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村井 えり ディレクター兼シナリオライター MURAIERI
世間知らずで勉強もできなかった私にとって、映画は多様な人生の教科書でした。心の奥深くにちょっぴりトゲが刺さるような、女性(と女優)の人生について考えさせられる作品を紹介しますので、是非一緒に考えていただけると嬉しいです。
映画が描くオンナの人生いろいろ 趣味・カルチャー 2014-06-28
ゼロ・ダーク・サーティ

『ゼロ・ダーク・サーティ』  Zero Dark Thirty (2012)

監督 キャスリン・ビグロー
出演 ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラーク、マーク・ストロング、エドガー・ラミレス、ジェームズ・ギャンドルフィーニ


3ヶ月で辞めてしまう新入社員がいる、なんて話をよく聞くようになった昨今。ちょうど3ヶ月目にあたる6月なので、お仕事についての映画を取り上げます。といっても、仕事内容も作品内容も、一筋縄ではいかない映画ですが…。

真っ暗な中、声だけが聞こえる。2001年9月11日、米国で起きた同時多発テロで記録された音声だ。管制塔や、世界貿易センタービルにいた人々の声…。
やがて映画が始まると、アラブ人が凄まじい拷問を受けている。吐き気のするその光景を、じっと見つめる白人女性マヤ(ジェシカ・チャステイン)。彼女は、CIAの分析官として、911テロの首謀者とされるビン・ラディンの行方を追っているのだ。

2011年、米国海軍特殊部隊によってパキスタンで殺害されたビン・ラディン。その居所を突き止めたのがCIAの女性職員だったという実話をベースに、乾いたドキュメンタリー・タッチで綴られた、いわゆるミリタリーサスペンスである。女性観客は、普通見ないですよね、こーいう映画。ではなぜこの映画を取り上げたかというと、この手の作品としては非常に珍しく、女性が主人公であることと、女性が監督した映画だからだ。

高卒でリクルートされ、情報分析のエキスパートとなったマヤ。「お前の仕事は殺す相手を見つける仕事だ」となじられる男社会の中で生きていくために、黒のパンツスーツとレイバンのサングラスで身を固め、世界中の危険地域を飛び回り、残酷な拷問から得られる情報をひたすら分析。恋人も友人も持たず、感情はマヒしてしまったかのようだ。

マヤを演じるのは、テレビから映画に進出し、最近売れっ子のジェシカ・チャステイン。毎回全く違う女性を演じて、七変化といった才能を見せている。特に『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』(2011)での天真爛漫な善女や、『欲望のバージニア』(2012)での都会から逃げてきたワケあり美女が、強く心に残っている。

ずいぶん昔、おっかしな映画を観た。銀行強盗で稼いだお金でサーフィンをする犯罪者集団と、潜入捜査官の友情(?!)を描いた『ハートブルー』(1991)。その監督が、キャスリン・ビグロー。180センチ以上の身長で、現在62歳とは思えない美貌を持ち、モデルかアスリートのようである。

そんな美女が作るのは…、女性監督が作っているとは思えない、警察や軍隊や潜水艦など、マッチョな世界の中で、とり憑かれたかのように行動する人物ばかりの映画。2008年には、イラク戦争の爆弾処理班を描いた『ハート・ロッカー』で、女性として米国アカデミー賞史上初の監督賞を受賞してしまった。
『タイタニック』『アバター』のジェームズ・キャメロン監督は元ダンナ。彼の映画の中によく出てくる、≪男社会の中の戦闘美女≫とは、まさにビグローその人なのである。

話を戻して…。感情をマヒさせ生きてきたマヤは、同僚の死に接した後、ますますビン・ラディン探しにとり憑かれていく。もはや私的戦争だ。「100%あそこにいます!」と上司を怒鳴りつけ、殺害作戦を決行させることになる。もし違っていたらどうするんだろうと、なんだか最近話題のリケジョさんをも彷彿とさせる。

女性主人公の作品がほとんどないビグローは、多分に自身をマヤに重ね合わせ、男社会の中での(容姿も含めた)サバイブ、プロ意識や使命感なども描こうとしているのだろうが、監督の意図とは別にして、そもそも≪こんな仕事がある≫ことや≪こんな仕事に従事しなければならない≫こと自体の倫理性についても、しっかりと考えなければいけないだろう。この作品を究極の「お仕事映画」と言うのは、顰蹙だろうか。

 


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