣に座っている女の子の姿勢が良く、見とれてしまうくらいでした。「この子みたいになりたい」と思ったのがきっかけです。

彼女に『なぜ姿勢がいいの?』と聞いたらお茶をしていると教えてくれました。お母様が茶道の師範ということで、お会いしに行きました。お母様は凛としていてとっても素敵な方で。初めてお会いに行った時も『習いたかったらいつでもおいで』と言われて、優しく、何かを押し付ける人ではなかったですね。

加藤:こうした出会いがあったのですね。

三枝:はい、高校生の私に対しても礼節をもってきちんと接していただけたのです。この方に魅せられ、この方だから通いたいとも思いました。茶道には型がありますが、最初は「なんでこんなことを?」ということも多々あるのです。が、だんだんと無駄なことがひとつもない、茶道の世界に魅せられました。例えば物を置く時には、恋人と別れるがごとくに手を放しなさい、という教えがあります。茶人の心得をまとめた「利休百首」があるのですが、ひとつひとつの言葉の意味に惚れこんでしまったのです。1を知ったら10へ、10へ到達したら、1へ(初心へ)戻りなさい…という教えもあります。茶道の精神的なものに惹かれ、長続きしなかった習い事の中で茶道だけは続けられた唯一のことでした。

「一期一会」を求めてCAに~カスタマーイクスプリエンスを~

三枝:「一期一会」とは一生に一度の出会いという意味です。同じ茶会でも、同じお茶を差し上げても同じ出会いは無いので、今の一瞬を大事にしなさいという教えになりますが、そんな出会いがたくさんある仕事をしたいと考えました。どんな仕事にも一期一会はありますが、搭乗してから降機するまでホテルであり書斎であり、レストランであり…短い国内線でも長時間の国際線のフライトも、いろんな'とき'と'体験'、一期一会を味わえる、'カスタマーエクスプリエンス'を経験できる場所、それが飛行機の中ではと考えたのです。元々教師になるつもりで、生徒たちと1年…3年と触れ合えるのも良いと考えましたが、日々、数百人のお客様が入れ替わること、飛行機自体も好きでしたので、CAになりたいと考えたのです。

「茶道」もCAの訓練の一環に…

加藤:CAになる上での訓練でも茶道の経験は役に立てましたか。

三枝:そうですね、所作というより皆より背が低い方でしたので姿勢は意識しました。新人研修は、分厚い本を持って訓練所に1か月間通い、ロールプレイを何度もみんなの前でさせられて沢山、恥もかきました。テストに落とされ到達しないと前へ行けない。けれども明確な成長が感じられ、実感も湧いてくるのですね。
最近、ANAの訓練所の近くにお茶室ができたのです。CAが花言葉を教えたり、相手を慮る訓練として、茶道を選んだということにやっぱり、と思いました。茶道は、相手を慮ることへ繋がるものになるのです。

加藤:最近、心を感じない接客も多いように感じられます。

三枝:自分自身がワクワクしていないと、どんなに所作がきれいでも笑顔でも言葉がきれいでも見破られます。仕事を通して相手を喜ばせようとしているか、ということは必ず出てしまいますよね。

加藤:三枝さんは、国際線の立ち上げにもかかわっていらしたのですね。

三枝:当初からファーストクラスを担当していたのですが、それまで紙コップでジュースを提供していたのが、ラムを機内で切ったり、シャンパンやワインを開けたり…。みんなで1からサービスを作っていきました。

加藤:ファーストクラスには有名人や一流の方々がいらっしゃったと思います。三枝さんの目にはどのように映りましたか。

三枝:ファーストクラスに乗っているから一流ではなく、一流だからファーストクラスに乗れるのだと感じました。一流の人はとても謙虚です。機内のトイレで一番綺麗なのはファーストクラスなのです。次の人のために何ができるという陰徳、相手のことを思って行動する、そういった行動ができるからファーストクラスに乗れるようになるのだと教えて頂きました。リクエストも一番少ないのです。

