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■ 東京ウーマンインタビュー


スマホとSNS時代という新しい時代の子育てNo.2

大学生のスマホリテラシーは意外と低い
片岡:大学生のリテラシーに関してはいかがですか。

桑崎:正直言って、ネットに関して自由に使えるのが大学生じゃないですか。いろんな点でスキル高いかなあと思うと、これがびっくりするぐらい低いというのをちょっと感じています。でも考えてみたら、スマホが急速な普及を遂げたのはこの3年なんですよ。本当に安易に使っている学生もいる。かと思うと、写真を写すとき、GPSをOFFにして写すんですという女子学生もいて、スキル差がすごくある。けど、おしなべて言うと、低いと思うんですね。
この前もある宴席で「マイナンバーカードが届きますね」という話をしていたら、写して「届いたぜ」ってアップする子がいるかもしれない。先生の授業で頑張ってくださいと言われました。ああいうのっていうのは、大学生がよくやりがちなんですよね。

片岡:一時炎上したコンビニでのアイスクリームの件、あれも大学生でしたね。

桑崎: 日本の大学生の法的な知識が足りないのではないかという指摘があります。ネット炎上という言葉は英語にはなくて、強いて言えばニューヨークタイムズは、バイトテロリズムと訳しているそうです。ここに実はポイントがあると思います。欧米人の感覚からいくとあれはふざけではなくテロなんですよ。会社や社会に多大な損害を与えている。テロを起こしたということは、首は切られるし、損害賠償もさせられるということなんですね。アメリカ社会は訴訟社会なので自然と歯止めがかかる意識が芽生えていると思います。

去年9月には某県の教育委員会がある若い女性教師を処分しました。それはtwitterに掲載した「2000円拾いました、有効に使わせていただきます」という書き込みがあるけれど、これはいいのですか、という指摘があったからです。実はこの書き込みは前々、つまり女性教師が学生時代に書いたものなんです。それが2年間放置されて、教師になってから指摘をされたわけです。いずれにしても、これは横領罪に当たります。占有離脱物横領罪、拾得物横領罪、10万円以下の罰金か1年以内の禁固なんです。

片岡:ヤバい、という感覚もないんですね。古くからある若気の至りなのかもしれないし、無頓着すぎるっていう・・・。その辺は教えていかないといけないですね。

桑崎:若気の至りなのか、法律を犯しているのかっていうのが日本の文化としてちょっとあいまいなところがありますよね。成人式のバカ騒ぎもそうですし、高速道路でスピードメーターが150キロを指しているのを映して、「スピード違反ナウ」なんてね。機種で分析されて誰かって分かればこれ警察が捕まえますよっていう世界ですよね。

一方で、これは高校生ですが、今年の夏には1枚の写真がすごいプラスになった。秋田商業高校かな、甲子園でベスト8まで勝ち残った高校の野球部が、長期に渡って滞在した新大阪ワシントンホテルプラザを立ち去る時に、ミーティングルームのホワイトボードに書置きをしていったんです。みんなで感謝の気持ちを書き連ねていたんですね。従業員の人が翌朝出勤したら、嬉しかったんでしょうね。写真を撮ってツイッターにアップして、一気に広がりました。

また、今年度の富士重工の不採用通知もtwitterで拡散して話題になりました。その文面はまずお礼です。「数ある会社からうちを選んでくれた」こと、次は「当日時間をとらせた」こと、そして「意に沿えない結果でした」というお詫びが続きます。「限られた時間の中であなたの能力を全部評価したわけではない」と。まだ「素晴らしい能力ある人だから今後も頑張ってほしい」という激励です。「うちはこんな気持ちで採用業務やっています」と、「今後もよろしくお願いします」みたいなとうとうとした文章なんですよね。

道村:うれしいですよね。不採用になると人間否定されたみたいな風に多くの学生が思うと思うんですけど。そういうことではないっていうのが伝わります。

桑崎:スマホとSNSが登場したことによって、やっぱり社会が変わったと思うんです。良くも悪くも、今までなら人目に触れなかったことが、日の目を見る時代でもあるというのがネット社会ですね。私はこういう点ではネット社会は本当にいいと思います。
お母さん自身はどんなことに気をつけたらいいか
片岡:この東京ウーマンという媒体はお母さんが割と多くて、また個人事業主や何かのスペシャリストな方が大半なのですが、子供にそういうリテラシー、いわゆるいい意味での「メディア慣れ」をさせていくには、お母さん自身がどういうことに気をつけていけばいいでしょうか。

