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関口 暁子 文筆家/エッセイスト doppo
大変なとき、嬉しいとき。ときに支えられ、ときには今以上に輝きを増すことができる。「言葉」というものは不思議な力を秘めています。今、私たちの目の前のステージにいる「あの著名人」も、誰にも知られず努力を重ね、感謝を繰り返し、ここまで生きてきたのです。 彼らがその長い「活躍人生」の中で支えに…
あなたに届け、輝く人の、輝く言葉(新シリーズ) キャリアアップ 2016-07-20
あなたを強くするローマ人の言葉⑦~塩野七生『ローマ人の言葉』より

古代ローマ人の言葉の紹介も七回目を迎えました。ここまででもいかに紀元前から発する古代ローマが現代と遜色のない、いやそれどころか現代の民や政治家よりもいかに優れていたかということがお分かりになったことと思います。

なのに、なぜ、人間はこうも愚かなのか。古代から進化のない日々を送る私たちです。

インフラも治世も、治安も。人々の知性や文化に対する意識や理解も。

古代文明の発掘が、しばしば現代の私たちを驚かすのは、現代を生きる私たちよりも過酷な状況の中で、今とさほど変わらぬ水準を保つ文明を保有していたことが明らかになるからです。

カリスマ性抜群のカエサル、そしてその後継者に、カエサルと対照的な秀才型初代皇帝アウグストゥスが就任。アウグストゥスは、自ら生い立ちに恵まれなかったことを後世には継がせたくないと思ったのか、世襲制をひきました。当人が世襲ではなく、実力を見いだされて皇帝にまでのし上がったにも関わらず、自分の子孫には同じ思いをさせたくないという親心なのか、コンプレックスを忘れたいという思いなのか。

しかしその初代皇帝の思惑も、後継者の相次ぐ死によって、阻まれます。

結局は、アウグストゥスも避けてきたような皇帝よりも生まれ育ちの高い身分出身のティベリウスが皇帝を継ぐことになります。

ティベリウス、すでに55歳。生まれ育ちもよく、年齢も機を熟した状態での就任は、地味でも思慮深い皇帝を作り出しました。

彼の後を継いだのは若き皇帝カリグラ。地味で国民の人気取りには興味のなかった先帝を反面教師として人気取りの政治を試みますが、失策が多く、28歳で妻子ともども暗殺されます。その後も不健康そうで人気のなかったにも関わらず安定した治世をしたクラウディウス、少年皇帝となり奔放な政治を14年行った挙句「国家の敵」とさえ言われ、最期は自殺によって30歳で生涯を閉じたネロなど、個性ある皇帝たちの続いた時代。それでものちのやってくるローマ史にとっては、まだ幸せな古代ローマ時代だったと言えるのかもしれません。

奇しくも、先日、ここ日本では選挙があったばかり。治世をあずかる政治家の資質とは何か、政治家を選ぶ国民の知性とは何かを考えさせられる言葉がちりばめられています。

 

人間とは、主権をもっていると思わせてくれさえすればよいので、その主権の行使には、ほんとうのところはさしたる関心をもっていない存在であるのかもしれない。結果が悪いと出たときにだけ、苦情の声をあげるというだけで。

 

どきっとさせられる言葉です。

先日の参議院選挙の投票率は54%台。国民の半分強が行使したにすぎません。にもかかわらず、選挙に参加しなかった(権利を行使しなかった)約半数の国民も、政治家や治世の不満は、出る出る(笑)。ほんとうの関心とは、行動に移るべきものですが、日本を含め、今の先進国は残念ながら行使はせずとも、苦情はいう。という状況が多くみられるのではないでしょうか。

仕事に家庭にと誇りを持つ大人なら、国民の権利を行使し、それを実現するための行動に移してこそ、本当の大人と言えるのではないでしょうか。

たとえば、「脱原発!」と言っているあなた。レジ袋はもらわないように、ごみは最小限にするように生活しているでしょうか。使い捨ての紙タオルや電気で水を飛ばし乾かすタイプの「タオル」を、「タダ」だと思って、使っていないでしょうか。

たとえば、脱原発を主張するなら、レジ袋はエコバック持参に代え、資源や電力を無駄に使う公共トイレの「タオル」を、自分のハンカチやタオルで用を済ませることを常習化することなど、資源を大切にする生活を、簡単なことからでもやるべきでしょう。一人一人が行動してこそ、政治の大きな目標は達成されるのであって、政治家一人が代わるだけで、世界が変わるわけではありません。

それは、文明が進化した(と現代人が思っている)現在だけではなく、古代であっても同じであったことを思い知らされる一文です、

同時に、この2000年以上もの間、人の心はあまり進化していないのだということにも思いをいたらせざるを得なくなる一文でもあります。私も含め、自分自身に甘い現代人に、もう一度かみしめてほしい言葉です。

 

自分自身に才能がある人は、才能ある他者にも寛容だ。

 

これは少し前の私自身を慰める言葉でもあります。

私の少し前になにが起こったかと言いますと・・・。私の専門外のことについて、その分野の専門家に意見を聞こうと思った時のことです。お金になるかどうかもわからないことゆえ、お時間(最初はメール)をいただくことや、知見をいただくことが先方の意にそぐわないようだったら返信ご不要です、と相手の専門性に配慮をしたつもりでした。

