【選ばれた母親】 |
もうすぐ4歳になる息子は、まだ一人では寝られない。
夕飯を食べ終わったころから、甘ったれた声で「ママ、今日も一緒に寝ようね」と言ってくる。寝しなの不安を少しでも取り除きたいのだろう。
先日一緒にベッドに入ったときのこと。
「あのね、ママがいいの…」と頭を私の体にこすりつけながら甘えてきた。
そりゃそうだ、生まれた時からずーっとお世話して飲みたいだけおっぱいやって、これだけ尽くしてきたんだからな~とちょっとした優越感に浸っていると、
「あのね、○○ちゃんのママみたいな美人になっちゃイヤなの。そのままの顔がいいの…」と言われた。がっくし。
仕事で以前、胎内記憶で有名な池川明先生に取材をしたことがある。
妊娠がわかったばかりの頃、仲のいい友人に報告したところ、池川先生の本をプレゼントしてくれた。「赤ちゃんはお母さんを選んで生まれてくるんだよ」というのが池川先生の著書の特長だ。その池川先生の本にどれだけの勇気と愛情をもらったか…本をくれた友人には今でも感謝している。そんな愛情深い池川先生にぜひ会いたい!と心に誓い、仕事に復帰してすぐに企画書を書いて、池川先生に取材した。
池川先生曰く、「赤ちゃんによっては、生まれる前のことを鮮明に覚えている子が少なくなく、出産時のこと、おなかの中にいたときのこと、ひいては胎内に宿る前のことを話す子もいる。『お空からどのお母さんにしようかな?』なんて見ていたと証言する子もいる。子どもが3~6歳くらいの時に聞いてみると話してくれるかもしれない」とのこと。
それはおもしろい!と息子に試してみた。
私「おなかにいるとき、なんて呼ばれていたか知ってる?」
息子「うーん、リンゴちゃん」
おおー!当たってる!
普段はリンゴは好きじゃないのに、妊娠がわかった途端、無性に食べたくなったのがリンゴで、安定期に入るまで2カ月ほど食べ続けた。そんなにリンゴが好きなのか…ということで、胎児名は「リンゴちゃん」にしていた。
それから成長するごとに、時々胎内記憶について聞いてみた。
私「なんでママを選んだの~?(わくわく)」
息子「あのね、顔とオッパイがいいなーと思ってママのところに来たの」
…お前は男子高校生か!
まぁ私の顔が好みで私のところに来たのなら、先日の「美人になっちゃイヤ!」発言の心意もわかるが…。
ちなみに、妊娠中におなかにいる赤ちゃんにたくさん話しかけ、愛情をいっぱい注ぐと、胎内記憶が残りやすいのだそうだ(もちろん愛情たっぷりでも胎内記憶について話さない赤ちゃんもたくさんいるが…)。
私が息子を産んで数か月たった頃だったか、大阪で痛ましい事件が起きた。幼い子ども二人をマンションの1室に置き去りにして死亡させた事件だ。産んだばかりの息子がかわいい盛りだったせいか、「なんでかわいいわが子を置き去りにできるのか?」。憤りと信じられない気持ちでいっぱいだった。1年くらい、亡くなった二人の子どものことを思い出さない日がなかったくらい、私にとってショックな事件だった。
あの子たちも、そんなお母さんを選んで生まれてきたんだろうか――
「人間的に少々難ありなお母さんでも『自分ならそんなお母さんを変えられる!』と自信満々で赤ちゃんはそのお母さんのところに生まれてくるんです。でも時々『ああちょっとやっぱり手に負えなかったな…』と空に帰ってしまうことがあるんですよ…」と池川先生は悲しい表情で私の質問に答えてくれた。
ときどき、独身の時のようにパーッと飲みに行きたい時もある。一人になりたい時もある。仕事で疲れていたりストレスがたまっていたりすると、八つ当たりのように息子を怒ってしまうことがある。息子の涙でいっぱいの瞳を見ると「ママはどうしてこんなに怒っているの」と悲しい目をしている。そんな時はいつも「私を選んで生まれてきてくれたのに、私は今それを後悔させるようなことをしていないだろうか」とはっとさせられる。
すると不思議と怒りもおさまるし、一緒にいたいと思えてくる。
子どもは自分の意志で、親を選んで生まれてくる。
だから、子どもの親に対する愛情は、親の子どもに対する愛情よりもはるかに深いのだそうだ。そんな自分を愛してくれる子どもを、絶対に後悔させてはいけないと思う。