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■ 東京ウーマンインタビュー


超高齢化時代の『ニッポン』を支える仕事、作業療法士~先進国アメリカから見えてくるもの

作業療法士―、「こころ」と「からだ」のリハビリを行う専門家。 交通事故や病気、生まれつきの障害などの理由で体に障害を持つ方に対し、日常の生活動作の訓練や指導を行って社会復帰をサポートする仕事だ。 これまでの業務に加え、今後、超高齢化社会が進む日本において、この作業療法士の役割は果てしなく大きい。 元全米作業療法士協会の会長にお話を伺った。

谷本氏: 初めに、何故、この作業療法士というキャリアを選んだのかを伺っていいですか?

Karen Jacobs氏: 実は、高校や大学時代に「作業療法」という言葉は聞いたこともなかったんですが、このキャリアに行き着いたのは、実は面白い経緯があるんです。 私は大学で、幼児教育に関する心理学の学位を取得しました。しかし、一方で、日本のような美しい美術工芸が大好きだったんです。それで、アーツ・アンド・クラフツフェアの展示会に出展していたんです。

その時、私の隣に陶芸家が出展していて、その彼女が作業療法を勉強していて、大きな生体構造の本を持っていたんです。そこで、彼女から色々学び、この作業療法というのが、私の興味ある、薬品、心理学、人々と働くこと、そして、創造力を全て兼ね備えた職業だと気付いたんです。それが私がこの職業を選んだきっかけです。

当時、学士は持っていたので、作業療法の修士課程へ入るためにボストン大学に出願しました。これは一生出来るキャリアだと。しかも、自身のスキルや技術を使って、世界のどこででも働ける素晴らしい仕事だと思いました。

谷本氏: 実際になられてみてどうでしたか?思い描いていたものとの違いはありましたか?

Karen Jacobs氏: 多分、私が作業療法士について初めて学んだ時、それがなんであるか詳しく分かっていなかったと思うんです。恐らく多くの生徒たちも、大まかにはわかっていても、実際に学校で学んで、2-3か月のインターンを経るまで分からないんじゃないでしょうか。いえ、もっと時間がかかるかもしれません。実際なってみて、その職業としての魅力は天井知らずでした。

作業療法士は、それぞれの人の人生に沢山の意味をもたらしているのです。作業療法は、それぞれの人が自身の生活や仕事に参加するためのスキルを促進させるお手伝いをするヘルスやウェルネスの専門職だと思うんです。

谷本氏: 働いている時にもっとも気を付けていること、大切なことはありますか

Karen Jacobs氏: 私が最も大切だと思うのは、クライアント中心になること、根拠に基づいた論文を用い、ベストの方法を提供すること、そして、作業を中心とすること。これら3つが私たちが常に心に留めている非常に重要な見地になります。 クライアント中心というのは、私たちがクライアントに何をするかを告げるのではなく、クライアントやその家族とともにどんなふうになりたいのかというゴールをセッティングすることです。

ベストな訓練にさせるために、根拠に基づいた論文を使うこと。 そして、3つ目、作業中心とは、その人にとって意味のある行動を用いること、つまり、その人が非常に興味を持っていることをすることです。 これらは階層的なものではなく、同時に用いられなければいけません。これら3つを一緒にすることがキーなのです。

谷本氏: それはいかにもアメリカンスタイルですね。というのも日本では、患者は医者や作業療法士がいうことや、作ってきたプログラムにただ従うだけのように思えます。日本人ももっと意思をはっきり彼らに言うべきなのでしょうか

Karen Jacobs氏: 私達、作業療法士は、一般的に「患者さん」という言葉の代わりに「クライアント」という言葉を使います。そして、より効果を高めるために、クライアントと私たちは協力をしていくべきなのです。ただ従うというような関係ではなく、その方が更に効果が高まりますから。モチベーションも変わりますし、結果も良くなる。

勿論、そのためにはご家族の承諾も得る必要があるでしょう。クライアントやご家族が受動的であるより、重要な決定をしていく一つのチームとして協力しあうことが大切だと思うんです。

谷本氏: その通りですね。 そして、精神的なケアというのもクライアントだけではなく、ご家族にとっても必要になると思います。

Karen Jacobs氏: メンタルヘルスという側面は本当に大切だと思います。 例えば、ある人が腕を怪我し、リハビリが必要だとしましょう。そこに必要なのは、身体的なリハビリだけではありません。メンタルヘルス、つまり、精神的なものも必要になってくるのです。

怪我した腕が、着替えや子供を抱きかかえること、料理を作ることにどう影響してくるのか、そういったことを考えなければいけないからです。ですから、メンタルヘルスはいつもリハビリテーションに含まれるのです。