桑崎:まずは「ネットに関心をもってもらう」ということが一つだと思います。まだ、色々なことが起こり得るということを想定していない保護者の方が多いような気がします。今、アメリカでは幼児を持つ親が心がけることとして、「お風呂の写真はあげない」というようなことがあります。特にカリフォルニアでは子供の裸の写真は子供が成人した時にそれがいじめのネタになったり、「何ていう写真をあげてくれたんだ」と言って子供が親を訴える等が起こっているそうです。確かに3歳児、4歳児は可愛いですよ。裸でも別に何ともないんだけど、この子が将来大きくなるということを考えると、どうなのっていうことを親が考える時代になっている気はするんですよね。

スマホも登場して3年も経ち、SNS含めてどんなことが起こり得るかというのは、少しクリアに見え始めている時代なので、まずそこを知るというのは大事だと思います。

片岡:親のリテラシーが大事ということなんですね。

桑崎:そういうことがわかれば実は子供に教えるべきポイントというのも少し見えてくると思います。「いつからネット機器を触らせればいいんですか」という質問をする人がよくいますが、実はこれは正解がありません。個人差もすごく激しいし、実際子供たちは小さいころからタブレット等を身近に遭遇していく時代を迎えつつあります。自分で持ちたがるのは、小学校の多分中学年以上ですね。低学年はほとんど興味がない。特に男の子の場合、ネットというと「虫取りネット」しか思いつかないぐらい。中学年から急に関心が出てきて、高学年になると持ちたがります。なので、むしろ小さいころからキッズスマホを持たせて当たり前にしておいた方が、ネットへの対応もスムーズだったのにという話もあります。もう身近にあって当たり前みたいに。そうすると高学年になっても特別に使うこともないそうです。

片岡:それは「人と繋がるか、繋がらないかは別として」ということですね。

桑崎:ええ。一つ言えることは、親も子も「使ってみなければスキルがあがらない」んですね。例えば自転車でいうと、高校生になったら結構自転車で長距離通学をします。10キロとか平気で行きますね。自転車で安全に通えるようになるためには、自転車に乗らないと安全のスキルが上がらない。車も「ゴールド免許です」と言いながらも、ペーパードライバーの人の運転スキルは決して高くない。当たり話です。でも、運転すれば事故のリスクは高まります。これも当たり前のことです。運転すれば事故のリスクは発生するけども、運転しない限りは安全のリスクも高まらない。ネットも同じことが言えると思うんですね。

道村:絶対に使う時期はやってきますもんね。その時にはやはりやってない方が危ないということですよね。

桑崎:ネットに関しては、よく「それで中毒みたいになるから使わない」という消極的な意見もあるんですが、私はネットの中毒というのは、日常生活がきちんとしていれば、そんなにはなりにくいと思います。

道村:それこそさっきおっしゃった、親子でルールを決めるみたいな話合いの場をちゃんと設けるべきということなんですよね。

桑崎:先ほどお話した久里浜病院で治療している子は、1日10時間以上ネットをやっているという子です。長時間利用の子っていますよね。3時間とか4時間とか使う子。そういう子がすべて9時間10時間の依存症になり治療が必要なレベルになるわけじゃないですよね。でも一部になる子がいるんです。一部のなる子は何ゆえかというと、結局もともと不登校になるような要因を抱えているんです。

道村:コミュニケーションがなかったりとか。

桑崎:そうなんです。友達がきちんといれば、一時的に3~4時間使うこともあるでしょうけど10時間ということはあり得ない。ですが、元々課題を抱えている子はネットに逃げ込んでしまう。もちろん他のことに逃げ込む可能性もありますが。

片岡:ネットじゃなくてもいいかもしれないですね。

桑崎:そうなんです。ネットの話でそういう子がいるからといって、すべてネットを禁止するというのも論理的に変なような気がします。

片岡:昔なら、本を読んでいたかもしれないですよね。読書オタクだったかもしれない。

道村:ゲームをずっとやってたとか、マンガ読んでたみたいなのも一時期いわれていましたもんね。

桑崎:だからお母さんたちとしては、ネットで言われているSNS問題も、実はすべての子がなるわけじゃない、ほとんどの子がなってない。それは「交通事故はこわいから外出しません」という話と同じです。むしろ積極的に、交通事故のリスクはあるけれど、外出して安全な道の渡り方とか、そういうことを学んだ方がいいと思うんです。子育てにネットは有益です。色々な情報が得られるし、コミュニティもできますし。

ただ親御さんも実は孤立している部分があります。保健センターの乳児健診でよく聞く話ですが、例えば1歳児健診で、子供さんの様子が気になる。ネットで調べたら発達障害じゃないかとか、言葉がしゃべれないんじゃないかとか、情報を鵜呑みにして妙に心配して健診を受けにくるんですね。そこでベテラン看護師さん、保育士さんから、「いやいや、お宅の子供さんは全然心配いりませんよ」「子供には個人差あるから心配いらないレベルですよ」っていわれると、そこでほっとするんです。

