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■ 東京ウーマンレポート


サシン・N・シャー氏(メットライフ生命保険株式会社 代表執行役 会長 社長 最高経営責任者)

日本において保険会社というのは、女性営業職員のイメージが強いからか、女性活用が大変進んでいる業界に見えます。実際はいかがですか。具体的に、女性は企業にどのような影響を与えていますか。
確かにメットライフ生命には沢山の女性社員がいます。約1万人の社員のうち、全体の33%が女性です。ただ一方で、マネジメント層には約12%しか女性従業員がおりません。しかし、私たちは営業部門に多くの女性を配置することに成功していますし、このままトップ層にも女性を増やしていける可能性を秘めていると考えています。

「女性」がどんな影響を企業・職場に与えているかという点に関しましては、まず言えるのは「視点」です。
彼女たちは全く違った世界観、視点を持っています。そして、この違った視点というのは非常に重要です。多様性のある思考を議論の場に提供してくれますし、創造性を持って、新しい解決方法を与えてくれます。
ですので、多様性のある考え方、これが女性が与えてくれる最も重要な価値だと思います。

そして、ロールモデルという位置づけです。本日講演を聞いていても思いましたが、今日、女性のロールモデルという存在がいるだけで、若い女性達がいかに志を達成する上での自信が持てる環境となるのかを確信しました。女性のロールモデルの存在は女性社員に与えるモチベーションという意味においても大変重要な影響力を持ちます。

そして、女性は、企業がいかに女性を惹きつけて、そして、女性を成長させていけるかの正しい方向性を与えてくれる存在です。明らかですが、男性に限ったリーダーのチームでは、女性をどのように働く場に投入していくかという議論は出来ません。女性のリーダーが必要なのです。それらの女性達が、何が求められているのか、そして、何が問題なのかをもっと具体的に直接的に言ってくれるはずです。

私達にとって女性を活用するビジネスケースはとてもシンプルです。お客さまの50%は女性なのです。しかし、12%の女性しかマネジメント層にいない。つまり、戦略的にもお客さまの意向を完全に反映できていないということです。ですから、2020年までにマネジメント層の女性比率を30%に引き上げることが目標です。これは目標というだけではなく、このプロセスによって、よりお客さまのニーズに応えることが出来るという重要性も秘めています。
2020年までにマネジメント層の女性比率を30%にするというのは、政府と全く同じ目標なのですね。
その通りです。ちょうど現在12%の我々にとって、約5年後に2.5倍となる30%という目標値は非常にいいターゲットだと思います。それはただ単純に女性をマネジメント層に当てればよいというのではなくて、もっと総合的に、雇用や育児へのアプローチなどを新しく作っていくこともこのゴールには含まれています。

ですから、30%というのはビジョンを従業員に提供出来、管理運営する上においても我々にとって非常によいターゲットです。勿論、この30%というのが最終ゴールではありません。今後5年間で我々は様々な環境を整えていかなければならないと考えています。
今、メットライフ生命は「JWBN(Japan Women’s Business Network)」というものを推進していますね。これは一体どんなものなのでしょうか。
JWBNというのは、本社メットライフが世界的にダイバーシティの推進に力を注ぐために始めたものです。そのダイバーシティ(組織での多様性)の中でも、特に女性にフォーカスしています。女性をいかに惹きつけ、長く勤務してもらい、そして、彼女たちを責任ある立場に配置していくかということを考えています。

これはアメリカ本社だけではなくて、世界のメットライフの取り組みでもあるのです。このビジネスネットワークを通じ、女性達が集まり、議論して、声を集めてマネジメント層に上げてもらう、女性同士がネットワークを構築し、キャリアパスや成功・失敗体験、ワークライフバランスへの取り組みなどの情報や考え方を共有するなど、多角的・多面的な目的を持つネットワークなのです。

日本でもこの取り組みをしており、今、私も沢山の情報・意見交換をしています。その中で、企業として何をし、何を検討していけばいいのかを見極めています。勿論、そこには単一でなく沢山の課題が見えてきます。また、会話を通して、何を一番に優先させるべきなのかも見えてきます。これらは企業のダイバーシティにおいて、健全なエネルギーを醸成することにもつながります。

女性のネットワーク構築だけではありません。よくネットワーキングに参加した多くの女性から、「こんなところに参加できると思わなかった」「女性がこんな仕事を出来ると思わなかった」などの声を聞きます。何でも可能なのです。不可能はないのです。仕事というのは一つのタイプだけではありません。企業の縦横の関係を超えてネットワークを構築することによって、不可能なことはないと知ってもらうのです。また、これらの活動を通して、女性達に自信も与えることが出来ると思っています。
メットライフ生命は確かに日本にある他の企業に比べ、女性活用が随分進んでいるように見えますね。ただ、ご存じのとおり、国際的なランキングにおいて、日本の女性活用はかなり低いところに位置しています。実際日本に来られて、男女間の違いのようなものを感じることはありましたか。
沢山の男女間のギャップがあるように私は感じています。インドで生まれて、アメリカに住んでいた私個人の経験から言うと、男女間の違いがない国、完璧な国などはないと思うのです。ダイバーシティの先進国であるアメリカにおいてでもです。

