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■ ADV(アドボカシー)な人々 #08


クリーマ株式会社 代表取締役社長 丸林 耕太郎 「いまのきもち」 vol.1

「ADV(アドボカシー)な人びと」今回のゲストは、個人のクリエイターの方が自由に自らの作品を出品して販売できる、日本最大のソーシャルマーケットプレイス『クリーマ』を運営されるクリーマ株式会社 代表取締役社長 クリエイティブディレクター、丸林 耕太郎氏。才能ある人が評価される、新しいフェアな世界を実現する!丸林耕太郎氏の事業とは?
谷本氏:『クリーマ』とは、個人のクリエイターの方が自由に自らの作品を出品して販売できる、日本最大のソーシャルマーケットプレイスと伺っています。どのようなものなのかご説明いただけますでしょうか。

丸林氏:ものづくりに情熱をかたむける全国の作家さんと消費者が直接、ネット上で作品を売買できる場です。日本で始めて本格的に展開したサービスとして、2010年5月にスタートしました。

谷本氏:現在はどのくらいのクリエイターさんとユーザーさんがいらっしゃるのですか?

丸林氏:出店されているクリエイターは現在約2万人、出品されている作品数は約55万点になります。ユーザー数は月間単位で100万人は大きく超えているような状況です。

谷本氏:創業時と比べて流通量はかなり増えてきているのですか?

丸林氏:増えていますね。創業当時、CtoCのマーケットプレイスというしくみ自体、ヤフオクがあったくらいで、ほとんどありませんでした。ヤフーほどの規模になるとヤフーブランドが「安心」に紐付けられることもありますが、ものづくりの作品を個人の作り手から直接買うという文化や考え方が、まだ世の中に広まっていなかったこともあって、最初の1年間はきつかったですね。クリエイターさんも作品も少なく売買も少なかったですが、2年目以降から毎年4倍増以上の規模で伸び続けています。

谷本氏:サイトを拝見していますと、作品のクオリティがすごく高いと思いますが、出店時に審査や条件があるのでしょうか。

丸林氏:利用規約にレギュレーションを掲載していますが、自由出店、自由出品が基本で、審査や選考はしていません。その中でクオリティをどう担保されるかにおいては、サービスの方針や考え方、テンションといったところをユーザーさんに認識いただいているという感覚はあります。
片岡氏:クリエイターさんって自分で何かを作ると同時に、必ず見てもらいたい欲望もあると思います。また買う側の人たちも、ただ買うのではなく、自分がお気に入りの良い作品を欲しいと思ったりするじゃないですか。最初のいきさつでいうと、ご自身のどちら側のインサイトからサービスを開始されたのですか?

丸林氏:作り手側です。15歳から音楽活動をしていて、大学に通いながら20歳から23歳くらいまでプロとして活動していました。そこそこお金も稼いでいましたし、これで食っていくという前提でやっていましたが、作り手側の悶々とする感じとか、自由じゃない感覚、才能があっても努力をしても報われないフェアじゃないケースを結構みていて、いろいろ思うことがあってこの事業を始めたので、どちらかというと作り手側ですね。

事業のビジョンとして「本当に良いものが埋もれてしまうことの無い、フェアな新しい世界を作ろう」と掲げていますが、才能がある人、頑張っている人が正当に評価されるフェアな世界を作りたいというのが基本的な思考です。よくハンドメイド市場に着目したとか、CtoCマーケットが今延びているとか言われますが、そういう感覚は全然無く、シンプルにやりたいだけで始めたので、マーケット分析もリサーチも何もしていないんですね。

僕は28歳で起業することを自分の中で既成事実にして、それを前提で音楽を辞めたので、28歳で何をすれば経営者になれるかを考えて、足りない要素を出し、その要素を突き詰めるために修行するにはこの会社がいいと思って入ったのが、前の会社だったんです。その会社は成長ベンチャーで、今は700人くらいの会社ですが、事業戦略とか分析とか、それは本当に儲かるのかを突き詰める会社だったんです。

なのでどちらかというと、僕もそういう目線を持っているタイプですが、このクリーマは自分が24歳の時に持った問題点を解決できるという、最後にして最大のチャンスかもしれない、どうせなら自分が思ったことを実現するほうが意味があると思い、よくわからないけどやってみようと踏み込んだというイメージです。