ANAのCAから子育ての時期、そして独立。コンサルの世界へ

加藤:ANAでは管理職も経験されたのですか。

三枝:ANAでは10年間しか勤めていないのですが、20~30代は第一線で仕事をしようと考え、30~40代は母として生きる、そして40~50代はさらに次の仕事をしたいと考えて。60代からはもっと自分を変えていきたいと考えています。

加藤:独立された経緯について教えて下さい。

三枝:10年ANAに勤め、10年子育てをしてANAラーニングというANAの研修会社で勤めたのですがその頃、本を出したのです。その時、単なるマナー講師ではなく、女性の生き方や日本の精神性のことを伝えていきたいと思いました。そこで独立して、9年前に今の会社、パッションジャパンに来てCOOに就任したのです。

加藤:おもてなし全国NO1で知られる加賀屋さんを支援されていますが、どんなふうにサポートされていますか。

三枝:当初は研修からだったのです。これは、どの企業でもそうなのですが、リーダー候補への研修、その上の層の方々、現場の方々にも研修を施します。経営者がしたいことが現場まで伝わっていないことが多いので、同期させることをします。マネージャー陣には「ストロークコーチング」をしています。コーチングは、目標を定めてしっかり傾聴して、褒めてやらせるという流れなのですが、それだけでは人が伸びないと考えていて。

加藤:'ストロークコーチング'とは何ですか?

三枝:ストローク(storoke)には、一撃・なでる・刺す、等の意味があります。褒めている中でも一撃する、糺していくことも大事なのです。一方で、現場のプレイヤーの方には、おもてなし接遇・営業などの研修を行います。しかし、研修を聞いただけでは身になりません。マネジメントシステム、「売り上げ」「品質」「コスト下げ」という目標を定めます。達成するための計画は意外に立てていないことが多いのです。行動ベースの計画を考えて、実行してみて今日どうだったか、計画と実績の差が出る、その差異分析をミーティングでする。

加藤:現場に入り込み、プロセスもとても細かくされているのですね。

三枝:実務が勝負です。力を入れているところなので、とても手もかかるのです。人はやらなければならないことが分かっていても、動けないものです。我々がマネージャー陣に毎日ヒアリングをして、コーチングをして、それを受けた人が部下に伝える、それが理想の流れなのです。KPIの指標を決め、計画を見直し、綿密に打合せをしていきます。

加藤:加賀屋さんは日本を代表する旅館さんですが、他との違いとは何でしょう。

三枝:モットーとしているのは、「笑顔で気働き」ということなんですが、笑顔は当たり前、属人的に気働きができることはどこでもしていると思いますが、それがみんなができるようにおもてなしが見える化している、それも個性を出しながら出来ているということが本当の意味でのおもてなしNO1なのだと考えます。お客様のニーズが多様化しており、本当に欲しているものが何かを考え、実践することが大切です。

'おもてなし'は人生の豊かさ

加藤:お客様のニーズはどのように変化しているのでしょうか。

三枝:今までは、自分に時間をかけて欲しい、もっと話しかけてほしいという、いわゆるベタベタなサービスというのが受けていました。のぞむ方もいますが、今はあまり部屋に入って欲しくない、という声もあり、そのお客様が何を求めて旅館に来ているのか、目的が多様化してきているのです。例えばストレスを受けないこともサービスである、と。サプライズで喜ばせるよりも、ストレスを受けないことが良いサービスというのが、現代のニーズになってきている気がしています。

加藤:マニュアルではなく、その場に応じて…

三枝:察することも大事ですが、例えば部屋が『寒いね』と言われたら、温度を上げますが、遠慮しておっしゃらないお客様もいるので『お寒いですか』と聞いてしまうこともあります。聞いて、確実に迅速に遂行する、ということを求められる時代になったのではないかと思います。
食事の際、お酒飲まない人にはご飯と一緒にお刺身を食べたい方もいらっしゃいますので『いつ頃お持ちしましょうか』と先に聞いてしまいます。今までだったらNGでしたが…。

