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■ 東京ウーマンインタビュー


SNSで育んだ日本のカワイイを世界へ。尾崎美紀さんインタビュー

SNSで育んだ日本のカワイイを世界へ。
尾崎美紀さんインタビュー

大学生の時に芸能活動を行い卒業と同時に起業。フォロワーの「これがあったらいいな」をオウンドメディアで発信、さらにコスメブランド事業を展開するDINETTE社長の尾崎美紀さんに、引っ越ししたばかりの代官山のオフィスでお話を伺いました。
フォロワーからの「あったらいいな」を発信

片岡:メディアとコスメという2つの事業を展開されているそうですね。

尾崎:最初に立ち上げたのは動画メディアビジネスです。主にインスタグラムでコスメや美容の情報を発信するメディアを作り、広告タイアップでマネタイズをしてきました。

片岡:ファッション、コスメ情報をインスタで発信している人は他にもたくさんいると思いますが、成功している強み、特徴はなんでしょうか。

尾崎:初期からユーザファースト、ユーザとのコミュニケーションによる距離の近さを大事にしてきました。簡単な質問にも細かく詳しく答えたり、DMに真摯に対応したり、コンテンツも自分たちが決めるというよりは「次に見たい動画は何ですか」「どういうコスメの情報知りたいですか」というヒアリングを元に作り続けました。ユーザが見たいものにこだわって発信した結果、現在のような形になってきたと思います。

片岡:具体的にどういう女性をイメージしてコンテンツを作っていますか。

尾崎:こういうメディアはおしゃれ過ぎていても近寄りがたい存在だと思うんです。例えばVOGUEのようにモノトーン系にしてしまうと感度が高すぎてマスな女の子を拾えないですし、逆にチープ過ぎても動画として見る気が失せます。なので尖りすぎず、ある程度クオリティはちゃんとしているけれど、全体的にマス層の女の子が可愛いと思ってくれるようなトンマナを作るように意識しています。いろんな方に見てもらいたいというのが本音ですね。

片岡:いわゆる「カワイイ系」ど真ん中の人達がターゲットということですね。尾崎さんご自身はそういうど真ん中の方ですか。

尾崎:会社を立ち上げた24歳の時はど真ん中だったと思います。私自身も年々変化してきていますが、今もメディアを作っているのは23、24の子達なので、そこは年齢層を変えずに発信しています。

SNSには総フォロワーで20万人以上いますが、毎日100前後くらいのDMやコメントをもらっています。ある動画を載せるとそれにまつわる「これが見たい」「こういうとこが悩みでした」という反響を情報として得られます。普通インタビューでもしない限り得られない情報を得られるところが強みですし、SNSで発信し続けてきて良かったと思います。

一冊の本から希望を胸に起業

片岡:学生時代に起業されたそうですね。

尾崎:大学に入学してすぐ芸能活動を始めて4年生までずっと続けていました。しかし今後の進路を考えたときに1回ちょっと他のことやってみたくなり、就活をしてみました。内定も頂いたのですが、あまりワクワクできず会社の元に収まることが想像できませんでした。

そのころちょうど「GIRL BOSS」という本を読みました。フリーターで社会保険料も払えなかった20代前半の女の子が古着とか自分の洋服をeBayというサイトで売り始めるようになって、そしたら凄くウケてその後にネットのショップをオープンし、数年でアメリカの若い世代に人気のアパレルまで成長した会社の話があるのですが、その原作にあたる本です。「あ、こういうこともできるんだ」という希望が持てました。元々起業には興味がなかったのですが、女性が何かをやるのは格好いいと思っていたので、自分でできないかなあと考えました。

片岡:一人で始めたんですか。

尾崎:はい。今でこそプロのカメラマンが撮影していますが、最初は自分の携帯のアプリで撮って編集して載せていました。お金もないまま始めているので、できることからやろうと思いました。何十人もの友達にヒアリングしたり、美容雑誌を読んで分かりにくいと思った部分、見ていて「これが動画だったら分かりやすいのに」という情報、例えばアイラインの引き方等をHow to動画化していったんです。