ただ、日本においては、確かに厳然たる男女間の大きな違いが存在すると感じています。伝統的な役割として家事、育児や介護にかかる長時間労働、成功に対する定義、評価制度、特に保育の場も十分に提供されているとはいえません。また、男女平等という教育。これらの問題に対して、いくつかの場所では少しずつ改善も見せてきているし、民間企業、例えば我々メットライフもそうですが、取り組み始めているところが出てきている。

政府もこれらの要求に対し、応え始めてきている。しかし、政府だけでも出来ないし、民間だけでも出来ない。政府と民間企業のパートナーシップが本当の変化を起こすために大変重要になってくるのだと思います。
色々な企業トップにインタビューしてみると、特に男性の経営者で、何故ダイバーシティに取り組まなければならないのか、重要性の認識が進んでいないような気もしています。中には、CSRのため、会社の評判のためにやっていると口に出す方もいました。実際、ダイバーシティマネジメントが企業にどんな恩恵を与えるのか、利益を上げることにつながるのか、どう説明しますか。
いい質問ですね。先にも申しあげた通り、ビジネスケースで考えると、これはシンプルで、お客さまの半分は女性な訳です。将来を見越して考えても、今後、多くの女性達が保険を必要としてくるし、そして、ご自身で保険を購入するという決断をされることになるでしょう。このビジネスケースが提示しているのは、女性なしではマネジメント層がお客様の声を正しく代弁することは出来ないということです。さもないと、変化の激しいグローバルの中で成功することは難しいでしょう。

当社では「カスタマー・セントリシティ」を経営の重要戦略に位置づけています。お客さまをあらゆる業務の中心に据えて、お客さまが求められるニーズにお応えすることで「お客さまから最も選ばれる生命保険会社になる」ことを会社のビジョンに掲げています。このビジョンの達成に、ダイバーシティの向上は切り離せないものと考えています。

二つ目は、女性の生産性と能力の活用です。多くの日本女性を見てきましたが、ほとんどが良い教育を受けていて、よく働き、クリエイティブであり、起業家精神にも富んでいる。また、非常にチームワークが上手い。そして、違う性質の人を管理するのに長けている。これらの強力な長所は「良いリーダー」の条件に通ずるところがあります。

これらのことを企業トップは考える必要があると思います。また、経験というのも重要です。もしあなたが他のマーケットの経験を得た時、違うやり方というのを見ることになるでしょう。女性もそうで、これまで考えもしなかった新しい方法を持って来てくれるかもしれない。ですので、それらに対して、オープンマインドで受け止めることが必要になるでしょう。
では最後に、リーダーになりたいと思っている女性に対してアドバイスをお願いします。
Just Do It! (とにかくやってみなさい)ナイキのスローガンじゃないですよ(笑)。どんなことだって可能なのです。Just Do It(とにかくやってみなさい)、そして、Don’t Worry(心配しないで)。

何においてもそうです。男性だけにたくさんの選択肢があるのではなく、女性にも同じようにチャンスがあるはずです。自分自身のキャリアを決めるのは他の誰でもない自分自身なのだと自覚し、自らをコントロールすることが重要です。

Just Do It(とにかくやってみる)、
Take Control(自らをコントロールする)、
Aim High(高みを目指す)。
力強いメッセージ、有難うございました!
サシン・N・シャー
メットライフ本社 シニア・バイス・プレジデント
メットライフ生命保険株式会社 代表執行役会長 社長 最高経営責任者
1999年メットライフ入社。2011年メットライフ(当時 メットライフアリコ)生命保険株式会社の最高執行責任者(COO)。2013年8月1日付で代表執行役 会長 社長 最高経営責任者に就任。メットライフ入社前は、バンカーズ・トラスト、ナショナル・ディスカウント・ブローカース・アンドパーシング、ジャネット・セキュリティーズ・コーポレーション、シンドラーエレベーター、アライド・シグナル、ヒューレットパッカードなどに在籍。スティーブンス・インスティテュート・オブ・テクノロジーで、電気工学の理学士とビジネスマネジメントの修士の学位取得。また、マネジメントプロフェッショナルの紳士録とナショナルビジネスリーダーの紳士録に選出。2014年3月から米日経済協議会のボードメンバーを務める。
谷本 有香
経済キャスター/ジャーナリスト
山一證券、Bloomberg TVで経済アンカーを務めたのち、米国MBA留学。その後は、 日経CNBCで経済キャスターとして従事。CNBCでは女性初の経済コメンテーターに。 英ブレア元首相、マイケル・サンデル教授の独占インタビューを含め、ハワード・ シュルツスターバックス会長兼CEO、ノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授、 マイケル・ポーターハーバード大学教授、ジム・ロジャーズ氏など、世界の大物著名 人たちへのインタビューは1000人を超える。 自身が企画・構成・出演を担当した「ザ・経済闘論×日経ヴェリタス~漂流する円・ 戦略なきニッポンの行方~」は日経映像2010年度年間優秀賞を受賞、また、同じ く企画・構成・出演を担当した「緊急スペシャル リーマン経営破たん」は日経CNBC 社長賞を受賞。 W.I.N.日本イベントでは非公式を含め初回より3回ともファシリテー ターを務める。 2014年5月 北京大学外資企業EMBA 修了。 現在、テレビ朝日「サンデースクランブル」ゲストコメンテーターとして出演中
http://www.yukatanimoto.com/
衣装協力(谷本有香氏):Otto, オットージャパン
撮影協力:竹内佑