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■ ADV(アドボカシー)な人々 #03


フィーノ株式会社代表 鈴木孝枝 「いまのきもち」 vol.1

「ADV(アドボカシー)な人びと」をつなぐこのインタビュー企画、第3回目のゲストは、社会福祉の本場、北欧デンマークへ社会福祉留学され、帰国後人事戦略コンサルタントとして活躍されているフィーノ株式会社 代表取締役 鈴木孝枝さんです。

※「Advocacy(アドボカシー)」とは、「擁護」や「支持」「唱道」などの意味を持つ言葉。最近では「政策提言」や「権利擁護」などの意味で用いられます。また「アドボカシー・マーケティング」とは、一時的には自社の利益に反しても、顧客にとっての最善を追求し、長期的な信頼を得ようというもの。
谷本氏: フィーノさんは北欧型の事業をされていると伺いましたが、どのような内容なのですか?

鈴木氏: 主に中小企業の人事戦略コンサルティングです。元々会社員時代に企業の人事を担当していまして、大手のコンサル会社に様々な業務委託をすることもあったんですが、基本的にビッグデータやシステムノウハウの蓄積は大手に需要があるんですね。北欧では小さい会社の人たちが集まって専門分野を補うする形がありますから、そのスタイルをとっています。

谷本氏: 北欧には留学で行かれたそうですね。

鈴木氏: そうです。元々貿易会社にいてアパレル、洋服づくりに携わっていたんですが、その頃バブル崩壊後の不況で、これからはただ大量にモノを作っていても先が無いなとすごく感じたんです。これからは「人」だろうと。また少子高齢化社会になると言われるようになった頃だったので、医療介護の世界で何か役に立てる事はないかなと思い、会社をやめて福祉先進国のデンマークに留学しました。向こうで学んだのが人の教育・育成だったことから、その後人事に携わるようになりました。

谷本氏: 北欧というと高福祉といったイメージがありますが。

鈴木氏: 高税金というイメージもありますよね。ですが人間が生活していく上で大切なものは何かということを、すごく追求している国だと思うんです。デンマークには福祉を学びに行きましたが、結局学んだのは生涯教育でした。それも小さい頃からの「生き抜くための教育」。今、実際に人事に携わって思うのですが、金太郎アメをどんどん作るんじゃなくて、個を育てないといけない。向こうは保育園・幼稚園ぐらいからそれを教え込んでいますから、社会に出ると即戦力になるんです。そこが圧倒的に日本との違いですね。
谷本氏: 北欧には小学校から職業教育があって、自分は何が好きか、何が得意かがベースになっているんですよね。

鈴木氏: ええ。日本は大学まで一生懸命勉強しても、会社に入ったら会社の習慣ややり方に慣れるために、それまでの知識は一度捨てなさい、何て言われますよね。会社を選ぶこともですが、自分をそこに当てはめてしまうんです。だから入社したら勉強もしない人が多い。デンマークでは、本当になりたい職業につくまでにはそれ相応の教育課程が用意されています。だから現場で採用になれば即戦力で、新人が一番新しい情報を持っているため、重宝されます。このあたりは、就職後の大きな違いかもしれませんね。

谷本氏: 会社に合わせるのではなく個に戻るという感じですか?

鈴木氏: 自分は何をしたいのかというのは、就活生にとっては絶対的な悩みの一つなんですね。大手企業に入れれば安泰だと言われますけど、すぐに自分のやりたいことを実現するのは難しいと思います。

片岡氏: 企業の人事戦略を大きく分けると、トップから平社員も含めての中途採用と、内部をどうするかという人事戦略、あとは新卒採用というザックリ3つあるとすると、人事戦略として現在のメインのお仕事はどれになります?