谷本氏: ただ、日本では身体的なケアに重点が置かれ、メンタルケアが十分に行われていないように思います。どのようにこの状況を変えて行けばいいのでしょうか。

Karen Jacobs氏: 今日本はパラダイムシフトにあるんだと思うんです。その過程において、人を身体面と精神面に分けて考えるのではなく、一つの人間として見ていくということをしなければならないと思います。

谷本氏: 話は変わって、このヘルスケアの分野で一番危惧されることや課題などはあるのですか

Karen Jacobs氏: アメリカでは、ヘルスケアシステムは3つの変数によって動かされています。コスト、アクセス、そして、ケアの質です。 コストを重視するならば、ある一定の期間で効果が表れるような、効率的で生産的な方法でベストなサービスを提供していかなければならないでしょう。そして、もし、当初想定していたところに到達できなかったり、リハビリの成果が頭打ちになってしまったら、その時、在宅の方向に進めるようシステムを変えるという風にしなければなりません。

重要なのは、証拠、根拠にもとづいてやることです。クライアントを見て、その人に可能な限りベストのサービスを与えること。つまり、もし、彼らが更なるサービスを求めていたら、私達がクライアントの支持者になってあげることなんだと思います。 日本の作業療法士に申し上げたいことは、根拠や証拠に基づいたベストな方法を提供するだけでなく、調査研究し、身体に関する知識を更に進化させていってほしいということです。決断を下す時に、費用対効果があるかを見極め、違いや結果を出せる知識を発展させていくべきです。それが出来れば、私たちはいかなる国においても健康やリハビリを変えていけると思うんです。

谷本氏: 日本と比べ、アメリカの方が恐らく作業療法という分野は進んでいると思うのですが、実際、療法士の数は十分にいるのですか

Karen Jacobs氏: いい質問ですね。アメリカについていえば、最近出された記事によると、作業療法士はベストキャリアの7位にランクインしたんです。この分野は急速に興味を持たれ始めているのが見られます。リハビリだけを見れば、3位なんです。素晴らしいですよね。 そして、その興味ある人たちがこの世界に入りたくて、実際仕事はあるか?あります。

この仕事を見る上で、いくつかの重要な時代のプロセスがあると思うんですね。 一つは人口変化。いわゆるベビーブーマー世代はいまや高齢者を大きく占めるグループになっており、ここにニーズがあります。この世代の人たちはこれまでと感じ方が違うのが特徴で、より健康に暮らしたいと考えており、作業療法は彼らにライフスタイルの再設計や、より健康に生活できるための変化をデザインするライフスタイルを提案できます。

また、私たちは国から障害を持つ子供たちの為に学校にサービスを提供することを委託されています。アメリカでは、実は作業療法士の多くの人たちが学校で働いているのです。そういう法律が制定されたのです。皆さんも聞いたことあるでしょうが、2010年3月にオバマ大統領が署名した医療保険制度改革法のことで、オバマケアと呼ばれるものです。これは医療費負担適正化法です。この法律の中で、作業療法士は非常に沢山の機会に恵まれます。特に私が興味を持っているものの一つに「テレヘルス」があります。

谷本氏: 「テレヘルス」ですか!これは日本でも非常に需要があるでしょうね。

Karen Jacobs氏: そうなんです。この「テレヘルス」は、技術を使って作業療法のサービスを提供できるものです。 例えばウェブカムやコンピューターを利用し、コミュニケーションを取ることが出来るんです。そう、直接会わなくても、あなたの家からボストンにいる私とインタビューできるような感じです。その点についていえば、どんなに距離があっても作業療法のサービスを提供することが出来るという事ですよね。

谷本氏: それは本当に素晴らしいですよね。ボストンからサービスが受けられるなんて!

Karen Jacobs氏: 私の同僚であるナンシー・ベーカー博士と私で、遠距離でも使えるテレヘルス用のオンライン評価システムを構築したのです。これまでクリニックに足を運ぶことが出来なかった人でも同じようにサービスが受けられるという、テレヘルスは作業療法士にとって非常に強力なツールです。

例えば、作業療法士がクライアントに家ででき、家族がそれを支えることが出来るプログラムを提供することも出来ます。そして、ウェブカメラを使って、彼らがきちんとプログラムを出来ているか確認し、正しく指導することも、家族にフィードバックを与えることもできるんです。

谷本氏: まさしく、そういう事が求められているんですよね。


Karen Jacobs氏: その通りです。このテレヘルス技術を使うことによって、非常に効率的に作業療法のサービスを提供することが出来るんです。今、通常の作業療法の提供と、テレヘルスを使った提供の成果を比べたしっかりとした論文が出てきています。同じ部屋で提供するのと、遠隔にて提供するのと全く同じであるということなのか、私たちはそれが正しいのか今確かめています。