片岡:どの辺りから手ごたえを感じましたか。

尾崎:最初に感じました。というのも、クオリティの低い動画でも意外と再生が回っていたんです。だからハッシュタグにこだわってみたり、どうしたらインスタのフォロワーが増えるか等、他のアカウントを見ながらずっとインスタにへばりついて試行錯誤し続けました。

片岡:意外と地味なんですね(笑)。

尾崎:張り付いているうちに、伸ばし方とかある程度KPIとして数字を追っていくと伸びていることがありました。一時期フォロワー数の伸びが止まってしまい落ち込んだ時期もありましたが、それもすぐ乗り越えられて、「やるって決めたからやろう」みたいな感じで続けてきました。

片岡:今KPIという言葉をさらりと使われましたが、どこかで勉強したんですか。大学でマーケティング勉強している学生でも2年生ぐらいまではその言葉って出てこないです。

尾崎:起業するにあたって一通り起業の有名な本を読んだのですが、実際実務に活かさないと全然わからなくて、あまり本を読まなくても良かったなって思っているぐらいです(笑)。むしろ実際働いてみてからの方が学びや吸収が多くて、例えば先輩の経営者にアドバイスを頂く時とか、経験がある方と話すタイミングでそういうワードがいろいろ出てきて、それを自分なりに吸収してきました。

片岡:尊敬される女性経営者の方はいらっしゃいますか。

尾崎:DeNAの南場智子さんです。お会いさせていただいたこともありますが、ガッツがあり格好いいなと思いました。男性の経営者だと同じ化粧品業界でメンズ向けでバリバリやってるバルクオムの野口卓也社長と、DtoCのアパレルをずっと最先端で引っ張ってきた3Minuteを立ち上げた宮地洋州さんです。

仕事は「忍耐」がポイント?

片岡:本を読んでマーケティングを地味にちゃんと勉強してやられてきたことと、学生時代にされていた芸能活動は一見相反するように思えますが、尾崎さんご自身はコツコツ派なんですね。

尾崎:芸能の時はマネージャーさんに恵まれていい仕事を持ってきていただいていました。努力するポイントは異なりますが、耐えるという意味では似ているのかもしれません。

片岡:耐える(笑) 。

尾崎:「忍耐」っていうワードはどこの業界でも一緒だなと思います。モデルをやっていた時にとあるオーディションを受けたのですが、初めて受けた時は落ちてしまったんです。けどもう1回それに向けてチャレンジしました。1年間ダイエットやウォーキング、自分を見直すレッスンを受けたり色々努力を重ねた結果、翌年はグランプリを取ることができました。落ちた時点で諦めていたらそこで終わりですが、自分ができると思ったことを信じて忍耐したことで結果に結びついたので、そういう部分はすごく似てると思います。マイナスの時にどれだけ頑張れるかというのは、経営も同じですね。

片岡:忍耐とかいう言葉が出てきてちょっと新鮮です(笑)。

クリエイティブには答えがない

片岡:インスタに興味があって、インフルエンサーになりたい子はたくさんいると思うんですが、普通はなれないです。そういった人たちに、どこから始めたらいいかなどアドバイスやレコメンドがあればいただけますか。

尾崎:例えば受験は答えがありますが、自分が生み出していくクリエイティブの方は答えがないから全部自分で試さないといけないと思っています。私の場合は、例えば一個のコスメにしてもどういう見せ方がいいのか、サムネイルはどういうテキストが良くて何を訴求するコンテンツだったらウケるのかみたいなのを、一つのコスメで何種類も試してみました。 上げる時間帯もアクセス数がこの時間は多いけどこの時間にあげた方が当たるのかとか、1時間ずつ変えてみたり、今流行っているハッシュタグは何で、これを使ったらほんとに見てくれるのかなとか、コスメ以外の関係ないハッシュタグも実は流入元になったりするのかなとか、そういうことを地道に数か月位ずっとやってきて、それでやっと今PDCA回るようになったんです。先生もいないですからね。

