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■ 東京ウーマンレポート


「女性の活躍とダイバーシティ」にみる、プロジェクトのあり方について

「女性の活躍とダイバーシティ」にみる
プロジェクトのあり方について

2015年10月22日、第五回コラボ TOKYO LATE BIRD「女性の活躍とダイバーシティ」シンポジウム(主催:Global Taskforce、共催:TOKYO EARLY BIRD早朝朝食交流勉強会、自民党中央政治大学院)が開催された。雨の中の自民党本部の会場はほぼ満席、また時間もギリギリまで延長となるなど、パネリスト、参加者ともにこの問題への関心の高さをうかがわせる勉強会であった。スピーカー等登壇者は以下の通り。

・スピーカー
元内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画)、自由民主党人事局長 参議院議員
猪口 邦子(いのぐち くにこ)氏

・企画・ファシリテーター
谷本有香氏:経済ジャーナリスト(東京ウーマン副編集長)

・パネルディスカッション
佐々木裕子氏:株式会社ChangeWAVE代表
山中英嗣氏:グローバルタスクフォース代表

猪口元大臣からご本人が初代特命大臣として関わり、現在の内閣の主要政策の一つにもなっている少子化、表裏となる女性支援政策についてのご解説、また学究の立場からみえた「政治で大事な事」「政府(大臣)として大事な事」などを伺った。

今日のテーマとなる女性の活躍は少子化対策と表裏で模索がつづいてきた。猪口氏が初代特命大臣としてそんな少子化に取り組んだのは、小泉内閣2004年にさかのぼる。特命大臣として対応を開始した翌年には出生率の減少に歯止めがかかるなどわずかとはいえ成果があり、その施策はご自身の国内外での子育て経験をベースに作られたものだということだった。やはり、その他経済対策と同様に、有効な施策の策定には「経験者/プロ」が関わる重要性も感じた。
「女性の活躍とダイバーシティ」猪口邦子議員
さて、この当時の施策の説明とあわせて立案・実行のために猪口氏が大臣として、政策の策定またその実行にあたり、大臣職で学ばれたという以下の事柄が特に印象に残った。これらは今後も各種アドボカシー、さらに社内調整などにも活用できそうである。
1:席次が大事
TOPの横に座り、プレス(社会)や関係者の耳目を集めること。 就任したての大臣や新規政策は注目されてなんぼ。自身の顔や政策が売れ(知られて)ない状態では、TOPの横で記者会見や会議出席などの露出は宣伝となる。またTOPが横におく=自己プロジェクトの重要性を暗黙のうちに周囲へアピールする事が可能となる。

2:数字が大事
正に有言実行の素。プロジェクト実行に必要な具体的な数値目標、期間を政策や法案に明記させる。これが政策のキモとなる。官僚は数字目標があれば具体的に反射的に動く人々。逆に、言質がとれたら必ず明記しておかないと「うやむや」にされてしまうキケンがある。一文であっても数字や具体的な手法が明記されていれば、それをテコにして組織を動かしてゆける(事がおおい)。

3:具体的文言が大事
時にまだプロジェクトのコンセプトが新しいものであったり、既存でもあまり意識されていない時には具体的な文言(フレーズなど?)で課題を明確に定義する。具体的文言によって、懸案を議論のテーブルに乗せやすくする。気づきの出発点としても有効。

4:お尋ね力(質問)が大事
もしパワーのある側(大臣など)になったら、懸案に気づかせたり、進めたい方向へのプレッシャーとして利用する。「そちらの団体は女性役員何%ですか?」(例え回答が「0」なことを知っていてもあえて聞く)。人は言われることで「気づき」とそれへのマインドセットが自発的になされる。また自発的な気づきは心的抵抗を低減しアクションを呼びやすい。結果、ムリ、ムダを減らし、またスピードまでもコントロール可能になることさえある。

5:相手の顔も大事
特に自身が上司であっても新人であるときなど、既存組織を相手にプロジェクトを進行するには協力関係が必要である、相手をただ批判し顔をつぶしては、進まない(このためにも「お尋ね力」は有効である)。

6:丸暗記も大事
プロジェクトにとって大事な用語、数字などはやはり丸暗記して、瞬時に相手に提示出来る様にしておく事が大事。説得力のある演説論戦もできる。各種データの保存方法のうち「一番すばやく取り出せ相手に提供できる方法」は”自分の頭の中”である。

以上が、学者であった猪口氏が、政治家として施策実現のために有効と感じた事柄である。いかがだろうか?政治に限らず、民間でも応用して活用できそうなスキルではないだろうか?

