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■ 東京ウーマンインタビュー
「思い通りにならないことって、ありますよね」イスタンブールでエブルを続ける大下美樹さん vol.2
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■ 東京ウーマンインタビュー
「思い通りにならないことって、ありますよね」イスタンブールでエブルを続ける大下美樹さん vol.2
片岡:作品を見ると、私にはかなり偶然でできているように見えます。実際にはどのくらい自分でコントロールできるものなんですか。
大下:90%ぐらいは自分の思った通りにできます。
でも、水の上なので、やっぱり全部は思い通りにはできないですよね。
片岡:日本の墨流しにも、水の上で作るという共通点があります。自分でできる部分と偶然が入る部分の両方がある。そこはエブルの面白さでもあるんでしょうか。
大下:逆に、自分にとってそれが大事なのかな、と思います。
思い通りにならないことって、ありますよね。人生もそうですよね。
エブルも、人生の縮図みたいな感じで。
「これでよかったのかな」と思うこともあるけど、偶然が入ったことによって、「もしかしたら、こっちがよかったのかも」という可能性を残せるところがあるんです。
片岡:予定していなかったことが起こった結果、むしろ作品全体がよくなることもある。
大下:例えば、本当はそこにその色を落とそうと思っていなかったのに、違うところに落としてしまう。でも、全体のバランスから見たら、そっちに落ちた方がよかったということもあります。落ちてしまった後、そこからまた何かが生まれる。
そういうものを捉えていく感じです。結果的にうまくいくこともあります。 いろんなことがあった時にも、多分そう思える自分になったんだと思います。
片岡:作品を作る時は、最初に何から決めるんですか。色ですか、形ですか。それとも「こういう作品にしたい」という全体的な構想から?
大下:いろいろです。
特に何も決めずに、エブルを背景として作り始めることもあります。
逆に、最初から「これをやろう」と決めて、きちんと絵を描いて、それを見ながら作ることもあります。
何も決めずにただ色を落として、そこからやりながら考える時もあります。
片岡:そうなると、今度は「どこで完成と決めるのか」が難しそうです。水の上にある間は、もう少し手を入れることもできますよね。
大下:同じものは二度とできないですからね。
生徒さんからも「これ、本当にちょっとなんとかならない?」と言われることがあります。
でも、これをなんとかしようとしたら、今より悪くなることもあるんです。
片岡:人間はどうしても「もうちょっと」と手を入れたくなりますよね。止める判断は、最初からできたんですか。
大下:最初は私も「もうちょっと」と思って手直ししていました。
でも、何枚も作っているうちに、
「これはこれでやめと。次のやつでこれを」
と思えるようになりましたね。
片岡:思った通りにいかなかったものも捨てずに残しますか?
大下:一応、持っています。
その時は違うと思っても、何年か経ってから見ることもあります。
その時の自分もありますから。
片岡:エブルを知ってはいても、やったことがない人が初めて来た場合、どのくらいで本人が満足できるものができますか。
大下:割と早くできます。
初めてでも「すごい」と思えるものができることがあります。
片岡:いろいろな国の人を教えていると、作品に対する反応にも違いがありますか。
大下:他の国の方を見ていると、すごく自分自身に優しいなと思うことがあります(笑)。
日本人の方がやったものって、本当にすごくきれいにできているのに、本人はそう思っていないことがあるんです。
片岡:それは謙遜なのか、本当に自己評価が厳しいのか。
大下:「うまくやらないと」とか、「これがない」「あれがない」とか、そういうことを言いますね。そんなに問題ないですよ、と思うこともあります。
自分がやったものですから。
片岡:今の生徒さんは若い方が多いんですか。
大下:8歳ぐらいの子もいます。幅広いですよ。最初にやってみる分には入りやすいと思います。

余白を生かした大下さんの作品
片岡:国による違いは、作品そのものにも出ますか。例えばトルコ人らしさ、日本人らしさのようなものはありますか。
大下:トルコ人は、埋めたがります(笑)。
片岡:余白を嫌う?
大下:私は余白がいいと思うんです。
片岡:今見せていただいている大下さんの作品も、白いところがかなり残っていますね。
大下:私はそういう方がいいと思います。
片岡:こちらの人から見ると、それが「隙間」に見えてしまうのでしょうか。
大下:そういう違いはありますね。
片岡:トルコの装飾を見ると、全体を細かく埋め尽くすものも多い。一方、日本には枯山水や生け花のように、何もない部分まで含めて見せる文化があります。
大下:自分の作品を作る時は、自分がいいと思うバランスで作っています。

