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■ 素敵女子ランチトーク


第3回 ファッションと仕事と恋と人生と

経済ジャーナリスト 谷本有香さんの座談会。今回のゲストはファッションプロデュサー/服飾専門家 鴫原弘子さんと、エッセイスト/明治大学特任教授 中野香織さんです。

ファッションと仕事と恋と人生と

img谷本:そもそもお二人がファッションに辿り着いた経緯を教えて頂けますか?

鴫原:私は小さい頃からきれいなものが本当に大好きで、大きくなったらきれいなものを作る人になろうと早くから決めていましたね。例えば雨上がり、水のしずくが太陽の光できらきら輝いている様子など、自然の中にみる美しさにいつも目を奪われていました。

ananやnon noが創刊する前の時代に当時、横浜市で唯一デザインを教えてくれる学校に通いました。当時商業デザインでは有名な学校だったものですので、3年間、授業で制作した作品を文化祭の度に展示され、そこを企業が青田買いで来ていましたね。

私もご縁あって松下の研究開発部で、デザインと機能の整合性について仕事をさせていただいていたのですが、やはりファッションに関わりたいと思って転職しました。

ファッション業界は想像以上に感性で語られる職場で最初苦労しました。私が通っていた学校では、「デザインはロジックだ。美も数式で描ける」とインダストリアルデザインの思想を持っていましたので、文化の違いで戸惑いました。でもその学びあったからこうやって生き残ってこれた気がします。

元々きれいなもの、美しいものは好きだったのですが、育てられた環境も影響したかもしれません。母は「これからの女性は働いて活躍すべきだ」という考えでしたし、当時女性が活躍できるのはファッション業界で、企業に就職すると25歳で寿退社、28歳になると会社にいられないような状況でした。松下の研究開発部の仕事も楽しかったですが、自然と洋服の仕事をして、ずっと働きたいという想いがありましたね。

また、父方は染色デザイナーや陶芸家といった芸術家の血筋、母方は商人といった両親の間で育ち、半分芸術家半分商人の血も自分の中で感じます。学校でも「好きなものを好きなように作りたいのであればれば芸術家を目指しなさい。そうではなく、自分がデザインした商品が街で売られ、多くの人の手に取ってもらいたいと願っているのであれば、商業ベースで成り立つデザインを常に考えるデザイナーになりなさい」と徹底的に教わり、常に世の中の人が求めているニーズを意識して仕事をしています。

中野:私の場合は、ファッションの専門家になりたいと思ってこの業界に入ったというよりも、導かれるまま仕事をしてきたらこうなっていた、といった感じです。ただ目の前の、仕事をくださる人を喜ばせたい一心でやってきただけで、求められれば、どこの業界であれ、ありがたく仕事をさせていただきます。

私は物書きで、言葉がベースにあって仕事をしてきたのですが、例えば過去には、映画やテクノロジーに関しても書いてきました。何に対しても、120%の力を使って書いてきましたが、映画では私以上にマニアックな方が相当いて、テクノロジーにもすぐれた専門家がいるわけです。どんなに頑張っても追いつかなかったのでしょうね。ファッションに関しても同様に全力以上のつもりで書いてきたのですが、私の場合、専門的に学んだ歴史や英文学の知識が非常に役に立って、ファッション業界の書き手として今の仕事に至っています。

鴫原:中野さんがいらっしゃったことで、日本のファッション業界が表層的なものから、本質の部分である真髄を理解できるようになりましたよね。ファッションがアカデミズムにまで昇華した感がある。感性をロジックやわかりやすい言葉に展開し、誰もが理解できるようになった立役者です。

中野:ただ、こうなろうと思って、ここまで来たわけでないんですよね。キャリアに対するビジョンがないというか、自分でも覚悟が足りないとも思います。これでいいのでしょうか?という感じがあります。

img 谷本:結果的にはその世界で極められ、プロフェッショナルになられている。誰もが好きなものを追求すればプロになれるのか、というとそうではないですよね。何故、お二人はプロフェッショナルなりえたのでしょうか?一番になるということを意識してこられましたか?

