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■ 東京ウーマンインタビュー


香港の未来に真の民主主義を目指して。周庭さんインタビュー vol.2

香港の未来に真の民主主義を目指して。
周庭さんインタビュー vol.2

独学で学んだ日本語、でも日本には行かれない

片岡:日本の現状をとてもよくご存知ですね。日本語は独学で学んだと聞いています。

周:もともと日本のアニメがとても好きで、アイドルが出演する日本の歌番組やバラエティ番組を色々と視たのがきっかけでした。でも日本語が最も上手くなった理由は、実は雨傘運動です。日本のメディアがたくさん香港に来た時に、私の仲間の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)は欧米メディアの取材を受けて大忙しでした。日本メディアは日本のことが好きなあの子が取材してもらうといいということになり、私が日本のメディアからの取材を受けるようになりました。

片岡:それが日本語を学ぶきっかけだった。

周:はい。あの時はまだ日本語は喋れなくて、本当に「おはようございます」くらいしか話せませんでした。メディアの取材を受けていくうちに日本語を覚えました。

片岡:日本には何回来られましたか?記者クラブでも日本語で会見されていましたね。

周:2015年に初めて東京に行って以来、これまで6回くらい行きました。でも観光で行ったことが一度もありません。東京と大阪しか行ったことがありません。香港人はとても日本が好きで、京都や福岡、北海道や沖縄にも行って観光するのですが。

片岡:今度、ぜひ観光で来てください。

周:でも私、実は今は香港から出境できないのです…。

片岡:そんなことになっているのですか?警察に逮捕されたから?

周:はい、8月30日に逮捕されて、出境するには裁判所に申請を入れないといけません。一か月間、東京に行くという申請を入れたところ、理由なしに却下されました。政治的な理由だと思います。それ以外には考えられません。私は日本に行かれませんし、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)もアメリカに行かれません。色々やりたい事が今は全然できません。

ジャッキー・チェンはヒーローではない

片岡:日本人に限らず世界の人に何を期待しますか?

周:今回のデモの件で香港に対して新しいイメージを持たれたと思います。例えば、日本では以前は香港といえば、ジャッキーチェンがイメージとして出てくると思いますが、多くの香港人はジャッキーチェンが嫌いです。

片岡:そうなのですか?

周:そうです、残念ながら。

片岡:香港の人たちにとって"ヒーロー"ではないのですか?

周:彼は親中派ですから香港人というより中国人という感じが我々はします。

片岡:その辺りの感覚は日本人の多くの人には分からないですね。

周:そうです。だから日本の人にとって香港と言えばジャッキーチェンや小籠包などが出てくると思いますが、香港の社会が今本当はどういう状態なのかをもっと伝えていきたいと思っています。香港人は今、中国という世界一強い独裁政権に対抗しています。その民主主義のために一所懸命戦っている姿を世界中の人に見てもらいたいです。

片岡:若い世代ほど政治には無関心なのが実情です。アニメとか映画とか旅行の方が面白いですし。

周:確かに政治はつまらないものかもしれません。政治の世界はオジさんばかりですし。(笑)

片岡:周さんもオジさん相手に頑張らなきゃいけない。(笑)

周:政治は人の日常生活そのものだと思います。日本だけではなくどの国にも社会問題は必ずあります。日本だったら例えば労働問題、過労死の問題とか。そういう社会問題を解決するためには政治に参加することが必要です。自分の生活に何か不公平なことがあった時に、我慢するのではなく、これは間違っているのだとちゃんと言うことは、若い世代にとってすごく大切なことだと思います。

片岡:周さんは、いつも自分自身のために社会問題について考えるのですか?それとも自分の子供とか孫など自分よりも未来の人たちのためですか?それとも今生きているオジさんとかも含めた全ての香港人のためですか?

周:今この社会に生きている人たちにも、将来、香港に生まれて来る人たちのためにも、公平な社会を求めていかないといけないと思っています。今の香港には不公平なシステムの下で苦しんでいる人がたくさんいます。だから民主的でもっと良い社会になれば、苦しんでいる人が減るのではないかと考えています。政治的な問題だけでなく、例えば住宅の問題なども世界的には有名です。香港の家賃は高く住宅は狭いです。他に福祉問題もあります。年金制度がないというありえない状況です。そういうあり得ない制度のもとでたくさんの人が苦しんでいます。


2014年9月26日、学生ストライキを起こす周庭(左)。隣は黄之鋒。
著作権者:湯惠芸 ライセンス:パブリック・ドメイン.
政治とPR

片岡:周さんは、自分たちから見た香港の現状や、自分たちの活動について「PR」するのがとても上手だと思います。私は日本ではPRの専門家です。大学でも教えています。特に「ボイコット」という言葉の対外的な使い方は、よく練られているなと専門家の立場として思っています。どこかでPR(パブリックリレーションズ)やマーケティングを学んだのですか?

周:政治活動をやっている者にとってPRはとても大切です。例えばイメージの作り方とか取材を受ける時に言葉の捉え方などはとても大事だと思っています。ビジネスのPRと政治的なPRはちょっと違うのかもしれませんが、これまでの経験から色々と勉強したのだと思います。

日本企業では働けない

片岡:周さんは、このままずっと香港で住んで、香港で働き続けたいと思いますか?それとも将来はアメリカとかイギリスなど世界のどこかの国に移ることもあり得ますか?