墨流しとエブルを組み合わせた作品
片岡:大下さんご自身の作品を見ると、伝統的なエブルだけではなく、日本の墨流しを合わせたものがありますね。
大下:エブルに「アッキャーセ」という技法があるんです。
紙を使って、ここだけ色が付かないようにするようなやり方です。
片岡:そこに墨流しも組み合わせている。
大下:墨流しは「ああいう感じにしたいな」と思いながらやるんですけど、細かいところまではできないですね。
片岡:そこはエブル以上に偶然性がある。
大下:細かくはできないです。
片岡:ある段階から、日本の墨流しとトルコのエブルを合わせた作品を作るようになったんですね。
大下:背景にエブルを使ったり、いろいろやっています。
片岡:ただ、教室で教えるものと、ご自身の作品として作るものは少し違う。
大下:教える時は、まず基本です。
私が教えてもらったみたいに、順番に習っていく。
まず基本のやり方を覚えないと、その先には行けないですからね。
片岡:これからやっていきたいことはありますか。イスタンブールでの活動、日本での活動も含めて。
大下:もっとエブルを知っていただきたいと思っています。
日本でもワークショップをする機会がもっとあったらいいですね。東京とかでも。
片岡:実際に制作しているところを見ていると、癒やしになるような感じもします。
大下:やっていると、他のことを考えないですね。
不安なことがあっても、やっている間は他のことを考えない。

筆者もエブル制作を体験
インタビューの後、実際の制作工程を見せてもらい、筆者もエブルを体験した。

片岡:まず水面を整えるところから始めるんですね。
大下:表面をきれいにします。ここに好きな色を落としていきます。
片岡:一滴落としただけでかなり広がりますね。
大下:そこへ次の色を落とすと、前の色を押しながら広がります。
片岡:ずいぶん何色も重ねるんですね。
大下:重ねていくごとに色が豊かになっていきます。
片岡:しかも、落とした丸い形はそのまま残っている。
大下:そこから道具を使います。
こうやって行ったり来たりすると、伝統的な柄になります。
片岡:色が混ざっているように見えるけど、実際には混ざっていない。
大下:水の上に落ちると混ざらないんです。
普通に絵の具同士を混ぜれば色は混ざりますよ。
でも水の上では、それぞれが残るんです。
片岡:ここから花にしていく。
大下:花を作る時は、この状態から道具を使って形を作ります。
片岡:ちょっとした瞬間に変わるんですね。これはチューリップですか?
大下:チューリップです。
片岡:最後は、この水面に紙を置く。
大下:端から置いていって、空気が入らないようにします。
片岡:さっき言っていた「音が違う」というのはこれですね。
大下:空気が入っている時と、入っていない時で音が違うんです。
それで、ちゃんと付いているか分かります。
片岡:紙を上げると……おお、素晴らしい。水面にあった模様が、そのまま一枚になるんですね

水面から紙へ写し取った模様
大下:あとは乾かします。夏なら乾くのも早いです。
片岡:8歳の子でも、ここまでできるのですか。
大下:できます。
片岡:入口としてはかなり入りやすいですね。では僕もやってみます。
大下:好きな色を選んでください。
片岡:これは結構いっぱい落としてもいいのですか?
大下:ゆっくりで大丈夫です。
片岡:面白いです。集中します。
大下:他のこと考えないでしょう。
片岡:本当に考えないですね。普段はちょこちょこメールをチェックしたり、SNSを見たりして、1分ものんびりしていないので。
大下:水面を見ながらやりますからね。
片岡:では紙を置いて……できました。実際に手を動かしてみると分かりますね。すごいアンバランスですが(笑)。
大下:初めてですから。
片岡:でも、やってみるといろいろ気になってくるんですね。「もっとこうすればよかった」とか。
大下:言い出したら、もっともっとなりますよ(笑)。
片岡:途中で気になっても、もう終わるしかないですね。
先ほどの「これはこれでやめて、次のやつで」という話でしたが、自分でやってみるとよく分かるような気がします。
大下:何枚もやっていると、そう思えるようになります。
片岡:楽しかったです。本当に集中しますね。

大下さんの作品より

イスタンブールにて
- 1
- 2


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