中野:もちろん需要があって、その需要にいかにこたえるかが仕事ですから、好きというだけではだめですよね。一番とか、他と比較したことはありませんが、とにかく依頼主が求めたもの以上のものを返さないと「次がない」わけですから、常に期待以上の仕事をするよう心掛けてきました。また私の場合は書くことが基本なのですが、常に客観的な視点をもってあたっています。

自分自身は面白いだろうと思っていても、相手にとってはどうだろうかと、客観的にすり合わせてみる努力もしています。その積み重ねですね。何度も何度も積み重ねることで、だんだん量が質に変わり、例えば1週間かかっていた仕事が1日で終わるようになり、直観力も磨かれていき、レベルを落とさずシンプルに読みやすいものが書けるようになっていく気がしています。

鴫原:私の場合は常に時代を読んで仕事をしてきました。ファッション業界は例えば今の時期に、もう1年先来シーズンのトレンドを読んで洋服が作られるわけです。世の中がどこに向かって進んでいくのか。ニーズは時代とともに生まれてくるわけで、ファッションに限らずどの業界も、先を見越して商品を開発したり事業を興す。例えばITコンサルタントも20年前には誰も考えない職業だったわけですが、一番最初にこのタイトルで仕事をされた方が多分一番稼いでいるわけです。

先の時代をくみ取り、どう変わっていくかを探っていきたい。ファッションの世界ではデザイナーをスタートに、ディレクション、この業界の専門家と進んできて、どこに立てば、どんなニーズがあって、どう商売が成り立つか、常にそろばんで計算していると思います。

谷本:本当にお二人とも先の時代、風を読まれることが非常に卓越されているのですが、時代を読む秘訣のようなものはあるのでしょうか?何を意識されていらっしゃいますか?

鴫原:いつの時代にも次の時代の萌芽、小さな双葉があると思っています。道教のタオに、「陰極まれば陽に転ず」ということわざがありますが、例えばデザインでも極端に丸くなったなと思ったら、次の時代とんがるわけです。黒の中にぷちっとある小さな白の点が、次に来る白の世界を内包している。ですので時代を読むときには、常に今むかっていくものと、全く別のベクトルにあるものを両方見て判断しています。

中野:私の場合はよく人を観察しているかもしれません。パーティに出席する機会も多いので、人の言動だったり、持ち物だったりを観察しています。また、海外の新聞をいくつも読んでいますので、共通して出てくる新しいキーワードがひっかかって見えてくるんですね。

ファッションは時代を先取りしているので、そのキーワードが後にほかの分野にも出てきます。こればかりはやはり、英語圏の方が早くて、日本語の読み物ではわかりません。英語圏の富裕層が何を考え、何をしているのかを追いかけると日本にも1~2年後くらいにその流れがやってきます。

img 鴫原:そうですね、早すぎるとだめですね。マスマーケットに展開されるまでにはやはりタイムラグがある。

中野:ただ時代を先読みしても、その時代を動かしているコアというかメンタルの部分は、実は英文学やフランス文学の古典の中にあるんですね。人間の心理や行動というものに全く新しいものはなくて、虚栄心や愛憎や憧れや選民意識やコンプレックスやセクシュアルな欲望に支えられた行動というものが古典には書かれている。

富裕層とそれ以外の層の対立もローマ時代からあって、今もファッション業界であたかも同じような図式で展開されていたりする。大学の時に文学や歴史をやっていてよかったな、と思う瞬間です。

いまの私の役割は、そんな古典の時代から続く人間の本質とファッションの関係を文章にし、エンターテイメントに昇華して読者にお届けすることだと思っています。

谷本:話は少し変わって、お二人ともとても素敵でみんなの憧れのような存在でいらっしゃるのですが、秘訣など教えて頂けますか。どうすれば、セルフプロデュースできるのでしょう?

