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■ 東京ウーマンレポート


”I am special, you are special”というアプローチは、今後の世界標準

”I am special, you are special”
というアプローチは、今後の世界標準

坪谷(ニュウェル)郁子さん
東京インターナショナルスクール創設者/代表
異業種でも一貫したキャリア、ビジネス・シードとの出会い方
昨日までインドへご出張だったとか。インドご出張の目的は?
インド国内のIB(国際バカロレア)認定校の校長会議があり、インドのチェンナイへ行きました。インドにおいて日本の教育をアピールする絶好の機会だと思い、文部科学省の担当者や東京大学をはじめとする日本の大学関係者などをお誘いし、総勢20名もの教育に携わる方々をお連れしました。

現地ではエリア内の教育関係者との交流から「インドにおけるIB教育」に触れていただき、そして「日本でのIBの進展」を報告してきました。インドでは「日本でIBが採用されているの?」と、全く日本におけるIBの進展を知られていない状況でしたので、実際に現地でプレゼンスをアピールする事は大変有意義でした。

また、日本からお越しいただいた教育関係者の方々も「アジア太平洋地域の一員」という意識をより感じていただけたと思います。アジア太平洋地域は多様性の時代です。今回はインドの会議ということで、例えばホテルでも「朝から毎食カレー三昧」とお国柄を強く感じられた会合となりました(笑)
プロフィールを拝見すると、確実にまたアグレッシブにキャリアを構築されてきたようにお見受けします。どのようにキャリア構築をされてきたのでしょうか?
特にキャリア・チェンジをした気はありません。常に「自分のやりたいことをただ実現すること」と一貫しているからです。振り返ると、最初は米国留学中に大好きな飼い猫“すし(飼い猫の名前)”の為に考案した手作りのネコ用の遊び道具の企画・制作・販売の会社をアメリカで始めた事でした。それから帰国時に閃きを得た、アメリカの古着の日本への輸入業(買い付け~卸の営業まで)、そして帰国後は英会話学校での勤務経験から、オリジナル英会話プログラムの考案・開発・実施しました。

その後、旅先で知り合った夫(※2)も私の経営する学校へ参加する形で、公私のサポートを得てビジネスを発展させていたところ、子どもに恵まれたことで、自分達の子どものためのインタースクールの開校、学習プログラムの考案・開発・実施。振り返るとどの事業でも「常に自分のやりたいことの実行、運営」です。業種や企業形態は違っても常に「関わる形」は同じなので、私はいつも「自分の仕事」に一貫性を感じており、また矛盾なども感じません。

※2 夫であるパトリック・ニュウエル氏はTED日本代表、最初にTEDを日本にご紹介された方としても有名。東京インターナショナルスクールの共同代表としてもご活躍。著書「TEDパワー:世界と自分を変えるアイデア」パトリック・ニュウエル 著 朝日新聞出版2014)
IB(国際バカロレア)との出会いと、現代におけるその優位性
帰国後にオリジナルカリキュラムでの英会話学校を始められたきっかけとは何でしょうか?
最初は通訳専門学校に教師として雇われました。ところが、アメリカから帰国した自分の目からみればそのカリキュラムには改善点と思われるものがありました。でも、その学校ではそのような意見は受け入れられなかったんですね。その意見の相違から自分のオリジナル・プログラムの開発とその提供を始めることにし、お寺の境内の寺子屋を借りて、数人の生徒さんと独立系の英会話学校を始めました。

従来の日本のプログラムではあえていうと紋切り型の教え方なので、例えば熱があるのに“I am Fine” としか言えなかったり、また、帰国子女の子ども達はよく「日本の学校は軍隊みたい。言われたことしかできない、つまらない」と言っていました。そして「みんな」の視点も大切ですが、肝心な「大切な自分」という視点があまりないようにも感じていました。私は子ども達に“I am special, You are special”を実感してほしいと思い、そのために何ができるのか、必要なのか?日々それを考え、英会話学校のプログラムも改良を続けました。その結果、最初の英会話スクールは最終的には3カ所に展開、ビジネス的にも年商一億円を超えてゆきました。