ところが先方は「仕事になるかならないかは問題ではありません。友人(本当は知人レベルですが)の質問なので、できる範囲で答えます」と、実に誠意あるお返事をいただき、お言葉に甘えて、お電話で聞きたい内容を少しお伺いしました。

その後、「業界の先輩を紹介する」とおっしゃっていただきましたが、何しろこちらとしては仕事にならない可能性のあることなので、その旨をお伝えし、ご無理なさらないようにと恐縮してご連絡しましたが、「フリーランスの仕事は話を聞くことがまず大事だから」と、彼の「先輩」をご紹介いただき、ある業界の一般論を伺いました。

私には、客先があっての質問で、客先さまからのお返事待ちという状況が長く続いている状態で、彼にもそれを逐一報告していましたが・・・。

結局、他の会社とのコラボが決まり、お話を伺った方へのお仕事にはなりませんでした。それは客先さまが決めた決断であり、私は情報を提供してお客様には自分の納得のいく選択をしてもらいたいという思いがあったため、中立の立場で情報をお伝えしていたのですが。

 

違う会社へ発注がされたと知るや、当日から毎晩毎晩「あなたは常識がない」「この業界には向いていない(その業界のヒトになるつもりはありませんでしたが、勘違いされたのかも?)」「そんな仕事はやめるべきだ」というような内容のメッセージが毎日毎日携帯電話に届くようになりました。

一週間以上でしょうか。人格否定の内容のメッセージに内心は煮えくりかる思いでしたが、ひたすら平身低頭謝りました。それでも人格否定メールは止まりません。結局、こちらの謝罪に納得したのか、ただただ文句を言い終わって済々したのかわかりませんが、一週間ほどでそのメッセージは途絶えました。

 

私にして見れば、最初から仕事にならない可能性が高いこと、私はお客様から「業界の常識」について聞かれたので、それだけ知りたいこと。もしご一緒できる機会があればぜひお仕事できたらと思っていることだけを伝え、「企業秘密」的なことには一切触れないやりとりで、最終判断に日付が一年以上あとの事業であることを伝えたことなどを考えて、なぜあそこまで激昂されたのか、いまでもよく分かっていません。

ただ、ひとつ学んだことは、私がこれまでお仕事をしてきた同じ業界の専門家の方は、その道でのかなり名の知れた人が多かったせいか、非常におおらかで、私のたわいない質問は快く一般論として教えてくださいましたし、お仕事になるときも、ならないときも変わらぬ対応をしてくださったということ。彼らは自分から営業に血眼になることもなく、実力が世に知れ渡り、相手から仕事が舞い込むような人たちであったこと。

一方で、今回トラブルになった方は、お仕事をしたことがある相手ではなく、先方から営業的に連絡があった末に連絡交換する間柄になったこと、「その道」だけでは生計を立てるのが難しいと、他の事にもいろいろ手を出していた方であること。。。

いろいろ考えると、「仕事をしていない相手とは、慎重に付き合うこと」とくに、先方からアプローチ(営業)してくる相手には要注意。

仕事をしてきた相手は互いのペースを理解しあっているし、仕事になることだけが仲間でなく、志をともにしていれば、仕事がないときでも信頼できるということ。

一流の相手は、違う専門分野の人に対して、年下であろうと、女性であろうとリスペクトしてくれるということ。

ということを、深く学びました。2005年に会社役員を卒業してから、フリーランスになり、基本は「自分が嫌な人とは仕事をしなくても済む」というスタンスを貫けていただけに、今回の出来事はかなりショックでした。

仕事にキャリアに誇りを持っている東京ウーマンの読者のみなさんなら、きっとご理解いただけると思いますが、今回の相手も、もし私が男性で年配者なら、同じことはされなかったと思います。女性で相手よりも年少者。それだけで「ヤクザ」な相手は感情的に強気に出てくるものです。

この言葉は、皇帝クラウディウスが自分と違う能力を持つ将を重用し、リスペクトしていたことで治世をうまく収めていたことを表す言葉。この言葉を読んだときには、上記の「事件」前でしたが、改めてこの文章を目にすると、当時のショックも和らぎます。

 

あなたに寛容になれない人があなたの目の前にいたとします。

あなたに非はなくはないかもしれないけれど、それでもそこまで言われる筋合いはないだろう・・・。

そう思うことも、仕事に頑張る読者のみなさんには多々あることと思います。

そんなときはぜひ、皇帝クラウディウスの治世に関するこの言葉を思い出してください。

その「目の前のヒト」は、あまり能力や余裕のない人なんだと。

そして、一つだけ肝に銘じてほしいのです。「私は絶対にそうはならない」と。

余裕のある素敵な大人の女性になるためには、「(能力のある)相手に寛容になる」それがとても大切なことだということを。

 

一年も、折り返し地点を過ぎました。

やり残したこと。手つかずのこと。ちょっと失敗しちゃったこと。挽回するなら、これからが大切ですね。

暑さに負けず、お互いに頑張りましょう!


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