関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo 大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに… |
あなたらしく生きるために~バックの言葉①~ |
読者のみなさま、新年あけましておめでとうございます! 本来ならば7日までの挨拶ですが、更新日の関係で少し時期外れになってしまったことをお許しくださいね。
新しいこの一年、みなさんはどんな期待を込めているでしょうか。 30年続いた平成の世も、今年のあと数ヶ月で終わりを告げます。 世界と比較すれば、この日本は平成の時代、比較的安定していたともいえます。一方で、局地的ではありますが、自然界の脅威にさらされ、それを目撃した日本全土に住む私たちにも、大きな衝撃を与えた時代でもありました。
世の中が大きく動き、一方では進化を遂げ、その一方では進化によって退化、あるいは劣化、悪化してしまった部分もあるでしょう。 昭和の消費型社会から、モノや資源を大切にし、自然と共存することの大切さ、人間存在の小ささに改めて気づかされた成熟した社会へと少しずつ歩みを進めた、そんな印象も残ります。
さて、そんなこの時代、これからの時代に鍛えておきたいのは、やはり「人間力」。 人が時代の流れや周囲の無責任な発言、行動、扇動者の嘘…などに、左右されない自分自身の中の「軸」を整えてあげることではないかと思います。
これまでも、ゲーテや、ローマの偉人達、筆者が直接インタビューした著名人たち、ヘッセなど「人間力」をもった、古今東西の方々の言葉をご紹介してきました。 世の中は、「素晴らしい言葉の宝庫」だということに、聡明な読者のみなさまはお気づきになっていただけたのではないかと思います。
そして、その宝物に気づけるか否か…。 それもまた、柔軟で素直な心、謙虚な気持ちやまっすぐな瞳、真実を求め、自己を顧みられる「人間力」に左右されるということも。
昨年最後のコラムでご報告いたしましたとおり、 今年はヘッセからバトンを別の作家さんに渡したいと思います。 作家の名は、リチャード・バック。 バックという名で親しんでいるかたもいるかもしれません。 あるいは、『かもめのジョナサン』の作者、と言えばピンと来る方もいるかもしれませんね。 私の最初のリチャード・バック作品との出会いも、まさに『かもめのジョナサン』でした。 表題となっている、かもめの「ジョナサン」は、周囲のかもめの集団と馴染めない、ちょっと変わったかもめでした。 彼の好奇心と探究心は、「かもめらしくない飛行方法」へと関心を向けさせました。 急上昇したり、急降下したり。どんなかもめも飛ばないような方法を研究し、練習し続けます。 「周囲と同じことが良いことだ」という発想に馴染めなかった私は、高校生の時に読んだこの本の、孤高のかもめ、ジョナサンに共感を抱きました。 そしてリチャード・バック作品をもっと読みたいと、高校の図書館に行き、探していたところ見つけたのが『イリュージョン』という作品でした。
これは「僕」と自称救世主の「ドン」の冒険の物語です。 ひょんなことから救世主「ドン」と知り合った「僕」は、自らも救世主となるべくドンと冒険しながら成長を続けていくというお話。 この作中でドンが手にしている「救世主入門」の言葉がじつに秀逸です。 ところで、私が手にしているのは「村上龍訳」バージョンです。 こちらは残念ながら現在絶版となっていますが、絶版になったあとも、友人へのプレゼントには、中古で「村上龍訳」を探して贈っています。 今は絶版本も手に入る、本当にいい時代です。
2019年は、リチャード・バック著『イリュージョン』村上龍訳 から、珠玉の言葉をご紹介します。
記念すべき一つ目は、新しい年の初めにふさわしい、こちらから。
ある願望が君の中に生まれる。 その時、君はそれを実現させるパワーが 同時に在ることに気づかねばならぬ。
しかし、そのパワーの芽は きっとまだ柔らかい。
高校生の時、この文章を読んで痺れました。 力強く勇気づけてくれる一方で、自ら努力をしないと柔らかい芽は育たない。 そういう現実をしっかりと諭してくれます。
やりたい。そう思った瞬間から、実現する方向に人間は動いています。けれども当然ながら、思っているだけでは実現しない。 思うことと、それを育てることは同じライン上にはあるけれど、きちんと踏まなければならないステップがあるのです。 誰もがわかっていることかもしれません。けれどもそれを強く優しく語りかけるこの文章は、さすがに「翻訳家」による訳ではなく、作家による訳だと唸りました。
すでにお話していることかもしれませんが、私は中学から高校までの六年間、陸上競技部に所属し、短距離選手として毎日練習を重ねていました。 ほぼ平均身長でやせ形の私は、どちらかと言えば長距離向きの体型でしたが、短距離の爽快感が好きで、短距離の中でも100mと200mを専門にしていました。 中学生の時は、横浜市の中の区が3つ集まった3区合同大会で2位が最高というレベルでしたが、高校生では横浜市大会で個人6位、リレーで3位というところまで、成長しました。 目標は、関東大会出場でしたので、県大会の準決勝で敗退した私は志半ばで引退という結果になったのですが、一番実力があがってきたと思ったときに、両足の甲を疲労骨折するという憂き目に遭い、大会に復帰した時には、以前の記録を更新することができずに、引退の日を迎えました。
選手としては関東大会にも出場できない中途半端な成績でしたが、それでもこの言葉に勇気づけられ、疲労骨折を経ても県大会に出場することができました。 出来ることはやった、と自分自身が納得する形で引退し、その後スパイクはおろか、トレーニングシューズを履いてダッシュする、なんていうことも無縁になりました。
陸上という目標から引退し、大学生になり、将来への夢を紆余曲折、ときに方向転換したりしながらも前向きに生きてこられたのは、 「やりたいと思ったときから、一歩が始まっている」 「努力し続けなければ“パワーの芽”は育たない」 「自分の行いの結果が、“今”であって、他人のせいではない」 そんな思考回路がしっかりと胸に刻まれました。
もともとの性格もあるでしょうけれども、高校生のころには、“自己責任感と自己肯定感の強い女の子”ができあがっていたと思います。
冒頭にも書きました。 この新しい年に、あなたは自分の人生にどんな期待を込めているでしょうか。 やりたいことは何でしょう。 それを実現させるために、何から始めればよいのでしょう。
できないかもしれないと、漠然と悩むのではなく やりたいと思った瞬間から、すでに実現する方向へ歩みを進めている。 そう自信をもって、さらに、自分自身の力で切り開いていくという自覚をもって 積極的に前に進んでいけば良いのです。
この一年、何度も何度も何十年も読み返してきたこの本、そして珠玉の言葉とともに 私たちが自分らしく生きるためのヒントを探っていきたいと思います。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。 みなさまにとりまして、実りある素敵な一年になりますように! |
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