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■ 未来へ繋ぐ女性の生き方


女性の「選択の自由」を尊重する国:ノルウェーの女性の生き方事情

女性の「選択の自由」を尊重する国
ノルウェーの女性の生き方事情

Kristin Engvig氏
W.I.N.創設者/CEO
日本でも「女性活用」が注目され、女性の働き方についての関心が高まり、多くのメディアでも取り上げられています。未来へ繋ぐ女性の生き方 第3弾は史上2人目の女性首相が君臨する国、ノルウェーから日本でのカンファレンスで来日したWIN(Women's International Networking)創設者:Kristin Engvig さんにインタビューをさせて頂きました。

男女平等の国として知られるノルウェーは、世界でもジェンダー指数が第3位(世界経済フォーラム調べ)、また高い母性指標と女性指標から世界でもっともお母さんに優しい国、との称号を得ています。日本とノルウェーを比較すると、経済成長率、平均寿命とも近いところに位置していますが、日本のジェンダー指数は105位と男女の格差は決定的に差があるとデータでも示されています。

世界各国を駆けるアントレプレナーとして、そして母として。女性たちを励まし、勇気づけ、活動し続ける、Kristinさんの原動力とビジョン。ノルウェーの女性が受ける教育や、ノルウェーの社会の空気についてもインタビューしました。
ノルウェーと日本、決定的な差は「男女の格差」
ノルウェーと日本での違いというのはどういうところで感じられますか?
日本は北欧諸国と同じく、長寿国で経済も発展しており、成熟した国だと思いますが、一つだけ大きな違いがあると思います。 それが「ジェンダー」、男女平等における意識の違いだと思います。 日本でも働く女性は増えてきており、意識も高いですし、日本の社会自体も女性活用を積極的に取り入れ、オープンになってきています。

でも今回のW.I.N.ジャパンカンファレンスでも感じたのですが、もう少し男性の理解が必要ではないかと思います。 それがあることで、より平等な社会になっていくのではないでしょうか。ジェンダーギャップ指数(2013)内閣府男女共同参画局HPより
ノルウェーの教育で大事にしていることは、「幸福に生きる」。
日本ではまだ、一流企業に就職する、公務員になる、あるいはいいところへお嫁に行く、というのがステイタスだったり、安定しているという固定概念があるかもしれません。ノルウェーの女性たちは、理想の女性像について、どのような教育を受けていますか?
ノルウェーの教育でまず大事にしているのは「幸福に生きる」、ということです。 では何が自分の幸福(=well being)なのか、深く自分を洞察する必要もあります。教育もそこを前提に、各々に考える機会を与えてくれています。 ですから私たちも、自分はどうしたいから、何を勉強するのか、何を得てゆけばよいのかを問い、それぞれが選択しています。

また教育でいいますと、幼少時から、男女別々ではなく、男女一緒に行う授業を受けています。男の子も、女の子もよく一緒に話もしますし、コミュニケーションをとっています。 家族はよく話し合いをし、家事分担も当たり前に行っています。 男性、女性、子どもも一緒に食事の準備をしたり、食事をして、非常によくコミュニケーションをとっていると思います。

もう一点は、ワークライフバランスも異なると思います。 ノルウェーでは日本のように、22時や23時・・・と遅い時間まで働きません。 家族と夕食を一緒にとり、夕食後、家で残務を行ったり、仕事のメールをチェックしたりしますが、家族で過ごす時間を大切にし、家庭での時間に重きをおく社会の風潮があります。
ロールモデルとしては女性首相が象徴的。世代交代の波も
ノルウェーには、女性の理想のロールモデルがありますね?
確かにノルウエーには女性のロールモデルが沢山います。 例えば子育てをしながら働く女性は数多くいますし、一番特徴的なのはノルウェーには女性の首相がいます。政治家に女性がなるのもごく普通の状況です。 ノルウェーでは、地方議員では3人に1人、国会議員や国家公務員の管理職も10人に4人は女性です。

ただ、今大事な事として社会で認識されているのが、活躍する世代の世代交代が挙げられます。 若い女性は、いきいきと働くために、もっと外の世界を旅し視野を広げたいと思っていたり、もっと専門分野を極めたいと思っていたり、働き方だけではなく人生の過ごし方そのものが多様です。

時代に合わせた、これからの世代のロールモデルを、数多く紹介していくことが大切だと思っています。個々人の働き方や人生の選択そのものの多様性は、社会の多様性につながると思います。
女性の「選択の自由」を尊重するノルウェー
またノルウェーの一般常識として、個々人の選択の自由を大切にしている点があげられます。例えばそれは、恋愛であっても、結婚をするのか、離婚をするのか、といった様々な形もありますし、職業につきましても、ビジネスに関わるのか、アートに関わるのか。アートであってもそれは舞台なのか、何に関わるのか、ビジネスであってもそれはエンジニアなのか、どういった職業なのか、様々な選択肢があります。