リサーチのそのケースによると、テレ人間工学と呼ばれるコンピューター人間工学を使ってなされるサービスには、クライアントも大変満足しているようです。そのことからも、私はこの分野に非常にポテンシャルがあると思っていますし、是非日本でも取り入れてほしいと思っています。

谷本氏: 是非、日本でも使ってほしいです。それは日本の現在の状況を考えても、大変効率的、効果的だと思います。

Karen Jacobs氏: WFOT(World Federation of Occupational Therapists)、世界作業療法士連盟では、ちょうど今横浜で国際会議が開催されていますが(2014.6月開催)、世界のWFOTのメンバーに向けて、ちょうどテレヘルスの政策方針が提出されたところなんです。この提言書は日本の作業療法士にとってのカタリストになるに違いありません。

谷本氏: そうでしょうね。楽しみです。 ところで、話は変わるのですが、日本におけるリハビリテーションの認知・理解というのは、恐らく非常に古いもののままのような気がするんですよね。つまり、リハビリはただ筋肉を動かすこととか、マッサージすることなんだとか思っているような気がするんです。でも、全然違いますよね。

Karen Jacobs氏:勿論、違います。

谷本氏: その通りで、この認識の違いが誤解や、十分な利用や、その結果の効果の促進を阻んでいるような気がするんです。

Karen Jacobs氏: その問題はもっと多くのことを含んでいると思うんです。重ねて言うようですが、作業療法はクライアント中心にしなければいけません。恐らくこの問題は、ソーシャルメディアを使って解決していけると思います。アメリカで、私たちはすでにソーシャルメディアをうまく利用しています。

ソーシャルメディアは作業療法の価値を広く伝えることが出来る強力なツールになり得るはずです。 日本作業療法士協会も学問的にこれらを取り入れていくべきです。生徒たちはデジタルネイティブですし、技術を使うことに慣れているはずです。統一キャンペーンなども効果的だと思います。

谷本氏: アメリカでの参考事例はありますか

Karen Jacobs氏: 私はかねてからかなり思っていたのですが、ここ日本では子供たちは皆、ランドセルを持っていますよね。地下鉄で見た時、それはとても重そうに見えました。アメリカでは、National School Backpack Awareness Dayと呼ばれる作業療法士協会が始めた運動があるんです。

これは子供たちの健康を維持させるための構想で、小冊子や、ソーシャルメディア、ビデオ、沢山のものをつかってメッセージを届けているんです。「pack it right, wear it light(正しく詰めて、軽く持とう)」というもので、いかに正しいバックパックを選ぶかということを伝えるメッセージです。日本でもこのような取り組みをしてみれば、作業療法士の認知も高まるかもしれませんね

谷本氏: それはいいアイディアですね。日本の作業療法士協会も何かするべきかもしれませんね。

Karen Jacobs氏: 既に日本の作業療法士協会も色々なことをされていると思います。しかし、もっとコラボレーションする必要があるのではないでしょうか。例えば、作業療法士ではない方たち、あなたのようなメディアの方たちを巻き込み、課題に取り組んでいければいいのではないでしょうか。

谷本氏: 高齢者に関してはいかがですか?ご存じのとおり、日本は急速に高齢化が進んでいます。私たちにとって今後、もっと作業療法士の方の協力が必要になると思っているのですが、実際、このような社会において、どのようなアプローチがなされるべきなのでしょう

Karen Jacobs氏: そうですね、高齢者向けには、勿論、根拠に基づいた論文などから方法を取り入れながら、それを、難しい科学的な言語から、簡単なわかりやすい言葉に直していくことがまず必要で、それを例えば、テレビやラジオ、ソーシャルメディアなどを使って公にメッセージしていくことだと思うんです。

カナダの作業療法士協会は、とてもいいマーケティングストラテジーを使っているんですよ。 それは、ショートストーリーを用いるもので、例えば、写真を片手にもった老人が言うんです。「作業療法の後、私は孫を抱けるようになりました」。他にも、「作業療法の後、再びお箸を使えるようになりました」、「作業療法の後、髪をとかせるようになったんです」。そして、これらの短い言葉をそえた写真の後に、「是非、お問い合わせ下さい」と。

それは消費者にとってとても強いメッセージになりますし、これを見た多くの患者さんやクライアントさん、そして、ご家族を私たちが助けられることに繋がると思います。 こういったメッセージは高齢化が進むに日本でも効果的なのではないでしょうか。

谷本氏: それは強力なメッセージになるでしょうね。 さて、カレンさんに是非伺いたいのですが、患者さんやクライアントさん、そして、そのご家族に向けて、どのように作業療法士さんと向き合えばいいのか、どう協力していけばいいのか、アドバイスはありますか