そんな中で後に夫となるパトリックとタイで出会い、彼も事業を手伝ってくれることとなり、やがて結婚、さらに子どもにも恵まれました。当初は保育ママに預けて、大変なやりくりの中、仕事をしていましたが、最終的には「子ども(幼児)教育」にも興味を持つことになりました。そこで長子が3才の時にまず幼稚園、その後も長子の成長にあわせ、小学、中学と順次「東京インターナショナルスクール」を開校することになります。

開校直後から在校生やその周囲の方々の口コミで拡大しPR不要でした。同時に世界のインターナショナルや学校のプログラムの研究もすすめ、現在、アメリカ、CISという世界的にメジャーなインターナショナルスクールの認定団体からの正式認定、加盟を許可されるに至りました。

また、研究の結果、世界や地球とのつながりを子ども達が学ぶのに最もバランスがよいと考えたIBからも正式に認定校となっています(現在、昨年新校舎に移ったTISは、常時数百名のウェイティングリストを持つ都内のインターでも有数の人気校となる)。さらには、NPOになりますが、学習障害など、通常よりキメの細かいサポートが必要な生徒のためのNPOインターナショナルセカンダリースクールも開校しました。

そういう「国際レベル」であり、また宗教、文化的に「中立」な学校(校内にはムスリムの生徒のためのお祈りの部屋もある)ですので、在京の大使館や企業の父兄からはよく「この学校があったから、東京に安心して駐在として赴任ができる」とコメントを頂いています。そういったことから在校生は95%が外国人の駐在家庭です。そして多くは4年以内に本国や次の任地へと転校していきます。
ところがある日、そんな環境にいる私の子どもから悩みを打ち明けられました。「親友がいない」と。聞けば、仲のいい友達がみな数年で転校してしまい、長い間安定的な友人関係が作れないと。さらにその話から見えたのは多様性の中で育つ子ども達の「アイデンティティ」の問題。つまり「自分の、人としての根っこ作りの重要性」です。

これは学校のプログラム以外に親や社会などの環境との関わりも必要です。東京インターナショナルスクールは世界中を移動しながらも一貫性をもち、地球的視野で子どもを育てることができますが、特定の文化とのアタッチメントからなるアイデンティティはまた別のものです。

ただ、これは日本の教育の中ではジレンマを産みます。実はIBなどの「探求型」の教授法は一般的な日本の学校とは反対だからです。実際に追跡調査をしたところ、幼稚園を本校で過ごしても、日本の小学校に進むと折角幼稚園で育ち始めていた、自主性、主体性、能動的に探求する意欲などが伸びていきにくい事にも気がつきました。「アイデンティティ=自分の根っこ」があることは人間としてとても重要です。

その一方、多様性を理解し、受け入れること“I am special, you are special”というアプローチは今後の世界標準。世界を生きる必須のスキルでもあるのです。 このジレンマの解決策として、日本の学校に通う子ども向けのアフタースクール・プログラムを企画、構築しました。試しに初めて日本語の小さな紹介サイトを創りました。するとすぐに国内から複数の照会があり、検討の結果、初めて外部の企業(住友商事)と組み展開を開始しています。

ビジネスサイドの話に戻りますが、今回新規に校舎を移転させる為に、初めて融資も受けました。これまでは常に「必要なこと」を「必要な様に」、全て自力、自己資金で運営。PRも不要でしたので、今回、通常のビジネスのような事業計画的アプローチ、PRの実施はとても新鮮です。
IBの委員就任からわずか2年での実績。その「突破力」の源
IBのアジア太平洋地域委員となられてから、たった2年で「国公立大学を含む主要大学のIB採用」、また閣議決定の「2018年までに200校のIB認定校の設置」。さらに、これまで英語とフランス語しか認められていなかったIBの卒業試験(大学入試に利用)を日本語で受けられるように改定されるなど、矢継ぎ早に内外の教育に風穴をあけていらっしゃいます。この突破力の源や、実行の方法など教えてください。
まず、実は、下村文部科学大臣(現在)とは10年来、先生の月例の勉強会での信頼関係がありました。その勉強会の中では「先生が文部科学大臣になったなら」と「教育」に関してのテーマで2ヶ月に渡ってレクチャーさせていただき、内外の教育の比較、特にIBの優性とその導入方法、それをきっかけとした教育改革、センター試験廃止への流れ、そして、今後の社会に対応できる優れた人材を輩出できる可能性などもお話しました。