それから猪口氏は、同時に今後の自民党の施策、またご自身の感じる少子化、女性活用へのビジョンも語られた。それは「日本人の働き方」そのものを変革してゆくべき。というもので、氏の事務所で実際に行っているユニークな工夫も織り交ぜての提言となった。例えば「時短には決定権のある人間に情報を集める工夫」が必要、ということから、元大臣の事務所の電話は時間の許す限り、基本元大臣自らがとる。これは電話(=外部からの新規情報)を決定権のある人間がダイレクトに集めるという事である。氏の事務所ではこれだけでも効率化が進んだという。一見非常識。である。が、効率化のためにはこうした「常識へのチャレンジ」が必要で、まず実践が大事であることを示唆された。

また今後は規制として「残業の総量規制などの数値目標」が必要というお話もあった。やはり「見える化」して現状を把握する大切さ、また「見えている」から、その増減を具体的に監視しやすくなる。と。さらに子育て支援策も今後は子どもが減る以上、子が安全、また健康に育つ様、より踏み込む形も必要と指摘された。例えば治安の変化などに伴い、スクールバスの運用なども実現させたいと話された。またそれらの政策実行には省庁横断が必要となり、特命大臣的な調整が引き続き重要と指摘された。
パネルディスカッション(佐々木氏、山中氏)
続いて、パネリストの(株)チェンジ・ウェーブ代表の佐々木氏から、大企業を中心とした女性の働き方や実態の報告、そしてディスカッッションへとうつった。
佐々木氏の報告は、現状の「本質的課題」が次々と鮮やかに見える化されてゆき、そして最終的には、やはり「日本的働き方の変革」が必要という提言となった。

これは日本が長期的に一層の少子高齢化に向かう中、今後はより少数精鋭で生産性を確保する必要があり、そしてその構成員の半分を担う女性は、経済活動と共にその働き盛りを「産む性」としての側面も担保せねばならず、さらに男性も育児や家庭運営に参画せねばならないという現在、この対応のカギとなるのが働き方の多様性であり、人も企業も避けては通れない。というのである。
佐々木氏から提示された調査データは大企業を中心としている。一般的には環境的に恵まれ、最も導入が期待できると考えられる集団である。その環境にあっても女性がキャリア構築に二の足を踏んでいる現状と、そしてそもそも女性登用を阻む「本質的課題」は何か。それをあぶりだしてゆく。

氏によると、日本の働き方の変革に必要なのは「本当の生産性のある働き方」であるという。現在の長時間労働からの脱皮には「時間と成果は比例しない」という「事実」を周知し、コンセンサスとする必要があること。さらに「本当の成果の測り方」は(業績/労働時間=業績)で検証が可能なこと。さらには「労働時間と生産性には相関がない」ことがデータから立証可能と紹介された(添付資料)。さらにこの「生産性」のみによる評価法は唯一時短労働、またジョブシェアリングなどの多様な勤務体系が混在する組織で(恐らく)唯一評価を可能とすることも説明された。
また「女性」に「実在し、模倣したい(試したい)ロールモデルの提供」が極端に乏しいこともデータから示された。実際「誰もやったことがない」あるいは「明らかにライフワークのバランスがとれず、行き詰まりがち(幸せでない)先輩モデル」ばかりでは、誰でもチャレンジをためらって当たり前である。
さらに「課長のカベ」の存在。これは管理職になると一般的に実質の残業が増える=家庭との両立が一層不可能になる。というジレンマの総称である。一般的に大企業では幹部候補の登竜門となる課長登用時期は20代後半~30代の出産適齢期にもあたり、長時間労働を基本とするなら、幹部登用への登竜門へのチャレンジ自体が自ずと物理的にも困難となる。そして企業側もこのことから、本来、個人の能力で評価すべき教育や登用を自由に行う事が出来なくなってしまっている、と述べる。

つまり、女性は「ためらい」、男性(マネジメント/企業側)は「登用や教育を戸惑う」、という正に「両すくみ」である。これが女性の幹部登用と教育の機会を阻む本質的な課題である。このように、女性の幹部候補や役員の不足が著しい日本は、資金的に人材的に女性の活躍の実現に、より近く”恵まれている”はずの大企業でも、その実「女性が安心してキャリア構築に踏み込めない構図」が存在している。そう佐々木氏は導きだした。
最後に、この勉強会の主催者グローバルタスクフォースの山中英嗣代表からの考察もやはり、「男女ともの働き方」が本当の日本の女性活躍や少子化の根本問題であることを示した。そして男女の待遇の格差解消は具体的な差別解消の最初の一歩になることを指摘。また最終的には今後の少子高齢化=一層の少数精鋭環境下でのマクロ経済運営には、従来と違う「単位時間あたりの生産性」を主要な評価基準とし、その指標の主流化がのぞましいという提言がなされた。