今のメディアもフォロワー0人から始めています。何が正解というのはないので、自分の目指したいものだけを想像して、こういう情報を発信したい、こういう子たちに見てもらいたい、その見てもらいたい子達はいつ見ているのか、何を見たいのかを細分化してくのが一番大きいと思います。とにかくこだわり続けるしかないんです。たまに「インスタの運用を始めてまだ1000人ぐらいしかいないんですが、どうやったらフォロワー伸びますか」とか聞かれますが、もっと頑張んなよと(笑)

片岡:そんな、ふわっとした質問するなよと(笑)

尾崎:そうです。「これだけいろいろやったけどわからない」だったらまだ分かりますが、まだ何もやってなくて、「5個ぐらい載せてみたけど伸びないんです」とか当たり前じゃんって思います(笑)。

ある程度基礎を作るまでは自分で何でも試してみる。動画をやってみればいいのか、インスタをやってみたらフォロワーがついてくるのか、ストーリーで情報を集めてそれをコンテンツ化してみようとか結構できることがあるから、ある程度試してからできないに陥る方になってほしいなと思います。でもそこに時間をかけ過ぎずに、もうダメだったら次、とすぐに行動できるような考え方も持っているといいかもしれないですね。

片岡:考えて理論からやるタイプではなく、いろいろやって失敗して積み重ねてというタイプなんですね。ありがとうございます。学生にそういうこと言うと色々面倒くさいんですよ。

尾崎:確かに私も、大学生で全然起業することを志望してなかった時にそういうことを言われたら受け入れられなかったかもしれないけど、自分の会社としてやってるから、当たり前のことですが責任感も違うじゃないですか、それもあると思うんです。

片岡:そういった経営者の責任感みたいなものって、起業した当初から持っていましたか。

尾崎:資金がショートしそうになったタイミングとか、社員が増えてきたとか、背負うものが大きくなってきたことで責任感を意識し始めるようになりました。

片岡:資金調達のコツはありますか。

尾崎:各投資家とかVC(ベンチャーキャピタル)とかによって全然違っていて、私のビジネスモデルも会社によっては否定されたし、「メディアだけやっていても伸びないからやめなよ」と言われた時もありました。そういう中でもいかに味方を見つけるかだと思っています。メディアだけやっている状態で「コスメあります。でもまだ出してないけど応援してください。」と言った時に応援してくれる人をどうやったら集められるか。「自分の思いを知ってもらう」ことと「こういうビジネスモデルでこうなって数字が出て行くんです」ということを、きちんと伝えられるかどうかが大切だと思います。

片岡:そうですね、いわゆる起業家として説明できるかどうかですよね。

尾崎:私は最初できなくて、自分の会社のことすら上手く伝えられませんでした。それでカンペを用意してそのまま読み上げるということをパソコンの裏に隠してこっそりやっていましたが、今は当たり前に何もなくても喋れるようになって、それも何回もやってきたからだなぁと思っています。最初は上手くいかないけれど、経験を重ねることで資金調達も上手くできるようになりました。

コスメブランドで次のステップへ

片岡:最近リリースしたコスメブランドの話をお聞かせください。

尾崎:ユーザからの「あったらいいな」という要望を集めたPHOEBE BEAUTY UPというコスメブランドを立ち上げました。ブランドのSNSでも「使ってみたらこうでした」とか「次はこういうのが欲しいです」といった反響が来るので、それに基づいて商品を改良したり随時アップデートしています。コスメブランドを作るにあたって、ユーザからヒアリングした中で一番多かったのが「目を大きく見せたい」ということでしたので、まずはアイラッシュセラムというまつげ美容液をリリースしました。

