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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) キャリアアップ 2015-08-19
日本で一番熱い男!「松岡修造」さんの言葉~新シリーズ『言葉のチカラ』~

スポーツ選手が引退して指導者になったあともなお、長きに渡り「熱い男」と評される人は、日本ではまずこの人しかいないでしょう。

夏真っ盛り!の今回は、この季節にもっともふさわしい男、松岡修造さんの熱さの裏に隠された言葉をご紹介します。

プレーヤーとして日本で最も熱いのは、もちろん錦織圭選手ですが、その錦織選手を若い時に育ててきたことでも有名です。

188センチの長身に、切れ長の瞳。惚れ惚れするようなスマートでクールな外見とはまったく逆の形容詞「熱い!」松岡修造さん。自らの「心の弱さ」を武器に、世界で通用する若手の育成に心を燃やします。この夏、あなたも熱い心を取り戻しませんか。

 

僕は自分が弱かったから、人の弱さも知っている。

だからこそ、僕の元へ来る「世界一」を目指す子供たちには

苦手なことからも、絶対に逃がさない。

彼らにとって大切なのは「今」じゃない。20年後、どんな選手、どんな人間になっているかが重要なんです。

 

御曹司としても有名な松岡修造さんですが、天は二物も三物も与えるもので、その恵まれた環境や容姿だけでなく、スポーツの才も天は彼に与えました。最初に能力を発揮したのは水泳。小学生のときにはすでに全国レベルの成績を持っていました。

しかし、当の松岡さんはそこに物足りなさを感じていました。「自分を表現するのにふさわしいスポーツではない」。そうして小学五年生のときから本格的に始めたテニスに転向したといいます。習い事は6歳までからと言いますが、スポーツはそうとは限らないようです。松岡少年はテニスでも才能を発揮し、すでにその高いレベルにまで達していました。

ところが一度はテニスから離れます。「今思えば甘い逃げだった」と語る松岡さん。それでもやはりテニスの道に戻る決意をします。

「テニスから離れたのは二カ月でしたが、戻るからには、日本でもっとも厳しいところへ身を投じなければならないと思いました。」

高校生にして、自分がしてしまった「逃げ」、そして「相応しい戻り方」を冷静に考えていたと言うから驚きである。

「本当に根性があれば、どんな環境でもやりきれたはず。だからあの時の自分はある種の甘えがあったと思います。でも自分の性格から考えて、やはり厳しい中にいなければ磨かれないと思っていました」

それからは逃げることなく「修造街道まっしぐら」。高校ではインターハイで優勝。翌年にはウィンブルドンジュニア大会に出場と好成績を重ねてきました。そんななか、世界的コーチに「世界へ出ないか」と声を掛けられ、長らく日本男子のテニス界を牽引してきたことは読者の方々もご周知のとおりでしょう。

そして現役引退後、コーチとしての思いを語ったのが上の言葉。自分の経験を冷静に分析してきたからこそ、目の前にいるジュニアたちの弱さにも目をつぶらない。「世界」を目指す子供たちに、上っ面の優しさはいらない。彼らを一流に育てることこそ、コーチとしての優しさであり、使命である。そう信じ抜く松岡さんの言葉が、少なからず人生の要所要所で甘やかされてきた自分の心に突き刺さりました。

 

個性を引き出し、技術を磨くことは重要ですが、

それ以上に大切なのは人間としてのチカラ。

 

どんなに素晴らしい必殺ショットを打てようとも、試合の中で繰り出される一つひとつの玉を相手のコートに返さなければゲームオーバー。テニスの世界でもそうですが、どんなに高い山も、どんなに複雑な技も、一歩一歩、一つひとつの基本が出来なければ意味がありません。言葉ではわかっていても、実際の生活となるとどうでしょう。

教育の現場では「個性」「個性」と言うばかりで、基礎をないがしろにしている、というケースもあります。もちろん個性を潰すことはあってはならないでしょうが、基本なきものは何者にもなれないというのは、どの世界でも同様です。

いまや教える立場の長い松岡さんが懸念を示したのも、教育現場。人間としての力をもっと鍛えて、自分自身に自信の持てる子供に育ってほしいと心から願っています。

教育現場に口出しをする親。その親に戦々恐々として信念を貫けない教師。お膳立てされることになれた子供たち。松岡さんの目には、「自分の足で大地を踏みしめ、踏ん張り続ける力」「自らの前に立ちはだかる壁を乗り越える機会」を奪われてしまっているように映ると言います。

「だからこそ、僕は嫌な大人に見えようとも、絶対に彼らを壁に立ち向かわせるんです」

人は人。自分は自分。確固たる信念を持って、けっしてぶれることがない。

そんな松岡さんの存在は、いまや「クール」になりすぎた日本では稀有な存在かもしれません。まだまだ青春真っただ中の若い男女が「うざい」「だるい」「めんどくさい」と、怪訝そうな顔をする今の日本。若者たちの蒸し暑げな表情に覆われたこのご時世だからこそ、まっすぐなほどの、その「熱い」姿勢が、むしろ爽やかに映るのでしょうか。

熱く語れる大人は、やはり素敵ですよね。


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