女性幹部が育児との両立のため、時短で帰宅しても毎夜自宅で大量の仕事をこなしている現状打破に限らず、男性にも時間当たりの生産性指標を徹底することで、例えば家族で育児を支える。そのような新たな働き方もできるのではないか、と筆者も期待を寄せる。

最後に、佐々木氏の提案の「生産性指標」の導入には「個人の業務タスクの明確化(具体的なジョブ・ディスクリプション)」の作成がまず必須となることを補足しておきたい。外資に比べ内資では曖昧か、時には作成すらされていないのか。業務範囲の明文化と優先順位、それぞれの到達目標までを具体化する事によって、初めて生産性評価が可能だと筆者は考える。
女性活用、ダイバーシティ向上への社会的取り組み
さて、今回の勉強会に限らず、これらの「女性活用」系勉強会、討論会は、近年とても活発である。つい先日は(社)ジャパンダイバーシティネットワーク(代表理事:内永ゆか子氏)が発足した。内永ゆか子氏は企業のダイバーシティ・マネジメントを支援するNPO法人J―Winを立ち上げ、その上で更に日本におけるダイバーシティ推進のためのプラットホーム作りにも乗り出しており、公・民の各方面からそれぞれの立場で現状打破の試みが始まっている。
(社)ジャパンダイバーシティネットワーク呼びかけ人の一人である、コラボラボ代表 横田響子氏
2015年1月号「Forbes JAPAN」で「未来を創る日本の女性10人」として紹介された。
日本は、すでに少子化と人口減少の急カーブそのものを止めるには残念ながら遅きに失している(移民を受け入れない限り)。それはつまり、人口減少カーブの緩和を出生“数”の向上で試みつつ、GDPをはじめとする必要な経済力を、少数精鋭の労働力で可能な限り保つという一種の「2正面作戦」を意味する。そして猪口元大臣を始め、各氏が提唱される通り、国内企業がこれに対応し生き残りたいならば、ダイバーシティ(多様性)を受け入れ、その構成員が一貫し「生産性」で評価される時のみ、この厳しい2正面作戦の継続が可能となるのかもしれない。
最後に
終わりに、筆者には気になる事が一つある。
猪口氏が日本の少子化対策=人口減少(表裏で女性活用)に最初に着手してから早10年、出生率は下げ止まっても、出産適齢期の女性の母数が減少している以上、出生数からみたとき少子化傾向は継続中である。そんな中、昨今やっと盛り上がってきた、今回のような女性の活躍や少子化への各種取り組みはすばらしい。が、時に疑問を感じることがある。

通常、各種の政治、経済の施策に関する企画、立案は基本的に経験者(プロ)で構成されている。が、なぜかこの「女性の活躍や少子化」に関する多様なプロジェクトの”有識者”や企業のプロジェクトのチーム構成をよくみると、中には女性が少数派であるか、さらには“女性”でも「明らかに育児や家庭運営(主婦/夫)の経験に乏しい」と思われる方々が多数派や決定権をもっていたりすることに気づくのである。

失礼ながらどんなに優秀な方でも未経験(素人)や当事者たり得ない人物に「経験者/当事者の感覚」をすべて想像し、さらにそのニーズに精度高く応える、のはムリがあるのではないだろうか?

また、本気で実行できる改革が必要なこの期に及んで「絵に描いた餅」を「未経験者」に描かせている余裕があるのだろうか? 日本の少子化の解決が子育て世代の個人の自己犠牲によらず、社会全体がより幸福になる形で解決されて行くことを願ってやまない。
松田ハミルトン依子
プランナー、各種マーケティング・アドバイザー(主にB2B)。2008年夏に女児出産、2009年からは米国人の夫の独立・企業のため会社経営を開始、現在に至る。近年は従来の国際マーケティングのアドバイザー業務に加え、個人的なテーマにもなった「日本における多文化環境の育児」の観点から「より実際的な多文化」共栄、育児、教育に関する啓蒙セミナーの設計、プロデュースもてがける。
撮影協力:竹内佑