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濱野 裕貴子 キャリアカウンセラー/ワークショップデザイナー 笑門来福
「お江戸」「古典芸能」というちょっとナナメの切り口から、人生やキャリアについて考えてみたいと思います。
古典芸能で紐解くキャリア・仕事・生きること 趣味・カルチャー 2016-11-22
古典落語de「お江戸の『逃げ恥』?」

今秋、久々に夢中になっているドラマがあります。タイトルはずばり、「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS火曜夜10時~)。楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。

 

当初はまったく恋愛感情がなかった男女ふたりが、同じ屋根の下で過ごすうち、徐々に徐々に、お互いを意識し始める…。ああ、じれったい! でも甘酸っぱい!

時にやきもき、時にキュンキュンしながら若い二人を見守る私は、さながら親戚のおばさんのようです。

 

実は古典落語にも、若い二人が恋仲になっていくプロセスと、それを私と同じような心境で傍観するおじさんの様子を描いた噺があるのです。さしずめ、「お江戸の『逃げ恥』」? ちょっと覗いてみることにしましょう。

 

 

商家の跡取り息子の半七は、三度の飯より将棋が好き。毎晩のように友達の家で将棋を指しては夜遅くに帰宅するので、父親の怒りを買っています。

今夜も帰ってはみたものの、いっこうに戸口を開けてくれる気配はありません。

家に入ることをあきらめた半七は、少し離れたところにあるおじさんの家に泊めてもらうことにしました。

 

すると、「半ちゃん、半ちゃん」と呼ぶ声が。声の主は、向かいの商家の娘、お花でした。

友達とかるた遊びをしていてすっかり遅くなり、お花も家から閉め出されてしまったとのこと。近くに泊まる所がないので、私も半七のおじさんの家に一緒に連れて行ってほしいというのです。

 

その申し出を聞いた半七は、大慌て。なにしろ彼は非常にウブで、女性に対する免疫がまるっきりないのです。

また、面倒なのがおじさんのキャラ。「おいそれのおじさん」という異名を持ち、何でも早合点をしては勘違いをしてしまう困った人なのです。もしお花を連れて行ったりしたら、半七の恋人だと勝手に判断して、厄介なことになってしまうでしょう。

 

半七は必死に断りますが、お花はなかなか引き下がりません。お花を振り切ろうとおじさんの家まで全速力で走った半七でしたが、何とお花は半七を走って追いかけ、おじさんの家まで着いてきてしまいました。

 

二人がおじさん宅の戸口で揉めていると、その声でおじさんが起きてきました。

見れば、いつもはひとりでやってくる半七に、今夜は女性の同伴者がいるではありませんか!

 

「お前も隅に置けねえなあ…。いいんだいいんだ、なんか言うんじゃない。わかってるわかってる。おじさんに任せとけ。いいから、なんか言うんじゃないよ。わかってんの。心得てらァこっちは!」

説明をしようとする半七を遮り、どんどん勘違いをしていくおじさん。

 

とうとう二人を二階へと押しやり、

 

「布団が一組しかねえからな、風邪ひかねえように仲良く寝るんだぞ~」

 

と、余計なはからいをしてくれる始末です。二人を二階に上げてからも、おかみさんと自分の馴れ初めを懐かしんだり、二人がうまくやっているかを心配したり…。

おじさんのキュンキュン、やきもきが止まりません。

 

そんなおじさんはさて置いて…。さあ、困ったのは半七です。

 

「こんなところで二人っきりにされちゃって、どうするつもりです?」

「あたしがこうして起きてますから、どうぞ半ちゃん寝てくださいな」

 

そんなこと言ったって…。困り果てた半七は、お花にこんな提案をします。

 

「ふたりして起きてるわけにはいかないんですから、この布団、半分ずつ寝ましょう。あたしが布団の半分のところにしわをつけますから。さあ、どんなことがあってもこのしわの線から入ってきちゃいけませんよ。お互いに背中合わせ、いいですねっ」

 

こうして背中合わせに寝てみたものの、ソワソワしてなかなか寝付けません。

そうこうしているうちに、雨が降ってきました。雨脚が強まり、徐々に雷まで鳴り出します。

 

ついには近くに落雷したとみえて、二人を包む轟音と閃光。

 

悲鳴とともに半七の胸に飛び込むお花。思わずお花の背中に手をまわし、ぐ~っと抱きしめる半七。裾が乱れて、緋縮緬の長襦袢からお花の白い足が…。

きゃ~っ! 半七とお花、どうなっちゃうの~!

 

皆さん、そんな心境になったでしょう? 

 

実は、この噺のサゲ(落ち)はこの直後。

噺家さんが舞台袖のほうを見て、こんなことを言うのです。

 

「あ、時間? 残念ながらお時間が来てしまったようです。今日はここまで…」

 

最後の最後にその仕打ち~? くう~っ、やきもきするう! 

思わず身をよじっちゃいますね。

 

「逃げ恥」も、ラストシーンでこんな心境になることがしばしばです。

 

いったいどうなっちゃうの~! 続きが観たい! 知りたい! 

期待を次につなげる心憎い演出だと思います。それも人気の秘訣なのかもしれませんね。

 

さて、この古典落語「宮戸川」ですが、実は続きがあります。

 

この一夜で晴れて恋人同士となった二人は、やがて結婚します。幸せに暮らしていた二人でしたが、あるときお花の身に大変な出来事が降りかかってきます…。

 

前半の、ほんわかキュンキュン、甘酸っぱいお話から一転、凄惨な展開となる後半は、現在ではあまり口演されることがなくなっているとのこと…。

 

私も、前半だけでいいなあ。半七のおじさんと同じように、時にやきもき、時にキュンキュン、時に自分の若かりし頃に思いを馳せながら、若い二人を応援していたいなあと思います。


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