加藤:どんなコミュニケーションでしたら喜ばれますか。

三枝:機内でもそうでしたが、食材の産地や調理方法をお伝えするだけでなく「このように召し上がる方法もあります。次回はお試しください」「こちらは縁起物で…」などプチ情報もお伝えしていくと会話も弾みます。コミュニケーションの質は仕事の質であり、人生の質ですよね。

'観光立国へ'、海外の人が日本に期待すること。

加藤:訪日外国人が昨年は3000万人を突破しました。国が観光立国を掲げていますが、海外の方々は日本に何を期待されていると思いますか。

三枝:'目に見えない'ものを感じたい、裏があるのではないかと考えていて、そこから生まれる広い意味での日本文化を体験したいのだと思っています。食、自然や'道'のつくものであるとか。体験を求めに来ていますね。世界の富裕層の方々は幼い頃から、親に連れまわされて既に最高の場所・最高の食を経験しています。そうでないものに興味があるのです。本物の画家がその人のためだけに絵の説明をしたり、演奏家がその人のために曲を弾いたり、陶芸作家と一緒に陶芸をするとか…。富裕層の方々は、一度日本に来たら、リピーターになっている方も多いと聞いていますね。

日本の歴史と文化を学ぶこと、日本の'こころ'の継承

加藤:逆に日本に足りないこととは何でしょうか。

三枝:海外の方に日本の歴史や伝統について尋ねられた時、知識があまりに薄いと感じます。

加藤:学校では記憶教育が中心ですよね。

三枝:年号を覚えて…。本当に先人が後世に残してきたことが本当に伝わっていない。自分たちの祖先を敬う気持ちであるとか、戦争のことについても真実を知ろうとせず、メディアに流されて疑問を感じないところが全て日本に足りないところに直結している気がしています。自分たちのルーツを知りたい、真実を知りたいということであるとか、後世に伝えていかなければならないとか、そういった思いが足りないと思います。海外の方が来てもそんな話にはならず、むしろ外国人の方が詳しいことがありますよね。

加藤:目先のことで精いっぱいになってしまって文化は二の次三の次。クオリティや価値について目を向けることができなくなっているかと思います。

三枝:日本独自のものとして、茶道、武道、禅等もそうですよね。神話や古典…。自国の誇りを、親がお子さんに伝えるべきと考えます。
今日も電車の中でリチウマの方が杖を持って立っているのに、誰も席を譲らずに寝たふりをしているのです。他人に興味関心がないのと、他人の痛みを知ろうとしなくなってしまったと。本来、日本人は、好んで手を差し伸べたり、助け合ったりといったことを自然にされてきましたが、悲しいですよね。他人に興味が無いという事は、自分の欠点も見て見ぬふりをするということなのです。親が伝えていなかったという事なのではないかと。

こんなエピソードがあります。ある家に子供たちが集合した時に、玄関に靴がバラバラになるのです。家にお母さんは後で履きやすいように毎回揃えていたら、気づいた子どもたちが自然に揃えるようになったそうです。『あなたたちダメじゃない。靴をそろえなさい』と言わずに。親や上の人が姿を示すことも大事です。席を譲らないという方も、本人たちのせいではなく、そういう恩恵を施さなかった上の人たちの責任でもあるのです。

女性ならではの、'母性のマネジメント'とは

三枝:先日、いわゆる男社会と言われるような企業で「女性活用推進研究会」が行われました。社内には『ここは男社会だからリーダーになりたくない』と言っている女性が多いのです。会社の仕組みを変えても、上司が男性で権限委譲されても負担が多い。子育て、介護もリーダークラスになったらできない、と。こういう状況の中で女性をやる気にさせてください、という要望の研修でしたが…。

加藤:それは、難しそうです…(笑)。

三枝:それで、'母性のマネジメント'についてお話をさせて頂きました。かつての男社会といわれるような指示命令でないマネジメントとしてだんだん変わってきているかと思います。お母さんが抱きかかえるようなマネジメントです。『あなたはどう思ったの』『なぜこう思ったの』等、問いかけながら、気付かせたり考えさせていくというのは、女性の方が上手だと思うのです。手を挙げない人は多いのですが勇気を持って「マネジマントは女性にお任せ」のようなカルチャーになるといいですね。男性は一点に集中してしまうこともありますが、女性は共感力も高く、視野も広いこと、強い部分もあるのです。

