関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo 大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに… |
自分の人生の見つけ方~アルケミスト②~ |
二月に入り、一年でもっとも寒さの厳しい季節になりました。 インフルエンザやノロウイルスという例年の脅威に加えて、今年はSARSを超える罹患者を出したコロナウイルスが流行しています。 どうかうがい手洗い、そして日々の食生活と生活習慣。 免疫力を高めるなどして、自分の体を守ってあげてくださいね。
かくいう私も、この二月の初めに体調を崩し、五日ほど休養をしていました。 幼少のころから、「馬鹿は風邪ひかない」を自慢にしていた私ですが、数年に一度、ひどい体調不良で横になることがあります。 思えば、会社役員時代も、朝早くから夜遅くまで仕事をし、土曜出勤もし、週に一度は仕事の帰りに資格学校へ通い、週末はにわかフランス語やバレエを習い…という無謀な日々を過ごしていました。 そうすると、突然朝、起きられなくなるのです。2~3日して何事もなかったかのように仕事に復帰。 今思えば、体が悲鳴を上げていたのに気付いてあげられていなかったのですね。
病床に伏すと、健康がいかに有り難いかがわかります。 そして、日々の「当たり前」が、じつは当たり前ではないことに気づかされます。 毎日を、健康に暮らすという一見簡単なものを維持する努力を怠って、睡眠不足や暴飲暴食、働きすぎ、遊び過ぎると、先述したように、ある日突然、体がポキッと折れてしまいます。
そうならないように、自分のキャパシティーを理解しながら、それでいて毎日を充実して過ごすことができてこそ、自分らしい人生を歩くための基礎ができていると言えるでしょう。
『アルケミスト』で、サンチャゴ少年は、不思議な夢を見ます。 その夢の意味を知りたくて、旅の途中、夢を呼んでくれるというジプシーの老女のもとへ赴きます。 夢は何を暗示しているのか知りたいサンチャゴは、「お前の夢の解釈はむつかしいねぇ」と言いながら続ける老女の単純な解説に、半ば憤りを感じてこう漏らします。
「そんなことを言ってもらうために、時間をむだにするんじゃなかった!」
そこで、老婆がサンチャゴに言うのです。 人生で簡単に見えるものが、実は最も非凡なんだよ。 賢い人間だけがそれを理解できるのさ。
このとき、サンチャゴ少年は、この老婆の言葉の意味も重みもわかりません。不本意な「夢占い」にがっかりして、旅の続きに出るのでした。
サンチャゴ少年にはこのとき響かなかったかもしれない、老女の言葉ですが、大人の私たちには、少しドキッとする言葉ではないでしょうか。
阪急宝塚グループ創始者の小林一三は、著書『私の行き方』において、こう述べています。
「これからの世の中で、有用の材たらんとする青年は平凡でなければならぬ。(中略)」平凡な事を忠実に行い得る人でないと、人に使われる事が出来ない。 (中略) 理想の高い青年は、平凡という事を知ってこれを軽んずるが、平凡の非凡という事を知る者が少ない。平凡の非凡とは、平凡な事を忠実にまじめに実行する事以外にない」
宝塚歌劇団、ローンで買える郊外の庭付き邸宅、ターミナルデパート、などなど。 日本での「初めて」を次々に創造し、大事業に育て上げた小林一三。 東急電鉄の五嶋慶太は、創業時にすべて師と仰ぐ一三からアイデアと後方支援をもらい、東急グループや田園調布などの高級住宅街を作りました。一三は、その際、黒子に徹していたと言います。 そんな「非凡」な小林一三からは、「平凡」という言葉はおおよそイメージがつきませんが、もともとは「窓際族サラリーマン」から出発した一三。 その紆余曲折の人生の中で、「平凡こそ非凡」という考えにいたったのです。
一三の話をもう一つ。 「平凡」を続けることのむずかしさを、「30分前行動」に例えて述べています。長いので要約しますが、「予定より30分前に家を出よう」と、言うことは誰でも言う。 そして、一度や二度なら、だれでもできる。 しかし、これを毎日やる人は、ほとんどいない。 その、毎日やる人こそが、非凡になるというのです。
これは、会社員だけの話ではありません。
私のようにフリーランスは、時間に遅刻するなどもってのほか。 とくに、取材などの場合は、取材時間が短くなれば、自分の首を絞めるだけです。
先日、立て続けにこんなことがありました。 「30分前行動」として、家を出ると、忘れ物をしたことに気づき、家に急遽戻りました。 そこから急いで電車に乗り継ぎますが、電車は大幅に遅延しています。 ちょうど、30分遅延していた電車に乗り、ダイヤの大幅な乱れにも拘らず、予定より前に、待ち合わせ場所の企業に着くことができました。 もうお一方は「ちょうど」に出発したそうで、電車の遅延どおり、30分遅刻して合流されました。
それから数日後、別件の取材での話。 取材の際は、30分ほど前に、訪問先の近くに到着、コーヒーを飲みながら、取材の段取りの復習をしています。 これは、復習するために取っている時間ではなく、「もしもの遅延」のために取っている時間です。 たいていは、これが復習の時間に当てられますが、たまに遅延により、この30分があったからこそ、「ギリギリ間に合った!」というときがあるのです。 さて、私は時間どおりにカフェに着き、コーヒーを片手にのんびりいつもの復習をして、取材先へ向かいました。
すると同席する予定だった他社の担当者が、「電車により30分遅延のため、先に取材を進めていてください」と連絡が。
取材して、文章を書くのは私なので、時間どおりにスタート。話が盛り上がっている途中で担当者はやってきました。が、もう、その場の雰囲気にはついてこられません。 担当者は、「同席者」であるだけなので、まだ良かったですが、私が30分遅刻したら、相手先様をお待たせするしかありません。 このようなことは、プロとして、極力あってはならないことだと思います。 その「極力」を最大限小さくするのが「30分前行動」。 つねに余裕をもった行動が、信頼を築きます。
これはたとえにすぎませんが、こうした「小さな平凡なこと」を続けることがいかに大変なことであり、大切なことか。 そして、単純に見えることの、いかに難しいことか。 書家の方は、良くこう言います。「字画の少ない“簡単な”字ほど、難しい」 しかし、その単純な文字をしっかりと書けなければ本物ではない、と。
そして、老婆は言うのです。 賢い人だけが、それを理解できる、と。
「平凡こそ非凡」と語った小林一三も、日本にさまざまな新しい文化を創り上げた稀代の実業家。 彼は言います。「能力があると偉ぶっているやつはだめだ」
2月は、旧暦で言えば、新しい年の始まりです。これから、新しい自分を作るために、あなたにできる小さな「平凡」を見つけてみませんか。 続けていれば、きっと大きな変化が訪れるはずです。
昔の人も、言ったではありませんか。千里の路も一歩から、と。 たった一つでもいい。自分だけの約束でもいい。 小さな「平凡」を、毎日毎日しっかりと忘れずに、道を歩いていきましょう。 サンチャゴ少年の、夢を目指す旅も、始まったばかりです。
みなさまも、素敵な人生の旅の続きを!
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