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高橋 多佳子 ピアニスト 所属:ミリオンコンサート協会
音楽とともに歩んでいるピアニスト人生。ポーランドでの留学生活、ショパンコンクールへの挑戦など様々な経験を積み重ねてきました。 失敗も成功もありましたが、それら全てが自分を成長させる糧となっています。 そんな経験から少しでもお役に立てる情報を発信できたらと思っています。
ピアニスト高橋多佳子の前を向いて歩こう ライフスタイル 2015-04-11
「ポーランド滞在記」〜変わるものと変わらないもの

 この3月中旬から10日間、ポーランドに行っていました。先月の本コラムに1988年当時の、物資が非常に乏しくとても苦労したポーランド留学生活について書きましたが、その時から27年、今や同じ国とは思えないほど豊かな国へと変貌を遂げています。

首都ワルシャワの中心部には高層ビルが立ち並び、街のいたるところに大規模ショッピングセンターがオープンしています。ピカピカとまばゆい光に溢れた店内には、美しい洋服やアクセサリー、靴などが綺麗にディスプレイされ売られています。留学当初は薄暗い店内にほとんど何も売られていなかった食品も、日本以上ではないかと思えるほど豊富な品々がたくさん! それこそ色とりどりの野菜や果物、お肉、チーズなどキロ単位で安く売られていました。特にハム類、チーズ類の種類の多さと味の良さは日本とは比較になりません。

 街中には素敵なレストランもたくさん増えて、皆さん笑顔で食事を楽しんでいます。日本食ブームなのかたくさんの寿司バーもあり、なんとラーメン屋さんまで! 特筆すべきは、食べ物屋さんはじめ、ほとんどの公共の場が禁煙なこと。苦手なタバコの煙に悩まされることは1度もありませんでした。

 

今回の旅の目的は、ポーランド中部の町アントニンで開かれた《第13回青少年ショパン国際ピアノコンクール》の審査です。会場は若き日のショパンも滞在したポーランド貴族ラジヴィーウ公爵の夏の館で、非常に珍しい木造建築のラジヴィーウ宮殿です。実は1990年にこの宮殿で行われたラジヴィーウ国際コンクールで私は1位をいただいていて、非常に思い出深い場所なのです。その後何回か訪れましたが、当時から何一つ変わっていません。おそらくその姿はショパンが訪ねた200年近く前からほとんど変わることなく、美しい森に囲まれて堂々たる姿を保っているのでしょう。

 コンクールは世界11ヶ国から18歳までの才能あふれる若手ピアニストが集まり、素晴らしい演奏の数々を披露してくれました。

 優勝した、17歳のピォトル・パヴラク君(ポーランド)や、2位無しの3位に入った16歳のマリエ・スムニコヴァさん(チェコ)の、ショパンの心の揺れを見事に表現した演奏に強い感銘を受けました。日本にも巧みな演奏はたくさんあるかもしれませんが、彼らのようなショパンの内面を聴く人に強く感じさせる演奏にはなかなかお目にかかれません。

 その違いが何なのかを言葉で表すことは容易ではありませんし、彼らが元々持っている感性と言ってしまえばそれまでです。でも、そのような感性を育んでいるヨーロッパの空気に触れることでしか得られない何かがあるのではないでしょうか。例えばラジヴィーウ宮殿の悠久の時を経た神聖なるたたずまい、今にも物陰からショパンが現れそうなこの雰囲気を感じるだけでも、演奏に必要なイマジネーションを豊かにすることができるように思われます。 

 ワルシャワは近代都市となりましたが、旧市街と呼ばれる本当に美しい一角があります。そこは、第2次世界大戦で完全に破壊されたのですが、市民がレンガを1つ1つ積み上げて、中世からの変わらぬ姿を再現させた場所です。夕方には多くの市民がのんびりとお散歩を楽しんでいます。帰国前日、私もその中に加わってお散歩しました。今旧市街の街並みをのんびり歩く穏やかな表情のポーランドの人々を見て、本当に良い国になったなと、私までたいへん嬉しくなり、また、色々な時代に思いをはせたのです


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