HOME ■ 東京ウーマンインタビュー 「らしさ」をオリジナリティーに Vol.1 前のページへ戻る

■ 東京ウーマンインタビュー


「らしさ」をオリジナリティーに Vol.1

「ようかい体操第一」の作詞と振り付けですっかりお馴染みとなったラッキィ池田さん。子どもたちがついつい踊りだす動きはどのように考えられているのか!?頭にゾウのじょうろを乗せたユニークなスタイルからは想像もつかないプロフェッショナルな振付師としてのラッキィ池田さんに、こだわりと本音に迫ってまいりました。
モノづくりの街で培われた感性
道村:ラッキィさんが新しい物を作りたいと思い始めたのはいつ頃からですか。

ラッキィ池田:僕が育ったのは今スカイツリーが建っている下町なんです。モノづくりの街って今でこそ言われているんですけど、ただの町工場ですよね。各家にドライバーやらペンチやら山ほどあって、みんな家で何か作ったり修理したりしていました。だから僕はズボンの裾を上げたりサイズちょっと直したりを自分でできるし、常に何かカスタマイズしないと気が済まない、そういう環境だったんです。

小さいころはプラモデルが流行っていて、完成したものよりも完成する前のものを大人が提供してくれました。それに色を塗ったり塗装技術を自分で磨いたりしていました。そこから発展してそれを本当に好きになった子は本当に自動車を作るようになったり、本当にカスタマイズして何かを作るようになったり、秋葉原に行きたくなってマイコン作ったりとか。なんかそういうふうに移行できるように。振り付けもそれと一緒で、音楽に対して体の動きがどうはまるかによって全く違ってくるんで。プラモデル作りの延長線ですね、僕の中では。
ラッキィ池田氏
依頼された仕事に付加価値をつけたい
片岡:初めて振り付けの仕事でされたのはいつですか。

ラッキィ池田:ウエストサイドストーリーやジョントラボルタ等のディスコブームがあって、そういうのに憧れてこの世界に入ってきたんです。だけど、それは海の向こうのものでした。実際日本でそれやるとどうなのかな、みたいなのが徐々に自分の中で芽生えてきて、日本のオリジナリティーってなんだろうと考えるようになりました。

ピンクレディーがデビューして、面白い見たこともない動きに国民のみんながはまって熱狂して踊る、あれはすごいと思いました。でもその振付をしていた土居(甫)先生はその当時ヒップホップが好きだったりとか、意外とその(日本のオリジナル)部分を追求していかなかったんですよね。だから「お前がそういうすきま産業でやればいいと思うよ」と言われました。結果的にミュージカルの踊りとか、ヒップホップとかっていう影響を受けずに独自のものを踊りとして提供するに至ったんで、それはなんかすごく一つ時代がマッチしたのでよかったと思いますね。

多くの振付師は 現役のプレーヤーずっとやっていて、野球と一緒で現役やりながら引退したら解説者になるみたいな感じなんですが、僕の場合は最初から解説者を目指したんです。自分はプレーヤーとしてよりもむしろ作る方、裏方に回ろうと思って25歳ぐらいから振り付けを作りはじめていました。その時はもう見たことのないようなものを常に作りたいなと思って、わりとデタラメを積み重ねていくみたいな感じでした。
インタビュアー 道村 弥生氏
道村:ラッキィ池田さんの仕事に対してのこだわりをお聞かせ下さい。

ラッキィ池田:お仕事をすると報酬がありますが、僕の場合は報酬以上のものを心がけています。頭に象のジョウロを乗せているんですけどね、これって買うと100円じゃないですか。100均で売っている。でも100円でこれを作れって言われても作れないですよね。つまりは僕の中では、100円以上の価値があるものなんです。仕事って、いつもそういうものでありたいなと思います。いただくお金よりも価値があってよかった。で、また頼みたいと思われるような。だから常にそれを意識しています。

僕の場合は朝築地に行って魚を仕入れて作るわけでもないし、原材料もいらないし、手足と体とアイディアとで勝負していますので、仕入れがない分、これは見たことないなとか、これは頼んでよかったとか、ユーザー、クライアントさんがいて、ユーザーがどういう風にそれを楽しめるのか。例えばライブ会場みんなで踊れるのか、初見で踊れるのか、ビデオを見て練習したら面白いのかとか、2回目以降はどうだとか。コンサートのファイナルに向けてさらに盛り上がるのかとか、そういう細かいことをいろいろ考えてユーザーの顔を思い浮かべながら作っていますね。

道村:クライアントさんからこういう感じで作ってというのはあるんですか。

ラッキィ池田:時としてクライアントさんが、ユーザーを向いていない時があるんです。自社のことですごくいっぱいいっぱいな感じ。技術者の方からこんだけこういうことを歌ってくれと要望があると、気持ちはすごくわかるんですけど、機能を全部言っちゃうと15秒じゃ収まらない、機能を言って終わりですみたいなことになる。インスピレーションで、そういうものも含めてトータルのデザインだと思っていますんで。

具体的な機能を言い過ぎちゃうとやっぱりテレフォンショッピングにかなわないわけですよ。クライアントさんに対して自信をもって、こっちでいいんですよっていうことをどういうふうに言っていいか、っていうことがすごく大事です。

道村:逆にご提案することもあるんですか?