鈴木氏: 簡単に分けて中小企業と大手企業では違うんですね。大手だと採用なら採用特化、組織特化だと組織作りをプロジェクト化するといった形で深めていきますが、中小企業の場合は3つ全部。全部必要だけど、巧みに深くは必要ないですから。

片岡氏: 中小企業だと担当も少ないですし。
鈴木氏: そうです。中小企業は戦略イコール売上UPがメインですから、事業戦略がどう売上げにどう匹敵するかが大切です。数字を細かく見ながら、本当に人を採って良いのか、中身を変えなくちゃいけないんじゃないかということを考えていきます。大手企業だと内部でプロジェクト化できますが、中小企業にはほとんどその思考がない。売上を上げるにはとりあえず営業マンを入れれば良い、みたいなところがありますからね。単純に人を増やしても利益には直結しないんですよ。そこに戦略を入れましょうというところです。

片岡氏: それだけ大手と中小とでは人事戦略が違うってことですね。

鈴木氏: そうです。得意な範囲としては組織作りの部分と、あとはハイアリングの採用の部分です。

谷本氏: 鈴木さんの会社が企業に入って、今までどんな成果が生まれていますか?

鈴木氏: たとえば大手ファストフード外食企業の場合、長期プロジェクトメンバーで報酬制度改定のご支援をさせていただきました。要は会社としては売上-コスト=利益ですから、惰性的に支払っていた人件費を抑えたいわけですよね。抑えつつも、じゃあどういう風にモチベーションを上げながら厳しく数字管理していくかというところで、モチベーションコントロールといったコミュニケーションを付加することで導入がうまくいったケースもあります。あと中小企業では、映像関係のある会社で、いろいろトラブルがあって一気人が辞めてしまったことがありまして。

片岡氏: 業界にありがちな(笑)

鈴木氏: ええ。ありがちな(笑)そこで、弊社に顧問契約のご依頼を頂きました。仕事はあるんだけど回らない。でも安易に人を採るのはもう避けたいと社長が仰って。とにかく中身をすべて洗い出して約半年間で少数精鋭型に変えたんです。変えて1年弱ですが、今売上は前年対比の倍ぐらい伸びてきています。人数はそのままですが、中の仕組みを変えるだけでもかなり変わります。中小企業の場合小回りが利きますからね。
片岡氏: 日本の企業はよく「経営者マインドを持て」って社員に言うじゃないですか。でも給料とポジションはあくまでスタッフレベルのまま。「そんなの経営者マインドなんか持てませーん、だって従業員スタッフですから。」、という人もいると思うんですけど、それはそれでもう、現状以上には出世する意欲がないのか、それとも、単に発想が「資本家的」ではないという意味なのか。経営者だって日本の場合は労働者と変わらない側面もあります。その辺は日本の企業が世界的に見て変わってるのかというと、どうですか?

鈴木氏: 「経営者マインドを持て」という言葉は、日本はイメージとして使いやすいから使っている気がしますけどね。欧米というかヨーロッパ、私はデンマークしか実情は深くないですが、向うは基本、職種別で機能してるんです。まぁ、経営者マインドを持っている人しか経営者にならないんですよ。

片岡氏: 「経営者」という「スペシャリスト」なんですね。

鈴木氏: そういうことですね。なので自分がそうなりたければ、それなりに資格も取らなくちゃいけないし経験も積まなきゃいけない。向うは組織のリーダーになるためには公募性なので、選挙体質。日常的にみんなで選ぶことが当たり前で、自ら選んだリーダーにはついていくスタイルになっていますから、そういった意味では自分のやることは明確なんです。

日本はやはりヒエラルキーがすごく明確なので、頑張って上に行くぞ!という、色が残っていますから、そういうバイタリティが有る人がもっと欲しいんだと思います。上は上で、「コストも考えて、売上も考えて、マネジメントもできて」という、小さな経営者がたくさん、しかも各部長クラスにいて欲しいみたいなところでしょうね。

片岡氏: ジョブローテーションがあるから、自分とこだけじゃなく隣の部署や上下の考えをマネジメントできるという。

鈴木氏: 日本の人事部門の多くは、誰でもマネジメントができるわけじゃないと解っているので、マネジメントできる人とスペシャリストとキャリアプランは分けていますよね。

片岡氏: 日本のスタイルも必ずしも悪いものではないんですね?

鈴木氏: はい、時代に合わせて変化してますし。だけど教科書通りだと面白くないんですよね。金太郎アメじゃなくて、経営者っていろんな個性があるから面白いのであって、それを認めたうえでの経営者マインドを持て!なら、良いんじゃないのかなと思いますけど。