周:移住する?移民するということですか?確かに香港はもう今地獄みたいな場所ですけども、私は香港人だから香港が私の家みたいな場所です。

片岡:大学を出て海外に行っちゃう友人も中にはいるでしょう。

周:確かに。でも香港人にとって何か香港のためになることをやりたいという気持ちがあります。香港から移民するという気持ちは、今はないですね。

片岡:日本はどうですか?

周:日本はたぶん無理です、日本は過労死しちゃうから、無理です。日本は本当に無理。

片岡:日本人はそんなに働いているイメージがありますか?

周:外国企業だったら大丈夫だと思うけれども、日本企業は本当に無理です。

片岡:最近は日本人も「働き方改革」って言って…。(笑)

周:ホントですか?でも残業を報告しないっていうのがあるじゃないですか。

片岡:ああ、サービス残業ですね。

周:そうそう。

片岡:そこはきっちりとお休みを取りたいのですね。でも市民活動には勤務時間も残業もあったものじゃないでしょう?

周:それは…自分自身がやりたくてやっているわけですから…。

片岡:今はまだ大学生ですからね。

周:はい。(笑)

片岡:卒業後も社会運動を続けるのですか? 本職としての活動家(?)になるのですか?

周:いえ、活動家は別に仕事ではないといいますか、お給料は出ないですから。

片岡:ではどうするのですか?仕事は別にするのですか?

周:給料の出る仕事を考えないといけないです。(笑)

片岡:最後に日本にもし来られたらやってみたいこととかあれば。

周:出境禁止がなければ、まずはちゃんと日本を観光したいです。例えば温泉とかも行ったことないです。他にも、私は日本のファッション誌がとても好きで、香港でも売られているのですけれど、non-noとかRayをいつも読んでいます。これは仕事の話になるかもしれないですが、ファッション誌の取材を受ける機会があれば嬉しいと思います。ファッション誌っぽい撮影を経験したいです。

片岡:スタジオでのグラビア撮影とかですね。

周:メイクさんがいるような感じを一度体験したいです。(笑)


Instagram より

片岡:たまに自宅で撮っているような、すごく可愛い写真をインスタに載せているじゃないですか、あれは自分でメイクなどもやっているのですか?

周:あれは本当に遊んでいるだけです。カメラマンの友達がいてその友達と一緒にやっています。香港にはSNS用に簡単にスタジオをレンタルすることがあり、色んな写真を撮るのですが、今はあまり時間がなくてそれもあまりできません。

片岡:香港では何をしている時が一番楽しいですか?忙しく神経も使うしハラハラする毎日でしょう。

周:毎日ニュースを見ると元気がなくなります。警察が若者をボコボコにするとか、たくさんの人が逮捕されるとか、そういうニュースを視るので、楽しい時間がすごい珍しくなってしまって…。よく時間があれば日本のバラエティ番組などを視ます。

片岡:どんな番組ですか?

周:私はマツコさんがすごく好きです。日本人なのにとてもはっきり言うところが大好きです。香港人は皆はっきり何でも言うのですが、日本人にとってマツコさんは珍しいタイプじゃないかなと思います。

片岡:はっきり意見を言う人が、どうやら好きなのですね。

周:はい。香港人みんなはっきり意見を言います。「嫌い」とか「不細工」とかでも何でも直接はっきり相手に言うのです。でも日本人は「すいません、これはちょっと難しいかもしれません…」とか。(笑)香港人は「無理!無理です。駄目ですごめんなさい!」って、何でもはっきり言いますよ。だからマツコさんの番組は毎週視ています。(笑)

片岡:長い間、どうもありがとうございました。プライベートなことまで色々とお話を伺ったので、原稿を事前にチェックされますか?

周:いいえ原稿チェックは必要ないです。私がお話したことが全てです。それが報道の自由ですから。(笑)

profile
周庭(アグネス・チョウ)さん
香港の政治運動家、香港衆志常務委員、自決派(中国語版)、大学生。香港で「学民の女神」と呼ばれる。
2012年、学民思潮のメンバーとして反国民教育運動に参加。2014年「雨傘運動」に学民思潮のスポークスパーソンとして参加。2016年、羅冠聡、黄之鋒と共に、香港衆志(デモシスト)を創設して初代副事務局長となる。
https://www.facebook.com/agneschowting
https://twitter.com/chowtingagnes
https://www.instagram.com/chowtingagnes/?hl=ja
 

(取材:2019年12月)

片岡英彦
東京ウーマン編集長
京都大学卒業後、日本テレビで、報道記者、宣伝プロデューサーを務めた後、アップルのコミュニケーションマネージャー、MTV広報部長、日本マクドナルド・マーケティングPR部長等を経て、片岡英彦事務所(現:株式会社東京片岡英彦事務所)設立。2011年フランス・パリに本部を持つ国際人権支援団体「世界の医療団」の広報責任者就任。2013年、一般社団法人日本アドボカシー協会を設立。企業のマーケティング支援、大学での教鞭他「日本を明るくする」数々のプロジェクトに参加。