特にビジネスの立場であれば、責任ある立場で活躍する女性が非常に増えてきていますので、そういう意味でも選択の自由は広がっていると思います。一方、これから変わっていった方が良いと思うのは、政治への参画において、男性的なやり方が従来の方法でしたので、今後はそこに女性らしいやり方が受け入れられ、共存できるといいのではないかと思います。
これからの政治・ビジネス界に望まれる、女性の特性
女性らしさとは具体的にどういったことでしょう?
これは日本に限らず世界の話をしておりますが、政治の腐敗というものはどこにでもありますね。本来でしたら、社会を守ったり、社会を良くする為に政治はあるのに、それが難しい現状があります。女性は、家族やコミュニティをサポートしたり、面倒をみること、世話をする事が得意といえますから、そういった母性的な 女性の力が必要だと思っています。

これまで女性が、家族やコミュニティで活かしていた力を、ビジネスや政治の意思決定などにも活用できれば、よりよい世界につながるのではないのでしょうか。 ビジネスや政治の世界のバランスが、まだ男女平等ではないのでこれから変えてゆけたら良いですね。
すべての女性に「選択の自由」と、新たなトレンドを
どのような経緯で、今のWINのような形ができあがってきたのでしょう?
きっかけはいくつかありますが、自分の生まれた国がノルウエーだったことが大きいかもしれません。ノルウエーはご存じのように仕事におけるジェンダーギャップが世界第3位と恵まれた国です。

私自身も高校の時はミラノに住み、大学や欧州連合で働いていましたし、大学では東欧・ロシア等を研究し、他国と自国の違いを見知っていました。

その後、世界を駆けるコンサルタントとして様々な国の女性と話をし、社会人としての経験や、また結婚・離婚を経て、女性としての人生の経験も積み、私はノルウェーに生まれ、とてもラッキーだったということに気づきました。 それは選択の自由がある、ということです。

ノルウェーという国で生きているからこそ、実現できていることを知りました。 すべての女性、全世界の女性が「選択の自由」を持てればどんなに良いかと思い、WINを立ち上げました。 そして、いろんな人との出会いがあり、共感し合える仲間、場所があることが、どんなに元気をもらえ、勇気づけられるか。

実際に多くの組織や団体で、女性を勇気づける団体がありますが、そういった団体や女性のグループが更につながり、共感の輪が広がれば、ますます新しいことが生まれ、加速していくと考えています。 また私たちは、例えば世界で何が起きているか、新しいトレンドを知り、お互いに影響をあたえあって新しいトレンドを一緒に創ってゆくこともできます。

そして働き方。どういうふうに新しい働き方をしていったら良いか、どういうワークライフバランスを良くしていけばよいか、どう、より女性らしい価値を創造していけばよいか、も考えていくことができます。 またよりもっと倫理的であったり、自然・環境に対してサスティナブルであったり。 女性自身にとっても、キャリアの選択肢が増える事で、より気持ちが前向きに、積極的になれると考えています。

世界を知り、自分を知る。「女性らしさの価値」を活かして、はばたいてほしいですね。現在、WINカンファレンスに関しては、世界各国の人たちと共に時間を共有し、「世界」を知るというステージと、もう少し段階を落として「仕事をどういうふうに具体的にやって行くか」というステージ、そこからさらにもう一段階自分に引き寄せて、 「女性個人としてどのように生きるか。どうあるべきか」と自分自身に向き合うステージを用意して、ワークショップ等も提供しています。ステージを世界から個人へと、深堀りしているんですね。

女性が社会に出て働き、例えば新しい事にチャンレジしようとする場合、恐れやプレッシャーを感じて先に進めない・・・なんていう事は、どこの国の女性でもありますし、みんなありますよね。

その時にこのカンファレンスによって、人の前で話をする機会があったり、アサーティブという相手を傷つけずに、でも自分も我慢せずに、自分の表現したいことを折り合いをつけて表現する、そういうコミュニケーションの仕方を学んだり、とお互いに助け合い、学び合う場を作りたいと思っています。

そしてそこで、元々自分の中にある女性らしさの価値やよさに気づいてもらう場を提供しています。 あなたは変わった存在ではない、ユニークであってもOKです、受け容れられます、と。 女性が表現することにもっと自信を持ち、ますます輝く。そういう場を私は創りたかったのです。

