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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) キャリアアップ 2016-05-18
あなたを強くするローマ人の言葉⑤~塩野七生『ローマ人の物語』

稀代のヒーロー、カエサル(シーザー)、ついに暗殺!かの有名な「ブルータス、お前もか!」という言葉を残し、カエサルは腹心の一人、ブルータスを中心としたグループによって暗殺されます。

思いのほか、あっけなくこの世から姿を消してしまったカエサル。しかし、カエサルの魅力や功績は、国も時代も越えて生き続けています。

著名な歴史家たちが虜になったカエサルの魅力に、「教養」「知性」「気品」が挙げられます。東京ウーマン読者の大人の女性もぜひ身につけたいこれらを学べる言葉をご紹介します。

他者の文化を、自分のものにしなくても尊重することこそ、知性である。(第5巻)

これは、エジプトの女王クレオパトラと、彼女と結婚したローマの将、カエサル最後の政敵となったアントニウスに対する批判の言葉です。

古代ローマ人の見習うべき特徴のひとつに、戦で勝っても、その土地の文化を尊重し、奴隷となった人々にも「仲間」として人間としての敬意を払っていたことが挙げられます。日本と同じように多神教の民であった古代ローマ人は、「神様もいろいろ」いると信じているからこそ「文化もいろいろ」だということが当たり前だと思う気持ちが、市民にも広く浸透していたのでしょう。政治的にも同盟国化や領土化をしても、土着の文化を大切にしてくれるローマ人となら、これからもやっていける。そう感じた敗戦国側の民はローマに従順で、こうして古代ローマ帝国は国土を着々と広めていったのでした。

カエサルもその手法を踏襲する一人でしたが、政敵アントニウスは違いました。アントニウスはカエサルの元恋人でもあった異国の女王クレオパトラと恋仲になり、さらに権力を求めてカエサルと対決します。その際クレオパトラの意向が影響したのか、伝統的なローマ式の敗戦国への対応ではなく、土着の文化を認めずに服従させる方法を取ろうとしたのでした。

ここまで読んで、異文化との接点がない・・という読者もいるかもしれません。でも、これは国が異なっていなくても、身近な世界でもよくあることです。たとえば、転職先の会社と前職での習慣。引っ越した先での地域文化や隣近所の方々の考え方。あるいは、母親になって感じる保護者同士の付き合い方。残念ながら、どの世界にも閉鎖的な人や、自分以外の考え・やり方を認めようとしない人という存在がいることは否定できません。

問題は、そんなとき、あなたならどうするかです。他者を認められない人は、言葉で説明してわかる人ではありません。あなたが知性ある大人の人になりたいのであれば、「ある程度」さし障りのない範囲で付き合いながらも、深入りしないこと、そしてこのような人たちの世界観もまた、あなたが認めてあげることです。「相手があなたの世界観を認めない」という世界観を、あなたが認めることで、あなたはこれ以上余計なストレスを感じずに過ごすことができるようになるはずです。これには精神力も必要とします。けれどもそれらのストレスから解放された時、あなたは「真の知性ある大人」にステップアップしているに違いありません。

さあ、その精神力をどうやって鍛えるのか。どうやって彼らの世界観を乗り越えることができるのか、そのヒントが次の言葉にあります。

 

憤怒と復讐とかは、相手を自分と同等視するがゆえに生ずる想いであり、なしうる行為なのである。(カエサルが)これに無縁であったのは、自らの優位性に確信をもっていたからである。

(中略)後年の歴史家たちは、このカエサルを「真の貴族精神の持ち主」と評する(第5巻)。

あなたにも、苦い思い出、悔しい思い出のひとつやふたつ、持っていることと思います。もしそれをあなたが笑って話せているなら、それはそのときの「思い」を作った相手のことを赦しているからです。当時の相手よりも一段も二段も、精神的に上に立っているからこそであり、当時の自分自身の劣等感や屈辱感を乗り越えられたということでもあります。それを、人は「自信」と呼ぶのです。

「あの人が憎い」「あの人に悔しい思いをさせられた」・・・。そんな思いから解放されたいとあなたが心から願ったとき、それはつまりあなたが自分の心に気高さを求めたときなのです。

生まれながらの貴族とはいえ、「一流の貴族」ではなかったカエサルですが、教養ある母に深く愛され培われた強烈な自己肯定観と、自身のキャリアを積み上げたことで得たゆるぎない自信が、周囲への怒りという感情を見事にシャットアウトしているのです。

あなたも、そして私も、残念ながら今からでは貴族にはなれませんが、こうした気高い信念を持つことで、周囲の僻み、やっかみ、無理解さをもろともしない強さを身につけることならできるかもしれません。そんなあなたになれたなら、いつの間にか周囲からの煩わしさから解放され、いつか一目置かれる存在になっているはずです。かのクレオパトラも虜にした稀代のヒーロー、カエサルの知性と気品を見習って、ぶれることのない凛とした女性を目指しましょう。


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