鴫原:私は皆さまには、常に人物を想定し、戦略的に服の効果を考えなさい、とお話しています。私の場合は「ミストグレイの鴫原弘子」という人物を演じるためには、どのような装いで外にでたらよいのかを考え、パーフェクトに演じ、家に帰ったらぱーっと脱いでユニクロの部屋着に着替えちゃうわけです(笑)。鴫原弘子というジェニーちゃんを作って、120%演出し、演じる。これは女優さんが役になり演じるじることと同じだと思います。

よくスタイリングのアドバイスをさせていただくと、「購入する服が少なくなりました」と喜ばれます。理由は「どのような見た目を作る事がより効果的か?」を戦略的に言語化・視覚化してから買い物に行くことで、テーマに沿う洋服だけを購入するようになるので、セールで衝動買いもなくなり、選ぶファッションに一貫性が出て、結果的に洋服が減るわけです。

よく蓮舫さんのお話をさせていただくのですが、彼女のイメージは白いスーツが印象に残っていますよね。では彼女は白いスーツを1着しかもっていない、とかいつも同じ服を着ている、なんて思われませんからね。本人も一貫性があったほうが楽だと思いますよ。

またジェニーちゃんの例ですが、オンオフのメリハリをつけることによってよいこともあると思います。例えば鴫原弘子という人物が外で思いっきり叩かれたことがあったとしましょう。でもその場合でも、叩かれたまま帰って本人がグサっと死ぬのではなくて、「鴫原弘子の場合、このケースではだめだったのね。ではどうしたらいいか?」と常に客観視し、もう一人の自分で修復することができます。

30代,40代の女性には、是非護身術として知っていて欲しいですね。特に今の企業や社会は、まだ女性視点で作った土台ではないわけですから、なるべく上手に、賢く凛と、自分を突き放し、客観視できる視点を持つことで、自らを守ってほしいですね。

中野:私は逆に、ビジネス書でいう、セルフブランディングというものは意識していないですし、考えていません。ブランドというのは周りの方が決めてくださるものですし、「こう見せたいからこう演じる」というのは、見えすぎると鼻につき、違和感を覚えるのです。洋服選びも、あれこれと組み合わせを考えている時間がないのでワンピースばかり。アクセサリーを少し付け足して完了です。簡単です。

セルフブランディングというのは凝れば凝るほど、中身がそれに見合わなかった場合の落差が激しくなって、底が浅く見えてしまいます。そういった外側に時間を費やすくらいならば、本を1冊読めばいい。ブランドイメージは時間とともに人様によって決められていくものであって、自分で強引に押し出したとしても、中身が違えば長くはもたないように思います。
谷本:それでも中野さんはご自分がおありだから、「中野香織さんはこういう人」という、多くの人共通の中野さん像との間に「ブランディング」が出来てくる。しかし、そもそも自分がなければ周りもその人の事がわからないように思います。だからこそ、皆、自分探しをしている。

中野:私は自分探しではなくて、自分づくりをしなさいとお話しています。実はどんなに自分探しをしても自分というものは見つかりません。なぜならば自分のアイデンティティというのは、周囲との関わりの中でしかわからないからです。その相対性の中で決まってくる。ですので、常にいつも目の前の人や仕事に対し、その瞬間最大限の自分でいる。もし自分がわからないなら、今日は昨日までと違うように行動してみる。その結果、周囲から帰ってくる反応で自分を理解し、自分を作っていく。

そうやって考えると、私はとてもロマンティストなんですね。目の前の人や仕事に全力を注いだ結果、次の未知なるものが訪れ、そこに自分を賭けてきた。その冒険の繰り返しで予想もしていなかったところまできました。今後はわからないけれど、10年後何をしているのか決めたくないし、「10年後何をしているかわからない人」でいたい。もちろん最低限、子供たちのためにはこの仕事をして、というプランはあっても、未来を決めたくない。軸は持ちつつ、可能性はオープンにしておきたい。

鴫原:中野さんと私は対極かもしれません。私はどちらかというと緻密に計算していて、女性こそ戦略思考が必要、と考えています。まずはどこに向かいたいのか。そしてどこに行くか目標さえ決まれば、陸路で行くのか空路でいくのか方法も決められます。ですので、とりあえずでいいから、目標を決めましょうというキャリア論を持っています。