片岡:真面目な方が陥りがちな例ですね。

桑崎:ネットだと、「情報をどう取捨選択するか」というスキルが大人もまだ育っていないんですね。高等学校の保護者が中心だった講演に行った際、こんなことがありました。終わった後に養護教諭の先生が寄ってこられて、女性の健康管理のアプリで「ルナルナ」という生理・排卵日を予測するアプリがあるんですが、あれを禁止できないんですか、と言われました。「このアプリはちゃんと認定も通っていて特に問題があるとは聞いていません」と返答したのですが、その先生が、「あの情報を真に受けて妊娠した子がいる」っておっしゃるんですね。生身の人間の体だから誤差があるのは当然でしょう。身近にそういう方がいらしたから抗議されたんだと思いますけど、それより「その子はその情報をそういう風に理解するなんて、そこが心配ですよ」と、私は言いました。

意外とそういう人が多いですね。これからはいわゆる「情報活用能力」のスキルがもうちょっと上がらないといけないと思います。
今後求められるリテラシー
桑崎:今や子育てにネットはやっぱり必須なんです。でも、子供への影響ということに、まずはちょっと関心を持ってほしいと思います。もう一つよく聞こえてくるのは、お母さんは意外と熱心にやっているんだけど、お父さんの協力がないということです。今の幼児のお父さんは、結構ゲーマーが多い世代なんです。お父さんの協力というのは必須で、やはり子育て世代は夫婦で共同歩調というのは大事だと思いますし、ネットのあり方について夫婦で考えるような時代にきているのかなという気がします。

男女協同参画とはいいながらも、子育ての中心は女性が担っている部分があります。でもお母さんだけが一人で背負い込むのは非常に大変な時代で、やはり男性も理解する時にきていると思いますね。何度も言いますけど、スマホが登場してからの子育ては激変しています。いろんな面で。価値観にしろ、なんにしろ。

道村:やはりパソコンとは違いますか。

桑崎:日常的に持ち歩きますよね。どこでも写せる、どこでも調べられる、シェアできる、情報コミュニケーションがとれる、情報の投稿ができるという点で。基本的にこれは手の平に乗るパソコンですもんね。否応なしに世界中の人々がみんなこれを持ってしまったの。確かにこれで道を案内するとか、クックパッドで食材の調理時間や調理方法を調べるとか、本当に便利です。しかし逆にトラブルが起こるアプリって意外と限られているんですよね。

道村:子供にどういうコンテンツならOKで、どういうコンテンツはNOなのか、コミュニケーションの取り方とか、日ごろからどう話しておくか、そこはアナログですもんね。

桑崎:禁止という一つの乱暴な方法もあるんですけど、もし禁止をしたときに、例えばネットのトラブルを起こしたら、子供は親に相談できなくなるんですよね。起こったトラブルの解決策を親子で考える前に禁止していたことをとがめなきゃいけなくなる。かと言って野放図に使わせろと言っているわけではないんですけど。平成の子育てになってすごくそこが新たな一つの課題になっています。

片岡:新しい時代ですね。

桑崎:そうです。次の子育てとしては、今まさにそういうところをもっと考える時期にきているのかなと思います。
桑崎 剛
内閣府「青少年インターネット利用環境整備・普及啓発検討会議」委員長
安心ネットづくり促進協議会 特別会員
九州ICT教育支援協議会 会長
熊本大学(講師)全学教養機構、兵庫県立大学(客員研究員) 
熊本市出身 東京理科大学理学部数学科卒業。テレビ東京「ガイアの夜明け」(2008.5.20放送)へのTV出演他、新聞へ多数の記事掲載など、「青少年のネット問題」における第一人者として、教育ICTおよび情報モラル教育の普及啓発に向け、講演や著書等の活動を全国展開している。文部科学省委嘱「ネット依存対策委員会」の委員、厚生労働省委嘱「熊本ネット安心活用ワークショップ実行委員会」委員長にも就任し研究活動を展開している。
片岡 英彦
株式会社東京片岡英彦事務所代表
東北芸術工科大学企画構想学科 /東京ウーマン編集長
1970年東京生まれ。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」(現株式会社東京片岡英彦事務所)を設立。企業のマーケティング支援の他、フランス・パリに本部を持つ国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。2015年から、東北芸術工科大学企画構想学科で教鞭を執る。
道村 弥生
株式会社ハグカム 代表取締役社長
1984年生まれ。明治大学商学部卒業後、2007年に株式会社サイバーエージェント入社。大手クライアントの営業、新規広告メディアの開発などに携わる。スマホゲーム子会社の立ち上げ、サイバーエージェント本体の人事本部にて新卒採用などを担当した後、Ameba総合プロデュース室の室長としてコミュニティサービスの事業戦略や品質改善、アメーバ事業本部全体の組織活性など幅広く行う。教育ビジネスへの想いが募り、2015年にサイバーエージェントより独立。
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