HOME ■ ADV(アドボカシー)な人々 #07 パトリック・ダヴィッド(世界の医療団理事) 「いまのきもち」 vol.2 前のページへ戻る

■ ADV(アドボカシー)な人々 #07


パトリック・ダヴィッド(世界の医療団理事) 「いまのきもち」 vol.2

谷本氏: 良く聞かれると思うのですが、「世界の医療団」と「国境なき医師団」との違いは何ですか

パトリック氏: 医療環境の危機的な状況に立ち向かう、専門家集団だと思います。医者はその地域で医療支援を続けます。また、その地域だけに居続けるのではなく、常に助けを要する市民とのコンタクトを取り続けます。将来的には、危機的な状況にある場所に行くだけでなく、危機的な状況になりそうな場所に対して、事前に手助けができたらと考えます。

谷本氏: 世界の医療団の活動に参加するために、必要な条件はありますか?例えば英語力だとか。

パトリック氏: 誰でもその支援活動に賛同する思いがあれば、活動に参加することができます。参加するからには、医療支援を最も必要とする人々に対して、支援活動を行わなくてはなりません。世界の医療団は常に支援を希望する人々にオープンになっています。

谷本氏: プロジェクト参加者は一つの地域に平均で大体どれくらい滞在するものなのですか?
パトリック氏:状況によります。その地域が安定して、ボランティアが帰っても問題ないと判断されるタイミングで引き揚げます。我々はだいたい1か月から3か月程度ですが、安定していない場所では6か月程度かかります。私は麻酔医ですが、他の外科医などは3か月程度になることもあります。これは状況次第ですね。最初のうちは同僚と一緒に数週間まず現地へ趣行き、主に現地での情報収集活動を行います。

片岡氏: 今週は東日本大震災が発生した週です。3年が経ちました。日本で大地震があったという一報を聞いた際に、まずどのように思われましたか?

パトリック氏: 会議で東京を訪れる予定だったのですが、スタッフから大変なことが起こったから東京に来るのを待ってくださいと言われました。何が優先されるべきで、我々のチームで何ができるかを考えました。

片岡氏: 世界の医療団では震災直後の2011年4月から、岩手県大槌町などで、被災者の方々のメンタルケアプログラム「ニココロプロジェクト」を始めました。プロジェクトに参加した精神科医や看護師らは、しばしばケアが必要な人にたどり着くのが難しいとおっしゃっていました。支援を必要とする人々にどうやってアクセスするのかがプロジェクトの重要な課題でした。

パトリック氏: プロジェクト開始の当初、現地に赴きましたが、あまり被災者の方々が集って来てはいない様子だったので、「どうしたんだい?」とスタッフに聞きました。するとスタッフは、「なかなかメンタルケアを受けようとはしてくれないのです。」と答えました。そこで、一度メンタルケアに来た人にその後の状態を聞くのがよいのではないかと言いました。

その結果、スタッフは被災者の方々のことをよく知っており、被災者の方々もスタッフのことをよく知っていました。しかし、まだ日本では、NGOグループがどのような活動をしているのかあまり周知されていませんでした。なので、被災者の方々をサポートできる準備が整っていることを伝えなければなりませんでした。
谷本氏: パトリックさんは東北の医療支援をされている際に、恐らく放射能のリスクを指摘されることもあったかと思います。また、日本だけでなく、世界の危険地域各地に行く際には様々なリスクがあったと思います。そんな地域に行かれることを家族の方はとても心配されるかと思いますが、どのように家族を説得されるのですか。

パトリック氏: 「日本人の医師も大勢、現地で頑張っているんだよ。」といいました。私の考え方を家族は理解してくれています。ある日のパリでのミーティングの時のことです。現地サポートに行くかいかなかを議論するミーティングで、日本人のチームは「行く」と決断しました。その決断に敬意を示します。

谷本氏: 最後に日本人にメッセージをお願いします。

パトリック氏: 今、世界情勢は混沌としています。世界中のいたるところが危険に満ちています。しかし、こうして日本に来るととても静かで、落ち着いた雰囲気で、私はこの雰囲気がとても好きです。お互いリスペクトしています、そして我々にとって癒しになります。
img
パトリック・ダヴィッド
世界の医療団(メドゥサン・デュ・モンド)理事
1954年フランス生まれ。30歳のときNGO『世界の医療団』に参加、人道支­援活動を行う。2004年、副会長に就任。これまでアフガニスタン、ボスニア、カンボジア、イラク、パレスチナなど多数の現場で活動した実績がある。「見放された人々」を救うことを使命に、災害や紛争発生時だけでなく、長期に渡って現地での支援活動を展開している。
世界の医療団 オフィシャルサイト http://www.mdm.or.jp/
img
片岡 英彦
コミュニケーションプロデューサー
株式会社東京片岡英彦事務所 代表取締役
一般社団法人日本アドボカシー協会代表理事
世界の医療団(認定NPO法人)広報マネージャー

1970年東京生まれ。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。2013年「株式会社東京片岡英彦事務所」代表取締役、「一般社団法人日本アドボカシー協会」代表理事に就任。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加、フランス・パリに本部を持つ国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。
マガジンハウス/Webダカーポではインタビューコラム「片岡英彦のNGOな人々」を連載中。

株式会社東京片岡英彦事務所
HP: http://www.kataokahidehiko.com/
FB: kataokaoffice
img
谷本 有香
経済キャスター/ジャーナリスト
山一證券、Bloomberg TVで経済アンカーを務めたのち、米国MBA留学。その後は、日経CNBCで経済キャスターとして従事。CNBCでは女性初の経済コメンテーターに。英ブレア元首相、マイケル・サンデル教授の独占インタビューを含め、ハワード・シュルツスターバックス会長兼CEO、ノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授、マイケル・ポーターハーバード大学教授、ジム・ロジャーズ氏など、世界の大物著名人たちへのインタビューは1000人を超える。自身が企画・構成・出演を担当した「ザ・経済闘論×日経ヴェリタス~漂流する円・戦略なきニッポンの行方~」は日経映像2010年度年間優秀賞を受賞、また、同じく企画・構成・出演を担当した「緊急スペシャル リーマン経営破たん」は日経CNBC社長賞を受賞。W.I.N.日本イベントでは非公式を含め初回より3回ともファシリテーターを務める。現在、北京大学EMBAコースに留学中

HP: http://www.yukatanimoto.com/
FB: yuka.tanimoto.50
2014年6月/撮影協力:安廣 美雪(Take_)
  • 1
  • 2