それはなぜかというと、自分が望めば欲しいものは必ず手に入るからという信念があるからかもしれません。これは母方が商人だと言いましたが、その母からの教えがベースかもしれません。1つは「商人は頭を下げたくぼみにお金がたまる」。

2つ目は「世界中のお金は全てあなたのもの。欲しかったら欲しい分だけ知恵を使って手に入れなさい」。そして3つ目は「欲しい知識は常に書物の中に入っている、欲しいときは果敢に学びなさい」、というものです。なんでも手に入るけれども、努力が大切、と娘にも同じことを伝えています。

img 中野:いずれにしても努力しないといけないですよね。何もせずに天から降ってくるものではない。

谷本:でもお二人とも、気張って努力してきました、というようには見えないです。しなやかといいますか。

鴫原:そうですね、努力していると思われないですし、自分でも思っていないかも。好きなことをただ積み重ねてきただけですし、好きなことをしている時には自分でも努力しているなんて思ってないですからね。

中野:私の場合は、とにかく喜んでもらえるのが嬉しいから、努力じたいが楽しい。たとえ自分が何か喜んでもらえるようなことができなくても、誰かに何かしてもらった際には期待以上に喜んであげる、というのでもいいんじゃないかしら。自分が喜ばれるのが好きだから、相手のその気持ちもわかりますし、その時には相手の喜びになってあげる。

特に男の人に対しては、「すごいわね」と感激すると、本当にものすごく喜んでくれて、上に上がりますから。そしてお返しに、何か倍返しのように向こうから嬉しいオファーが戻ってきます。その積み重ねでお仕事もつながってきたのかもしれません。自分一人でできる仕事なんてなくて、やはり誰かとの関係性や協力があってはじめて仕事は成り立ちます。そんな風にして周囲の人と喜びの連鎖を作っていくことも、仕事を楽しく続けるこつでしょうか。

谷本:どのような方にも接し方は変わらないのですか?周りには素敵な方ばかりがいらっしゃるように思います。

中野:どなたに対しても接し方は変えないですし、計算もしません。相手が学生であっても、どんなに偉い方であっても基本的に変わりませんし、どなたであれ相手の方に喜んでもらうことが生きがいですね。

鴫原:誰に会うかということが大切です。自分が本当に会いたいと思っている人に出会えたら、誠心誠意向き合って愛する。お仕事も10円いただいたら、11円のお仕事で返しなさいと教えられて育ちました。誰かに何かをいただいたらそれ以上にして返しなさい。

中野:私もギブアンドテイク、という言葉が好きではありません。50-50(フィフティ-フィフティ)や、win-winという言葉も嫌いです。これだけ貢献したからこれだけ返ってくる、という価値観や、勝ち負けの発想がなじまないのだと思います。

ビジネス書でよくそのようなことを書かれていますが、人とのお付き合いで計算なんかしてたら、殺伐としてくるじゃないですか。もちろん、幸せの価値観は人によって違いますし、その方法で満足を感じられるのであれば、それはそれでhappyだと思いますが。

鴫原:本当にそうですよね。Win-winなんてけちくさいと思います(笑)。これだけこの前やってあげたのだから、という利害関係に繋がる感じがします。惜しみなく愛は与えるものです。

谷本:一流の成功者の方々に伺うと、本当に皆さん同じようなことをおっしゃっています。

中野:出会って、目の前にいる人に全力で向き合うというのは、そんなに難しいことではありません。携帯を見ない、周りをきょろきょろ気にしない、とても普通のことです。目の前の人に真剣に向き合い、喜んでもらう、ということを愚直に繰り返していくと、好感をもってくれた人が、「圏外」から新しい情報や素敵な出会いをもたらしてくれます。私は、けんかもしません。120%でおつきあいしていても、去る方は去る。でもオープンでさえいれば、新しい出会いがどんどん生まれます。