尊敬している上場企業の創業者や、大物経営者の大先輩からも「なんでそんな儲からないことやるのか」と言われましたし、ほとんどの先輩経営者にも同じように言われました。だけど好きだからやりますと言いながら、「大物経営者まで反対するということは、これは逆にチャンスだ」と思っていましたね。
片岡氏:オークションにしなかったのはなぜですか?売る方の立場からすると、できることなら値段は高く売りたいじゃないですか。同じ1点ものであれば、買ってくれる人がいる限りは、5万円より50万円で買ってくれるほうが嬉しいですし。

丸林氏:確かにその観点もあると思いますが、オークションにしないほうがサスティナブルだという感覚があったんです。たとえばすごい行列ができるラーメン屋が、1日100杯の整理券をオークションで売る、みたいなことをしないのと同じ感覚です。作っている側からすると適正価格ってあると思うので、値段を上げたければ自分で上げれば良い話で、オークションにすると文化としてそれらしくないという感じはありましたね。

片岡氏:オークションありき、値段ありき、みたいな感じになってしまう。

丸林氏:安く落とすとか高く売るというと、戦う要素が入ってきますよね。そこは僕の感覚的にはちょっと違うかなというのはありましたね。お互いが正当に共感し合えるラインを見つけていくことなので。

谷本氏:出品者の言い値で価格設定されるということですね。

丸林氏:そうです。明らかにおかしいと思うもの、たとえば原価が1万円で制作期間1週間で作った作品が、どんなに高くても何十万円が限界だと思いますが、数百万円というような値段をつけている。つまり売れない前提で、見て欲しいだけというのは勘弁してくださいという話はしますが、基本的に自分で価格設定して、その上で自分の考えや方針に沿って値段を上げたり、セールをしたりするからおもしろいと思いますけどね。
谷本氏:クリエイターの方々の能力を引き出すためのプラットフォームという意味でECサイトを立ち上げられたと思いますが、実際にこのサイトによってクリエイターの方々の能力が、正当に引き出され、評価されてきていると思われますか?

丸林氏:クリエイターの能力が評価された状態というのが、どういう状態かというと、今の社会においてある意味、買うという行為はその人の評価であると思うんです。例えばどんなに「あなたの作ったものはすごいね」とみんなが褒めちぎっても、実は誰も買わないというのは、実質の評価はされていないことと等しい状態だと。

クリーマでいうと、一人で毎月50万円や100万円の規模で売る作家さんが沢山おられますが、彼らに話を聞くと、クリーマに出店するまで、月に5万円も売ったことが無いとか、自分のホームページで売っていたけど全く売れなかったという人がたくさんいらっしゃいます。

僕らはまだまだ未熟だし、目指している目標には全然到達していませんが、今まで光が当たらなかった作家さんに光が当たる状態というのは、そういう評価ができ始めていることは間違いないと思っています。まだまだではありますが、少しずつ少しずつ目指している世界に近づいてきている感覚はありますね。
谷本氏:今後の展開として、クリエイターさんの能力を伸ばす、育成するというアプローチも考えていらっしゃいますか?

丸林氏:クリエイターさんの能力を引き出す、或いは支援するとなるとイメージ的に、「僕があなたをプロデュースします」みたいなメッセージになってしまうので、あくまでも僕らは自然体で良いかなと思っています。

誰かをプロデュースして売り出すこと自体は悪くはないけれど、ものづくりの世界においては、アウトプット、つまり能力や努力が評価に直結するところを作らないと、その人にとってハッピーじゃないし、そうなると買い手もハッピーじゃない。且つ、文化としても成熟しないと思うんです。それと別の道を作ろうと。

僕らプラットフォーマーがプラットフォームを用意して、みんなの作品がたくさん流通する場を作る。そうすると魅力的な作品を作ってクリーマに出品すれば、きちんと世の中のたくさんの人に届いて、その作り手の経済もきちんと回る状態ができると。直接クリエイター個人を支援しているわけじゃなくても、結果的にその人の人生や活動が自由になれるじゃないですか。クリーマに出店するようになって人生が変わったとか、続けることを諦めかけていた作家活動を継続できたとか、そうゆう作家さんの声に支えられながら日々がんばっています。
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