加藤:マネジメントで女性に向いた部分、強みもあるのですね。

三枝:気遣い、言葉遣いが丁寧で礼儀正しさも備えていることもありますよね。教育とは言葉ではなく行動で伝えるものだと思います。トップの姿を見て、人は行動から感化されますので、その人の行動・生き方から影響を及ぼすと思うのです。'おもてなし'についても自らがどう生きているかがサービスに反映されていると思うのです。教える立場と言えども、私はまだまだ底辺にいると思っています。信頼してお仕事を頂いている限り、お客様を裏切れない、そういった気持ちで向き合っています。

加藤:三枝さんは研修のリピート率も高く、一度導入したら異なる部署や層の研修に呼ばれることが多いと伺っています。そうした姿勢からの信頼ゆえなのでしょうね。

海外の人材育成への可能性

三枝:今、外国人人材の育成紹介に携わっていますが、外国人労働者を単なる'労働力'としか見ていない企業があって、日本人がしたくない仕事を海外から集団で来させて、過酷な夜勤をさせたり、一部屋に5人住まわせたり、といった問題も出てきています。先日も、労働者の女の子が妊娠したら、強制的に国へ帰らされてしまう、といったケースが報じられていました。そのまま彼らを返していいのかと。いろんな意味で日本は、おもてなし、教育も手厚い国と言われている割には、弱者に対してのケアがないかと思うのです。これでは、日本に来て、良かったと思わないと…。海外の方に『もっと日本にいて、成長して自国へ帰りたい』と思って貰いたいと。せっかく日本に来てくれている学生や若者をもっと歓迎して、みんなで育てていかなければと思うのです。そんなことも含めて、これまで日本人の教育に携わってきましたが、今は海外の方々の教育に携っており、人材育成としてもっと面白くなっていくと考え、また可能性を感じているのです。

 

三枝さん、ありがとうございました。

profile
三枝理枝子さん
ビジネスコンサルタント・作法家・おもてなし評論家。
青山学院大学文学部英米文学科卒。全日本空輸株式会社にCAとして入社。入社後、国内線、国際線チーフパーサーを務める。VIP(皇室、総理、国賓)フライト乗務ほか、新入客室乗務員訓練のインストラクター、業務要領プロジェクトメンバーに選抜されるなど幅広く活躍後、退職。その後、ANAラーニング株式会社 人気講師として、様々な企業への研修を実施。現在は、株式会社ストロークジャパン 代表取締役、パッションジャパン株式会社 COOとして人財育成・コンサルティングに携わる。

著書:『人は「そとづら」が9割 誰からも好かれる人が密かに実践していること/アスコム』『「あなたと一緒に仕事がしたい!」と言われる42のマナー術/サンマーク出版』『空のおもてなしから学んだ世界に誇れる日本人の心くばりの習慣34 皇室、国賓、総理のフライトを務めた元ANA国際線CAが教える仕事の基本/KADOKAWA,中経出版』『リアルな場ですぐに役立つ最上級のマナーBOOK/メディアファクトリー』『チャンスをつかむ雑談力 出会いを縁に変えるルール/SBクリエイティブ』『空の上で本当にあった心温まる物語シリーズ/あさ出版』『ビジネスで差がつくマナーの心得/サンマーク出版』など。

【新刊のお知らせ】
2020年3月2日発売
「お客様の心をつかむサービスを効率的に」
クロスメディア パブリッシング







 

(取材:2019年7月)

加藤 倫子
PRコンサルタント・ライター
ライター、広報・PRアドバイザリーのフリーランサー。メーカー勤務の後、テレビ(日本テレビ放送網)、週刊誌、ウェブ等のメディアで記者・ディレクター職を約9年。4年の金融営業の後、PRパーソンとして独立。社会・経済系の特集の制作経験から、メディア経験とビジネス経験の両面を生かし、ニュースの発掘、ストーリー性を生かしたPRを得意としている。