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■ 東京ウーマンインタビュー


将棋で育む親子コミュニケーション Vol.2

将棋は終わりが決まっていないゲーム
北尾:将棋の特殊なところは、「終わりが決まっていないゲーム」だということです。例えばサッカーなら時間、野球なら9回、テニスならスコアに到達したら終了、という終着点が決まっています。でも将棋は相手と自分だけの世界で、尚且つ取った駒が使えるのでエンドレスなんです。両者共戦いたくなかったら終わりが来ないですよね。(笑)

よく「プロの方って何手先まで読むんですか」と質問されますが、先を長く読めるのはいいけれど、分岐をたくさん読んで無駄な手を深掘りするのは良くないんですよね。結局、指せるのは一手しかないので、「正しい一手を正確に読めるか」と「悪い手が来たときに、きちんとそれに対応できるか」ということが大事です。

片岡:うちは小学生の息子が二人いるんですが、最近お兄ちゃんの方が弟に負ける時があるんです。お兄ちゃんは三手か四手先まで読んでいるのですが、弟の方はそこまで考えていなくて、全然違う予想外の戦法でやられてしまうらしいです。

北尾:よく、「将棋は線で考えなさい」と言います。その場の一手だけではなくて、次の狙いを持った手を考えること。

「先が読める」ということは、将棋の思考力はあるのだと思います。ただ、そこで「先を見る」ことと相手の指し手の後に「正解手を選ぶ」ことはまた違う能力です。自分が思っていた道と違うところに行っているのに、同じ道を歩き続けていると間違います。だからそこはちゃんと相手を見て、その手にどういう意味があるのか、何をしたいのかということをもう一回考える頭の切り替えが必要ですね。

片岡:大学生でも多いです。最短で自分の思っている理想の答えにたどり着こうとする。それも悪くはないんですけど、余裕がないのかな…思った通りに行かないと、自分の人生は失敗だと思っちゃう。(笑)

北尾:日本の子って言われたことを真似して全く同じことをするのは得意です。例えば将棋の説明の時に、十手ぐらいやって見せて、真似してごらんって言うとできるんですね。でも次に、好きなようにやってごらんっていうと、「えっ」となるんです。

「やり方を教わっていないからわかんない」と言います。一応、王様を捕まえるとか、ルールや目標はわかっているけど、「そのためにどうしたらいいの」って聞くんですよ。「そこを考えるのが将棋の面白さでしょ」と。(笑)

大人でも、「ネットで調べたらこのような結論になっていました」という人が結構いるんですが、実際にはその局面からどこかで未知のところに入るわけです。今までプロの棋譜が何万局もあるんですが、同じ将棋はないと言われています。だからこそ、「知識」と、「未知の局面になったときの対応力」、そして「自分に自信をもって」、「今までの経験をもとに先を読んで決めていく」。これがすごく大事なんですね。実生活でも同じだと思います。

片岡:北尾さんも、大事な一局で相手が指した手が予想外で全然想像もしていなかった時に、動揺することはありますか。

北尾:ありますね。その手自体の意味がわからなくて、これはどういうことなんだろうと考えることもありますし、ただ単に自分の見落としだったということに気がついてガーンってなることもあります。(笑) 指している横にもう一個盤があって、ちゃんと動かして確認できれば違うと思うんですが、そこは頭の中でやるので、そこにやっぱり読み抜けとか見落とし等が発生するわけです。

片岡:誰だって指し手でミスを犯してしまう時はありますよね。

北尾:それが自分のミスなのか、相手のミスなのか。そこをちゃんと見極めないと、相手のミスに付き合ったら悪くなってしまう。だから相手のミスをちゃんと咎めたてることをしなければいけないし、そこはやはり自分が正しいという自信をもって指せば、勝てると思うんですね。
だけど動揺して、ぶれて相手に合わせて、そしたら相手の方が良いペースになるということもあります。そのあたりの見極めが難しい。