ラッキィ池田:提案することだらけですよ。面白いのは、「うちの宣伝をしないでいい」って言うクライアントが最近いるんですよ。これをどう捉えたらいいか。すごく前向きな姿勢で捉えていいのか、それとも若干デメリットがある方向で捉えた方がいいのか、すごく判断に困ることがあります。クライアントの名前も歌わないでほしいし、言わないでほしいし、商品も連呼しないでほしいとかね。それはそれでいいと思うんですけど、これで売れなかったら つらいなみたいなね。

道村:そうですよね。せっかくなら売れてほしいですもんね。

片岡:さりげなさ過ぎちゃうみたいなね。

ラッキィ池田:それに対して自分がどういう報酬をいただくかっていうのと照らし合わると、最終的にすごくリスクもあるし、作るものに対してどう背負ってやっていくかっていうことですよね。だって、例えばわかりやすい話だと、E-girlsっているじゃないですか。表のイメージだとすごくきれいで踊りもうまくて、スタイリッシュ。でもいったん稽古場に出てくるとあの子たちだって「ジャージ、汗だく、筋トレ」(笑)。

パッと見た目はすごくかわいいおしゃれな子がああいうことやっているっていうのがオーダー来ると、「1週間2週間じゃできませんよ」となります。やはり何年かかけて育てていかないとそういったものを提供するのは難しいですね。E-girlsがうまいのは、そういう汗とかをおしゃれに見せている。商品としてね。
僕が好きなものでろ過されていく
プロデューサーが言うには、僕の踊りは老若男女関係なくフラットで楽しめるんで、いいよねってことらしいです。NHKの「いないいないばあ」っていう0歳児向けの番組は、僕の仕事が子供向けのものに移行するきっかけになったと思います。

地球上に初めて生まれた宇宙人のような子に対して、誕生おめでとうっていうメッセージをこめて、「僕もゼロから発想するし、君もゼロだよね、みんなでゼロからやろう」って。0歳児は言葉はもちろんわからないし、何か構築しているものもないし、ただただ「ニャオ」とか に反応するってことがすごく不思議。逆に僕も小さい時どうだったんだろうと考えると、バッタ見て興奮したり、夏はセミやザリガニ捕ったり野原で缶蹴りしたり、あのワクワク、興奮はなんだったんだろうって、結局踊りの原点はそこだなと思いました。

だから、ダンススタジオで習ったものよりももっと遡ったところに僕の基本的なところがあるんです。踊り終わった時に、バッタを捕って遊んだ、バッタを手で捕まえられた時の興奮とかね。そういうのが手元にあるか、気持ちの中にあるか、そういうことで常に「合っているか、間違っているか、これでいいのか」っていう答えを出すようにしました。すると、その仕事がどんどんどんどん発展して、他の番組も受け持つことになって、子供向けのコンテンツが多くなってきました。
道村:子供のワクワクみたいなところから、それを振りにするっていう、そこの工程が難しいと思うんですけど、どこからどう着想を得て、手の動きとかなんか考えていらっしゃるんですか?

ラッキィ池田:昨日タクシー乗り場で、そこにいた女の子が色のついたタイル上しかジャンプしちゃいけないっていう、子供のころに誰もがやるような遊びをしていました。わざと無理してそこを歩くんです。他にも、ディズニーランド帰りの女の子が、ただクルクルクルクル回ってるんですよ。クルクルクルクルって。男の子が手すりにぶら下がってでんぐり返しはできないんですけど、向こう側行くんですね。「あー向こう側行っちゃったー、パパ助けてー」とか言ってね、「何やってんだ」と。で、また繰り返す。「一生やってろ」みたいなね(笑)。

何にもなくても楽しいんです、あいつらは。ずーっとやってんですよ。その楽しさとエネルギー、それが僕が踊りを作るときの基本です。楽しければ何度も踊って楽しければいいし、頭の中で次はこうだったなとか考えないとできないものは、なんかどっかに欠陥があるっていう風に考えて、なるべく欠陥が少なくなるように商品を作ります。
インタビュアー 片岡英彦氏
片岡: ラッキィさんの振り付けって、 どんな方の振り付けを見てもラッキィさんの振り付けってわかるんです。昔のシュワルツネッガーのCMを見ても「これはきっとラッキィさんだよな」と思ってあとから調べると、やっぱラッキィさんです。腕の角度や動かし方とか指の角度とか、振付の ディテールに秘密があるんでしょうか。それとももっと大きなコンセプトといいますか振付の着想の部分に独自性があるんでしょうか?

ラッキィ池田:そうですね・・・たぶん最終的に判断するまではいろいろなものを集めるので、「集めた中から何を抽出するか」っていう最終的な選択が他の振付との差異を産んでいるんです。日常の生活習慣の癖とかもそうなんですけど、意外と僕昼とかも面倒くさいんで立ち食いソバ屋とか行っちゃうんです。家出た時は割と計算してここのカフェに行こうかとかいろいろ頭の中にはチョイスがあるんですけど、最終的には 「立ち食いそば でいいや」みたいなね。富士そば率高いです。(笑) そういった最終的なチョイスのところが、常に「僕が好きなものでろ過されていく」んです。だから似ちゃうんだと思います。

あとはすごく「似ているっていいな」って思うんですよね。全く違うものを作ろうという気はなくて、同じようなものでも楽しみが違えばいいかなと思います。例えば車好きな人って何台も買うじゃないですか。でも結局車じゃないですか。僕はもっと船とかいろいろ買えばいいのにとか、結局どこが違うの?って思います。軽と外車だと相当違いますけど、基本同じじゃんみたいなね。
3人一緒に、ヨーでる ヨーでる!
ウォッチ!
ゲラゲラポー!
  • 1
  • 2