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■ 東京ウーマンインタビュー


俳優と福祉、どちらも日常にある等身大の自分 vol.1

俳優と福祉、どちらも日常にある等身大の自分

「web dacapo」でインタビューさせて頂いて以来6年ぶりに、女優のつみきみほさんにお会いしました。3月11日に公開される主演映画「話す犬を、放す」のお話と、近況、これからのお仕事についてお話を伺いました。

「話す犬を、放す」
熊谷まどか監督が自らの体験をベースに、優しくユーモアを交えて描いた初の長編作品。40代独身で売れない女優(下村レイコ)に突如映画出演の話が舞い込む。だが時を同じくレイコの母(ユキエ)は認知症の一種で幻覚症状を伴う「レビー小体型認知症」を発症する。レイコの生活は一変し映画出演という一世一代の「チャンス」と愛する「親の介護」の両立に苦悩する。幻覚や幻想を見るという「レビー小体型認知症」をモチーフに、女優業に打ち込む娘と、母との母子の悲哀を時にコメディを交え描いたヒューマン・ストーリー。
等身大の役、レイコを演じて
片岡:熊谷監督から、お話を頂いた時にどのように思われました?

つみき:まず脚本を読ませて頂いて、面白い要素がいっぱいあるので、どう撮るんだろうと思いました。それと、自分に重なる部分もたくさんあるなと。

片岡:熊谷監督は、お母さんがレビー小体型認知症の症状があってこの作品を作られたわけですが、つみきさんご自身にはあまりそういう経験はこれまでなかったのでは?

つみき:実は、最近、福祉の勉強とヘルパーの仕事もさせて頂くようになっていて、映画の脚本を読ませて頂いた時に「繋がっているなあ」と感じたんです。(主人公が)お芝居が大好きで、自分の好きなものに没頭して突き進む、そういう部分にすごく共感しました。

実際に認知症の方と接する機会もあるんですが、レビー小体型認知症の方とはまだお会いしたことがありません。実際身内にいらっしゃるのと、お仕事で関わるのはまた違うと思いますが、監督の描き方がとても明るくとらえてらっしゃるんです。

片岡:熊谷監督は「コメディ」だと仰ってましたね。

つみき:そうなんです。明るくとらえる、ということが監督のこだわりです。私は、認知症というテーマの作品なので、かなり真面目に演じないといけないと考えていたので、逆に監督にそこを全部崩されました。「そんな堅苦しく考えないの」と。慌ててそれまでの堅苦しいイメージを消して、消して…みたいな…(笑)。明るく明るく!と心がける現場でした。
片岡:本(台本)から想像すると結構固い印象がしましたが、映画のシーンとして絵(映像)になると面白く表現されていますね。特に幻想のシーンなどが。

つみき:そうなんです。その幻想のシーンは私も脚本を読んだ時から面白いなと興味があり、想像をかきたてられるところでした。

現場でも、(犬の)チロの所に関しても、幻視の表現はどうなるのだろうとずっと思っていました。実際に映像を見て、とても面白い仕上がりになっていると思いますよ。

片岡:あのチロはメタファ(暗喩)ですか?過去の「わだかまり」ですよね?

つみき:それは…観た方の解釈でOKです(笑)。答えをこちらから言うのはナンセンスというか、もったいない気がしてしまうので。観た方が自分の視点から「ああ、こういう事ある」とか、「これ違うな」など、いろいろな風に思って頂けたらいいなと思います。ちょっとでもそういう場になると嬉しいです。

ただ、監督は私とはまた違うことを言われるかもしれないですね(笑)。監督は、認知症の検査を受診するきっかけになってくれたらいいなとも仰ってます。
片岡:つみきさんの演じられた「レイコ」と、田島さんが演じられたお母さんの「ユキエ」、そして映画の中で、仕事と育児を両立している「山本監督」(木乃江祐希)とでは、つみきさん自身が今一番感情移入しやすいのはどの役ですか?娘さんも大きくなられたので、もしかしたら「お母さん」ですか?