また、長い間付き合っていくと、時期に応じてお付き合いの形も変わります。人は変わっていくし、時代も変わっていくので、決めつけず、水のように形を変えながらお付き合いしたいと思っています。そのためにも、私自身が自立して、一人の時間も大切にして充実させておかねばなりません。結果的に、そのほうが人は寄ってくるし、最終的に長くつきあいが続く人は、自分と似たような人になります。

img 谷本:素敵な人が周りにいない、なんて思われることもないのでしょうね。何か人とお付き合いすることの秘訣を教えていただけますでしょうか。

鴫原:相手が素敵かどうかジャッジする前に、出会えたこととか相手の人に、感謝の気持ちがわいてきます。私も周りにいる人を、ものすごく尊敬しています。

自分の知らない、わからないことを知っていらっしゃり、みなさん素晴らしいところを持っていらっしゃる。自分ももっと知りたいなと思っていると、自然と相手にリスペクトの気持ちしかわいてこないですね。

中野:私も周りの人に多くのものを学ばせてもらっています。友人には学生のような若い方もいますが、彼らからも自分にないものを学ぶし。頭ごなしに排除しないことも大切ですね。誰がどういう幸運をもたらしてくれるか、ほんとうにわかりません。

出会いがない、と嘆く方への助言としては、たとえば本を読んで、「この人素敵だな」と思ったら、カードでも書いて送ってみてはいかがでしょう。手紙を仮に50人に書いて、3人から返事がくれば、万々歳。その時には返事がこなくても、次の機会に声をかけてくれるかもしれない。

面倒がらない、手間を惜しまない。そして戻ってこなくてもいちいち傷つかない。自分が人に感謝してありがとう、という気持ちでいると、知らないうちにいい流れになっていくんじゃないでしょうか。

谷本:お二人ともワーキングマザーでいらっしゃいますよね。私も子育てをしているのですが、母である顔とキャリア感が結構せめぎ合って子供に対して罪悪感を感じてしまいます。

中野:私も、いつも子供に対しては、あれもこれもみてやれないことに罪悪感を感じていますよ。仕事を続ける限り、仕方ないことかもしれません。

鴫原:私の場合、子供が文章でコミュニケーションをとりはじめた7歳の時だったでしょうか。「ふつうのお母さんが欲しい」って泣いたんですよね。そのたった一人の娘の涙が深く突き刺さって、子供にすぐ『さみしかったよね。ごめんね』とあやまって約束し、一切の仕事を全てやめたんですね。もうその時には、ただ一人の我が子を幸せにしてあげられないのが悲しくて、同時にここで仕事をやめて終わるような鴫原弘子じゃない、とも奮起して。

38歳くらいだったでしょうか、全部やめても絶対大丈夫って毎日思いながら、6年ほど育児に専念しました。でもあの時、全部仕事をやめて本当によかったなと思います。その6年間、子供からたくさんの学びと喜びをもらって、愛情とともに十分な栄養をもらいました。また仕事を一切辞めたことで、完全にファッション業界から一歩離れて客観視できるようになったので、見えてきたことも多いんです。

子供を抱いている時には、肌触りの優しいコットンの服を着ていたほうが気持ちいいし、そういう母親の気持ちだったり、子供からもたくさんのことを教わりました。3歳神話がありますが、私の場合、人間が自分のアイデンティティを確立できる時期、子供が小学校1-3年生の時に、人間の基本的な生活・暮らしである、そうじ、洗濯、料理を一緒にやって教えました。ですから仕事を辞めた次の日には、子供用の包丁を買って、一緒にダイニングでお料理を教えて一緒に食事を作って、生活の知恵、生きていく術を伝えました。

娘が小学校5年生の時、「ママ、本当はお仕事したいんでしょ。でも出張にはいかないでね」と言ってくれて、それで出張なしの仕事に復帰しました。

中野:私も子供が小さいときから、地方で講演する時には一緒に連れて行っていましたね。そうすると、母親の仕事もおぼろげながら理解してくれたように思います。ただ、二人の息子に生活の術を教えることはできなかったので、いまだに帰ったら子供に「かあちゃん、飯!」とか言われますが(笑)。

img 鴫原:私は実は、育児と仕事の両立って無理だと思っています。100%ずつ、という意味でですよ。もとは100でしかないわけなので。

ですので、育児と仕事を両方完璧になんてできませんし、また、する必要があるのかどうかもわかりません。置かれている仕事や経済状態、家族の状況も違いますが、ただ、本人の在りかた一つで変わると思います。