また、日本の大学入試が世界の上位校と同じ方式に変わることは、世界と国内の優秀な人材の相互交流をより活発化させられるというメリットもあることもお話しました。 IBのカリキュラムはプライマリー(幼児期)からの一貫したものですので、本来は「初等教育→高等教育→社会」の順に進むことが理想です。ですが、ターゲットをまず「大学入試のIBの採用」に定めたことには理由があります。

そもそも小・中学校は市町村など地方自治体の管轄、また義務教育としての規定もより多くあります。また、スタイルの違うクラス運営には、指導教員の育成も必要です。更にIBの審査は導入から認定までに最低2年かかります。申請した後の実際の成果をみて、初めて認定するためです。 このため、できるところから始めるなら、高校~大学入試が適切でした。大学入試が変われば、次第に川下の高校、中学、塾などは必要に迫られ変わっていくと考えています。

こういったことについて、下村文科相を始めとする安倍内閣にご理解をいただき、2019年のセンター試験廃止をにらんでの「IB認定校の200校設置、主要大学のIB採用の実現」のため、経団連、主要有識者が参加するアドバイザリー委員会の設置、そして教育再生委員会との連携、学習指導要領の読み替えや外国の教職免許受入などの柔軟性などの環境整備ができました。この対応と政府のコミットメントにより、IB側も「日本語でIBの一部が受験可能」という大きな扉をあける事につながるなど、波及効果も大きかったのだと思います。

また、これらが始まった2012年の春にIBからアジア太平洋地域委員就任の依頼がきました。ちょうど子ども達も大学に入り、母親業も一段落したタイミングでもありましたので、これまでの経験を踏まえ、IBの委員をお任せいただけるならと喜んでお受けしました。これまで控えていて、できなかった対外的な活動をはじめることになりました。
ライフワークバランス。これまで大事にしてきた事、これから伝えたい事。
これまでの長い積み重ねの結果が一気にタイミングと相互作用で動き始めた、ということなのですね。これまで対外的な活動を控えていらした理由を教えてください。お子様のためですか?
はい。これまでは子どもとの時間を確保するため、夜間、休日、出張のある仕事は基本受けませんでした。すると自然に対外的な仕事はやりにくくなります。というのは子どもが小さい時は、やはりどうしても「一緒にいる時間」の量が必要だと考えています。実感として密度だけではカバーできないと感じたからです。

当初はシッターを午後3時から7時まで使い子育てをしましたが、やはり親でなければ、そばにいなければしてやれない事があります。ただ100組の親子がいたら100通りの暮らしや子育てがあります。私のやり方が決してベストなわけでも特別なわけでもありません。いつも子どもの成長とともに母親としても成長し、体験したことから振り返ると気づきがあるのですから。

ただ、そんな私の子育てで2つだけ変わらない事、いつも心がけている事は 1、自分がどれだけ子ども達が好きかを毎日繰り返し伝えること 2、あなたの中の”真実”はいつもあなたと一緒。自分の軸からぶれない大切さについて。これだけは、なにがあっても子ども達が納得するまで繰りかえし伝えてきました。 また、仕事が終わったら、私は完全に頭を「母親」に切り替え、家庭に持ち込みません。

また家庭で私は子どもの話の聞き役、一緒に何かをする事を最優先にします。かけがけのない存在ですから。ですので、娘達はいまだに私が何をしているかの詳細を知りませんし、実は仕事を楽しんでやっているのも知らないので「今のママは仕事ばかりしていて可哀想」と言っています(笑)
お父様のパトリックさんも同様にされていらっしゃるのですか?
いいえ、男性はどうしても透けてきますね。そして子ども達は「パパのお仕事はすごい」と言っています(笑)彼女達にもそろそろ「母親の仕事の姿(とその内容)」また楽しいと思える事を仕事にしている姿を見せたいとも思っています。
なるほど。お嬢様方、驚かれるでしょうね。
2014年11月にIB普及の財団発足。
より多くの日本の子ども達へ世界標準の教育を!
それでは、これからの展開、プランをお教えください。
実は11月に一般財団法人を立ち上げました。目的は、個人からの年間一口5,000円からのご寄附で、私たちの力で、経済格差なく等しく多くの子ども達が世界標準の教育を受けられる社会を実現していくことです。 というのもIBを導入し、そして生徒が卒業試験を受けるにはコストがかかります。学校単位でみて導入には最低2年の年月と約350万円/校、またDP卒業試験を受けるためには1人あたりUSDで820ドルほどかかるのです。