つみき:いや、やっぱり自分の役、レイコですね。

片岡:確か、つみきさんご自身は、実際のお母さんと小さい頃から結構ぶつかって育ってきたんでしたよね。

つみき:はい。仰る通りです。レイコは母一人子一人の中でまっすぐ母を支えながら、ちゃんと自分の好きな道だけに邁進しているけれども、そういう「いい子な部分」は私には全然ないんです(笑)。

プライベートではあっちに行ったりこっちに行ったり、母とはケンカばっかり、ぶつかってばっかり。そういう部分はホント、全然違う。レイコにはずっと尊敬の気持ちを持って撮影させて頂きました。

片岡:今まで見た作品の中では、一番ご自身と被ると言うか等身大だったのかなという気がしました。今までの作品は、どちらかというとちょっと違和感というか周囲から浮く役が多いじゃないですか。

つみき:アウトサイダーみたいな(笑)。

片岡:そうそう。不良少女や、職人的な料理人だったり、劇団の中でも1人だけ浮く感じの役でした。

つみき:そうですね。

片岡:今回は包みこむ役?

つみき:「普通の役」ですね。
片岡:あと、シーンで言うと後半になりますが、ちょっとこう、当たり前だけどお母さんに対して怒って大声を出しそうになるじゃないですか。あの辺はすごく「つみきみほ節」でした。

怒っているようで怒っていられない、なんとも言えない困った表情…あそこで、うるっときました。認知症の症状が出た母親にあんな風に言われたら、あのように返すしかないというようなセリフ。

つみき:あそこはお母さんと娘の葛藤のシーン。私、脚本を読んだときに一番「濃いなあ」って思ったシーンだったんです。その表現の仕方がね…等身大だったんですかねえ(笑)。

片岡:田島さんと本当の親子に見えましたよ。ご飯シーンでは田島さんも左利きのようで、お二人そろって左利きでした。
つみき:あれは違うんです。田島さんが私に合わせてくださったんです!

ほんとに、もうありがとうございますという気持ちでいっぱいです。お話ししていても、田島さんがホントにステキな方で、全てがありがたかったです。

片岡:田島さん実際は左利きじゃなかったんですか?本当にあの回想シーンで母子のこれまで積み重ねてきた関係がすごく自然に伝わってきたので。そうなんですね。田島さんすごい女優さんですね(笑)。
母と子の関係、子育てと仕事の両立
片岡:上のお子さんは、大きくなられましたよね。もうご自身は「娘」というよりも「親」としての意識の方が強くなったのでしょうか。

つみき:この脚本を読ませていただく前に少しそういうことを感じ始めてはいたんです。微かに、そういう切ない思いといいますか、自分が年を取ってきたことや、実母がちょっと老いていくのを感じたりですとか。

だから脚本を読んで、シーツを敷くシーンや、料理のシーンで自分とお母さんの立場が逆転したりしていくところなど、改めて具体的に監督から話を聞いて、なるほどと思いました。

私は、監督ほどには強く自分の親の「老い」を感じてはいなかったので、より一層「みんなそういうことを感じて乗り越えていくんだなあ」と思いながら仕事をさせていただきました。

片岡:人参の刻み方は、お母さんから教えてもらったことなのに、そのお母さんに刻み方を褒められるんですよね。

つみき:そうなんです。

片岡:実際、そういうことありますしね。

つみき:はい。すごくきれいだなって思いますね。お母さんもステキなお母さんだし、きっと監督ご自身もちゃんとしてらっしゃるんだなと。母子の絆が固いんだなあって思いました。

世の中には実際、母ひとり娘一人で、そうやって介護されているという話をよく聞きます。ドキュメンタリー番組でもありますけど、見るたびにすごいなあっていつも思うんです。尊敬してしまいます。

だから撮影現場に行くたびに、常にレイコに対しては自分と重なる部分がいっぱいありつつも、自分はそうじゃない…「ちゃんと」生きているという、自分とは異なる部分を尊敬しながら、演じさせていただきました。
片岡:作品の中に登場する山本監督(木乃江祐希)は、綺麗にメイクをしてちょっと高さのある靴を履いて、ベビーカーひっくり返したりしながら何とか頑張って子育てと仕事を両立させようとしています。

映画の中で山本監督が頑張っていたように、ご自身も仕事と育児との両立には苦労されたんですか?