中野:同感です。どっちも完璧というわけにはいきませんでしたが、ママはあなたのためなら何でもやる。何が来ても矢面にあってあげるからね、というメッセージだけはいつも伝えていました。実際、PTA会長までやりましたよ。

鴫原:愛情で守られている、と子供を安心させてほしいですね。そして、母親はこうじゃなくてはならない、という固定概念から離れてほしいです。きっと答えは人それぞれ、違うと思うから。私はバツ2ですから、娘の前で大泣きしたこともありますし(笑)。

実は今のパートナーは23歳年下なので、娘と8つしか違わないんです。でも彼もとてもよくしてくれて、娘を妹のようにかわいがってくれています。彼と知り合ったのは私が43歳で彼が20歳の時、今一緒に住んで、もう10年少々になります。

谷本:ええー、すごい年下でいらっしゃるんですね。23歳も年下の男性を魅了する、究極の魅惑術を教えてください。

鴫原:いえいえ(笑)。だけど好きになった時には、人生で一番悩みましたね。だっておかしいじゃないですか、20以上も年下の男性を好きになるなんて。半年は悩んだでしょうか。病院の先生の見習い生の時に出会ったのですが、色々治療をしてくれて、本当によくなって、そのお礼にお食事に誘って、とそこからお付き合いが少しずつはじまりました。ただ、本当に、あんなに人を好きになったのは初めてで。無償の愛というのはこういうことなのかな。全て捧げてもいいと思ったんですよね。

そういえば19歳の時に亡くなった自分の父親にすごく似ています。まだその時には前の旦那様との離婚が成立していない時だったので、好きであればあるほど、悩んだのですが、やはり彼に対しても自分に対しても誠実でありたい、と思ってお互い決心して決めました。母が認知症になって大変だった時にも彼が佐褪せてくれて、もう感謝の気持ちしかないですね。ですから、お互いがお互いにかなわないって思っていて、いまだにけんかにもならないんです。私は年々年老いていくわけですが(笑)、でもいつ終わっても感謝の気持ちしかない。

谷本:もうお二人とも人間力のかたまりですね。すごいとしかいいようがない。

中野:めっきしてもはがれますもんね。やはり内側からしゃんとしてないと。スタイリストが素敵な洋服を着せても、中身は5分でばれちゃうんです。虚栄心が強い人だと、逆効果になるかもしれません。中身のない虚栄心だけの人は、すぐバレる。

鴫原:服は本来、身に着ける人に従うものなので、従えられなかったら価値がないわけです。例えば、エルメス持ってエルメスにひきずられてしまうとダメなんですね。

谷本:お二人のお話を伺って、人間力とファッションが結びつきました。だから、お二人はファッションも素敵ですが、それ以上に中身がかっこいいから素敵なんですね。是非、かっこいい女性になるために、お二人からアドバイスをお願いします。

鴫原:心に素直であることです。そして潔くいること。あれもこれもと欲張るのではなく、究極、たった一つ大切なものさえあれば他はいらないんです。人生では必ず何か一つ選ばなければいけない、岐路に立たされたりもします。でも一つを選んだら、その一つに誠心誠意ささげるんです。仕事であっても恋であっても、子供であっても、絶対ささげたものから、大きなものが返ってきます。そして幸せな記憶しか残りません。

あれもこれもとリスクヘッジしようと思ったとたんに、残ったものはパワーを失います。100持っている中で5リスクヘッジして、こちらにも5リスクヘッジして、としていると、本命に集中する際には力は100残っていません。安全に、ほどほどに、なんてガードしない。玉砕してもいいじゃないですか。そうすると次にまた挑める。純粋であればあるほど、パワーは増します。宝石と同じで純度100%ほど強く美しいものはないんです。いつも自分の中の偽物ではなく、本物を一つ、大切にしてほしいですね。