デンマークの童話「みにくいアヒルの子」では、アヒル一家の中に一羽だけ容姿の良くないアヒルがいて、のけ者にされていました。酷い扱いを受けながら、でも他の世界へ行ってみると実はとても美しい白鳥だった、というエピソードがあります。 女性も白鳥のように正しい場所ではばたいていく存在であるのです。
「心の声」に素直になって
日本女性へのメッセージをお願いします
日本の女性は聡明で繊細、同時にとても知性が高く、とても素晴らしいと思っています。私が伝えたい事としては、自分の心や内面を大切にしていただきたい、ということです。 感性や知性はもちろんそのまま大事なのですが、一方でもう少し心にスペースをとってあげ、ご自身にゆとりを確保してあげることが大切なのではないでしょうか。

例えば、日本の女性はどちらかというと「NO(いいえ)」と伝えたり、意見を言ったり、全般的に「NO(いいえ)」の声を上げる事が非常に難しいようです。本当は困っているのに、「YES(はい)」と言ってしまう。 確かにとても難しいのですが、「NO(いいえ)」の時には、「NO」という意思表示をすることも大切だと思います。

そこで大切なのは、自分の心の声をきちんと聞くこと。 心の声を認識する事で、自分の心の中に問うて、そのエネルギーを感じる時、心の中で「YES」という声があったら、それに従うべきですし、「NO」という声でしたら、それを認識し、言葉にすることが大事なのかと思っています。

これは日本だけではなくて、ノルウェーでも世界でも難しいことです。それでもノルウェーでは少しずつ女性たちが、意思表示が出来るようになってきました。私の今の50%以上の仕事も、この心の声に従い、実現してきたんですよ。 大事なのは、社会の中で共存することと、自分らしくいること。両方が大切です。

自分らしく、共存する。そしてそのバランスもとても重要です。 「わたし、わたし」と自分の意見を通すだけということでもなく、 「あなた、あなた」、で私の意見は何も無い、ということでもなく、 いかにそのバランスをとっていくか、が大事だと思います。
クリスティンさん、ありがとうございました
Kristin Engvig氏
W.I.N.(Women's International Networking)創設者、兼CEO 1997年、ミラノで初のW.I.Nを創設したクリスティン・エンヴィッグ(ノルウェー国籍)は、女性としての特性を活かしながら社会活動に参画するという、自らのビジョンを実践し続ける国際会議のパイオニア。ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)として常に独創的な発想を携え、ヨーロッパ各主要都市に於いて年一回毎年10月「国際会議」を開催、世界各国から約1,000人に上る参加者を集めている。W.I.N.は現在「女性の為のリーダーシップ・ダイバーシティー(多様性)セミナー」の金字塔として広く世界に知られている。2014年4月18,19日に「第4回W.I.N.ジャパン国際会議」を東京で開催し、200名を超える参加者を集める。 「フォーブス2012リスト・オブ・ザ・ワールズ150モースト・パワフル・ウーメン(Forbes 2012 List of The World's 150 Most Powerful Women)」にノミネートされている。
W.I.N.(Women's International Networking)
HP: http://www.winconference.net/
クリスティンさんは、万能な「スーパーウーマン」というイメージがあって、お会いする前は緊張していたのですが、特別な雲の上の存在という印象よりも、とても自然体で、あたたかく包み込んでいく明るさとパワーを感じました。

「心・内面が大切」というお話が印象的でした。心・内面的なことと、ビジネスは別けがちですが、心の内をビジネスの世界であらわしていく、と言うクリスティンさんは日々自らの心に問い、考える作業を継続してこられました。そのことが未来を創造することに繋がるのだと共感し、私も日々実践してゆこうと思います。

これからは女性も、より生き方の多様性が求められてゆくと言われていますが、世界的にダイバーシティ(多様性)の概念を取り入れていくこと、また、温故知新、日本の伝統的によいところを双方取り入れることが世界へ、そして未来に向かう女性が活躍できるキーワードとなると感じています。

ビジネスや政治の世界においても、日本も、世界も、より「女性の特性」が求められると伺いましたが、示されたものに受け身で従うのではなく、自らの心に問い、そして考え、アウトプットする。表現していくこと、表現を磨いていくことがひとりひとりの女性にとって、これからとても大事になっていくことも感じました。
加藤 倫子
PRESS ROOM
ライター、広報・PR支援を個人事業で行う。 ニュースの仕事を通算で8年。社会、政治、国際のニュースをテレビ、週刊誌、Webで取材・編集に携わる。他にも金融機関で営業職を4年、会社のPRや新聞広告作成など広報の仕事を任される事が多く、外部広報・PR業務を受諾、企画支援、新規事業支援、ライター業も。報道(メディア)とビジネス両面の経験を強みとし、仕事を展開している。
写真協力:Yuzo Komoriyama(加藤倫子プロフィール)
撮影協力:安廣 美雪(Take_)