つみき:私自身は残念ながら両立がうまくできなくて仕事を一時離れたこともありますが、実際はやっぱり劇中の山本監督のように女性が頑張れた方がいいなと思います。

そうあるべきだと言うより、そうやって頑張ることができる環境であるべきだと思います。「仕事したい」って思えることって、すごいことだと思います。

片岡:大変ですからね。仕事も結婚も育児も。

つみき:大変だし、やろうと思って出来ることじゃないんだから、それだけのエネルギーがある人に対しては、フォローできる社会であるべきだなと思います。

片岡:できる人とできない人とは何が違うんでしょうか?

つみき:周りからの助けがあるのって、やっぱり大きいですよね。今は社会的にもそういう場が、公的な支援も情報もいっぱいあるし。私の頃よりはずっと環境が整っていると思います。今日新聞に出生率がちょっと上がったと出ていました。本当にちょっとなんですが。

片岡:作品の中での監督のセリフにあった「使えるものならなんでも使う」という考え方はありですね。

つみき:はい、そういう場も昔よりもあると思うし、上手に利用していったらいいんじゃないかなと思います。

ただ、女性が仕事するにはどうしたらいいかということって、結局、女性男性関係ないし、自分で自分の道をどう切り開いていくかということですよね。

自分のことを決めたり、選んだりすることって、意識してやることはものすごく大変なことなんです。なかなか自分では選べないです。だから選ぶっていうことはすごく大きい決断だと思います。

みんな普通に学校で育って、大勢の中で無意識に「わたしこれ!」って選んでいると迷わないでいられるのだけど、考え出しちゃうともう何だか分からなくなっちゃう。今は情報がいっぱいある時代で、余計選ぶことができなくなる。

だから女性が仕事することは応援していきたいですし、女性の感覚を社会が取り入れていくことはすごく大事だと思います。結局は自分の目の前にある一つ一つのことを大事にしていくことが大切なんじゃないかなと思いますね。
ブログをやめたわけ
片岡:6年前にインタビューさせて頂いた時にはブログをされてましたよね。

つみき:そうですね、ブログをきっかけに、あの時はWebダ・カーポでインタビューしていただいたんです。

片岡:止めてしまっていたのでびっくりしました。理由も衝撃的だったといいますか、つみきさんらしい感じでしたね。「パソコン壊れたから」って…(笑)。

つみき:そうなんですよ(笑)。最終的にはそれをきっかけにということなんですけど…。私、いつもどうやったらうまく自分を出していけるだろうかと手探りしていて、それで始めたのがブログだったのですが。今度はブログにエネルギーを集中しすぎてしまって(笑)、いったん閉じたいなと思いました。

でもどうやって閉じようとか、別にあえて閉じなくてもいいよな、とかいろいろ思っていたところ、そのうち本当にパソコンが壊れたんです。あ、じゃあもうしょうがないから終わろうって(笑) 。

片岡:それもすごいです(笑)。普通は仕事しながら、ブログは隙間の時間などにやられている方が多いですが、つみきさんの場合はすごく集中して根を詰めますよね。

つみき:そうですね、あの頃はなんだかブログにエネルギーを集中していましたね。「こうじゃなきゃいけない!」みたいに。今は逆に「いろんなことがあるよな」「いろんなやり方があるよな」って思っているので。

ブログを通じて、今では応援してくれる人がいる状況というのもどれだけありがたいことかということも分かるし、そういう場があるなら一言でも書いておこうみたいな感じで書けるし。もう変な風に自分に「制限」を付けるのは止めてます。

片岡:あまりデジタルなのは得意じゃないというか、アナログ派でしたね?

つみき:アナログです。携帯電話も苦手なくらいだったんですよ。中学生の頃とか、女同士が電話で長電話とか、なんで?と思っていました。電話って要件を伝えるものなんじゃないの?みたいに。だからブログは自分なりに一所懸命やったんですよ。どうやって続けるのって必死にネタ探してたんです(笑)。

片岡:大変だったんですね(笑)。

つみき:はい。とても大変でした(笑)。
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