これは普通にまつげに塗ることで自分のまつ毛を育てて長くしていくアイテムで、その人が持つ素材が活かせることがポイントです。まつ毛を伸ばすことイコール目が大きいにつながるし、かつ長くなるとマスカラも塗りやすくなってメイクもしやすくなります。 もちろんエクステをしている人にも使えます。

次に多かったのが肌の悩みだったので、フェイスマスクをリリースしました。これはヒト幹細胞培養液という他社が使っていない成分と、ナタデココに含まれるぷるぷるの素材を使っているのが特徴です。肌の悩みを解決できる商材で、ニキビで荒れている時でも使えるし、毛穴の引き締めもできるので、オールマイティに皆さんに使っていただけるような存在になると思います。

片岡:お客様のお悩みの優先度に合わせて商品を考えるんですね。

尾崎:はい、基本的にそういう考え方で商品開発しています。

日本の「カワイイ」を世界へ

片岡:最近のファッションやコスメに対する人々の傾向についてお聞きしたいのですが、例えば同じ「カワイイ」でも変化を感じますか。

尾崎:以前は、プチプラで揃えたい子達は高いデパートコスメには興味がなく、あえて情報を収集しなくてもいいと思っていたと思います。ところがメディアが増えたことによって、国内外問わず色々な価格帯のブランドの情報を得られるようになりました。どのブランドにもある程度カワイイ系のアイテムがありますので、その中から自分の好みに合わせて選べるという意識が浸透してきたと思います。

片岡:選択肢が増えたんですね。

尾崎:その人の個性とかスタイルに合わせたカワイイを各自で選べるようになったということですね。例えばツヤとマットでいうと、ツヤが好きな子はそのラインでいろんなブランドを見たり情報を得ることができるようになったんです。

片岡:今後の事業展開についてお聞かせください。

尾崎:現在プロダクトは2つですが、メディアは私が入って行かなくてもある程度社員で回せるようになってきました。コスメはまだ自分が主になって動いてる部分があります。コスメブランドは、全国の女の子たちがこれから出していくラインナップのうち、何かひとつは持ってるよね、みたいなブランドに育てていきたいと思っています。

知名度においてもまだまだなので、ここからブランドを育てていきたいです。3年以内には出したいラインナップをすべて出し終える予定です。そこから先はアジアなど海外進出を目指しています。日本の「カワイイ」は海外でもウケるので、世界に広げていけるブランドになったらいいなと思っています。

profile
尾崎美紀さん
DINETTE(ディネット)株式会社 代表取締役CEO
名古屋出身。旭丘高校、中央大学総合政策学部卒。
大学在学時に芸能活動を行い、美容に触れる機会が増え、自身も興味を持ち始める。
就職活動で大手企業から内定を貰うが、
自分のやりたいことのために起業を選択し、
2017年3月大学卒業とともにDINETTE株式会社を設立。

会社HP https://dinette.me

PHOEBE BEAUTY UPブランドサイト:
https://phoebebeautyup.com/gold/

PHOEBE BEAUTY UP instagram アカウント
https://www.instagram.com/phoebe_beautyup
 

(取材:2019年11月)

片岡英彦
株式会社東京片岡英彦事務所代表/東京ウーマン編集長
京都大学卒業後、日本テレビで、報道記者、宣伝プロデューサーを務めた後、アップルのコミュニケーションマネージャー、MTV広報部長、日本マクドナルド・マーケティングPR部長、ミクシィのエグゼクティブ・プロデューサーを経て、片岡英彦事務所(現:株式会社東京片岡英彦事務所)設立。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。フランス・パリに本部を持つ国際NGO「世界の医療団」の広報責任者就任。2013年、一般社団法人日本アドボカシー協会を設立。戦略PR、アドボカシーマーケティング、新規事業企画が専門。東北芸術工科大学 広報部長/企画構想学科 教授。
カメラマン:井澤一憲