中野:私も鴫原さんのお考えと同じです。そしてとにかく、目の前の人にすべての関心を向けて、喜びを分かち合う。今、この瞬間にしか、情報はないんです。計算にも、方法論にも、自己啓発書にも答えや幸せはありません。自己啓発書も相変わらず売れてるようですが、あなたではない他人に効いた方法論からまた別の他人の方法論へと、負のスパイラルにおちるのが関の山なのではないでしょうか。

そのスパイラル、方法論、一般法則から脱出したところにこそ、自分の人生、他人との豊かな関係があると思います。今、この瞬間に目の前にいる人に120%向き合い、喜びを集中してください。

谷本:本当にありがとうございました。とっても勇気づけられましたし、お二人ともかっこよくて、大好きになりました!
中野 香織さん
エッセイスト/明治大学特任教授
ファッション=人と社会を形作るもの、と位置づけ、ファッションの歴史から最新の流行現象まで、 幅広い視野から 研究・執筆・レクチャーをおこなっている。 著書に『モードとエロスと資本』(集英社新書)、 『愛されるモード』(中央公論新社)、 『ダンディズムの系譜 男が憧れた男たち』、 『着るものがない!』『モードの方程式』(以上、新潮社) 『スーツの神話』(文春新書)、 『スーツの文化史』(Kindle版)、 翻訳書にエイザ・ブリッグズ『イングランド社会史』(共訳、筑摩書房)、ジャネット・ウォラク『シャネル スタイルと人生』(文化出版局)、アン・ホランダー『性とスーツ』(白水社)などがある。< 新聞・雑誌・ウェブなどでの連載記事多数。とりわけダンディズム、ジェントルマンシップをテーマに語ることにかけては第一人者。
鴫原 弘子さん
ファッションプロデュサー/服飾専門家
松下通信工業、研究開発部入社。デザインと機能の整合性プロジェクトに就く。 その後、メディア&デザインのプロを養成するバンタンデザイングループ・アパレル業界トップコンサルティングファームでブランド戦略・ブランド構築の実績を重ね、1983年ミストグレイ設立。 シューズブランド「JELLY BEANS」・JR東日本・業界NO1通販企業・大手百貨店など、ファッション業界を中心に、多数のブランドプロデュースを手がける。また、デザイナー・スタイリスト・など、ファッションのプロの育成など幅広く活躍中。 テレビ・雑誌・メディア出演・講演・セミナーなどでは、 ファッション界のカリスマ・服飾専門家・見た目のエキスパートとして活躍。
谷本 有香
経済キャスター/ジャーナリスト
山一證券、Bloomberg TVで経済アンカーを務めたのち、米国MBA留学。その後は、日経CNBCで経済キャスターとして従事。CNBCでは女性初の経済コメンテーターに。 英ブレア元首相、マイケル・サンデル教授の独占インタビューを含め、ハワード・シュルツスターバックス会長兼CEO、ノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授、マイケル・ポーターハーバード大学教授、ジム・ロジャーズ氏など、世界の大物著名人たちへのインタビューは1000人を超える。 自身が企画・構成・出演を担当した「ザ・経済闘論×日経ヴェリタス~漂流する円・戦略なきニッポンの行方~」は日経映像2010年度年間優秀賞を受賞、また、同じく企画・構成・出演を担当した「緊急スペシャル リーマン経営破たん」は日経CNBC社長賞を受賞。 W.I.N.日本イベントでは非公式を含め初回より3回ともファシリテーターを務める。 現在、北京大学EMBAコースに留学中
http://www.yukatanimoto.com/
撮影協力:安廣 美雪(Take_)
イラストレーター/グラフィックデザイナー 6年間映像制作会社でグラフィックデザインを担当し2013年にフリーランスとして独立。本格的に活動を開始。ロゴデザイン・キャラクターデザイン・似顔絵など様々なデザインを手がける。クライアントの想いを尊重し、共に考えながら制作することを信念とし日々奮闘中。