Karen Jacobs氏: 重要なことは、作業療法士に頼り切らないという姿勢ではないでしょうか。勿論、彼らは知識や技術を持っているかもしれません。しかし、一番リハビリテーションの中で必要なのは、作業療法士でもない、理学療法士でもない、心理士でもない、クライアントさん自身なのです。すべてはクライアントさんにあるのです。ですので、クライアントさんがいかに声をあげられるようにするか、意見を言えるようにサポートしていくことが大切だと思います。

谷本氏: では、最期に、作業療法士として、夢を聞かせて下さい。

Karen Jacobs氏: 一つ目の夢、一般的かもしれませんが、それは、作業療法をもっと家庭の中に持ち込みたいという事です。みんながその存在を知って、誰でも使える状態にすることで、益々人々のニーズに応えることが出来ると思っています。また、作業療法士が政府の中でももっと強力な位置づけになるのをぜひ見てみたいです。アメリカで、保健福祉省長官にいつか作業療法士の人がなること、また、上院議員に作業療法士の人が現れること。一人、ニューヨーク州の上院議員で作業療法士の人がいますが、もっと多くの作業療法士が政治的な分野に進出して行くことが必要だと思うのです。

例えば、健康やリハビリ、教育などについての決定を下さなければいけない時のテーブルに作業療法士がいるということが理想なんです。 もう一つの夢は、生徒たちに教育を与える際に自信も与えていくこと、またクライアントに対しても一人の人間として関係を保っていくこと。アメリカではそれが出来ていると思っています。

話を聞くところ、日本では作業療法士はそれほど親しみやすい存在であるわけでもないようです。私たちは作業療法士として、クライアントたちにこう言える存在でいなければいけないと思うのです。「私たちはあなたたちに仕えるためにここにいるんです。どうしていきたいですか?何が必要ですか?私たちに協力させて下さい」と。こういう関係であるのが非常に重要だと思うのです。

谷本氏: カレンさん、日本人の作業療法士にも教授頂く機会があったら嬉しいです。

Karen Jacobs氏: 私もバーチャルに教えられるよう、何人かの教授たちにオファーしました。 私の強みとしてマーケティングとどのように作業療法や人間工学、そしてテレヘルスを推進するかということにおいて日本でもお役に立てるかもしれません。

谷本氏: ありがとうございました。

衣装協力(谷本有香氏):Otto, オットージャパン  撮影協力:竹内佑

 

PROFILE
 
Dr. カレン・ジェイコブス 谷本 有香
Karen Jacobs Yuka Tanimoto
元全米作業療法士協会会長
ボストン大学 作業療法学部 臨床学教授
作業療法プログラム On-line Post-professional
博士課程ディレクター
経済キャスター
ジャーナリスト
1973年 ワシントン大学 心理学 学士号
1997年 ボストン大学 作業療法学修士号
1993年 マサチューセッツ大学 ローウェル校
Educational Leadership in Schooling
教育学博士号

カレン・ジェイコブス氏は、アメリカにおける作業療法の認知向上や、様々な重要 なプログラムの実施に携わってきた。

2011年、ジェイコブス氏は作業療法士という職業に対してのリーダーシップや貢 献が認められ、Eleanor Clarke Slagle Lectureship Awardを受賞。 反いじめ運動として大成功した、アメリカやアイスランドで創設された、バックパッ ク認知イニシアチブの立役者である。

また、ローカルケーブルテレビにおいて、作業療法の番組を作り、番組出演も果たし ている。 the Award of Merit from the Canadian Association of Occupational Therapists 他、複数の賞を受賞している。
山一證券、Bloomberg TVで経済アンカーを務めたのち、米国MBA留学。その後は、 日経CNBCで経済キャスターとして従事。CNBCでは女性初の経済コメンテーターに。

英ブレア元首相、マイケル・サンデル教授の独占インタビューを含め、ハワード・ シュルツスターバックス会長兼CEO、ノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授、 マイケル・ポーターハーバード大学教授、ジム・ロジャーズ氏など、世界の大物著名 人たちへのインタビューは1000人を超える。

自身が企画・構成・出演を担当した「ザ・経済闘論×日経ヴェリタス~漂流する円・ 戦略なきニッポンの行方~」は日経映像2010年度年間優秀賞を受賞、また、同じ く企画・構成・出演を担当した「緊急スペシャル リーマン経営破たん」は日経CNBC 社長賞を受賞。 W.I.N.日本イベントでは非公式を含め初回より3回ともファシリテー ターを務める。

2014年5月 北京大学外資企業EMBA 修了

現在、テレビ朝日「サンデースクランブル」ゲストコメンテーターとして出演中

 
 

URL:http://www.bu.edu/sargent/2011/04/22/karen-jacobs-award/ URL:http://www.yukatanimoto.com/
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