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村井 えり ディレクター兼シナリオライター MURAIERI 世間知らずで勉強もできなかった私にとって、映画は多様な人生の教科書でした。心の奥深くにちょっぴりトゲが刺さるような、女性(と女優)の人生について考えさせられる作品を紹介しますので、是非一緒に考えていただけると嬉しいです。 |
君と歩く世界 |
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『君と歩く世界』 De rouille et d'os (2012) 監督 ジャック・オディアール
映画が始まってもしばらくは、何が起こっているのかよく分からない。貧しそうな父子が、ヒッチハイクをしたり、泥棒をしたり。電車や車を乗り継ぎ、父子は陽光きらめくリゾート地、南仏・アンティーブに来る。もちろんバカンスではなく、離婚したばかりのアリ(マティアス・スーナーツ)は、幼い息子ともども、リゾート地の裏側に広がる貧困地域で暮らす姉夫婦の家に転がり込むためにやって来たのだ。元ボクサーで、いい体格のアリは、クラブの用心棒の職を得る。 ここでもうひとつ、別のストーリーが始まる。観光名所マリンランドのシャチの調教師・ステファニー(マリオン・コティヤール)は、ショーの事故でシャチに両脚を食いちぎられてしまう(!)。そのショックで生きる意欲をなくし自殺まで考えるが、ふと、以前遊びに行ったクラブにいた変な用心棒・アリのことを思い出し、再会する。 やはり、アリは変な男だった。ステファニーと再会しても、脚の障害には無関心。「海で泳がないか?俺は泳ぐよ」と、さっさと行ってしまう。ステファニーが泳ぎたいと言えば、周囲の目など気にせず、彼女をおぶって海に連れていく。≪同情≫という視線が、全くないのだ。同じフランス映画で大ヒットした「最強のふたり」を思い出させる。しかしあの映画と違い、こっちのふたりは“セフレ”になる始末。アリと出会ってステファニーはどんどんたくましくなり、義足で歩けるようにもなる。泣けるイイ話…ではなく、この後、映画はさらなる驚愕の展開に突入していく。 アリは、地下格闘技…賭けボクシングのボクサーになる(!)。血みどろで闘うアリの姿を見て、ステファニーはエクスタシーを感じる。アリも同様に、アフリカ系の大男との対戦で死にそうになった時、ステファニーの鋼鉄の足を見て、自らを奮い立たせる。まるで違うふたつの物語から始まり、混ざり合ったとき、出会うはずのなかった男女は、≪生きること=闘うこと≫にエクスタシーを感じる、いわば同志となるのだ。この辺りのマリオン・コティヤールの、女王様のようなド迫力に震える。2013年、「世界で最も美しい顔」1位に選ばれた彼女だが、全篇ノーメイクで、彼女にとってもチャレンジになっているようだ。 ステファニーの再生の物語かと思いきや、映画は終盤、アリへとフォーカスする。アリは、安易な同情を寄せない反面、ステファニーをセフレの一人として扱うなど、かなりデリカシーのない男である。実はアリこそが、息子とも他人とも社会とも関係を持ちたくなくなって、ただ肉体を酷使することだけを日々の糧とした、心がぽっかり空いた思考停止状態の人間だったのだ。 この映画の原題は「錆と骨」。なんのこっちゃと思ったら、≪ボクサーが殴られて口を切った時の血の味≫という意味らしい(こんなボクシング用語があるとは…)。人生は苦い血の味ばかりかもしれないが、アリの心の扉を開けられるのは、ステファニーしかいないのだ。 |
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