そして対局後の感想戦で意見を交わしながら自分の感覚を是正します。そうしながら強くなっていく。
どうぶつしょうぎを通じてもっと将棋の楽しさを広めたい

片岡:北尾さんが考案された「どうぶつしょうぎ」についてお聞かせ下さい。

北尾:私がルールを考案し、同じく女流棋士の藤田麻衣子さんがイラストを描かれました。将棋は目的がすごく明快です。王様をつかまえれば勝ち。囲碁だったら何目差、という点数の勝負ですけれど、将棋は0対100、勝ち負けしかないんです。ただ、将棋の難しいところって、まず覚えることが多すぎる。駒の名前、動き方、ルールが細かくて大人でも大変じゃないですか。

それと、囲碁の世界だと、普通の対局は19路盤ですが、13とか9、小さい子がやるような5とか6もありますが、そういう簡易的なものが将棋にはなかったので欲しいなと思いました。

片岡:ルールを作る上で、一番苦労したところはなんですか?
北尾:マス目が9×9の81マスあるところを、なるべくマス目を少なくし、駒数も少なくして、駒の動きも簡単にしてバランス、分量的なものを考慮しました。例えば3×3だと王様は動きようがないんですね。4×4は中心のマスがないからバランスが悪い。左右対称で王様を真ん中に置きたいんですよ。(笑)5×5になるともうだいぶ難しくなってしまって初心者にはちょっと辛いなというのが正直なところで…。

視覚的に子供がかわいいと思うものがいいと思いますし、漢字から離れたかったというのもあります。言語依存があると子供や海外の方には難しくなります。そこを取り払いたいと思って図形にする工夫をしました。さらに藤田さんが、「歩がと金になる」のを「ひよこがニワトリに進化する」という風に、子供向けに分かりやすく、イメージしやすいものを作られたので、それと私が考えたルールが一緒になって子供向けの良いゲームになりました。

将棋の潜在的な需要はあったと思うんです。頭を使うし、礼儀も身につくから子どもにやらせてみたいというお母さんは多いけれど、自分では教えられないし難しい。誰か教えてくれないかしらと思っていたところにどうぶつしょうぎを見て「これなら私にもできる」と思った方も多いと思います。

私はこの素晴らしい「将棋」をできるだけ多くの方に広めていきたいという強い気持ちがあります。そのファーストステップとして、どうぶつしょうぎを広めて、将棋の楽しさを世界の人に知ってほしいと思います。

1月11日から「東京ウーマン」で、コラムの新連載が始まりました。将棋の楽しさ、将棋から学んだこと、将棋を通じて見た世界を、皆様にお届けしてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

片岡:コラムを楽しみにしています。ありがとうございました。
北尾 まどかさん
女流棋士/「株式会社ねこまど」代表取締役
1980年1月21日生まれ。東京都目黒区出身。西村一義九段門下。幼少のころに父からルールを教わる。高校生の時将棋に再会して夢中になり将棋漬けの毎日を過ごす。約1年でアマ二段となり。20歳で女流棋士2級としてプロデビュー、2008年に初心者向け「どうぶつしょうぎ」のゲームルールを考案した。2010年に 将棋普及のための会社「株式会社ねこまど」を設立。代表取締役を務める。多数の教室で講師を務め、海外を含む各所で指導を行う他、テレビ出演や執筆活動など、普及面でも幅広く活動している。座右の銘は「楽遂(らくつい)」(楽しみをきわめること)。「将棋をもっと楽しく 親しみやすく 世界へ」をテーマに、世界中を飛び回っている。
片岡 英彦
株式会社東京片岡英彦事務所代表
東北芸術工科大学企画構想学科/東京ウーマン編集長
京都大学卒業後、日本テレビで、報道記者、宣伝プロデューサーを務めた後、アップルのコミュニケーションマネージャー、MTV広報部長、日本マクドナルド・マーケティングPR部長、ミクシィのエグゼクティブ・プロデューサーを経て、片岡英彦事務所(現:株式会社東京片岡英彦事務所)設立。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。フランス・パリに本部を持つ国際NGO「世界の医療団」の広報責任者就任。2013年、一般社団法人日本アドボカシー協会を設立。戦略PR、アドボカシーマーケティング、新規事業企画が専門。東北芸術工科大学 広報部長/企画構想学科 准教授。
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