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■ 東京ウーマンインタビュー


心と身体の声に耳を傾け、ストレスと上手に付き合う

心と身体の声に耳を傾け、ストレスと上手に付き合う

川西 由美子さん
ランスタッド株式会社EAP総研所長
心の事情を調整することで行動を変え、行動を変えることで心を健康にする、 ビヘイビアルヘルス(行動健康科学)
川西さんが提唱されているビヘイビアルヘルスとはどのようなものなのでしょうか?
ビヘイビアルヘルスは日本語で言えば、行動健康科学。日本では心の問題を扱う場合、メンタルヘルスや心理学、という言葉が良く使われています。

こうした分野は大学であれば心理学科が文学部に置かれていたりと、文系の学問分野として捉えられていますが、海外ではサイエンスの分野です。行動健康科学はまさに心と身体のことを考えるサイエンスであり、メンタルヘルスや心理学の上位概念として位置付けられています。

たとえば、ストレスを抱えて弱っている人に、「閉じこもっていないでもっと外に出た方がいいよ」「パーッと遊びに行った方がいいよ」と言っても、本当に弱っている時にはそんな気持ちになりませんよね。

そうした時には、まずは「遊びに行ってみよう」「外に出かけたい」という気持ちになってもらうための働きかけが必要です。

まず気持ちが変わることで、行動することができるようになります。行動することで、今度は心も健康になっていく。心と身体、行動はとても密接に結びついているんです。行動が変わることで、モノの見方も変わります。
私は東日本大震災の翌年から、福島県の南相馬市に3年間毎月伺わせていただいてきました。自宅に戻れず、仮設住宅で暮らす方々に毎朝ラジオ体操をしていただいたのですが、ただラジオ体操をお勧めするだけでは、たくさんのストレスを抱えている方々に、とてもそんな気持ちにはなっていただけません。

なぜラジオ体操をすると良いのか、ラジオ体操をすることでどんな楽しいことがあるのか、ということから丁寧にお話しさせていただきました。そこから「ラジオ体操をしてみようか」という気持ちになっていただき、実際にラジオ体操をすることが、規則正しい生活や活力を取り戻すきっかけの一つになっていったと思います。

気持ちや行動を変えるためには環境も重要な要素です。ランスタッド株式会社は、現在世界39の国と地域で総合人材サービスを展開しています。そうした関係から国内はもちろん、海外企業のコンサルティングに携わっていますが、働く方々に対してのコンサルティングだけでなく、職場の環境や組織の在り方など、総合的なコンサルティングを行っています。
働く女性の誰もが抱えるストレス
ストレスを分析し、心と体の要求をわかってあげる
働く女性からは、実際にどのような相談が寄せられることが多いですか?
最近は女性の管理職も増え、転職でキャリアアップを図る方もたくさんいらっしゃいます。転職先でポストは用意されていても、まったく文化の違う新しい会社で部下ともコミュニケーションが上手く取れないまま、成果だけはすぐに求められる、ということも少なくありません。

男性の場合は転職してもロールモデルがたくさんありますが、女性の場合は身近にロールモデルがいないことがまだまだ多いと思います。そうした環境で行き詰ってしまい、心の健康を損なってしまったという相談が増えています。

また、女性にとってはPMS、月経前症候群も大きな課題です。排卵後から月経までの間は頭痛やむくみ、イライラなど、さまざまな不快な症状が現れます。PMS自体がストレスの原因にもなりますし、他の要因でストレスを感じると、こうした症状が強く出る場合もあります。

こうしたことを考えると、やはり女性の方がストレスを感じることが多いと言えるでしょう。つまり、働く女性にはストレスがあって当たり前、と捉えることも必要です。常にストレスにさらされていることを自覚し、ストレスと付き合っていくことが大切です。
では、ストレスとはどのように付き合っていけばいいのでしょうか?
ストレスは悪いものだけではありません。もちろん悪いストレスもありますが、良いストレスもあります。

たとえば土日に何も用事が無いと、パジャマのままノーメイクでだらだらと過ごしてしまうことがありますよね。でも出かけなければならない用事があれば、おしゃれをし、メイクもします。メイクをしたらシャキッとした、という経験は皆さんもお持ちではないですか?これは良いストレスです。

また、新しい仕事はもちろん、新しい趣味やスポーツにチャレンジする時もストレスはつきものです。ストレスを感じることで「よし、がんばってみよう」と、モチベーションが上がる場合も少なくありません。まずは今自分が感じているストレスが、良いストレスなのか、過剰なストレス、悪いストレスなのかを見極めましょう。