この金額に躊躇する国内の自治体や個人をその経済状況にあわせて、資金的にサポートすることを目指しています。 目標会員は20,000人です。1人あたりにするとわずかな負担でも、集まれば多くの子ども達が世界標準の教育を受け、その才能を世界で発揮できる事になるのです。また、1月中旬ごろを目途にホームページからクレジットカード利用などより気軽にご賛同、ご協力頂ける形にして参ります。(HP:http://www.sekaideikiru.com/

また、これらが落ち着いたら、まだ日本に広く定着していない、でも有効な教育方法をご紹介し、展開するお手伝いもしたいと考えています。例えば、共働き家庭にはモンテッソーリ、学習障害などの多様性を持つ子ども向けにはシュタイナー、イジメなどの防止にピースフル、etc. すでにそれぞれに有効なメソッドがありますので、それを順次より広くご紹介し展開してゆきたいと思っています。
本日はご帰国直後のお忙しいお時間をありがとうございました。
坪谷(ニュウェル)郁子さん
東京インターナショナルスクール 創設者 代表
国際バカロレアアジア太平洋地域委員

イリノイ州立西イリノイ大学国際学生科修了。早稲田大学卒業。在米中に独自企画商品で起業。その後日本向けにセカンドハンド衣料品の輸入商社を経営。帰国後、英会話講師として勤務。'85年にイングリッシュスタジオ(英会話学校)を独自プログラムで開校。'95年に東京インターナショナルスクール(幼・小・中)(IB(国際バカロレア ※1)PYP・MYP認定校)を設立。

2008年に学習障害などの子ども達のためにNPOインターナショナルセカンダリースクールを開校。2012年にIB(国際バカロレア)アジア太平洋地域委員に就任。2013年日本国内で育つ児童むけに「英語”で”学ぶ」独自のカリキュラムを提供するアフタースクールを住友商事との合弁会社として設立。 著書に「世界で生きるチカラ---国際バカロレアが子どもたちを強くする」(ダイヤモンド社)がある。

※1 国際バカロレア(IB) 1968年にジュネーブで創設の幼小・中・高校教育課程の世界的教育プログラム。現在世界142カ国約3,400校が認定。増加中。旧来的な暗記型と対照的に、深く幅広い探求力を育てる学習プログラム。このため高校教育課程でのディプロマ(卒業検定)はハーバード、オックスフォードなど世界の上位大学の入学で高評価を受ける。日本の認定校はまだ少ないが、先ごろ文部科学省はIB認定高校を200校に増やす計画を発表した。
URL:http://www.jiec.org/
坪谷様の「対外的な活動はこれまで避けていた。」とのコメントに、例え、合理的なサポートを適宜ご利用だったとしても、どれだけお子様やご家族へのご配慮や、母親としてコミットされていたのか、を拝察する思いです。

またそれだけに、対外的な活動を開始されてからのここ数年の目覚ましいご活躍に感嘆し、IBと国内教育プログラムの差や違い、多様性、アイデンティティ(セルフ・エスティームにもつながる)の育成やアプローチ法などをお話いただき、多様性を内包するプライマリー期の子の親として、男女を問わず子育て世代の力が発揮できる環境とは?など様々に考えさせられるインタビューでした。国内でのIB普及、そして発足された財団が、日本で育つより多くの子に福音となるようにと心から願っています。
松田ハミルトン依子
プランナー、各種マーケティング・アドバイザー(主にB2B)。2008年夏に女児出産、2009年からは米国人の夫の独立・企業のため会社経営を開始、現在に至る。近年は従来の国際マーケティングのアドバイザー業務に加え、個人的なテーマにもなった「日本における多文化環境の育児」の観点から「より実際的な多文化」共栄、育児、教育に関する啓蒙セミナーの設計、プロデュースもてがける。