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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) キャリアアップ 2019-09-18
あなたらしく生きるために~バックの言葉⑨

九月に入り、今年もまた大きな台風が日本列島を横断しました。被災に見舞われたみなさまのご無事と復興をお祈りいたします。

九月は台風の季節ですが、それが過ぎると、少しずつ秋の気配が漂ってきます。朝晩の涼しさ、日が落ちる時間も早くなり、夕方になるともの悲しいような雰囲気になります。

夏のさかりは暑い暑いと言いながらも、毎年このころになると、終わりゆく夏を愛おしげに見つめている方も多いのではないのでしょうか。

さて、みなさんは子供のころ、夢を持っていましたか?

そして今、夢を持って生きていますか?

突然なぜこのような質問をしたかというと、

先日、男子大学生にこう問われたからです。

「夢がないのですが、どうすればいいですか?」

私は、一年のうち、3カ月ほどをある大学で教鞭を執っています。

ベンチャー企業の経営者をお招きして講演をしていただき、その後の授業でグループワークをします。そのときの指導をしています。

先日終わったこの講義で、あるとき、学生が冒頭のように、こう言いました。

「ここで講演してくださる素晴らしい経営者の方々は、夢を持てと言います。

夢を持つことが大事なのはわかるのですが、僕には夢がありません。

夢がない人間は、どうしたらいいんですか」

壮大な夢を持ち、志が高い人ばかりを見ていると、そうでない自分がみじめな存在になった気持ちになる。そんな彼の気持ちも、わからなくはありません。

でも現実には、子供のころ描いていた夢を、大人になるまで持ち続けてきた元大リーグのイチロー選手のような偉大なスポーツマンや、あるいは生まれながらに才があり、努力を怠らなかった芸術家や著名人ばかりが、人の生き方ではありません。

そのとき、私はこう伝えました。

「私も、幼稚園の時に“なりたい職業は”と聞かれて“保母さん”とか“ケーキ屋さん”とか、“お医者さん”と、無邪気に答える友達を見て、羨ましかったし、正直不思議でした。

わたしたちはまだ幼稚園生なのに、どうしてもう、そんなことがわかるの?って。

小学生の時も、卒業アルバムに“将来の夢”というコーナーがあって、思いつかなくて、たまたま足が速かったので“陸上でオリンピックに出る”みたいな嘘を書きました。

だから、あなたの気持ちはよくわかります」

学生は、さぞ私も子供のころからキラキラしていたのだろうと思っていたらしく、意外だというような顔をしていました。

私は続けます。

「でも、好きなことはたくさんあって、その小さなことの積み重ねの先に、“なりたい自分”が見えてきました。

夢は無理に見なくていいし、持たなくていいです。

学生時代の私のように、そして目の前にいるあなたのように、“夢”を語れない人もいます。

もちろん夢があることは素晴らしいし、持っている人はそれを大切にしてほしい。

ただ、夢は語れなくても、好きなことは大切にしてください。

好きなことの延長に、きっと何かが見えてきます。

今その好きなことが、将来の仕事に結びつくかどうかなんて、考えなくても大丈夫。

そのかわり、好きなことを大切にして、好きなことが上手にできるようにしなくちゃだめです。それさえわかっていれば、何も心配することはありません」

今は“夢”ブームですよね。

「夢を叶える手帳」とか、「夢を叶える〇〇の方法」とか。

でも、夢そのものがない若者も、きっと多いのです。

生まれたときからすべてが揃っていて便利で、苦労や不便が発明や希望の種になるような時代ではなくなってしまったのです。

いま、夢がないと失望しているその学生にも、

「みんなが夢を持っていて、自分は持っていない。だから自分はだめなんだ、と責めてはいけない。本当は持っているのに気付いていないのかもしれないし、好きなことの積み重ねで夢が拓けてくるかもしれない。人間は一日一日変わるものなのだから、今の自分に一喜一憂しなくていいよ」

と言いました。

そんなときに、ふいにイリュージョンの言葉を思い出しました。

 

最も単純な疑問が

最も深い意味を持っている。

君はどこで生まれどこで育ちどこで何をしようとしているのか?

これらの答えは、君たち自身とともにつねに変化しているはずである。

 

何をしようとしているのか?それはすなわち生きざまであり、夢であり、仕事でもあり、自分の存在意義でもあります。

どうして人は生きるのか。

自分はどこへ向かっていこうとしているのか。

答えは一つでもないし、一人の人生の中でつねに動いているもの。

たとえば、幼稚園のときに「パン屋さんになりたい」という夢を持っていた子が、

学生になったら「たくさんの謎を解き明かす科学者になりたい」と言っても何の矛盾をも感じないように、

人は生き物であり、人生もまた生き物であることを考えれば、すべてが変わっても良いのではないかと思うのです。

仕事や人間関係に悩んでいる大人たちも、

そして就職という節目を目の前に悩む大学生たちも、

きっと真面目に生きてきて、これからも、これまでと同じようでなければいけないと、足を踏ん張ってここまで来たのだと思います。

けれども、しなやかな素材の方が強いのと同じように、人もまた変わり、進化し、成長しながら生きていけば良いのです。

これまで頑張りすぎてきた人たちの心がどうか折れてしまいませんように。

そして柔軟さを身につけたみなさんが、周囲の人をも柔らかくしてあげられますように。

九月は私の誕生月です。私もまた、生まれ変わってよりしなやかに生きていきたいと思います。

秋の風物詩のススキは、しなやかな強さが感じる美しい植物です。

金色に輝くしなやかなススキ。どうかあなたの未来も、金色に輝きますように!

 

Schoenen Tag noch!


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