悪いストレスであれば、なるべく早く対処しなければなりません。放っておくのが一番ダメ。ストレスは心や体、行動となって表れます。何かおかしいな、と思ったらすぐに対処しましょう。身体に表れたストレス、たとえば背中が張っていたらストレッチをしたり泳ぎに行くのもいいでしょう。緊張で顔がこわばっていたら、顔のマッサージに。

心に表れたストレスであれば、とにかくのんびりしたり、好きな映画を見たり、ということもいいかもしれません。どんなストレスがどのように表れているのか、しっかり自分の身体と心に耳を傾け、向き合ってあげることが必要です。

PMSも自分の身体のリズムを知ることが必要です。必ず月に一度は訪れるのですから、自分の身体をマネジメントしていきましょう。調子の悪い時に無理にがんばってしまうと、本来調子が良くなるタイミングでも低迷した状態が続いてしまうことがあります。

この時期は自分は調子が悪いんだ、と自覚して、甘やかしてあげることも必要です。ダイエットをお休みして、甘いものを食べてしまうのもいいでしょう。調子が良い時期にしっかりとがんばればいいんです。女性の身体にはリズムがあるので、がんばる時、ゆるめる時とメリハリを付けてあげることが必要です。
自分が100%悪い時でも、追い詰めすぎずに。
助けて!のサインは積極的に発信を。
東京ウーマン読者の働く女性に、メッセージをお願いします。
仕事をしていれば、失敗することもたくさんあると思います。たとえ100%自分が悪かった時でも、自分だけは自分のことを擁護してあげましょう。

もちろん悪かったことを認め、謝り、反省することも必要です。でも十分に謝って反省したら、家に帰ってお風呂に入り、パックでもしながら、「今回は時期が悪かったよね」「そんなこと言っても、あの人だって悪いじゃん」と、自分を守ってあげてください。自分はダメだ、と追い詰め過ぎないでくださいね。

また、調子が悪い時には、黙っていても周りが気付いてくれるはず、などと思わず「今、調子が悪いの」「助けて欲しい」とイエローサインを積極的に出しましょう。

こちらからサインを出さなければ、誰も気付いてくれません。たくさんサインを出せば、誰かが助けてくれます。恥ずかしいと思わず、発信していきましょう。女性には、我慢して抱え込む方も多いと思いますが、発信する事で同じ悩みを抱える女性が助かることもあるはずです。

東京ウーマンの読者の方には、管理職や経営者の方もいらっしゃると思います。管理職や経営者は、自分の思いを発信していくことも大切ですが、受け止める相手の心の事情をしっかりと見てあげることが必要です。

こちらにも相手にも常に何らかのストレスがかかっています。10伝えようと思っていても、伝える側のストレスで7つしか伝わらないこともあります。受け止める相手側にストレスがあれば、7つ全部ではなく、3つしか受け止められないこともあるのです。伝えたい10個の思いがすべて伝わるとは思わず、どれくらい伝わったのか、どのように受け止めてくれたのか、どう理解してくれたのか、部下や社員の心を理解する余裕を持ってくださいね。
川西 由美子さん
1998年、26歳で応用心理学をベースとしたコンサルティング会社を設立。2005年、EAP総研株式会社設立、代表取締役。2013年、総合人材サービス会社のランスタッド株式会社と合併。現在ランスタッド株式会社EAP総研所長。EAPとは、Employee Assistance Programの略で、働く人のさまざまな問題を解決することによって、企業の生産性の維持・向上を支援するメンタルサポートプログラム。川西さんはビヘイビアルヘルス(行動健康科学)コンサルタントとして、国内外の企業、病院、学校、スポーツ界等で「ココロの健康管理」と「職場風土改善」に関するコンサルテーションを幅広く行っている。 著書に『PMSを知っていますか?』(朝日新聞社)、『職場のメンタルヘルス対策の実務と法』(民事法研究会)、『強いチームを作る技術』(ダイヤモンド社)など多数。2015年6月、『チームを改善したいリーダー・推進者のための心の好循環サイクル~仲間を支え個を活かす力~』(日科技連出版)を発売。
ランスタッド株式会社
HP:http://www.randstad.co.jp/
加藤 倫子
PRESS ROOM
ライター、広報・PR支援を個人事業で行う。ニュースの仕事を通算で8年。社会、政治、国際のニュースをテレビ、週刊誌、Webで取材・編集に携わる。他にも金融機関で営業職を4年、会社のPRや新聞広告作成など広報の仕事を任される事が多く、外部広報・PR業務を受諾、企画支援、新規事業支援、ライター業も。報道(メディア)とビジネス両面の経験を強みとし、仕事を展開している。